第十章「ジェムの想い」
前章の登場人物まとめ
・「ドシモン」:ドリモンとスシモンが合体した姿。
轟音と共に近づいてくる巨大な黒渦を前に、リーラッシャイたちは言った。
「あれはまさか……ブラックホール⁉︎ なぜこのタイミングで⁉︎」
「まさか……ダクトの『力』というのは、こいつのことか⁉︎」
「そういえば、過去にラッシャイタウンを突然襲った時も、革命軍が発足するのは一瞬だったらしい。
まるで来ることが分かっている奴がいたかのように…………!」
ということは、そいつが、ダクトの……?
ダクト……洗脳魔王は、手で顔を覆いながら叫ぶ。
「まずは、手始めにそこの裏切り者どもを消せ! ブラックホール‼︎」
まずい! 奴はもう、悪人やドシモンたちの真上にいる‼︎
このままでは……
僕が焦っていると、シャドが助言をくれた。
「ジェム、ドリガジェを使え!」
そうか!
ドリガジェに仲間のラッシャイカードをかざせば、「助けたい」という気持ちを実現させて、ここに呼び寄せることができたんだった‼︎
鞄から今まで登録してきたラッシャイカードを取り出し、次々にドリラッタッチする。
まずアリ店長。ドドは……ここにいるから必要ない。
次にボー。そしてジョバーモン、ドリモン、スシモン、スピモン、トイレモン。そして……
「……あれ? なんでここに白紙のカードが挟まってるんだ?」
「整理整頓ができてないだけだろう……⁉︎
って、そんなことはいいから早くするんだ! 仲間たちの命はお前にかかってるんだぞ!」
おかしいな……。僕はちゃんと白紙のカードは別の袋に入れておいたはずなのに……!
いや、それどころじゃないな。アメの罵りは本当にその通りだ……。
早くしないとみんなが……!
「間に合ってくれ‼︎ 『ドリラッタッチ』! メカ・リーラッシャイとヒアリ店長!」
ビカッ‼︎ ギュルルルルル……
……その時、ドリガジェの起動音をかき消すほどに轟音が響いた。
ズオオオオオオオオオオオオオオオ…………!
「……僕らはなんとか間に合ったジョウが…………。メカたちは大ジョウ夫か⁉︎」
これでメカとヒアリ店長がいなかったら、僕の責任だ…………!
「ジェムサン、心配イリマセンヨ」
「Meたちも無事デス!」
よかったぁ……。本当に……‼︎
僕は全員無事だと安堵した。だが……
洗脳魔王は笑っていた。
彼の視線の先を見ると、満足気に吸引をやめたブラックホール……!
「やられた……。そうだ、悪人たちのラッシャイカードはなかったのか……!」
「ドシィ……! ボクたちに協力してくれたばかりに……」
「洗脳魔王! 元仲間とはいえ、Youは心が痛まないのデスか⁉︎」
「……別に。ただ目障りな蜘蛛を潰しただけだ」
「…………!」
しかし、洗脳魔王とブラックホールは嘆く隙すら与えてくれない。
「ブラックホール、次は奴らだ。少々手強そうだが……」
そう言って洗脳魔王はブラックホールに向けて杖をかざす。
「これでいけるだろう。『強制強化』」
あの野郎……まだ技を隠し持ってたのか……!
洗脳魔王の発した光線がブラックホールに当たると、大きなうめき声が響く。
「グオオオオオオオオオオ…………!」
アメの親友、インタプレトモンはそれを翻訳してくれた。
「これ……『苦しい』っていうブラックホールの声だヤク…………!」
そうか……そういえば奴も生物。感情も声もあるのか…………。
悪人たちのこともあって、しんみりとした空気が流れる中、ドドはみんなに呼びかけた。
「……よし! とっとと奴を楽にしてやろうぜ」
「ドド……! でも、どうやって?」
「決まってるだろ。『神秘のスシ』を……作るんだ!」
「え……いやいや、スシ職人は確かに七人揃ってるギュン。
でも、『神秘のしょうゆ』がまだ手に入ってないんじゃ……?」
そう。今あるのはネタとワサビとシャリだけ……。しかしドドは心当たりがあるようだ。
「アメ。最後のパーツはお前が持っているんじゃないか?」
アメがしょうゆを持ってる……?
