31:すれ違う二人の想い。
お昼少し前にディーノさんが迎えに来てくれた。
ディーノさんに一緒に下山すると伝えると、ディーノさんは少なからず驚いた表情を見せた。
「いいのか?」
「はい」
朝食の際にお別れは済ませた。
無言でご飯を食べ終え、お皿を洗って、荷物の準備をした。
小さなキャリーケース――時空の歪みから落ちて来たもの――に、ディーノさんからもらっていた服をできる限り詰め込んだ。
元の世界の服とはちょっとデザインが違うので、元の世界の服は小屋に置いていくことになった。
準備を終え、リオに「ディーノさんが来たら、行くね」と伝えると、リオは頷いて「元気で」とだけ答えてくれた。
そして、魔獣の反応があるからと討伐に出てしまったのだ。
「ふぅん…………魔獣ねぇ?」
ディーノさんは何か言いたそうだったけど、聞いても気にするなと言い、頭を撫でてきた。
リオもディーノさんも、なんで頭を撫でるんだろう。
子供扱いされると……ちょっと甘えが出てしまう。これからは、知らない国で、知らない場所で、ちゃんと働いて暮らしていかなきゃいけないのに。
キャリーケースを持ちリオの小屋を出る。
ドアを閉めて、小屋に向かって一礼をした。
――――またね。
そんな想いを乗せて。
いつか、ここに戻ってくるからね、と。
♦♦♦♦♦
マキと最後の朝。
会話なく進む食事にマキはソワソワしきりだった。何か会話をしなければと思うものの、口を開けば碌でもないことを言いそうで結局無言。
魔獣が発生したと嘘を吐き、小屋を出た。ディーノの魔力を感知したから。
ディーノになら、マキを預けられる。
マキは、安全な場所で笑顔で暮らしていて欲しい。
彼女がいた世界はあまりにも平和で、側で見ているには眩しすぎた。清らかなままでいて欲しいと願ってしまった。
自分勝手な、願いだとわかっていようとも。
城下町で新しく出来た友達と楽しそうに笑うマキの姿が、ありありと目に浮かぶ。
陽の光に照らされ、黒い髪をサラリと揺らして、ぷっくりとした唇で弧を描く。
見たこともないのに、見える。
マキはそんな環境が似合う。
――――元気で。
ディバルダ聖山の中腹からマキとディーノの魔力を追う。
一帯に殺気を張り巡らせた。こうすれば中型の魔獣程度なら姿を隠す。大型が出てくれば瞬時に殲滅する。
マキの出立の邪魔は誰にも何にもさせない。




