3:これからどうなるの?
「――――お前、あれがいくらするか分かってるのか!?」
「分からないわけないだろう」
「見ず知らずの子供を拾って、上級治療薬を四本も使って、更にあと三本だと!?」
「一本は中級でもいい」
「大差ないだろうが! 緊急用の通信魔法具まで使って! ほんと馬鹿じゃねぇか!?」
「頼む」
「…………チッ! 馬鹿が!」
誰かの怒鳴り声で目が覚めた。
部屋の外から目隠しの男の人と別の男の人の声が聞こえる。
知らない男の人の声は、怒気を帯びていた。
何かが起こっている?
誰かが来た? 警察?
知らない男の人に連れて行かれる?
これからどうなるのか、分からなくて、怖くて、掛けられていた毛布をギュッと抱きしめた。
ガチャリとドアが開いて、部屋に入ってきたのは目隠しの男の人だった。少し、ホッとした。
「…………ふぅ。ん? すまない、起こしたようだな。怖がらなくていい。悪いやつじゃないんだ」
「あの……」
「ん?」
まるで見えているかのように話してない?
なんで? どうやって?
その目隠しはなに? 貴方は誰?
さっきの声の人は誰?
ここどこ?
「っ、私…………これから、どうなるの?」
一気に喚いてしまった。
私の口から出てきたのは……私のことしか考えていない言葉ばかりだった。
一気に恥ずかしくなった。
もう二六歳なのに、こんなことしか言えないのかと落胆した。
「ごめんなさい! ごめんなさいっ!」
「ん、怖かったな。すまない」
よしよしと頭を撫でられた。
男の人特有の節ばった大きな手で撫でられるなんて、幼い頃に父親にされて以来かもしれない。
「ここは……私が管理しているディヴァルダ聖山の中腹で、私の家だ。まぁ、家と言っても少し頑丈な小屋といった程度か」
「ディヴァルダ、聖山?」
「ああ……その反応は、知らないってことだな。君はどこから来た?」
――――どこから? どこ?
仕事帰りだった。歩いていて、掘削されていた工事現場みたいなところで足を踏み外した。
なのに、なぜか空から落ちていた。
「ん…………ディヴァルダ聖山は、時空の歪みが発生している。たぶんその工事現場という所と繋がっていたんだろう」
「よくある、んですか?」
――――よくあるなら、帰る方法もあるのかな?
「んー、物や遺体は……時々な」
「あ…………なるほど」
たぶん、割と高いとこから落ちて……。自分もそうなるところだったと思うと背筋がゾクリとした。
「私の独り善がりというか、自己満足なのかもしれないが……助けたかった。なのに、中途半端にしか助けられず、すまなかったな」
再び頭を撫でられながら、彼の話を聞いた。
彼は元々はこの山の麓にある王都に住んでおり、王城で騎士をしていたそうだ。
ある日、大型の凶暴な竜が飛来し戦闘となった。竜は倒せたものの、死に間際に呪いを受けて魔眼となってしまったそう。
「魔眼、ですか?」
「そうだなぁ……簡単に言うと、目に映る全ての者の生命力を奪い取ってしまう。奪われた者は衰弱し死んでしまう」
「え……」
「気持ち悪いだろう?」
この時、気の弱い私は『いいえ』とは言えなくて、彼が寂しそうに微笑む口元を見ていることしか出来なかった。
「さて、お腹が空いただろう。なにか作ってくる」
待っていなさい、と言いながら私の頭を撫でて彼は部屋の外へ出て行った。