第六章「違和感の正体」
前章の登場人物まとめ
・「ドリ神様」:ドリル族を創造した神。透明化してドドの旅を見ていたという。
・「ブラックホール」:悪の神が生み出した超巨大な怪物。一定距離に近づいたものを次々と吸い込んでしまう。DR星の周りを一定周期でグルグルと回っていて、リーラッシャイ一族によってその周期は解明された…と思われていた。
・「シャド・リーラッシャイ」:ドドの兄。イカの力を持つ。大会出場者の一人。
出場者の八人は一斉に口を開いた。
「おっ3! ダクト‼︎」
「久しぶりだな、兄貴。いや、今はシャドだったか? はは、頭のイカが黒くなってんな」
「モンタウンの外で初めてライトモンと会えたドリ〜」
「なんだ、このカオスな状況……。オレ、腹痛くなってきた……」
「初めまして、僕の名前はアートモンですフデ〜」
「お前はもしかして、ジェム……か⁉︎」
「あれがドドの仲間たちか……?」
「ああ、そうだ。シャド村長」
声が揃ったことで気まずくなったのか、はたまた空気を呼んだのか。おっ3とアートモンとドリモンはすぐに席を外した。そしてボーは……腹を抱えてトイレに駆け込んでいった。
「おっ3と再会の挨拶をしたかったなぁ……」
僕が思わずそうつぶやくと、ダクトは僕に話しかけてきた。
「そんなに大切な奴なのか? カブリ」
正直、あんな別れ方をしたものだから、気まずくて僕からは話しかけられなかっただろう。
……だから、向こうから話しかけてくれて本当にありがたい!
僕とドドは久しぶりにダクトの声を聞けて嬉しい気持ちのまま、話した。
「そうだよ! おっ3は僕の師匠で、久しぶりに会えたんだ‼︎ でも、それより僕はダクト、君と再会できたことが嬉しいよ‼︎」
「ダクト、モンタウンではすまなかった。俺とジェムはこの通り仲直りできて、スシ職人も神秘のパーツもあの時より増えたんだぜ」
喜ぶ僕たちとは裏腹に、ダクトは冷たく言い払った。
「……黙れ。俺はもうお前らの仲間じゃねえよ」
え…………? 僕は数秒間固まって、声も出なかった。
正直僕は、ドドと僕が仲直りできさえすればダクトも戻ってきてくれると思っていた。あの優しかったダクトがこんな冷たくなるなんて……。一体別行動の間に何があったんだ⁉︎
黙り続ける僕たち三人の間に、シャドが口を出した。
「久しぶりだな、ドド……。ダクトは俺の手下になったのさ」
……な……何だと⁉︎ シャドはドドの兄弟で、神秘のパーツを集める仲間のはず……。なんでダクトと自分が、ドドの敵になったみたいなことを言うんだよ⁉︎
そんな僕の心を見透かしたように、ダクトは言った。
「コイツはお前らの知る『イカの兄』じゃない。ダーク族の村、『シャドービレッジ』村長、『シャド・リーラッシャイ』だ」
僕がその言葉に驚いていると、今まで黙って聞いていたドドが口を開いた。
「……もう我慢ならねえ。シャド! お前一体どうしちまったんだよ‼︎ 何で憎きブラックホールと同じ『ダーク族』のリーダーなんかやってるんだよ!」
ドドがそう言うと、シャドは無言でドドに殴りかかろうとした。
「……危ない、ドド!」
バシッ‼︎
僕がそう言ったのと同時に、シャドの拳は謎の大男に止められていた。
シャドとドドは同時に舌打ちをし、謎の大男は口を開いた。
「殴り合いたいなら会場でやりなさい。あと、もうすぐ開会式ですよ」
大男は大会の主催者「エト・タイマン」を名乗り、二人の兄弟を会場に引きずって行った。
するとダクトはニヤリと笑い、僕に言った。
「詳しい話はリングの上でしてやるよ、虫野郎」
ダクトのその笑みは、とてもヒト族のものとは思えなかった。
それから五分後、開会式が始まった。