でも初めて会った時、神秘のパーツになぜか敏感な僕の鼻は、においを捉えなかったけど……?
あ……。宇宙服を着てるからか!
「そういえば、うちの店に来たあの爺さんがあの時何かくれたような……?」
アメはそう言って急いでロケットに戻り、小さな箱を持ってきた。
「ドド兄。これが、あの時もらった箱だ」
「俺の読みが正しければ、その老人は『スシ神様』。
そしてその箱の中身は……!」
「本当だ……。『神秘のしょうゆ』……‼︎」
すごい……確かにピンチだが、こちらも順調だ!
よし、これでついに…………ついに、「神秘のスシ」が作れる!
スシ職人たちは特に嬉しそうだ。彼らにとっては、子供の頃から夢みたことなのだろう。
「命と時間が大事とか言って……店に残ろうとした俺、見てるか?」
「Meも……ドドを信じて旅に出て本当によかったデス!」
「『神秘のスシ』。シッカリデータニ刻モウト思イマス」
「奴らとボクたちの距離はまだ開いているスシ! このまま何事もなければ……」
…………! スシモンの言葉はフラグだったようだ。
アメの叫び声。
「何⁉︎ シャド兄がいない⁉︎」
「……シャドがいないって⁉ ……ダクトの仕業⁉」
僕がそう言うと遠くから響く魔王の声。
「おいおいすぐに人を疑うなよ、カブリ。俺は何もしてないぜ。
ははっ、所詮ヤツもダーク族。ブラックホールにびびって、お前らを置いて一人で逃げたんじゃねえか?」
くそぉ……。今のシャドがそんなことをするはずない……そう信じたい!
そう願うと、僕の心配はまたしても杞憂に終わってくれた。
背後からシャドの声がした‼︎
「はぁ、はあ……。すまない、待たせたな」
「シャド! どこに行ってたんだよ‼︎」
振り返ると、そこにいたのはシャドではなく、巨大な黒いイカだった。
「『闇の暴走』を使っても暴走しないようになれたんだな⁉︎」
「…………ああ。もう誰の命も奪いたくないからな」
「シャド……!」
そこで僕に代わって、ドドがシャドに話しかける。
「お疲れのところ悪いが、時間がない。神秘のスシ製作に力を貸してもらうぞ。
ところで、お前はどこに何をしに行ってたんだ?」
「……俺にとっては昔からの仲間だからな。カードがないことはすぐに気づいて、
身体が勝手に動いてしまったんだ。でも数人しか救えなかった。すまない」
…………!
よく見ると巨大黒イカのゲソの中にはアークスパイダーが数人うずくまっていた。
「ぜえ、はあ……」
「謝罪なんてやめてください、村長……」
……ふ、すっかり善人だな。
そうつぶやいてドドは全員に指示を出す。
「見ての通り、ブラックホールは徐々に迫ってきている!
そしてダクト……奴がいると、何かしらの手を使って俺たちをスシができる前に潰すだろう……。そこでだ」
ゴクリと僕らは唾をのむ。何をするべきか察しているはずであるが、凄い緊張感だ。
……これが死を目の前にするということなのだろうか。
「スシ職人以外のメンバーは、全員で協力してこの場所を守り切れ!」
やはり、ドドはすごい。
僕らはもちろん、悪人たちも彼の指示に対して一斉に声を出す。
「「おおーー‼︎」」
「「任せろぉ‼︎」」
ドド、アリ店長、スシモン、メカ、ヒアリ店長、シャド、アメ。
七人の寿司職人だけを残して、僕たちは洗脳魔王の元に向かう。
彼に近づくということは、ブラックホールに近づくということであり、普通なら逃げ出したくなっているだろう。
しかし、僕らの覚悟は決まっている。特にアークスパイダーの気合いは凄まじかった。
「洗脳魔王……奴は俺たちを利用していた」
「しかも、他の仲間たちを……消しやがった」
怒りと憎しみ。それはダーク族に限らず、生物の大きな原動力となる。
それは、先程までの自分で痛感した。僕は、それ自体を使うことはいいと思う。
ドドがそうしてくれたように、怒りとは、ぶつけるものだ。抱え込んではお互いに疲れてしまう。
でも……行き過ぎて『殺し』をするのだけはダメなんだ。そのラインを越えたら……
「ダクト……君は一体、どんな人生を送ってきたんだよ」
僕はとっさにそんな言葉を口から出していた。ただの独り言だ。誰も答えなかった。
洗脳魔王は僕たちには見向きもせず、『神秘のスシ』を作る者たちを見ていた。
「ブラックホール。あとは洗脳がなくても分かるな?
