第五章「リーラッシャイの過去」
前章の登場人物まとめ
・「ジョイレモン」:ジョバーモンとトイレモンが合体した姿。
・「ヒアリ店長」:アリ店長のライバル。地球のアメリカからやってきた。
・「ムカム・カブリ」:ジェムの父親。いつもムカムカしているが内心は優しい。
・「ハチ・スワロ」:ヒアリ店長とドドとの勝負の審査員をつとめた。
・「アメ・リーラッシャイ」:アメリカのスシ職人。ドドと同じ姓だが…?
ドドは「アメ・リーラッシャイ」を聞いてからずっと、考えにふけっている。
あの様子だと、ドドも知らない家族ってことなのかな?
僕らも考えていると、空から急に何かが降ってきた。…………?
「ん? なんだ、これ」
その何かはとても良い香りのする、金ピカに光っている袋入りのワサビだった。
「え、これってまさか……『神秘のワサビ』いいいいいい⁉︎」
「……な、なんでまた神秘のパーツが急に現れたギュン⁉︎」
僕たちが目が飛び出るほど驚いていると突然、目の前に老人の姿が現れた。
「その『神秘のワサビ』は、種族の壁を乗り越えたお主たちへの贈り物じゃて遠慮なく受け取って良いぞ。ワシは『ドリ神様』。信じられんかもしれんが、ドリル族を創造した神じゃ」
…………⁉︎ ………………………………??????
それを聞いて僕たちはまたまた驚いた。特にメカ・リーラッシャイは物知りだからだろうか、身体が震えるほど驚いていた……というわけではなかった。
「カ、神様ガ先程ツカッテイタ魔術ハマサカ、『透明化』⁉︎ アレガアレバ女湯ノゾキ放題……‼︎ 想像シタダケデ……グヘヘヘへへ…………」
メカは鼻血をたらしている。ドリ神様はちょっと引きつつ、答えた。
「ワシはそんなことせんよ。この力は頑張っている者を陰ながら支えるためのものじゃ」
「……あれ? じゃあなぜ僕たちに姿を?」
「今、この星は大変なことになろうとしている。そこで、お主らにワサビを託すためじゃ」
「この星がピンチ……⁉︎ 前にもそんなこと聞いたような……」
あ、思い出した。ドドがアリ店長を勧誘する時の話だ。ドドは確か、「まだ詳しく話すことができないが、来年にはムッシー村が滅びる」と言っていた。
ドリ神様は考えにふけるドドを呼び、言った。
「……そろそろ話してもいいんじゃないか? なあ、ドド・リーラッシャイよ」
「…………分かりました。だけど、俺も知らないこともありますよ」
「そこは天から見てきたワシが補足しよう。残りの『神秘のパーツ』の在り処も、『アメ・リーラッシャイ』についても……な」
これはとんでもない急展開だ。ドリル族の神様と伝説の一族が、誰も気づいていないこの星の危機を教えてくれるというのだ。ただの田舎の少年たちが、ここまで来るとは……やはり旅というのは魔法のように不思議だ。ダクトにも聞かせてあげたいなあ……
長く感じた一日は終わり、ムシとトリの鳴き声とともに新しい一日が始まった。今日は次の街に移動しながらDR星の危機とは何かを聞く日だ。
僕は旅支度を終え、ドドに話しかけた。
「おはよう、ドド。今日はどこの街に行くの?」
「ああ、『タイマンシティ』って場所だ。ドリ神様の話では、その街で明日開かれる大会に、『神秘のシャリ』が優勝賞品として出るらしいんだ。その大会は、タイマンシティ付近にしか宣伝されていないらしいから、優勝は簡単だろうな」
「へ〜……都合良すぎて逆に怖いね(笑)」
僕はドドを笑わせようとそう言ったが、ドドは笑ってはくれなかった。
その空気のまま、僕たちはムッシー村を再び旅立った。
「みんな、今まで隠していてすまなかった。今から話すことは『この星に密かに迫っている危機』についてだ。本来、お前らが関わる必要のない話だ。安全な生活を送りたいなら、ここで旅から抜けてもらっても構わない」
旅はドドの謝罪から始まった。それに対して僕は「こんなこと聞かなくていいのに……」と思った。どうやらそれは、みんなも同じだった。
「この話がやばいってのはみんな察してるドリ……」
「安全な生活がしたいなら、昨晩逃げてるスシ!」「せやけど逃げとる奴はおらんようやな」
「つまり、オレたちは覚悟が決まってるってことだぜ!」「……その通りギュン」
「そんな前置きはいいから、早く話してくれジョウ!」