「えーと……ただいまより〜神秘のシャリ争奪戦を始めまぁす……」
おいおい大丈夫かこの司会者……と思っていた次の瞬間。
そんな司会者の口から衝撃の言葉が発せられた。
「私は『神秘のスシは存在する委員会』会長の『エト・タイマン』と申しまぁす。えーと、本日はお忙しい中……あ、どうせ暇だから来たんでしょうけど……お集まりいただきありがとうございまぁす」
なんと、このだらしない司会者は、例の強者感あふれる大男と同一人物だったのだ! 気分によって性格が変わったりするのかな……? ……って、そっちも気になるけど‼︎
「神秘のスシは存在する委員会⁉︎ 何だそれ!」
僕の問いに対して、ドド……ではなくシャドが答えた。
「おいおい、そんなことも知らねえとは……。いいか、『神秘のスシは存在する委員会』は略して『神存会』と呼ばれているただのオカルト集団さ。神秘のスシの入手方法を知らないくせに、神秘のスシは存在するとか言ってる奴らのことだ。この大会の景品の神秘のシャリも、奴らにとってはレアフィギュア程度にしか見えてねえんだろうよ」
その答えに対して僕は、感謝よりも怒りが湧いてきた。
これがダーク族のリーダー……。いくら何でも言い方が悪すぎるよ! ほんとにコイツがドドの兄弟なのか⁉︎
開会式が終わった後、僕たちはまた待合室の中に案内された。
待合室の中には、先程まではなかった一枚の紙があり、出場者全員の目を集めていた。
そう、対戦トーナメント表だ。
第一試合「ドドVSおっ3」
第二試合「ボーVSアートモン」
第三試合「ドリモンVSダクト」
第四試合「ジェムVSシャド」
まさか僕がシャドと当たるなんて……。
怖い気持ちはあるけど、これはチャンスだ。勝って、隠してること全部、聞き出してやる‼︎
僕がそう心に決めていると、ドドが話しかけてきた。
「ジェム、今から俺はお前の師匠を傷つけるが、大丈夫か?」
そういえば一試合目はおっ3とドドの対戦だったか。自分のことでいっぱいだった。
「……大丈夫だよ、おっ3も強いから。それに……」
「……それに?」
「おっ3とは、観客席でいっぱい話したいからね! 早く負けてもらわなくちゃ!」
「はは……お前らしいな」
ドドはそう言ったが、心からは笑っていなかった。
やはり、シャドやダクトのことを気にしているのだろうか。
それから五分後、第一試合が始まった。
「シャリボム!」「おっなら攻撃!」
二人はゴングが鳴ると共に、技を繰り出した。その後、二人は戦いながら会話を始めた。
「ドドと言ったな。君はジェムの友達なのか?」
「そうだ。だが、あんたがジェムの師匠だからって手加減はしないぜ。俺たちには『神秘のシャリ』がどうしても必要なんだ!」
「ふっ、そうか」
「ところで、あんたは何で『神秘のシャリ』が欲しいんだ?」
「それは…………家族のためさ」
……家族、か。
僕はそれを聞いておっ3がくれた別れの手紙を思い出した。確か、「息子の病気がつらくなったから帰らないといけない」と書いてあったんだ。あの時は突然の別れで悲しかったが……、おっ3の家族想いなところは、見習うべきだと僕は思っていた気がする。
おそらく彼は、神秘のシャリが『神秘のパーツ』だということを知らない。でも、息子さんを元気づけるために『レアフィギュア』をプレゼントしようと考えているんだ。
それを聞くとドドはこう言った。
「あんたの信念の強さは尊敬に値する。さすがジェムの師匠だ。……だがな、俺にも負けられない理由があるんだよ!」
「……! やっと本気でくるか……!」
そして、ドドは見たことのない構えをした。もしかしてあれは……新技⁉︎
「『ネタプレス』!」
ドォン!
