48:抵抗魔法と反発と。
世界が純白に染まった。
肺まで凍るんじゃないかと思うほどに、空気が凍てついている。
竜――アイスドラゴンの極大魔法は、辺り一帯を氷点下にしたうえに、空から溶けることのない氷の針を隙間なく降らせるという、恐ろしいほどに殺傷能力の高いものだった。
――――よかった。
抵抗魔法はしっかりと働いてくれた。そして反発も、しっかりと。
竜が一際大きく吼えた。全身に溶けることのない氷の針を大量に刺して。
五十数人分が受けるはずだったもの。それが全て竜に跳ね返っていた。
ゆっくりとしたモーションで竜が地面に倒れた。
だけど竜は、生気が残っている瞳でこちらを睨んでいた。
生気というよりは、強い怒りや恨みのようなもののようにも見えた。
「マキ――――」
地面に座ったまま、竜と視線が合っているな、なんてボーッと考えていた。
魔力が底をつきかけていて、頭が回らない。
リオが何かを叫びながらこちらに向かって走ってきていた。
「――――マキッ!」
リオが私に背を向け仁王立ちになっている姿を見て、ハッとなった。戦場なのに何をボーッとしているのかと。竜は地面に伏しているけれど、まだ生きているのに、と。
「……マキ、何か異常はないか?」
「まりょく、ぎれ、おこしてます」
「これを飲みなさい」
後ろ手で渡されたのは魔法薬。
「リオは?」
「私は、大丈夫だから。……マキに飲んでほしい」
「ありがとうございます」
コクリと飲み下すと、お腹の中が熱くなった。
魔法薬が効き初めたおかげで、ぼんやりとしていた思考がクリアになりつつあった。
「リオ?」
何かがおかしい。
リオの存在がとても薄く感じる。
「リオ? 竜は?」
「ん……もう死んでいる」
「っ、良かったぁ」
「ん。よく頑張ったな。恐ろしかっただろうに。マキのおかげで皆が助かった。本当にありがとう」
リオが私に背を向けたままでそう言う。
それがなんだかとても異様に思えた。
立ち上がってリオの正面に回り込んだ。
「…………っ、リオ?」
リオの顔は生色を失っていた。
真っ白で、ひんやりとしていた。
そして、指先からポロポロと崩れ始めていた。
まるで朽ちた瓦礫のように。
 




