38:好きだから。
「リオ?」
涙目になったリオがくるりと後ろを向き、私に背中を向けてしまった。
やっと見れたのに、やっとひとつ伝えられたのに。
「…………気分は悪くないか?」
「はい。大丈夫です」
「……ん」
リオにこっちを向いてとお願いしたが、嫌だと言われてしまった。
まだ、伝えたいことは終わりじゃないのに。
もっともっと話したいのに。
「約束は、『素顔を見せる』だけだったはずだ」
「あ――――はい。ごめんなさい」
「っ……謝らなくていい。すまない。謝るべきは私だ」
リオがゆっくりと話してくれた。背中を向けたままで。
「人と関わるのが、怖い――――」
目の前で、何人も死んだから。自分の眼のせいで。
人々に恐れられた。人々に叫ばれた。そんな恐ろしい呪いを持った者は殺してしまえと。
それでいいと思った。
自ら命を断とうと何度も思ったが、そうすると自分が奪ってしまった命も蔑ろにしているような気がして、出来なかった――――。
リオは優しい。そして、危うい。
「リオ、生きていてくれて、ありがとうございます。助けてくれて、ありがとうございます。リオがいてくれなかったら、私は死んでいました」
「礼は……いらない。マキを助けたのは……私のためだった。マキを助けたいんじゃなくて………………人を助けられる自分でいられれば、生きていて良いのかもしれないと思っただけだった………………礼は、言われたくない」
リオは頑固だ。
でも、私も頑固だから、お礼を言い続ける。
そして、脅そうと思う。
「嫌です。感謝してます。好きです。助けたのなら、最後まで責任持ってください」
「――――っ!? マキ?」
「私の人生の全部に、責任持ってください」
最低だと分かっているけれど、これが一番リオに効くと思うから。
「リオ、こっちを向いてください」
「なぜそこまでして、私の目を見たがる」
「好きだからですよ」
「っ――――」
リオが手の甲で口を押さえていた。
きっと、気持ちが揺らいでる。きっと、照れてくれている。
「好きな人の顔を、目を、見たいじゃないですか。好きな人に笑いかけられたいじゃないですか。好きな人の特別になりたいじゃないですか」
「っ!」
リオが息を飲んだ。
そんな些細な反応が嬉しかった。
「きっと、勘違いをしている。命を失う緊迫感と、恋の動悸を」
「なんで、そんなに私の気持ちばかりを否定するんですか? なんで、リオの気持ちは教えてくれないんですか? リオの意気地なし!」
わざと酷い言葉を投げつけたら、リオが怒りを顕にした顔で勢いよく振り向いた。
「っ! 分かっている! そんなこと……分かっている…………私は、マキの顔など、見たくなかった!」
――――あ、駄目かもしれない。
 




