ザマァ・タロウ①
「このギルドを追放する」
記憶の中の父親は朴念仁だった。話をする時は決まって自分の自慢話。しかも、そのほとんどが嘘か本当か分からないような話だ。息子である自分から見ても、彼はろくでなしだったと思う。けれど、仕返しをされるほど愚かだったとは思わない。
小さな街のギルドを経営していた父は、一人の男を解雇した。理由は単純な事で、仕事に対する姿勢だ。タロウと呼ばれていた男はその実力を隠しいつも簡単な仕事ばかりこなしていた。本人の性格的にあまり目立ちたくないという話だったような気がする。
ギルドの経営というのは、中々どうして難しいもので、小さな実績を積み重ねるよりも、大きな実績が一つあれば、依頼が潤い経営は安定するそうだ。
父はタロウが実力を隠していた事に気づき、危険な魔物の討伐依頼を受けるように頭を下げた。けれど、タロウは『そんな実力はない』の一点張り。だから父は、タロウを解雇して新たな仲間を雇った。
すると、解雇されたタロウは今まで隠していた実力をあらわにし、父に対抗するようにギルドを立ち上げた。タロウのギルドは危険な依頼を次々とこなし、大きな実績を沢山積み上げ、街で一番のギルドにまでなった。
タロウのギルドに人や依頼は流れ、父のギルドの経営は傾き、父はどうにかこれを解決するために、暴挙に出た。自身のランクよりも遥かに高い討伐依頼を単身で受けたのだ。もちろん、父は帰ってくる事はなかった。
それから数日して分かった事だが、その討伐依頼というものはタロウの仕組んだ狡猾な罠だった。本来タロウのギルドに行くはずだった依頼を断り、父のギルドに行くように仕向け、父を単身で行かせるように煽ったのだ。
町の酒場で武勇を語るようにタロウの女たちが触れ回っていたのを覚えている。俺が生まれて8回目の春に起こった話だ。