第八章「壊れて、繋がる」
前章の登場人物まとめ
・「悪人」:シャドービレッジの村人たちの通称。
・「巨大黒イカ」:シャド・リーラッシャイが闇の暴走を使用した姿。
ん…………? ここはどこだ? 真っ暗だけど、まぶしい……?
「やっと起きたか、カブリ」
「この声は……ダクト⁉︎」
僕の目の前には意識を失う前と同じく、ダクトが立って……いや、浮いていた⁉︎
「信じられないと思うが、ここは宇宙空間。俺が『洗脳』を使って連れてきたんだ」
う、宇宙⁉︎ ……よく見ると僕の身体には、いつの間にか宇宙服がつけられていた。
「何も記憶にないや。洗脳ってそんなに強いんだな……」
それに対し、ダクトは笑って答えた。
「いいや、普通なら意識は少し残る。おそらくお前の精神状態が異常なせいだろう」
精神状態が異常……? ……‼︎ ……思い出してきた。
「そうだ、僕はシャドをおっ3と同じ目に合わせないと‼︎ そこをどけ、ダクト‼︎」
「……おっと、動くんじゃねえよ」
ガシャン!
僕が勢いよく走り出そうとすると、何かが体を締め付けていることを感じた。
「……鎖か! こいつをほどけ、ダクト!」
「落ち着けよ、カブリ。今のお前はまるでダーク族だぜ」
ダクトがそう言うと、周りからゲラゲラと笑い声が聞こえた。
百人から少し減ってはいるが……大勢の悪人達だ。彼らもまた宇宙服を身につけ、僕とダクトを取り囲むように宇宙空間にただよっている。
「……笑うな! 僕がダーク族みたいだと⁉︎ 冗談もほどほどにしろ!」
「いいや、冗談じゃない。復讐に燃え、仲間すら捨てたお前はダーク族のようだ」
「…………」
「反論できないようだな。……これを見ろ、カブリ」
ダクトはそう言ってガラスケースを取り出し、僕に見せつけた。その中には……
「『神秘のネタ』……それに『神秘のワサビ』⁉︎」
「お前をさらったのはこれが目的だ。そして……神秘のパーツを持たない、ただの虫野郎にもう用はない。永遠にそこで縛られてろ……と言いたいところだったんだがな」
「…………! ダーク族になるなら、解放してくれるってことでしょ?」
僕がそう言うと、ダクトは驚いた顔をして、笑う。
「よく分かってるじゃないか。ということはもう決心がついてるのか?」
「そんなわけないだろ。僕がシャドを殺したいからって、ドドたちの敵になる気はないよ。それにお前ら、あのシャドの手下だろう⁉︎」
ダクトと悪人たちはそれを聞いてため息をつき、この場を離れていった。
僕に見切りをつけて、シャドの元へでも行ったのだろう。
「やっと消えてくれた……。とはいえ、これからどうしたもんか」
僕が解決策を考えていたその時、耳元に音が流れた。これは……イヤホンか?
『あー……もしもし? 聞こえるか? ジェム』
この声は…………!
「こうじモン⁉︎」
『その通りや。ちなみに今お前の耳についてんのは、ワイの開発した小型通信機や』
ああ……嬉しさよりも申し訳なさが勝つ。勝手に暴走して、勝手に連れ去られて、勝手に神秘のパーツを奪われて……。こんな時、なんて言えばいいんだろうか。
口下手な僕は、ドリあえず思ったことを口にすることにしてみた。
「そっか……でも、いつの間にこんなもの付けてたの?」
『……そ、それは……』「……何?」
『…………お前さんがおっ3の死に悲しんでる間に……』
………………は?
ブチッ!
