第二章「神秘の下ネタ」
・「ドド・リーラッシャイ」:スシ職人の少年。神秘のスシを管理していた伝説の一族。
・「アリ店長」:ムッシー村にあるスシ屋の店長。トークが特技。
「はあ、はあ……」
「こんなところでへばってたらこの先着いて行けないぞ」
何だここ……。暑すぎる。喉はカラッカラだし、お腹もペコペコだ。
「あー! 水とカタツムリが欲しーい!」
「こんなところにあるわけねえだろ!」
「ていうかカブリ、村に出てすぐに食べきったお前が悪いだろ」
「いや、確かにそうだけど……。いや、言い訳は良くないね。ごめん……。あれ? あんなところにカタツムリと池が見えるよ⁉︎ 僕、急いでいってくる!」
そう言って僕がまずカタツムリに向かって突進すると、ドドが大声で叫んだ。
「待て、ジェム! それはカタツムリじゃなくて、サボテンだー!」
僕にその声は届かず、僕はそのままカタツムリ、いやサボテンにかぶりついた。
「痛―――――――‼︎‼︎」
「だから言っただろ! こんなとこにあるわけないって!」
そんなドドのツッコミにダクトは反論した。
「いや、池ならマジであるぞ。どうやらここはオアシスのようだ」
「え? 俺とダクトまで目がいかれちまったのか? マジで池……と家があるぞ」
僕たちがそんな会話をしていると、このオアシスの住民らしき人物が、声をかけてきた。
「いやいや、あなた方の目は正常ですぞ。ここは『ブロークンオアシス』。そして私は『ボーン』という名のヒト族の老人です。こんな暑い『エレピド砂漠』にあなた方は何をしにきたので?」
「俺たちはこの砂漠に『ある』ピラミッドに『ある』というお宝を探しにきたんです」
ダクトがそう答えると、ボーン老人は閉じかけていた目を見開いた。
「おや、『ある』が二つ続きましたな。ではここで『エレピド砂漠あるある』をお伝えしましょうか。『その一、暑すぎて幻覚が見える。その二、喉が渇きすぎて水分をとりすぎてトイレに行きたくなる。その三、死者の骨がひとりでにピラミッドに向かって動く。』」
それを聞いた僕は震えが止まらなくなった。一と二はまだわかる。でも三ってめちゃくちゃやばいじゃん!
そう思ってしまった僕は、「いや、怖くなんかない」と首を降って震えを止め、覚悟を決めた表情でボーン老人に話しかけた。
「あなたは僕たちがピラミッドの危険に巻き込まれないように忠告してくれたんですよね。でも僕たちは夢の実現のためにどうしてもピラミッドに行かなきゃ行けないんです!」
僕がそういうと、ボーン老人はにこりと笑ってある道具を手渡してくれた。
「あなたのような勇気のある方にはこちらを託しても良いでしょう。これは私たちの一族に代々伝わる『ものすごい道具』です。使い方は分かりませんがきっと役に立つでしょう。そしてお願いです。もし出会ったらでいいのでどうか……ピラミッドに入ってしまった私どもの先祖様たちを成仏させてください」
「……分かりました」
その後水をいただいた僕たちはブロークンオアシスをあとにした。
しばらく黙っていたドドとダクトは歩きながら言った。
「すごいな、ジェム! さすがドリガジェに認められた男だな」
「へへ……。ありがとう、ドド」
「そういやカブリ……。お前が貰ったその『ものすごい道具』だが…………どっからどう見てもドリルじゃねえか?」
「…………やっぱそうだよね、ダクト。あの一族はドリルを知らないのかな。ドリルはスシと並ぶDR星の二大特産品なのにね。……ってあれ? あそこに誰かいない?」
「いるな。しかも砂漠のど真ん中で小便してやがるぞ。もしかして『エレピド砂漠あるあるその二』の該当者じゃねえか?」
「そうかも。ちょっと声をかけてみよう」
ドドは砂漠のど真ん中で下半身全裸で立っていたヒト族の男に話しかけた。
その呼びかけに反応した男はドドの方を向いた。用をたしたままの状態で……。
「ギャァアアーーー‼︎」
そう。男の「アレ(下ネタ)」がドドへと浴びせかけられたのだ。これは酷い……。
「てめえ……! 許さねえぞ…………」
ドドが静かにキレると男は反論した。
「いやいや、そっちがトイレ中に話しかけてくるからだろ⁉︎」
うーん……男の言ってることも正しいような気がするな……。
男は「ボー・ニンゲン」というらしい。彼は「世界中のトイレを試して、どれが一番快適かを決める」というおかしな目標の旅をしているという。
