6:それまでは、少しだけ。
リオがひとしきり笑ったあと、ドサリと真横に座ってきた。
「ふう……久しぶりにこんなに笑ったよ」
後ろからよしよしと頭を撫でられた。
「子供というのは、基本的に攻撃魔法が大好きだというのを思い出したんだ」
リオは竜に呪いを掛けられる前は、騎士の中でもかなり上位にいたらしい。
見習い騎士の少年たちの訓練を見に行くと、少年たちがわらわらと集まってきて、あれが出来るようになった、これが出来るようになった、と煌めく笑顔で報告して来ていたそう。
どうやら、私の行動がその子たちを思い出させたらしい。
「……女子ですけど」
「んはは! ん、すまない」
また頭を撫でられた。
リオは目が潰れそうなほどのイケメンのような気がするけど、ぶっちゃけ真紅の目隠しのせいで、どうにもこうにもドキドキしない。顔が整い過ぎているせいなのか、余計に変態プレイみたいに見えてしまうせいかもしれない。
そんなことを考えつつ、リオに寄り掛かって目を瞑った。
久しぶりに感じる人の優しさとか温かさがとても心地よくて、つい。
ずっと感じている鈍痛、動くと激痛に変わる。
骨は……たぶん物凄く折れている。
数日我慢すればたぶん治療薬が届く。
だから、それまでの我慢。
治ったら……リオの手伝いをして、お金を貯めて、一人で生きていかなきゃいけない。
それまでは。
少しだけ、このまま甘えさせてもらおう。
♦♦♦♦♦
私の肩に寄り掛かり、スウスウと浅く寝息を吐く少女。
そっと体勢を変えてベッドに寝かせる。一瞬、渋い顔で何かを呻いた。きっと痛かったのだろう。
年齢は聞いていないが、働いていたとは言っていた。きっと働き始めたばかりのまだ幼さが残る年齢なのだろう。なのに、ずっと痛みを我慢している。
我慢し続けている。
「もっと弱音を吐いてもいいんだがな」
そっと頭を撫でると、手にスリッと擦り寄ってきた。
なんというか、猫のような子だ。
ずっと距離を感じていた。
元の世界に帰りたいとも言わなければ、この世界のことを詳しく聞こうともしない。どこか不安定で消えそうな少女。
魔法のことを教えたら、いきなり焔魔法らしい『ファイア』というものを放とうとした。もし成功していたら……彼女の魔力なら、この家が半分は吹き飛ばせただろう。
真意を探ろうとしたが、どうやら魔法と聞いて興奮した挙げ句の行動だったらしい。マキは思っていたよりも子供なのかもしれない。
「んぅ……ん」
寝返りを打とうとして、痛みに気づいたのだろう。呻き声を漏らしながら僅かに寝相を変えていた。
きちんと助けてやれずすまないと思いながら、再度マキの頭を撫でた。