第一章「機械と紙とスシ職人」
前章の登場人物まとめ
・「ジェム・カブリ」:この物語の主人公。カタツムリが好物の昆虫、マイマイカブリの少年。
・「ダクト」:ジェムの親友。戦闘技術はないが、多くの場所に引っ越したことがある。
・「ドド・リーラッシャイ」:空から突然降ってきた謎の人物。
「負けても泣くんじゃねえぞ!」
「もし、俺がお前に勝てたら絶対仲間になってくれよ」
「ああ、男に二言はない」
はぁ……。なぜこんなことになってしまったのか。ことの発端は三十分前……
「俺の名前は、ドド・リーラッシャイ。神秘のスシを探す旅をしているスシ職人だ」
「え⁉︎ 『神秘のスシ』だって⁉︎」
僕は「神秘のスシ」というワードが出たことに驚いた。
「ああ、そうさ。学校で少しは聞いたことあるだろ? 俺はそれを作るために、この星のどこかにある『五つの神秘のスシのパーツ』と、それらを組み合わせてスシにするための『七人のスシ職人』を探しているんだ」
僕は突然彼の口から出てきたその言葉……初めて聞いた情報に興奮して答えた。
「……聞いたことあるなんてもんじゃない。僕……ジェム・カブリと、友達のダクトは、いつか神秘のスシを食べることを目標にしているんだ! それを達成するためにいろんな本を読んできたのに、そんな情報見つからなかったよ⁉︎ 君はどうやってそんな情報を?」
僕の問いにドドは答えようとしたが、ダクトが先に説明してくれた。
「おい、カブリ……。まだ気づいてないのか? それはこいつが、あの伝説の一族『リーラッシャイ』だからに決まってるだろ」
僕が信じられない、と言う前に、ドドがダクトに答えた。
「そうだぜ。『リーラッシャイ一族』は神秘のスシを管理していた。俺はその末裔だからそれに詳しいんだ」
「……神秘のスシを管理していたなら、お前はなぜ神秘のスシを探す旅をしているんだ?」
「それはだな…………」
…………もう我慢できない。二人の会話に追いつけなかった僕は、口を挟んだ。
「待って! じゃあドドは、『神秘のスシ』のパーツのありかを知っているんだね?」
僕が聞くと、ドドは話を中断して、答えてくれた。
「ああ、一部だけなら知っている。だがその場所までは言えない。それを知ったらお前らはそこにいくだろ? 危ない旅になるだろう。だから教えるわけにはいかない」
「でも、ドドは一人でも行くんでしょ? なら僕たちも連れていってよ! 食べさせろとは言わない。だけど僕はいろんな場所へ行って、いろんな体験をして、この世界のことをもっと知りたいんだ……‼︎」
僕が信念を叫んだとき。……突然僕の手にある謎の機械が光り出した。
「「…………な、何だ⁉︎」」
みんなそうだが、特にドドはその光を見て驚いていた。
「『ドリガジェ』に、認められたのか…………⁉︎」
ダクトは何も言わずにただその光を見つめていた。
しばらくして光がおさまると、ドドは覚悟を決めた表情で話した。
「ジェム……だったな。やっぱりさっきの話はなしだ。冒険についてきてくれ!」
「え……? ホントに⁉︎ でも何で?」
「それはな…………」
ドドの説明によると、この機械「ドリガジェ」は、「リーラッシャイ一族」に代々受け継がれており、人の感情を読み取ってそれを大きくすることができるという。しかしその力は強力なあまり危険すぎて、使用者は「純粋な心を持つ者」に限られている。そのドリガジェから光が出たことで、ドドは僕がドリガジェに認められたと思ったのだろう。
それにしても……ドリガジェはリーラッシャイ一族が代々使ってきたはずなのに、なぜドドではなく、僕なんかを認めたのだろうか?