ドドとの論争が終わらないボーは、僕とダクトに話しかけてきた。
「あいつから聞いたけど、キミたちは今からピラミッドに行くんだって?」
「……うん。そうだよ」
「それはちょうど良かった! 実はオレもピラミッドのトイレを試すためにここにきたんだ。あいつとの討論は終わる気がしないからさ、オレも君たちの旅に協力するからさっきのことは水に流してくれよ」
「協力……⁉︎ 僕はいいけど……ドドはどう?」
「……そうだな。それなら許してやらんこともない。完全に許したわけじゃないが……これからよろしくな、ボー・ニンゲン」
「おう! 呼び方は『ボー』でいいぜ」
ビカッ‼︎
その時、アリ店長の時のようにドリガジェが光った。見てみると、ちゃんとボーの情報が書き込まれたカードがあった。やっぱりドリガジェの力はすごいな。
「着いたぞ! ここがピラミッドだ!」
ハア、ハア……。ドドは元気だな……。
僕とダクトは暑い中を長時間歩いたのですっかりバテている。でも、そんな疲れを忘れてしまうような美しい光景が目の前にあった。
「……なんて神秘的な場所なんだろう。やっぱり旅に出てよかった……!」
「そうだな。調べたところ、この建物は三千年前に栄えていた一族の王の墓らしい。だが一つ妙なところがあるな。なぜ三千年前の建物がキレイな状態のままなんだ?」
「さすがだな、ダクト。言われてみれば異質すぎる。だとしたら……」
ドドはそう言って辺りを見返した。その視線の先には……。
「…………カメラだ!」「俺たちは監視されていたのか⁉︎」
「俺に任せろ! くらえ、『シャリボム』‼︎」
ドドが放った技、「シャリボム」は、スシ族の能力。スシ族はスシの一部を技として繰り出せるのだ。ちなみにその技がどんな力を持つかは、使用者の性格によって変化する。勇敢な性格のドドの場合は、投げたシャリが何かにぶつかると爆発するようだ。
ボォン!
シャリボムは僕らを監視していたカメラを爆破してくれた!
「すごいや、ドド」
「へへ。それにしても……こんなところに住み着いてやがるのは誰なんだ?」
「そいつが神秘のネタを持ってそうだな。まあ、ドリあえず入ってみればわかるさ」
そう言ったダクトが入り口を通ると、ものすごい音とともに、ピラミッドの床から壁が生えてきた。やがて轟音はおさまった。でも……。
「この壁……迷路みたいになってる!」
「『みたい』というか、完全に迷路だな。それにしても、こんな技術力のやつがこのダンジョンのボスということか。古代の怪物か、はたまた死者を操る魔術師か……」
「おいおい……ダクト、怖いこと言うなよ!」
普段は冷静なドドとダクトも、これには冷や汗が出ていた。そんな二人を励まそうと、僕の口と手はいつの間にか動いていた。
「相手が誰であろうと関係ないよ! 僕たちは神秘のスシを手に入れるため、進み続けなきゃいけないんだ! こんな壁……アリ店の入り口のように、ぶっ壊してやる‼︎」
僕は迷路の壁を破壊しようと拳を振ったが、壁はパンチの衝撃を吸収してしまった。その後、僕の言葉を受けて正気に戻ったドドとダクトも壁を攻撃するが、その衝撃も吸収されていた。
「ちくしょう! やっぱ迷路を進まないといけないのか⁉︎」
「だが、俺の推理ではこの迷路にゴールはないと思われる。迷路のオンオフができる以上、ボスにとって奥に進むのに不便はない。つまり迷路にはゴールを作らなくてもいいんだ。だから俺たち侵入者にとって、壁を壊すしか道はない……。だが壁はどんな衝撃でも約一秒で吸収してしまう。よくできた仕掛けだ」
「感心してる場合かよ! ん? だったら一秒以内に衝撃を与え続ければいいんだよね」
「まあそうだが……この中にそんなこと出来るやついるか?」
「人の技じゃないよ、物の力だ! ボーン老人にもらったものすごい道具、ドリルがあるじゃないか!」
ダクトは口をあんぐりと開けて驚いた。僕はそれを見て笑いながらドリルを取り出し、電源をつけて壁にぶつけた。
キュイーン! ガガガガガガ……!
やっぱり僕の読み通りだった! 壁は衝撃を吸収する暇なく、簡単に崩れていった。そして削れた壁の先にあったものは……とても良い香りのする、金ピカに光っているマグロっぽいスシのネタ! そう、『神秘のネタ』だ!
