8:マキの実年齢。
「マキ?」
私が無言で考え込んでいると、リオが少しだけ不安そうな声で名前を呼んだ。
「あ、ごめんなさい。ボーッとしてました」
なるべく脚が痛まないようにゆっくりと動きつつ、ベッドから起き上がった。
リオはテーブルの方に移動してティーセットを置くと、カチャカチャと準備をし、またベッドの横に戻って来た。
「喉が乾いただろう」
そっと差し出された紅茶は、とても香り高く柔らかな甘さのあるものだった。
「――――美味しい」
「ん、本当だ。王族専用なだけあるな」
「ゲホッ」
「大丈夫か!? 熱いから慌てて飲むな」
違う。そっちじゃない。
王族専用という言葉に吹き出したの。
何で持ってるの。何で私に出したの。何でリオも初めて飲んだ風なの。
「初めて飲んだんですか?」
「褒章として陛下が毎年くださるが、いつもディーノ……今朝来ていた友人にやっていたんだ」
一年だけ手元に置いていて、次のが届いたら前の年のをディーノさんにあげていたらしい。
マキが気に入ったのなら次からは取っておこう。と言われてドキリと心臓が跳ねた。期待しちゃダメなのに、未来を語られると……つい。
深呼吸して、紅茶を飲んで、心を落ち着けた。
ベッドから自力で動けない私は、何をするにもベッドの上。ご飯を食べて、魔法のことを少しだけ教えてもらって、すぐにうたた寝。
リオは怪我をしているから、自然治癒に体力を取られてるせいだ、仕方ない、と言うけれど。リオが説明してくれているのに、その声を聞きながらうっつらうっつら。船を漕いでしまう。ほんと申し訳ない。
あと、トイレ…………連れてってもらわないといけないのも、申し訳ない。危うく下衣の着脱までされそうになったので、断固拒否して自力でどうにかこうにかやっている。
あと一日の我慢と思いながら。
そうして待望のディーノさんというか、治療薬の到着。
「はじめまして。マキと申します」
「…………子供じゃねぇじゃねぇか! このアッホ!」
真っ黒なチュルもさヘアーのディーノさんが、リオの後頭部を力いっぱい殴った。グーで。ゴスッて聞こえたけど大丈夫なのかな? リオ、床に蹲ってるけど…………。
「お嬢さん、大変申し訳無いが、年齢をお伺いしても?」
「……」
「マキ?」
言わなきゃだよね?
色んな意味で事実を知られるのも、知るのも怖いけど。
「にっ…………二六歳です」
「「にじゅ……」」
酷いと思わない?
二人とも口をぽかーんと開けたまま一時停止してしまったんだけど?
そんなに? そんなになの?
私…………この世界の人に一体何歳に見られているの?