僕は何となくこの質問をしてはいけない気がした。
まあドリあえず(DR星の方言。意味は日本の「とりあえず」と同じ)、僕たち三人は神秘のスシを手に入れるための仲間となったわけだ。メンバーは、スシ職人の「ドド・リーラッシャイ」、ドリガジェ使いの「ジェム・カブリ」、そして旅の案内役の「ダクト」。
ダクトは多くの場所に引っ越したことがあるそうなので、いろんな情報を知っている。だから戦闘技術はないものの、ドドに旅のメンバーに入れさせてもらった。
「そういえばジェム、この村にスシ職人はいないのか? 親御さんに許可をもらったことだし、いないのならすぐにでも出発したいんだが……」
ドドが期待していないような声でそう聞いてきたので、自慢げに僕は言った。
「田舎村だからいないと思ってるんだろうけどね……。スシ職人ならいるよ‼︎ 僕に農業を教えてくれた師匠でね、『アリ店長』っていう蟻だよ」
「そいつの店、『アリ店』なら俺も行ったことはないが聞いたことはある。確か……あそこの道を曲がった先にあったな」
「そうか。ジェムの師匠なら何とか協力してくれるかもな。じゃあ行ってみるか!」
そうして僕たちはアリ店に向かった。
初めて「アリ店」を見たドドとダクトは口をあんぐりと開けて驚いていた。……別にこの店がすごいわけじゃない。ただ、アリが作った店だからなぁ……
「…………入口、小さすぎるだろ!」
ドドは驚きながらも、僕に入り方を聞いてきたので僕は二人の前で手本を示した。
「こういうときは……壁をぶっこわすんだ!」
ドガーン‼︎
僕はすさまじい音と同時に、アリ店の入口の壁を破壊した。店の中からは悲鳴が聞こえるし、ドドの顔は真っ青になっている。だが、こんな状況も全く気にしていない漢がいた。
「へいラッシャイ! よくきたな、ジェムとその友達!」
「この色々とでかい蟻が『アリ店長』。僕の師匠の一人で、スシ職人さ!」
僕が二人に店長を紹介すると、ドドは挨拶をした後、質問をした。
「あのー店長。この壁って弁償しなきゃいけないんすか?」
「心配いらん。この扉を作った店員の給料からとるからな」
店長がそう答えたことで、そのアリからクレームが入る中、ドドはいきなり本題に入った。
「俺たちがここにきたのは……店長、あんたにお願いがあるからなんだ」
「何だ? 弟子の友達なら、ある程度のことは聞くぞ」
「俺たちの旅に、スシ職人が必要なんだ。……お願いします。旅についてきてください‼︎」
ドドが頭を下げて頼んだ。店長はノリのいい人だから、僕は断られる心配はしてなかった。しかし、驚くことに店長はドドの頼みを断った。
「……断る。俺はもうガキじゃねえんだ。そんな何年かけても見つかりそうにない伝説を探しに冒険に行けるかよ。こっちは店の経営で忙しいんだ!」
ドドはそんな答えはわかっていたかのように、店長の意見をうなずきながら聞いていた。店長もドドと同じくらい真剣だ。ダクトが店長に、ドドが伝説の一族ということや神秘のスシの作り方を教えても、意見を変えることはなかった。
「ドド・リーラッシャイ。……俺もガキの頃は神秘のスシを探してたんだ。今のお前らのようにな。お前らみたいに作り方までは調べることはできなかったが、真剣さはお前らと同じだった。……だが今は違う! 俺は自分の唯一の特技、スシとトークを使って、金を稼いでいかなきゃ生きていけない。すまんがお前らのために使う時間はないんだ!」
「つまり、あんたは時間と命が大事ということだな?」
「……そうだ」
「それなら……時間については俺の予定では時間なら何年もかからないと言っておこう。一ヶ月で済むはずだ。命については……今はまだ詳しく話すことはできないが、数年後にはこの星は滅びるだろう。そのために神秘のスシの力が必要なんだ」
その話に一同は驚いた。僕たちも聞いたことのない話だ。
数年後にこの星が滅びる? とても信じられる話ではない。
店長はしばらく悩んだ後、こう答えた。
