4:前を向く。
「待たせたな」
ベッドに寝そべりウトウトとしていると、目隠しの男の人が戻ってきた。
そっと置かれたベッドトレーを覗くと、ライ麦のような硬めのパンと野菜スープ、スクランブルエッグが置かれていた。
「こんなものしか出来ないが」
「ありがとう、ございます」
スープに口をつけると、あたたかくて優しい味がした。
「っ…………おいし」
滲み出る涙を腕で拭い、鼻水を啜りながら、男の人が用意してくれたご飯をゆっくりと食べる。
久しぶりに他人が作った手料理を食べた。手料理ってこんなにも温かいんだなぁって、感動した。
「ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「ん」
空になったトレーを男の人が受け取ると、近くのテーブルに置き、ベッドの横にあるイスに座った。そして、少し話したいことがあると言われた。
「先ずは――――っと、名乗っていなかったな? 私は、シルヴェリオだ。基本的には『リオ』と呼ばれているかな」
「リオさん」
「敬称はいらない」
「はい」
返事をするとリオの口角が柔らかな曲線を描いた。そして、頭を撫でられた。
――――子供扱いされてる?
「さて、先ずは君の名前を教えてくれるかい?」
「真紀です」
「マキ、か。うん。マキ、とりあえずは、怪我を癒やすことに集中しよう」
「はい」
返事をすると何故かお礼を言われ、また頭を撫でられた。「いい子だ」という言葉付きで。
「それからで構わない、私の仕事の手伝いをしてはくれないか?」
手伝いのお礼として、賃金を払う。それを貯めてから、保護してもらいなさいと言われた。さっき来ていた人は王都の騎士様で、事情は知っているから、この国……この世界で生きていく手助けをしてくれるだろうと。
「この世界で…………生きる」
「君――マキがいた世界に帰る方法は知らないからね。私からはその提案しか出来ない」
「……はい」
先程の怒鳴っていた騎士様が、二日ほどで追加の治療薬を持ってきてくれるそうだ。それを使い脚の治療をしてくれるらしい。
二人が話していた内容から、かなり高級なものらしいというのはわかった。そもそも、大怪我で死にかけだった人間に飲ませるだけ、掛けるだけで簡単に治療できるものが安いわけがない。
それなのに、その分の代金は取る気がないらしい。しかも、手伝うだけで対価を払ってくれると言う。
リオは、時空の歪みから落ちてきたものの分別をして欲しいのだとか。この世界では見たことがないものが多く、とにかく扱いに困っているそうだ。
それなら、その困っていることをしっかりと手伝って、お礼をしなきゃ。そう思ったら、お腹の中でぐるぐるとしていた暗い感情が急に晴れ、思考がスッと前向きになった。
戻れないのなら仕方ない、しっかりとこの世界を知ろう。
ちゃんとここで地に足を付けて、生きていこう。
「ん、よし。上を向いたな」
どうやら、暗い感情ばかりが湧き出ていたことは、リオにバレていたらしい。目が見えないのに、なんでなんだろう?
目標が出来て、前を向けて、ホッとしたら、とあることに気付いてしまった。
――――ヤバい、トイレ行きたい!
ではまたお昼に。