お前の存在を脅かす存在を消すことに全てをかけろ。そうすれば、俺を邪魔するものは何もなくなる‼︎」
「グオオオオオオオオオオ‼︎」
またあの技だ。どうやら洗脳を応用して、生物のリミッターを少し外しているようだ。
ブラックホールは加速を開始した。
このままでは完成前にドドたちはやられるだろう。
でもね、僕たちは何の策もなく挑むほどのバカではないんだ!
「くらえギュン! 『低速化』‼︎」
そっちが加速するならスピモンの力で減速させればいい! これでプラマイゼロだ‼︎
そして、洗脳魔王が加速を強めようとしたところに……
「くらえ、ドロドロな『アレ』噴射―――!」
ジョイレモンとボーの合体技だ! あの下品な技には流石の魔王もひとたまりもないはず。
しかし、完全に想定外なことが起こる。
……やはり僕らはバカだったようだ。
「ここがどういう空間か忘れたか? 無重力に飛び道具は無意味だぞ」
「し、しまったジョイーーー!」
「でも、おかしくない⁉︎ シャドに投げた僕のカタツムリは飛んでったよ⁉︎」
僕がそう言うと、洗脳魔王は両手を振り上げ、言った。
「それはこういうことさ。『ポルターガイスト』」
彼がそう言って手をこちらに向けて振り下ろすと、
そこら辺に浮かんでしまった「アレ」がボーたちの方向へと飛んでいった!
ひえっ……自分のアレが自分に飛んでくるなんて……。
「……ジェムのカタツムリはあの技で疑似的に飛ばされていただけだったのギュンか……」
「つまり、ジェムさんの技ももう使えないってことヤク……⁉︎」
くそぉ……僕の技を操って無重力ということを意識の外に追いやって、
無駄な時間を費やさせることまで計算済みってことか……。
しかし、この状況でも諦めてない者が数人いた。
「逆に言えば、僕みたいに近接攻撃ができれば関係ないドリ!」
「そういうことなら、俺たちの牙も役立つ時だな!」
「行くぞ、仇打ちだ!」
そう。ドリモンとアークスパイダーたちだ‼︎
「ドリモン、まずは奴の杖を破壊して‼︎ 悪人たちは援護をお願い!」
ドリモンは洗脳魔王に突っ込んでいき、
アークスパイダーたちは僕の言うことなんか聞くか、と舌打ちしながらもドリモンと一緒に突撃してくれた。
ブラックホールはスピモンが何とかしてくれてるし、僕の知る限りダクトは近接攻撃には弱い。
だからこの状況は厳しいはず。
はず…………だった。
「ぐわあああああ!」
悲鳴。そして宇宙に浮かぶ赤い液体。
……やられたのはアークスパイダーだった。
「おい……! 何しやがるんだ、テメェ…………」
アークスパイダーの一人に致命傷を与えたのは、魔王ではなくまさかのドリモンだった。
「ドリモンさん⁉︎ ……何をしてるんだヤク⁉︎」
そうか、インタプレトモンは「洗脳」を知らないのか!
普通なら、ドリモンが自分の意思でやったわけでないことは明らかだ。
でも、この状況では被害者の脳は正常に働かない。
「まさかテメェら……この戦いに乗じて俺らダーク族を全滅させようっていうのかぁ⁉︎」
「悪人……。違うよ! 一旦冷静になって話を……」
「ふざけんな!」
「もういい……お前らなんかと協力するのはやめだ!」
「俺たちは、俺たちの手で、俺たちを利用しやがったダクトの野郎をぶっ殺してやる……‼︎」
ああ……やっぱりダメだ。彼らはラインを越えてしまっている…………!
冷静にさせることはできない……。しかし仲間割れをしていては、ダクトには勝てないだろう……。
だから……僕は今ここで、彼らを「仲間」にするしかないんだ!
