9:歳の数え方は?
私の年齢を聞いた二人がフリーズしている。
え? そんなに衝撃なの?
見えていないリオは置いておいて、ディーノさんは何でそんな反応なの?
「異世界人、怖ぇ」
「マキ、本当に二六歳なのか? 年齢の数え方が違うとか……」
年齢の数え方?
一年は十二ヶ月で三六五日、一ヶ月はおおよそ三〇日、一日二四時間、一時間は六〇分、一分は六〇秒。
まさかこれの数え方が違うパターン? と思ったら、一緒だと言われた。ということは、私は正真正銘の二六歳。
「リオは何歳なんですか?」
たぶん年上だとは思うけど。
ディーノさんに、そんな初歩的なことも情報交換していなかったのかよ!と驚かれた。
この三日、何を話していたのかと聞かれて、はて?と考えた。
特に何もしてなかった。
あ、でも魔法のことをいっぱい教えてもらった。
「もっと先にやることがあるだろう!?」
「あるか?」
「お前が悪い!」
リオはまたもやディーノさんに殴られていた。
「俺もコイツも三八歳だよ」
ディーノさんは見た感じからして、そうだろうなとは思った。ちょっとチャラそうな話し方だけど、見た目は凄く落ち着いた大人の男の人だったから。
でも、リオはちょっと予想外。
「コイツ、ほんと二十代にしか見えないよな」
「はい。言動から歳上かなぁとは思っていたんですが……」
「リオ! そもそも、この娘の喋りで気付けよ! 十分に大人な対応してるじゃねぇか」
リオが口を尖らせてプチプチと何かを呟いた。
「あ?」
「っ――――、だって、抱えたとき、凄く軽いし、細いし、なんかいい匂いするから……」
「「…………」」
ちょっと良く分からない理由だった。
ディーノさんはうんうんと何故か頷いているけれど、私は分かりたくない。
あと、この三日お風呂に入ってないことが今更恥ずかしくなった。
身体は濡れタオルで拭いていたけど。匂い、嗅がれていたんだ?
「うん。変態だな」
「っ! アハッ、アハハハハ!」
ディーノさんが晴れやかな笑顔で『変態』だと言い放った。それがあまりにもストレートで、お腹の底から笑いが込み上げてきた。
笑いすぎてお腹が痛い。響いて脚も痛い。なのに笑ってしまう。
会社の雰囲気が可怪しいよね、と同僚たちと話していた頃から、ずっとこんな風に笑ってなかった。
「あははははは!」
「そ、そんなに可笑しかったか?」
ディーノさんがきょとんとしているのがまた可笑しい。口を尖らせたままのリオも可笑しい。あと、子供みたいでちょっと可愛い。
「ひ、久しぶりに……あははっ。久しぶりにこんなに笑いました」
目尻に滲んだ涙を拭っていると、リオの口元がゆったりと微笑むものに変わった。
私の隣に座ると、そっと頭を撫でてくれた。
「もっと沢山、君のことが知りたい。もっと沢山、話そう」
「はい!」
「先ずは、治療が先だけどな!」
ディーノさんのツッコミに、二人でクスクスと笑っていると、ディーノさんも参加して、更に笑いあった。
そしてその勢いのまま、治療することになった。
「さ、掛けるぞ――――」