それを聞いてドリ神様は微笑んだ。
「ホッホッホ。さすが神秘のスシを追い求める者たちじゃ……。ドド・リーラッシャイ、お主の心配は無用だったようじゃな」
そして、ドドはつきものが取れたような顔で笑って言った。
「…………みんな、ありがとう!」
僕たちは「タイマンシティ」に進みながら、昔話を聞き始めた。
十四年前の十月十日、ラッシャイタウンという街の白い病院に三つの命が生まれた。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
三人のスシ族の赤子は生まれた順にイカ、マグロ、サーモンの力を授けられた三つ子だ。
そして、マグロの子に代々受け継がれてきた名前「ドド」が付けられた瞬間、悲劇は起きた。
ズオオオオオオオオオオオオオオオ…………
轟音と共に近づいてくる巨大な黒渦を前に、赤子たちの父親は驚いた。
「あれはまさか……ブラックホール⁉︎ まだ予定より一年早いぞ⁉︎」
地球での「ブラックホール」は、重力が強すぎて光すら抜け出せない場所……のことだと言われている。しかし 、このDR星では「ブラックホール」の定義は違うのだ。
この星での「ブラックホール」は、「アク神様」が作り出した超巨大な最初の「ダーク族」のことだ。一定距 離内に近づいたものを、次々に吸い込んでしまうのだ。
奴は何が目的なのか、DR星の周りを一定周期でグルグルと回っている。リーラッシャイ一族はこの周期を計算 し、「ただの災害」と称してブラックホールの近づく街の人々を避難させてきた。しかし、今回はそれができ なかったのだ。
慌てて赤子たちを抱える父親に、母親は言った。
「ハア、ハア。事前に対応できなかった私たちには責任があるわ。この街の壊滅は避けられないかもしれない けど、死んでも最善を尽くさなきゃ」
「そ、そうだな。……よし、ラッシャイタウンの人々を救出するための文献を、この子達に託すことにしよう! 」
そうして部屋に居合わせた者たちは、リーラッシャイ一族の全てを、赤子と一緒に大きな石箱の中に詰め込ん だ。
「これで最悪の事態はまぬがれた。あとは頼んだよ、ドド。そして……」
父親がドドの兄弟たちに名前を付けようとしたとき、病院の扉から怒声が響いた。
ドォン!
「おい、リーラッシャイ‼︎ これはどういうことだ⁉︎」
それはラッシャイタウンの市民たちだった。彼らは普段、街の長であるリーラッシャイには敬語を使うはずだ が、混乱で我を忘れていた。
「なんなんだ、あの馬鹿でかいダーク族は! さっきから黙って聞いてみれば、お前らは知っていたみたいじ ゃないか!」
「そうだそうだ! 伝説の一族だかなんだか知らないが、ダーク族と組んで俺たちを騙していたんじゃないだ ろうな⁉︎」
どうやらこの部屋の会話を盗み聞きしていた医師が、市民たちにそれを伝え、革命軍が発足したようだ。しか し、リーラッシャイ側にこれを止める手はなかった。
なぜなら、彼らが言っていることは全て事実だからだ。違うとすれば、ブラックホールを隠していたのは「ダ ーク族の人々への差別が増えることを恐れたため」ということだが、突然の事件で混乱している市民たちはそ れを信じてくれるだろうか。何より、ブラックホールに吸い込まれるまでの時間が迫ってきており、説明する 時間がなかった。
赤子たちの父親はこう決断した。
「ブラックホールのことを黙っていて誠に申し訳ありませんでした! 責任は全て私が受けます。煮るなり焼 くなり好きにしてください。ただし! 俺の子供たちには矛先を向けないでほしい‼︎ 彼らはきっとこの街を再 び……」
彼がそう言いかけたとき、革命軍のリーダーが彼を刃物で突き刺した。
「わかったよ市長。あんたの命に免じて子供たちは育ててやる。だが、役に立たなかったら一生お前ら『伝説 の一族』を恨むからな」
父親の意識が完全に途絶えたその時。
革命軍の歓声や怒号、残されたリーラッシャイ家一同が泣き崩れる音、赤子たちの産声。それらの音を一瞬で 包み込むようにブラックホールは吸収を開始した。そして、わずか数秒で、ラッシャイタウンの全ては飲み込 まれてしまった。
ドドとドリ神様の話が一旦止まると、トリ族の子供のさえずりが急に耳に入ってきた。どうやら僕は話に夢中になりすぎていたらしい。
