37:貴方に伝えたかった。
◇◇◇◇◇
「――――最後にリオの素顔が見たいです」
魔法学院に入ったてまずやったのは、魔眼の解呪方法と、魔眼に完全に抗える方法探し。見つかりはしなかった。でも、分かったこともあった。
稀に抗える者もいること。
魔眼の者と魔力が同等かそれ以上であれば、抵抗魔法があれば数秒は耐えることも可能だということ。
私のやることは決まった。
魔法で戦えるようになることはもちろん、魔力の増強も同時進行する。
リオの目を見て、ちゃんと伝えたいことがあったから。
「私ね、抵抗魔法を覚えたんです。だから、大丈夫です」
抵抗魔法は使える者が驚くほどに少ない。
それほどに難しく珍しいものだった。
極めれば、相手にそのまま返すこともできる。そして、私はソレができるようになってしまった。なぜか持っていた膨大な力のおかげで。
だけど、それはリオには絶対に秘密にしたい。なんとなく、『それだけは教えてはいけない』って本能が言うから。
「……保証はない」
「リオ、覚えていますか?」
リオが魔力を使いすぎて酩酊したような状態になった日、リオの瞳を見た。でも、大丈夫だった。
リオはたまたまだって言うけれど、私はなんとなく大丈夫だって思っている。
「あの日は、魔力が枯渇気味だった――――」
「リオはそう言うと思ってました。だから、抵抗魔法という保険を用意しました」
「何故、そこまでする」
「秘密です」
「ハァ。分かった、その願いを叶える。そうしないと、マキは引かないんだろう?」
「はい」
ちゃんと、瞳を合わせて伝えたいから。
リオがしばらく悩んだあとに大きな溜め息を吐いた。
そして、気分が悪くなったら直ぐに止めることを約束した。
「魔眼が発動すると先ず目眩が起こる。そして、その目眩を無視すれば、ものの数秒で死に至る。目眩が起こったら、直ぐに合図すると約束してくれ」
もしこれで私が倒れてしまえば、リオに大きな傷を残してしまう。リオは優しい人だから、一生後悔し続けてしまうだろう。だから、私は何が何でも魔眼に打ち勝たないといけない。
「約束します」
「ん……」
私が抵抗魔法を発動させると、リオがシュルリと真紅の目隠しを解いていった。
リオを苦しめる、呪い。リオを縛り付ける、楔。
それが顕になる。
白銀の睫毛で縁取られた、煌々と燃えるような赤い瞳。
リオの瞳は、美しい。
なのに、視線は別のところに向いている。
「リオ、ちゃんとこっちを見てください」
「………………気分は?」
「何も変化ありません」
「っ…………ん」
リオがやっと私を見てくれた。
リオとやっと見つめあえた。
微笑むと、泣きそうな顔で微笑みかえしてくれた。
「リオ。ほら、大丈夫、なんともないです!」
両手を広げ、くるりとリオの前で一回転した。
予想通りだった。やっぱり、なんにも起こらない。
「リオ、好きです!」
ちゃんと面と向かって伝えたかった。
リオは怒るかもしれないけれど。
「バカだ…………危険を冒して、それを言って……何になるというんだ…………」
そう呟いたリオの瞳からは、涙が溢れそうになっていた。