彼の新技「ネタプレス」はどうやら、相手の頭上に巨大なマグロを出現させる技のようだ。これにはさすがのおっ3も耐えきれず、ついに勝敗が決した。
「第一試合の勝者は……、え〜と……ドド・リーラッシャイ選手でーす……」
だらしないエトさんのコールと共に、会場は歓声で包まれた。
その間、ドドとおっ3は握手を交わしていた。
五分間の休憩の後、第二試合が始まった。
「えーと……第二試合は『ボー・ニンゲンVSアートモン』です……」
ゴングがなると、ボーがすぐに攻撃をしかけた。もちろんアレの構えだ。
「トイレモンにも勝ったオレの技に勝てるライトモンなんていないだろ!」
「油断はしない方がいいですフデ!」
「……そうか。じゃあ、トイレモンと一緒に鍛えてきたオレの新技を見せてやるぜ!」
鍛えるとかあんのか……アレに……。
技名はヤバかったので、規制がかかった。僕たちが事前にエトさんに伝えておいたからだ。あのワードが全国に放送されなくて本当によかった……。
アートモンは技名と構えで全てを察したようで、地面に何かを描き始めた。あれは……便器の絵か? でも絵で何ができるんだろう。
「僕の能力は『描いた絵を実体化する』こと。……でもこれには、描いたものの詳しい性質が分かってないという厳しい条件がある。だから僕はモンタウンを出て、いい学校でずっと勉強をしていたんだ! いでよ、『巨大トイレ』‼︎」
アートモンがそう言うと、ボーの真下に巨大な便器が現れた。ボーのアレは十分馬鹿デカかったが、便器のほうが上回っていた。そうして、ボーはアレと共に吸い込まれてしまい……敗北した。
「うわああああああオレが流されるなんてえええええええ」
エトさんが試合終了のゴングを鳴らすと、アートモンは巨大トイレを消してあげた。やはり彼もライトモン族だから優しいのだ。
そしてついに始まった第三試合。ダクトとドリモンの対戦だ。正直、非戦闘員のダクトが、ゴリゴリの戦闘員のドリモンに勝てるとは思えない。
本当は、僕かドドが拳を交えながらダクトに事情を問い詰めたかったが、仕方ない。ダクトにはここで負けてもらって、観客席でじっくり話すとしよう。
エトさんのゴングが鳴ると、ドリモンはすぐに攻撃を仕掛ける……わけではなく、ダクトに話しかけ始めた。
「ボクは新参者だから、ジェムたちと別れたことについてはどうこう言うつもりはないドリ。でも、一つ聞かせてほしいドリ。君とシャドはどうやってこの大会を知ったのかドリ?」
…………‼︎ 確かにそれは気になっていた。
神様の話では、この大会はタイマンシティ付近の人くらいしか知らないはず。でも、シャドが落ちたという「シャドービレッジ」はここから離れた場所に位置している。ダクトがシャドの手下になったのなら、彼は僕らと別れた後、「シャドービレッジ」に向かったはずだ。
その問いに対して、ダクトは言った。
「お前は、仲間の中に裏切り者がいると考えたことはあるか?」
「……質問に質問で返すなドリ!」
「考えたことはないようだな。そうだよな……お前たちライトモン族は他人を信じやすく、仲間を強く信頼するからな……」
「……だったら何だ! たとえボクがライトモンじゃなくても、仲間は信じてるドリ‼︎ それくらい僕たちの絆は固いんだドリ!」
……その通りだ! よく言ってくれたよ、ドリモン。
何者かの手によるものとはいえ、対立を乗り越えた僕らの絆は最強なんだ!
だからこそ、ダクトとも仲直りしたいんだけどね…………。
ダクトは観客席を見渡して、ドリモンに言った。
「こいつは驚いたな。ライトモンじゃない奴らも、お前と同じ意志の顔をしてやがる……。どうやらお前らの絆は認めざるをえないようだ」
「そうドリ! 裏切り者なんて冗談、やめてほしいドリ」
するとダクトは、笑いながら言った。
「フッ……ああ、確かに『裏切り者がいる』ってのは冗談さ。…………だが、俺たちに情報を渡し続けているやつならいるぜ」
ドリモンはその言葉に驚き、ダクトが刺した指の先を見た。
…………ドリモンの目は、僕を向いていた。
「…………え?」
ダクトは帽子を深くかぶっているのに、鋭い視線が僕を刺しているのを感じた。
……僕は必死に反論した。
「僕が情報を渡し続けていただって⁉︎ 一体どういうことだよ!」
ドドも必死に叫んでくれた。
「そうだ。ジェムはそんなことするやつじゃない! それはお前が一番わかってるだろ⁉︎」
アリ店長やヒアリ店長もそうだそうだと叫んでくれる中、ダクトは言った。
「虫野郎、お前のカバンの中には『神秘の皿』が入っているな?」
感情がごちゃごちゃになっている状況でそんな質問が来たので、僕は少しとまどいながらも答えた。
「……うん。いつの間にか入っていたんだ。それが何だっていうんだ? ていうか別れた後の話なのに何でそれを知ってるんだよ⁉︎」
僕がそう答えると、ダクトは冷たく言い払った。
「お前らは馬鹿か。『スシを作る』のに『皿』が必要なんてこと、よく信じられるよな」
「え…………⁉︎ だって……。それは、ドドがそう言ったからだよ。だって、ドドは『神秘のスシ』を管理していた一族なんだから」
そう、旅に出る前にドドが言ったんだ。「『神秘のパーツ』はネタ、シャリ、ワサビ、しょうゆ、皿の五つだ」と。これが嘘だっていうのか⁉︎
僕がそう思っていたとき、後ろの席のスシモンが不思議そうに口を挟んだ。
「ボクたちの情報では、神秘のパーツは『ネタ、シャリ、ワサビ、しょうゆ』だけスシよ?」
……………………?
