35:ただいま。
リオの小屋までは馬車で行けるところまで行き、そこからは歩きで向かう。
ディーノさんは、この二年半の間に何度かは来たらしい。
騎士団長になったこともあり、食料などは部下に運ばせることが増えたのだとか。
「俺は半年ぶりかなぁ。まぁ、俺はリオよりマキちゃんを優先したいから」
「もお。そんな軽口をたたくから、恋人に振られるんですよ?」
「んはは。言うようになったなぁ」
ディーノさんはこの二年半の間に、四回くらい新恋人の噂が出た。そして、毎回振られているという噂も。
たぶん、本当。
「いいんだよ。彼女たちはそれを楽しんでいるから。俺の本命はいつでもマキちゃんなんだけど?」
「嫌です」
「相変わらず、つれないねぇ」
そんな会話をしながらリオの小屋を目指して歩いた。
小屋の扉の前に立ち、ノックをする。
「…………いない」
「ん? リオの魔力探索してなかったの?」
探さないようにしていた。
リオは、私が山に入ったら直ぐに分かるだろうから。私が一直線に小屋に向かうって、きっと分かるだろうから。
――――待っていて、くれなかった。
賭けだった。
少しだけ、期待していた。
扉を開けたら、弧を描いた唇のリオが迎えてくれるんじゃないかって。
だけど、小屋の中は空っぽ。
二年半前の出ていった日と何も変わらない。
誰もいない小屋。
「どうする?」
「しばらく待ちます。リオと話したいから」
「わかった。俺は下山するけど……まぁ、マキちゃんの実力なら一人でも来れるし、戻れるか。何かあったら騎士団においで。いつでも雇ってあげるから」
「はい。ありがとうございます」
ディーノさんとお別れして、小屋の中に入った。
小屋の中は、リオの残り香で溢れていた。
「ただいま」
そう呟くけれど、返事をしてくれる人はいない。
荷物を置き、食料は貯蔵庫に入れた。
窓際のソファに座り、魔力を抑え込み気配を消す。
十分も経たない内に小屋の扉が勢い良く開いた。
「――――っ!」
「ただいま」
リオの気配が、リアルなものになった。だって、本人が目の前にいるから。
リオは、相変わらず真紅に金の刺繍が入った目隠しをしていた。二年半前と何も変わっていないリオを見て、ホッとするとともに心臓が甘く締め付けられる。
魔力を感知できるようになったからなんだろう。肩で息をするリオから、怒りを感じる。
リオの魔力は、刺すような痛さがあるらしい。でも、私には甘い匂いと柔らかさしか感じない。
だけど今は、指すような痛みが増し続けているけれど。
「なぜ気配を消した。なぜ魔力操作が出来るようになっている。なぜ…………戻ってきた」
久しぶり聞いたリオの声は、拒否するような固さしかなかった。
 