僕はカタツムリの殻を耳にぶつけて、通信機を無理やり破壊した。
僕があんなことを聞かなければみんなと笑顔で再開できたかもしれない……いや。
「もう……どうでもいいか」
僕はつぶやく。全てに失望した時、脳には嫌な想像が次々と湧き上がってくる。
「僕がいない間にドドたちは陰口を言っているのではないか」「いつも僕がよく発言していたけど、その度にみんな心の中で笑っていたのではないか」「ダクトがそうしたみたいに、みんな僕を利用しているんじゃないのか」「おっ3も…………店長も…………」
そんな僕を見て、いないはずのダクトが陰で笑っているような気がした。
「何をやってんだ僕は……。仲間を疑うなんてどうかしてるよな。でも……僕が信じた人たちはみんないなくなってしまう…………」
頭の中がめちゃくちゃになっていた僕は急に冷静になる。そして結論に辿り着く。
「仲間なんていらない」
……ビカッ‼
そう思った瞬間、カバンの中に残されていたドリガジェが光り出した。
「これは……? いつもの色じゃない……!」
その光は闇の暴走と似ていて、黒くギラギラとしていた。
ドリガジェから発せられた光は、僕を包み込んでいく。
それと同時に膨れ上がっていく負の感情。黒くなっていく僕の身体。
そういえばドリガジェは「仲間を呼び出す機械」ではなく「感情を読み取って実現させる機械」だったっけ……? ということは…………
「嫌だ……‼︎ ダーク族になんかなりたくない‼︎」
そんな時、僕の目の前にダクトが再び現れた。僕に見切りをつけたんじゃないのか……⁉︎
「一度、孤独にさせて考えをまとめさせるのも人身掌握術の一つさ」
「全てお前の手のひらの上ってわけか……」
「ああ。……ようこそカブリ、ダーク族の世界へ」
バリバリッ‼︎
「嫌だあああああああああああああああ!」
ドリガジェの黒い光はトドメを刺すかのように、雷が落ちたかのような痛みを浴びせた。
シャド・リーラッシャイ、殺すべき対象。だが奴の気持ちが少し分かった気がした。
そういえばあいつは「仲間に失望したらいつでも歓迎するぜ」とか言ってたっけな。
…………馬鹿野郎、お前のせいでこうなったんだ!
「くそォ……ドリガジェは味方じゃなかったのかよ…………!」
「道具に良いも悪いもないさ。地球で、爆弾が戦争に使われたようにな」
「いいや、ドリガジェは僕たちを何度も救ってくれた。……悪い機械なはずがない!」
「……お前は、ドリガジェに依存しているみたいだな」
……酒嫌いの僕が、依存なんてするわけ…………
「仕方のないことだ。人は一度快楽を得るとそれに依存するものだ」
「ふふふ……もう、戻れないんだね」
「……カブリ、シャドを殺すつもりなら、俺に従え。……協力するぜ」
「シャドはお前らのリーダーだろ? 殺していいのか?」
「ああ、あいつは『闇の暴走』を使いこなせてなかった。だから用済みだ」
「はは、僕もこんな奴らと同類になったなんてな。まあいい、お前に従うのはなんかシャクだが、復讐のためだ。……仕方ない」
「ふん、俺もまさかお前と再び共闘できるとは思ってなかったよ」
僕とダクトの一時的な同盟が成立すると、悪人たちは互いにうなずきあった。
「では、村長の居場所に案内します」「ここから地球方面に進めば、シャドはいるぜ」
こいつらはどうやら、ダクトの手下の悪人たちらしい。悪人たちの中にもシャドが気に食わないやつはいるみたいだな。
だが、何事にも例外は存在する。
「おい、ダクト! 村長を裏切る気か⁉︎」「スシ族との和解は必要ないのか⁉︎」
そう、シャドの仲m…………手下たちだ。ダクトは彼らに告げる。
「シャドはもう用済みだ。お前たちも『俺に従え』」
今のは……洗脳の能力か。だが、彼らの意志は固かった。
「俺たちは洗脳できねえぞ……」「ダクト……完全に俺らの敵ってわけか……!」
「もう許さねえ、『闇の暴走』発動!」
ビカッ‼︎
十人程度の悪人たちは光と共に、巨大な蜘蛛の姿に変身した。
そしてダクトに向かって突撃してきた! 道連れ覚悟ってことかよ……!
「我ら、悪人改め『アークスパイダー』‼︎ シャド村長のため、お前を殺す!」
だがダクトは一切動揺していなかった。
「まったく……『リーラッシャイ』ってのは人望があって困るぜ……。まあ、あの程度の洗脳でやられてもらったら、それはそれでダーク族の名折れだよなぁ……⁉︎」
『あの程度の洗脳』……? まだダクトには奥の手があるってことか……⁉︎
「……『闇の暴走』発動」
ビカッ‼︎
光が収まった時そこにいたのは、杖を持った人型の化け物だった。
身体は紫色に染まっており、手は胴体と分離している。衣服はダクトと同じままだが、爪や歯は鋭く尖っていて、まるで……
「物語に出てくる『魔王』みたいだ……!」
魔王のような怪物はこちらを見て、言う。
「いいな、その名前。じゃあ『洗脳魔王』とでも名付けておこうか」
ダクト……名付けしてなかったのかよ……。まあ、そういう事にこだわらないのは彼らしいというか何というか。
あれ……なんで僕こんなこと思っているんだ? 元は友達とはいえ、ダクトは僕を裏切ったクソ野郎……あれ、今は仲間なんだっけ?
