36:二年半ぶり。
リオの表情はわからない。
でも、声と漏れ出てくる魔力から、拒否しか感じられなかった。
「リオ、ただいま」
「王都に帰れ」
もう一度だけと決めて『ただいま』を言ったけど、受け入れてはもらえなかった。
「っ、うん…………ごめんなさい」
♦♦♦♦♦
マキが出て行って、虚無感に苛まれる日が増えた。
ディーノは更に来なくなり、ヤツの部下が小屋に現れるようになった。ディーノは騎士団長に任命されたらしい。
ディーノからも部下からもマキの事を聞けずにいる。
聞けば、闇に染まるから。
小屋の裏で拾い集めた物を分別している時、ふとディーノの気配を感じた。
久しぶりに来たな。などと思った次の瞬間、全てを掻き消すほどの膨大な魔力がディヴァルダ聖山に入ってきた。
暖かい春のような魔力。
「マ……キ?」
二年半ぶりに感じたマキの気配は、以前より明らかに膨れ上がっていて、恐ろしささえ感じるほどだった。
――――は!?
なぜ、ディーノについて来ている。
なぜ、そんなにも魔力が増えている。
なぜ…………?
『リオ、助けてくれてありがとう。私ね、もっと魔法の勉強します。いっぱい勉強して強くなります。だから……………………だから……だから、強くなったら、またここに来ても良いですか? またリオに会いに来ていいですか?』
忘れるはずも、忘れられるはずもない、マキが出て行く前夜の言葉。
――――駄目だ。
気付けば、小屋から飛び出していた。
マキに会うべきじゃない。
止まれなくなる。
呪われたこの身で、人を愛するわけにはいかない。
ディーノの魔力が小屋から離れていく。
マキの魔力はまだ小屋にある。
注意深くマキの気配を探っていたはずなのに、急にプツリと消えた。
これまでの人生の中で一番焦った。
他の魔力や魔獣の気配もちゃんと探っていた。誰も何も小屋には近付いていない。ディーノはどんどんと離れていくだけ。
なのに、マキの気配が一切なくなってしまった。
――――死!?
それしか、考えられなかった。
自らそれを選ぶ娘ではない。
絶対に違うと分かっていても、確認せずにはいられなかった。
小屋に飛び込んだ瞬間、ソファからマキの膨大な魔力が溢れ返った。
花が綻ぶような春の陽気だった。
――――魔力操作。
いつの間に、そこまで出来るようになっていたんだろうか。
マキは、魔力操作のセンスが全くと言っていいほどなかったのに。
二年半の間に何があったんだろうか?
「リオ、ただいま」
そう言われて、口をついて出たのは、「王都に帰れ」という、何とも酷い言葉だけだった。
本当は嬉しい。抱きしめたい。
だけど、そうするわけにはいかないから。
「っ、うん…………ごめんなさい」
マキの声が震えた。
また、泣かせてしまった。
マキがなぜか『ごめんなさい』と言う。
震える声で、何度も言う。
「ごめんなさい」
「……何をそんなに謝る?」
「リオを困らせて、ごめんなさい。もう、来ない。もう、困らせません。だから…………最後に、リオの素顔が見たいです」
「っ――――!?」