「わかった、じゃあ行って来なよ。でも、それだとダクトの思う壺だよ?」
「何だと……?」
「ふざけるな! テメェ、俺たちを舐めてやがるのか⁉︎」
おっ3に学んだ会話のコツが成功した。彼らはこのままでは感情に任せて突撃してしまう。
こういう時は、まず会話の体勢にさせることが大事だそうだ。
しかし問題はここから。
僕はダクトと違って人の心を読むのが上手くない……けど。
彼らはシャドを殺そうとしていた頃の僕とよく似ているから……経験談をするだけでいい‼︎
「話は変わるけど、僕は君たちに『殺し』をしてほしくない。これは理想論でも適当な言葉じゃないよ。僕も少しの間とはいえダーク族だったから……」
「……だからどうした?」
「それが何だっていうんだよ⁉︎」
「……その経験から、わかったんだ。一度故意に人を殺せば、戻れなくなる。
人の命を軽く見るようになってしまうんだ」
地球人が虫を潰すような感覚で、人を殺すようになってしまう……。
なんて、ムシである僕が言うのは少しおかしい話だな。
DR星ではなぜ虫も人のようになっているんだ?
「だから……こういう時は、大切な人のことを想うんだ。その人は自分にどうして欲しいのか考えてみる。
今の時代において、人を殺したくなる理由は……本当に、本当に辛い経験からなるのだろうけど……
それは瞬間的だ。大切な人との思い出は……それ以上に長く、深い」
僕だっておっ3を殺したシャドを完全に許したわけじゃない。
それに僕自身、特に夢とか目標とかないから仇討ちに全てを注いだ。
でも今は、大切な人……絶対に信頼できる友のためを想って生きている。
……「親友の夢」を「僕の夢」としている‼︎
この話は人によってはくだらない、と吐き捨てるだろう。
でも僕は、これまでの旅の経験からこれに気付かされた。
だったら、同じ境遇の彼らにも……刺さるはずだ!
「大切な人…………か」
「残念なことに、俺たちの家族はもういない」
え…………失敗……した?
「でも…………あんたの言葉で目が覚めたよ」
「俺たちは人を殺すためじゃなく、元々は差別をなくすために旅に出たんだったな……」
「それに、俺たちは……シャド村長に救われた命だ。無駄にするわけにはいかねぇ」
「シャド村長は、殺し殺されることなんて望んでない。それは、他でもないアンタとの一件から伝わってきたことだ……!」
……いや、成功……してる! ちゃんと、僕の想いが伝わってる‼︎
その時、ドリガジェが少しの光を発した。ということは……‼︎
「村長のために……お前たちに協力してやる」
「ありがとう……‼︎」
……なんだ。大切な人はもういないとか言ってたけど、ちゃんといるじゃないか。
僕はドリガジェから、初めてのダーク族のカードを取り出し、鞄に大切にしまった。
話し合いの時間は終わった。
……洗脳魔王は何も言わずにドリモンを操り、攻撃する。
「邪魔者ヲヤッツケル……ドリ…………!」
しかしその攻撃はアークスパイダーたちが協力しあって防ぎきる。
「ダクト……この展開はお前の計算通りじゃないだろう⁉︎」
「そうだな……。正直カブリの力を見誤っていた。
お前らがDR星に戻ることになれば、間違いなく歴史に名を残すだろう。
そうしたら『DR星を滅ぼす』ことは厳しくなってしまう。だから…………
ここで、消す‼︎」
洗脳魔王は、今度はドリモンに向けて杖をかざす。
「ライトモン族は厄介だが……本当に利用しやすいな。『強制強化』!」
「くっ……! 避けて……ドリモン‼︎」
バリバリッ‼︎
「ドリィーーーー⁉︎」
その光線をくらったドリモンのドリルは巨大化し、荒々しく変貌していく。
可愛らしかった彼の原型はほとんどなくなった……! ライトモン族は影響を受けやすいから……‼︎
「そんな……ドリモン…………!」
その時、もう一人の悲鳴が聞こえてきた。スピモンだ。
「もう……限界だギュン! すまない、ジェム…………」
くそぉ……!
スピモンの妨害はもう効かず、ブラックホールが加速状態で動き出した。
そしてすぐさま吸引を始める……!
ズオオオオオオオオオオオオオオオ…………!
「ぐわぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「ジョイィぃぃイィいーー!」
「…………!」
……………………………………っ!
……!