じゃあ、ドドの情報が間違っていたってことか……?
そのドドを見ると、彼も不思議そうな顔をしていた…………? しばらく僕たちが黙り込んでいると、エトさんが「そろそろ闘いを再会してくださぁい」とアナウンスした。
すると、ダクトはため息をつき、ドリモンに言った。
「おいドリモン…………『降参しろ』」
その言葉に、ヒアリ店長は声に出して驚いた。
「Why? いくらドリモンが話始めて大会に迷惑をかけたからって、降参なんてするはずがアリませんデス! Heの方こそ馬鹿デス‼︎」
もちろん僕たちも同じ意見だ。しかし…………ドリモンはこう言った。
「ワカリマシタ。『降参』ドリ」
その言葉により、会場にはざわめきと試合終了のゴングがなり響いた。
「……どういうこと⁉︎ 何でドリモンは降参なんか…………」
僕がそう叫ぶと、ダクトは笑った。
「今までお前らが感じてきた違和感、それらは全て俺の『洗脳』の仕業さ」
その言葉に対する驚きが大きすぎて、僕の頭は混乱状態の極みだった。
パァァァン‼︎
そんなとき突然鳴ったその音は、ドドが観客席の机を大きく叩いた音だった。
ドドは状況をとっさに理解したようで、眉間にシワを寄せていた。
「そういうことかよ……。ちくしょう‼︎ ダクト……あの外道は俺たちを裏切ったわけじゃない、最初から俺たちを利用していたっていうのか…………!」
「おいドド、落ち着け……。一体どういうことなのか、説明してほしい」
アリ店長がそういうと、ドドは一旦お茶を飲んで、冷静になった……と思いきや、彼はすぐにまた机をドンと叩いて、言った。
「ふぅ……何とか落ち着けたぜ。取り乱して……すまなかったな」
「それで? ダクトという男は、今まで何をしてたんや?」
「それは……。まず、俺を洗脳し、『神秘の皿が必要』という認識をジェムにつけた。そして、俺たちと別れる直前にジェムのカバンに入れておいた『神秘の皿のような見た目の盗聴器』をずっと大事に持たせていた。それでこの大会の情報を知ったのだろう……!」
「「えっ…………⁉︎」」
僕たちは理解が追いついていなかった。が、ドドは続きを話し始める。
「一旦次を聞いてくれ。……ムカつく話はまだもう一つある。さっきあいつが使っていた『洗脳』という能力、お前らも身に覚えがあるはずだ」
メカ・リーラッシャイも心当たりがあるようだ。
「ソウイエバ……ダクトヲ見タ時、ナゼカ初メテ会ッタ気ガシマセンデシタ」
それを聞いて一番驚いたのは……ライトモンたちだった。
「ということは…………ボク達は以前に洗脳されていて……モンタウンでジェムを襲わせたのもヤツの仕業ってことスシ⁉︎」
「え………………?」
…………そんな、嘘でしょ?
ダクトは、学校で浮いていた僕なんかと友達になってくれた。
僕は……君と一緒に「神秘のスシ」を追い求めた日々をとても楽しんでいたよ。
「あれも全部、君の計画通りってことだったの……?」