僕は話の途中で、この星がピンチってのはブラックホールの周期がおかしくなっているということだと理解した。そして自然の音で冷静になった途端、疑問が湧いてきた。
「ラッシャイタウンは全部……なくなったんだよね……。でも、なんでドドは生きてるの?」
その問いに対する答えはドリ神様が説明してくれた。
「それはな、ブラックホールの習性のおかげじゃ。奴も生物じゃから眠りにつくのは分かるじゃろ? そして、睡眠時には誰もが気が抜ける。そして奴が吸い込んだものを体内で保管するためには集中力がいる。じゃから奴の体には毎晩、体外へ抜け出す穴が生まれるのじゃ」
「そうか、それでその穴の近くにいた人たちは抜け出せるんですね」
「その通り。とは言っても奴の体は巨大じゃから、抜けられるのは相当な運の持ち主だけじゃがな。それに、DR星へ着陸するのにもリスクがあるから、本当に難しいことなのじゃ」
ドドはそれに対し、笑って言った。
「着地に関しては問題なかったぜ。さっきの話であった、俺の親たちが道具を詰めてくれた石箱が衝撃を吸収する素材だったんだ」
「……なるほど、だからドドはムッシー村に石と一緒に降ってきたんだね」
僕がそういうと、ドドは相槌を打って昔話の続きを始めた。
ラッシャイタウンが吸い込まれてから十四年後……
ドド・リーラッシャイは今日も一族が託した書物を読み込んでいた。
「なるほど、ドリガジェにラッシャイカードをかざすと登録した人物が呼び出せるのか。……よし、今日はここ までにするか」
ブラックホールの中は四方八方が闇で囲まれた広い空間だ。電気や火がないと大抵の種族は作業ができない。 だから生きていくためには節約が必要なのだ。
「『ドリガジェ』は代々、リーラッシャイ家が使ってきたんだな」
「でも兄さん、私たちじゃ使えそうにないね」
ドドの兄妹たちには、名前がまだない。だからドド以外の子たちは、「兄」や「妹」などと呼び合っている。 イカの子が兄で、サーモンの子が妹だ。
イカの子……兄は二人に言った。
「俺の本には『ドリガジェの使用者は純粋な心を持つ者に限られている』と書いてあった。つまり、俺たちは 歴代の使用者たちとは違い、純粋な心ではないらしい」
それに対し、サーモンの子……妹は言った。
「その原因ってのはおそらく、ブラックホールへの憎悪だろうなぁ……」
ドドが「神秘のスシを手に入れるにはドリガジェの力が必要なのに……」と思っていると、突然近くに穴が現れ 、美しい宇宙の光が見えた。
ズオオオ……!
「こ、これは……ブラックホールの睡眠⁉︎」
「……! 俺たち相当運がいいな!」
「お前ら! 閉じる前に急いで抜け出すぞ‼︎」
兄の言葉を聞いて、三つ子は急いで石箱の中に荷物を詰め、その上にサーフボードのように乗り込んだ。
全員の準備が終わると、ドドは兄妹たちに言った。
「やっと親父たちの思いを叶える時が来た。落ちていく途中で、いろいろなことがあるだろう。無事に同じ場 所に着陸できるとも限らない。でも、俺たちならやれるはずだ! 集合場所は『ラッシャイタウン』の跡地! 神秘のパーツやスシ職人を集めて、また会おう‼︎」
「「おう!」」
その後、すぐに三つ子は散り散りに落下していったが、不思議と不安はなかった。
こうしてドドは数時間後、ムッシー村に着陸した。
…………話が終わると、ライトモンたちは一斉に僕を褒め称えてくれた。
「何でドリガジェをドドが使わないのか……ようやく理解できたドリ‼︎ それはジェム、君がすごいからだったドリね‼︎」
「へ……へへ、ありがとう」
僕はただ田舎でほのぼの過ごしてきただけで、特に何の才能もないのに……とも思うが、やはり褒められるのは素直に嬉しいなぁ。
僕が少し調子にのっていると、アリ店長がそれを妨げるように(?)ドドに話しかけた。
「それで? ドド、てめえの兄妹はどこに落ちたんだ?」
「……どこに落ちたかは俺も知らないな。神様、知ってますか?」
「ああ……。落ちた場所と彼らにつけられた名前だけじゃがな」
そうか。神様は僕たちの旅を見守って下さっていたから、途中までしか知らないんだ。
でも、ドドは嬉しそうに言った。
「十分です。教えてください!」