僕が戸惑っている間、洗脳魔王は攻撃を仕掛けていた。
「『ポルターガイスト』」
彼がそう言って手を挙げると、そこら辺に浮いていた小惑星がアークスパイダーの方向へと飛んでいった。当たったら怪我じゃ済まなそうだ。
「俺たちを舐めるなぁー!」
アークスパイダーたちは糸を吐き出し、それをつたって素早く移動した。
「喰らえ、ダクトぉぉぉおおおお‼︎」
彼らの牙が喉元まで迫っても、ダクトは微動だにしていない!
「もう一度言う。『俺に従え』」
そう耳元でささやかれたアークスパイダーたちは、すぐさま洗脳魔王から離れた。
「……ワカリマシタ」
洗脳が成功したのか……‼︎
「規格外だろ……。これは敵に回したくないな……」
僕がそう言うと、洗脳魔王はダクトの姿に戻り、一息ついて言った。
「安心しろ。シャドを殺すまでは味方でいてやる」
その後、しばらく進んでいくと三百メートル先ぐらいに一人のスシ族が見えた。
あの黒いイカの頭は……シャドだ‼︎ 僕はすぐにシャドに向かって襲い掛かる。
「ははっ……ダクト、ならもうすぐ敵になっちゃうなぁ‼︎」
僕はいつもの「マイマイ投げ」に、新しく手に入れた闇の力を混ぜ合わせ、投げつけた。
「おっ3の仇ぃぃぃ‼︎」
僕の叫びによって奴はこちらを振り向いた。だがもう遅い。
闇の力で今までよりスピードも威力もあがったカタツムリを避けられはしない!
だが、奴は避ける素振りも見せず、ニヤリと笑った。
「何がおかしいんだよ‼︎ どこまでもムカつく野郎め。死んでしまえ‼︎」
闇のカタツムリはもう奴の喉元まで届いているんだぞ……!
ビュンッ‼︎
しかしそんな時、横から細いレーザー光が飛んできて、それを打ち砕いた。
「僕の仇打ちの邪魔をするのは誰だぁ!」
僕がそう叫ぶと、なにか轟音が近づいてくる。あれは……
「ロケット⁉︎」
そのロケットはシャドと僕らの間で動きを止め、扉を開いた。
「仇討ちだと? 話を聞く限り、兄さんが全部悪いわけじゃないはずだ……」
扉から出てきたのは、シャドやドドと似たフォルムの少女……だった。
先ほどまで僕の仇討ちを見守っていたダクトが言う。
「『兄さん』だと……⁉︎ まさかお前が……!」
「そう、私は『アメ・リーラッシャイ』。兄の頼みでお前たちを止めに来た‼︎」
アメ・リーラッシャイ……! まさかこんなところで御対面とはね……。
「アメリカにいるんじゃなかったんのかよ⁉︎ アメ!」
「私の名を……気安く呼ぶんじゃない。兄の命を狙う害虫め!」
「が、害虫だと……⁉︎ ていうか、そもそも何でそのことを知ってるんだよ!」
僕がそう言うと、扉からさらに誰か出てきた。少し変わってるけど、ライトモン族だ。
「アメは口下手だから、ミーが代わりに説明するヤク!」
そのライトモン族は、「インタプレトモン」と名乗り、話を始めた。
地球のアメリカに墜落したアメは、同じくDR星出身のインタプレトモンと仲良くなった。インタプレトモン は「翻訳」の特殊能力を持っているため、力試しとしてDR星から旅に出ていた。そして、一人寂しく過ごして いたところを、アメが寿司屋の翻訳係として仲間に引き入れてくれたことに恩を感じているそうだ。二人はテ ネシー州という場所にて店を繁盛させ、アメは現地民たちに「極上のスシ職人」と呼ばれた。
そんなある日。数日前のことだ。二人の店に、謎の老人がやってきた。老人は「お主の兄の命の危機じゃ。 今すぐロケットを手配して宇宙に行きなさい」と言った。
その老人の言葉を信じてアメたちは働いて得た全財産をはたいてロケットの貸し出しをしてもらった。もし 老人の言葉が嘘ならとんでもない無駄金だが、彼の言葉にはまるで神のお告げのような信憑性があった。それ に、アメ自身も胸騒ぎがしていたのだ。
こうして、アメ・リーラッシャイとインタプレトモンはここにやって来たのだ。
「まあ、経緯はわかったけど……。ちょっと待て! それだけでは僕とシャドの因縁の話を知っている説明にはならないじゃないか⁉︎」
僕がそう言うと、ロケットから更に誰かの声がした。
「それは、俺たちも乗せてもらってるから、ってことさ」
馴染みのある声だ。しかも中からする声は彼だけではない。ざわざわと聞こえてくるのは、全て聞き覚えがある。十人くらいの集団の声だった。
「まさか…………⁉︎」
「そのまさかスシ!」「ジェム! お前を止めにきた‼︎」