僕がドリルの電源を切ると、二人の歓声と一人の歯ぎしりが聞こえた。
「歯ぎしりか……。この状況をよく思わないやつ、それはここのボスしかいないよなあ⁉︎」
ダクトがそう言うと、神秘のネタの後ろから黄土色で三角の頭をし、胸に「P」のマークをつけた人物がやってきた。
「我は三千年前に栄えていた一族の末裔。よくここまで来れたな、侵入者よ。だが……ここまでだ!」
ピザード・トライアングルと名乗った人物が合図をすると、僕たちの周りはボーン老人と少し似ているガイコツたちに囲まれていた。
「この人たちはまさか……ボーン老人の先祖⁉︎」
「ボーン老人……? ああ、あの生き残りか。それならその通り……。そいつらの背には我が開発した装置『ネクロマンサー』を取り付けてあってな。我の命令を聞いてくれるのだよ」
「……教えてくれてありがとよ。じゃあその装置を壊せばいいんだな?」
「…………し、しまったー‼︎ 口が滑ったー‼︎」
こいつ……仕掛けを作るのは天才なのに、こういう普通のことはバカなんだな……。
まあドリあえず、あの機械を壊せばボーン老人のお願いは達成だ!
「背後に回って……ドリルを当てる!」
「でも背後に回れるのか⁉︎ この人たち、集団で連携して戦うように命令されてるぞ!」
ドドの予想は正しかった。この人数差では、戦闘経験の少ない僕ではとても突破できる気がしない。どうすれば……?
そう僕が悩んでいると、隣からダクトのアドバイスが聞こえた。
「カブリ、お前はドリル以外にも優秀な機械を持ってるだろ?」
「……そうか! ドリガジェだ‼︎」
僕がバッグからドリガジェと一枚のラッシャイカードを取り出した。アリ店長は忙しそうだから……今はこっちだ!
「『ドリラッタッチ』‼︎」
僕がそう叫ぶと、あたりは一瞬赤い光に包まれ、光が収まると目の前にはボー・ニンゲンが立っていた。ちなみに「ドリラッタッチ」というのは僕が今考えた技名で、「ドリ」ガジェに「ラッ」シャイカードを「タッチ」して仲間を呼び出す技だ。
ボーは不思議そうな顔で当たりを見ると、すぐに状況を理解してくれた。
「なるほど、オレの出番ってわけね。じゃ早速、技のおひろめといきますか! 注文は何?」
「ええと……僕ら以外の全員を足止めして!」
「OK! くらえ、『巨大な固体のアレ(下ネタ)』‼︎」
ボーの尻から繰り出された巨大なアレはガイコツの七割とピザードにも命中し、彼らの足(ついでに鼻も、かな?笑)を奪っていった。それにしても……。
「ボー……。君のソレは、なんでそんな大きいの?」
「これはな、オレたち『ヒト族』の能力なんだ。ヒト族は生まれながらに決められた体のどこかの部位を巨大化させることができて、オレの場合は排泄物ってことさ」
「へ、へえ……なるほど…………」
ピザードが苦しそうに鼻をつまんでいるのを見て、僕はボーが味方でよかったと心の底から安心した。その時、安堵している僕を見たのか、ダクトが叫んだ。
「……ジェム! 早く『ネクロマンサー』を壊せ! どうやらガイコツどもには臭いは効かないようだ……。逃げられる前にやるんだ!」
「あ……。う、うん!」
キュイーン! ガガガ……! ガガガ……!
僕は言われた通りに急いでドリルで装置を破壊していった。そして……
それが終わった頃には、もう全て片付いていた。アレに巻き込まれなかった三割のガイコツたちはすでにドドとダクトとボーによって倒されており、ピザードは臭いで気絶していたので神秘のネタも難なくゲットできた。
「ついに……初めての神秘のパーツだね!」
「ネクロマンサーによって操られていたボーン老人の先祖たちはこれで天国に行けたはずだ。あとは……ピザードの対応だけか…………」
「確かに悪人とはいえ、このままにしとくのはちょっとなぁ……。ボー、なんか意見はあるか? ってボー⁉︎ 顔色悪いけど大丈夫か⁉︎」
「腹が痛い……。アレが出そうだ……。しかも巨大な……」
「アレってあれだよな⁉︎ 神秘のネタじゃないほうのネタ、下ネタだよな⁉︎ しかも巨大って……。お前、アレの巨大化の能力は制御できないのかよ!」
「去年覚えたばっかだからまだ無理――――――――!!!!」
そんな会話の後、どうなったかはあまり話したくないが、この状況を整理するためにあえて言わせてもらおう。ピラミッド全体が、ボーの下ネタによって埋まってしまったのだ。もちろん中にあった神秘のネタも、僕たちも。
そんな中なのでずっと目を閉じていた僕はいつの間にか夢を見ていた。幼い頃に母さんから聞かされた子守唄と一緒に。
いろんな種族、いろんな一族。作ったのはいろんな神様。
スシがお魚とお米からできるように
ドリル族はドリ神様、スシ族はスシ神様
いろんな神様。あなたたちはどこからやってきた?
こんな幻想的な子守唄と一緒に流れたのはボーのトイレシーンだった。
まったく……あいつは夢でもクソ野郎なのか……。