「うむ。では妹の方から話すぞ。サーモンの子はDR星に落ちる途中、不運なことに地球に落下中の隕石にぶつかり、なんと地球のアメリカに落ちたのじゃ」
それを聞いて僕たちは驚き、そして例の名前を思い出した。
「あ、アメリカだってーーー⁉︎」「あれ、てことはもしかして……?」
僕たちの予想は正しかったようで、ドリ神様は笑って言った。
「ホッホ、その通り。『アメ・リーラッシャイ』はドドの妹じゃ」
「「ええーーー⁉︎」」
予想していなかった連中は特に驚いたが、予想できていた僕達も十分に驚いた。
そして、ドドは驚きつつも神様に尋ねた。
「じゃあ、兄のほうは?」
ドリ神様が答えようとすると、神様の声と体は突然薄くなっていった。
「ドリ神様⁉︎」「…………どういうことでスシ?」
「……実はこのワシの体は言葉を一定時間だけ伝えられる魔法で作った分身体でな。たった今、時間切れが近づいているようじゃ」
「何ですって⁉︎ じゃあ兄の情報は⁉︎」
「名前だけ教えるから詳しくは本人から聞いてくれ。お前の兄の名は……『シャド・リーラッシャイ』じゃ。それじゃあ頼んだぞ、正しい心で神秘を求める者たちよ……」
ドリ神様の分身体はそう言い残して、消えていった……。
それから数分後、僕たちはついに「タイマンシティ」にたどり着いた。
「……着いたぞ! ここがタイマンシティかー‼︎」
「ジェム、観光に来たわけじゃないスシよ」
「そうだな。早く大会で優勝して、神秘のシャリを手に入れよう」
その間に大会のチラシを見ていたボーは言った。
「まずいぞ、あと五分くらいで……」
ボーは次の言葉をなかなか口にしなかったので、アリ店長が尋ねた。
「なんだ、お前の尻が限界を迎えそうなのか?」
「お前ら……オレのことなんだと思ってるんだよ⁉︎」
そんなボーのツッコミに対して僕たちは声を揃えた。
「「……下ネタ野郎」」
ボーはショックを受けつつも、冷静になって言った。
「あーもう分かった、認めるから黙って聞いてくれ。あと五分くらいで、大会のエントリーが締め切られるらしい!」
「は……?」「ええええええ⁉︎」
僕らは急いで大会の受付に向かった。
「ようこそ、『バトランDRドーム』へ。大会参加希望ですか?」
受付のヒト族のお姉さんに、僕は息切れしながら言った。
「ぜえ、はあ……。そうです、よく分かりましたね……」
「ふふ、だって急いでたから……。いや、そんなことより急いでください。エントリーできるのは残り四人までです。……すぐに決めてください」
四人まで……⁉︎ この大所帯の中から四人を選ばないといけないのか⁉︎
僕がそうやって頭を抱えていると、メカが自慢の演算機能を使って言った。
「私ノデータデハ、コノ中デ一番勝率ガ高ソウナ四人ハ、『ドド、ドリモン、ジェム、ボー』ダトデマシタ。時間ガナイノデコノ四人デエントリースルコトヲ推奨シマス」
「機械や道具は使用禁止なのに僕なんかで大丈夫なの⁉︎」
僕の戦闘を唯一見ているボーが答える。
「大丈夫だろ。……モンタウンでも戦えてたじゃんか!」
「ボー……!」
それを聞いてドドはメカの意見を承諾し、そのまま受付のお姉さんに伝えた。
そして、僕たち四人はバトランDRドームの待合室に案内された。
待合室には僕ら以外の出場者たちがいた。
僕はそのうちの三人を見て、「ドドの昔話よりも」驚いた。
「…………っ⁉︎」
そして、誰に何から話せばいいか分からず、うめき声を漏らした。
出場者一覧にはこう書いてあった。僕ら四人に加えて、「アートモン」という礼儀正しいライトモン。そして…………「おっ3」「シャド・リーラッシャイ」「ダクト・レイブン」と。
…………言いたいことが多すぎる。
まず、僕の師匠の「おっ3」と再会できて嬉しい。
そして、先程聞いたばかりのドドの兄がいてびっくり。
一番驚いたのはもちろんダクトがいることだ。しかも何だよ、「レイブン」って‼︎ 僕たちといた時には姓を明かした事は一度もなかったはずだ……。
こんなヤバイ面子が揃っているなんて聞いてない!
僕はムッシー村にいるような優しい田舎のおじさんたちがいるだけと思っていたのに!
この大会は近所にしか知らされていないんじゃないのかよ!
「優勝は簡単じゃないのかよ、神様―――――‼︎」