44:竜の飛来。
――――竜。
リオに呪いを掛けた竜はもう死んでいるから、別の竜。
竜は、騎士の大隊が束になって戦うような相手だと学院で習った。
それを二人で対処しなければいけない。
「通信魔法で援助を頼むが…………暫く……数時間はここで抑えねばならない」
「はい」
「マキは、小屋で――――」
「嫌です」
「…………ん」
リオが口元を歪め、泣きそうな雰囲気になっている。
きっとリオは一人で行きたいんだと思う。でも、そんなの嫌だ。そんなの、絶対に死にに行く戦いじゃない。一人でなんて行かせない。
「一緒に行きます」
「ん……」
リオがゆっくりと目隠しを外した。
どうしたのかと見つめていると、苦笑いのあとに真剣な顔で説明された。
たぶん、魔眼は竜には効かない。だけど、余計な魔物には効く。だから、援助が来るまでは目隠しなしで戦うそう。
「戦いに集中したい。マキには魔力探知を頼みたいが、いいだろうか?」
「はい」
「ん。行こう」
寒さ対策のローブを羽織り、竜が現れた場所に向かった。
ディヴァルダ聖山は時空の歪みがいたるところにあり、その歪みからときおり魔獣が現れる。
竜が出るのは前回リオが呪いを受けて以来らしい。
「っ、おおきい」
竜まではまだまだ数百メートルありそうなのに、しっかりと目視できるくらいに大きい。
簡単に言うと、大型の飛行機くらい。
見た目は水色のキラキラした西洋のドラゴン。
それが辺りに白いブレスを吐いて木々を凍らせている。
「アイスドラゴンか」
「弱点は焔魔法ですね」
「あぁ」
リオの魔眼はやっぱりアイスドラゴンには効いていないようだった。
だけど、辺りを逃げ惑うように走っていた小型の魔獣や飛びかっていた小鳥たちはバタバタと絶命していった。
「……視界に入れないようにはしたいが」
畏怖で奇行を起こす魔獣がいないとは限らないので、どうしても動くものを視界で捉えてしまうのだとか。
仕方ないことだと言っても、リオは気に病むのだと思う。
彼の心を守るには、どうしたら良いんだろう?
アイスドラゴンに向かって走りながらそんな事を考えていた。
アイスドラゴンがいたのは、私が落ちてきた場所のほど近く。空間の歪みがディバルダ聖山の中でも特にひどい場所らしい。
「全力攻撃でいいですか?」
「ああ。先ずは羽を。飛び立たれ王都に向かわれるのだけは避けたい」
「はい」
そうしてリオと私と竜の戦いが始まった――――。




