46:翼を落とす。
水魔法と大地魔法を組み合わせ、竜の足元を泥状化させる。
底なし沼をイメージして、足掻けば足掻くほどに埋まるよう、深く深く掘り下げる。
「よし。背中に飛び乗ったら、炎の雨を頼む」
「はい!」
竜が泥と戦っている間にリオが駆け寄り、竜の尻尾の方から背中へと駆け上がっていった。タイミングを見計らって竜の頭めがけて炎の雨を撃つ。
またもや、耳をつんざくような咆哮が辺りに轟いた。
リオが剣の刃を魔法で強化し、翼の根元を勢い良く断ち切った。
だらりとぶら下がった右羽。
まさか一太刀で斬れるとは思っていなかった。
怒り狂ったように身体を蠢かせる竜にリオは撤退を余儀なくされた。
側に戻ってきて、左を斬れなかったと謝られたけれど、右の翼を斬れただけでも凄いと思う。
「アイスブレスが来る。走――――」
「リオ! 私の後ろに!」
竜が首をもたげ、ガパリと口を大きく開けた。見開いた目からは怨嗟が、口の中には魔力の渦が見えた。
とっさにリオの前に立ち、抵抗魔法を展開した。
氷の粒を含んだ真っ白なアイスブレスが私を起点に左右に分かれていく。後ろにいるリオをチラリ見ると、複雑そうな顔をしていた。
「ん……助かった。ありがとう」
リオがそっと後頭部を撫でてきた。
その手は暖かかったものの、少し震えていた。
「リオ?」
「ん…………無理は……するな」
「してませんよ?」
「……ん」
リオは、いつも何かを怖がっている。
私はそんなリオが少しだけ怖い。
大丈夫だよ、って伝えているのに信じてくれない。
「リオ、左の翼はどうしますか?」
「ブレスが切れたら、もう一度行く」
「はい」
自分は、危険に飛び込むのに。
「全力で援護します」
「ん」
でも、それがリオだから、私は支えることに集中しようと決めた。
リオと二人で無事に帰りたいから。
二人で穏やかに過ごしたいから。
何時間も立ったような気がするけれど、実際には一時間かそこらな気もしている。
竜の両翼はだらりとぶら下がり、流れ出る血であたりを真っ赤に染めていた。
ブレスの勢いも弱まりだしている。
「援護が来る前にここまで追い詰められるとは……」
無詠唱に慣れたこと、そして攻撃魔法特化の私がいることでかなり攻める事ができている。
ただ、未だに討伐に踏み切れていないのは、治癒魔法と『呪い』の可能性があるせい。
「ブレスが来ます!」
抵抗魔法を使うのはこれで何度目だろう。
魔力残量がそろそろ危うくなっている。
リオは魔法と剣を混ぜて効率よく戦っているけれど、私は魔法での攻撃のみ。
限界が近い。