「一ヶ月で済むってのは……信じよう。詳しく話せないっていうのもなにか話したくない事情があるんだろう。だが……それでもそんな話、まだ信じられねえ。スシで勝負だ、ドド・リーラッシャイ! てめえの真剣さを俺に示せ‼︎ 仕方ない……お前が勝てたら仲間になってやろうじゃねえか……。負けても泣くんじゃねえぞ!」
「もし、俺がお前に勝てたら絶対仲間になってくれよ」
「ああ、男に二言はない」
ドドの深刻な話はドリあえず後だ。今はこの二人のスシ職人の対決に集中しよう。
…………審査員として。
不正のないように、審査員には両陣営から僕とダクト、そして二人のアリ店員に選ばれた。そんなことしなくても、僕は平等にジャッジするつもりだが。
十数分後、二人のスシが運ばれてきた。僕の前にはまず、店長のスシが置かれた。
サンマを主役とした、あたかも生け花のように野菜が飾られたスシだ。とても短時間で作ったとは思えない。食べてみると、正直味は普通だったが見た目がサポートしたことでいつもの店長のスシの倍くらい美味しく感じた。
続いてドドのスシがやってきた。見た目は意外と普通のマグロだった。
そう思いながら食べてみると……マグロが口の中でジュワッととろけた。見た目では気づかなかったが、塩とワサビが盛り込まれており、まさに極上の味となっていた。
「これはすごい……!」
僕は迷いなくドドに投票した。
そして……他の三人も投票を終えたようで、ついに結果発表の時となった。
「今回のスシ勝負を制したのは……ドド・リーラッシャイです!」
「……よっしゃ、勝ったぞー‼︎」
僕たちが喜んでいると、アリ店長が近くにやってきた。
「完敗だ。お前のスシ、うまいだけじゃなくしっかりと思いがこもってやがる。この村が滅びるなんて話、信じたくなかったが、信じて仲間になってやるよ……いや違うな。村を守るためにできる限りのことは協力するから、お前らについて行かせてくれ!」
「店長のスシだって美味かったぜ。仲間としてこれからも食わせてくれよ、アリ店長!」
「…………ああ!」
ビカッ‼︎
ドドと店長がそう言って握手をした時、僕のカバンの中の「ドリガジェ」が光り出した。
「このオレンジ色の光は何なの? ドド!」
「それは……仲間が増える時、つまり他人から感謝や謝罪、信頼といった感情を感知した時に出る光だ。その光はそれらの感情を出した人物の情報を読み込み、『ラッシャイカード』に記録するんだ!」
「ほんとだ、ドリガジェの近くにあったカードに店長の名前と種族が書き込まれてる!」
「これでそのカードをドリガジェにかざすと、アリ店長をその場所に呼び出すことができるようになったと思うぜ」
それを聞いた店長は僕たちに提案をした。
「お前たちはこれからどっかに行くんだろ? ジェムは知ってると思うが、実は俺にはスシ職人のライバルがいるんだ。そいつにお前らのことを話しておくよ。別行動したら危険だと思ったが、そのカードがあれば大丈夫そうだな」
「大丈夫だ。じゃあ店長、その職人のこと、頼んだぜ!」
そうして僕たちと店長は別れたが、実際は別れてなんかいない。この不思議な機械と紙が僕たちの絆を繋いでくれるから。
アリ店長の姿が見えなくなったとき、ダクトはドドに質問した。
「で、俺たちはどこに行くんだ?」
「この村から西に進んだところにあるピラミッドだ。俺の情報では、そこに『神秘のスシ』のパーツの一つ、『神秘のネタ』があるらしい」
ダクトの好奇心はまだ止まっていないようだ。いつもはクールなのに珍しい……笑
彼はドドの目をじっと見つめながら、再び質問を投げかけた。
「ちなみに……パーツっていうのは何があるんだ⁉︎」
「えーと……ネタ、シャリ、ワサビ、しょうゆ、皿の五つだな」
それを聞いたダクトは嬉しそうに笑いながら先頭を歩き始めた。
「よし、職人は7分の2、パーツは5分の0だな。俺は他では役に立てないぶん、ピラミッドへの旅のサポートは全力でやってみせるぜ」
「……頼んだよ、ダクト!」
こうして『神秘のスシ』を求める、謎だらけの冒険は幕を開けた。