表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

リプソン・ドウキ・オフライン

「私さ、貝になりたいんだよね」


「……なんの話?」


 放課後。

 日直の仕事を共に行う同級生のクロちゃんが意味の分からんことを言ってきた。

 窓の外はもう黒く、真っ白な照明が照らす教室の中で彼女がプロジェクターを消し、私は日誌を書いている。

 他のみんなはもう帰っちゃって、私たち2人だけ。


「貝ってさ、人間関係とかなさそうじゃん」


「人間じゃないし……」


「黒板は消さなくていいし、勉強はしなくていい。そして、何より硬い」


 私は彼女の手を見た。いや、見なくても知っていた。

 右の人差し指に巻かれた包帯。

 クロちゃんは生まれつき皮膚が弱いらしい。

 高校が始まって半年。ずっとどこかに包帯を巻いている。


海未(うみ)ちゃんは、人間じゃなかったら何になりたい?」


「……なんだろ」


 悩む。

 私は、実は現状にそこまでの不満は無い。

 ちょっと心臓は弱いけど、歳を重ねるにつれて少しづつだけど安定してきてる。

 パパもママも先生も優しいし、クロちゃんみたいな友達だっている。


 口では合わせてみるものの、言うほど勉強は嫌いじゃないし。


 だけど、貝か。


「……やっぱ、海かな」


「分かる。母性やばいもんね。母なる海、似合ってる!!」


「……ちーがーいーまーす!! 私、海に行きたいな。海で暮らしたい」


 私の名前の元にもなってる海。両親の出会いがサーフィンだったこともあってか、幼少からよく連れていかれた。陽キャがよぉ。

 だけど、私は海に入れない。温度変化が厳しいらしい。

 水族館に通った時期もあったけど、足りない。

 あのでっかい海を自由に泳ぎたい。


「その言葉を待っておったよ」


「え??」


 同時に、クロちゃんが雑誌を押し付けてくる。

 いつも彼女が見ているファッション雑誌ではなく、2次元のキャラクターが書かれたそれは……


「ゲーム雑誌……?」


「そ!! イノセンスファンタジアってゲームが来月出るんだよね。実は私βテストに参加してて……」


「泳げるの!?」


 驚いた。

 でも、どこかで現実を見ている自分もいた。


 私も海をテーマにしたVRは体験したことがある。でも、違った。

 手を浸けた感覚も、目の前を踊る魚たちも。


友達(ワタシ)を信じて」


 だけど、目の前の瞳は信じれる。


 その夜、私は両親に久々のオネダリをした。小6以来のプレゼントに、ふたりは快く頷いてくれた。


「勉強だけは欠かすなよ」


「……うん!」


 1ヶ月、とても長かった。


 そして彼女は海を知る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