29:出て行け。
血みどろで帰ってきたリオの機嫌が、とてつもなく悪いのはわかった。でも、親友のディーノさんに「二度と来るな」なんて言葉を投げ付けるなんて思いもよらなかった。
「お前さ、何を勘違いしてんの? 精神まで闇に落すなよ。討伐対象にするぞ」
「…………煩い」
「ああ?」
ディーノさんが大股でリオに近づき、胸ぐらを掴んだ。今にもケンカが始まりそうで、足が竦んで動けない。
「今まで数ヶ月来ないこともあったくせに。魂胆が丸見えで気持ち悪い」
「俺が来なくなっても、お前は困らないかもな? だが、マキちゃんは困るぞ。お前のわがままでマキちゃんまで巻き添えにするなよ」
「…………マキも連れて出て行けばいいだろう」
――――え? 私を、連れて?
「お前! 言っている意味、分かってるのか? っ――――マキちゃん!?」
心臓が何かに刺されているみたいに痛い。喉が締め付けられいるみたいで息が苦しい。
目の前がぼやけてよく見えないことで、自分が泣いているんだと気付いた。
「マキちゃん、深呼吸して! ゆっくり! 魔力が乱れてる。暴走するから……」
「っ……むりです…………」
ディーノさんが慌てて駆け寄ってきて、背中を擦ってくれたけど、悲しさと寂しさと悔しさがお腹の中で膨れ上がるばかりだった。
リオが私の方にゆっくりと近付いて来るのが見えた。
何を言われる?
何をされる?
何かが変化する?
――――そんなの、いや。
寝室に走って逃げた。
全体重でドアを中から押さえた。だって、ドアには鍵なんてないから。
リオやディーノさんの力なら、簡単に開けられてしまうけど。
「…………マキちゃん。マキちゃんが下山したいって言うなら、俺が責任持って連れてくよ。でも、違うんだよね? リオとちゃんと話し合いなね? また、来週会いに来るよ」
ディーノさんの柔らかい声に、また涙が出てきた。
こんなに優しくて色んなことに気を遣ってくれる人に、リオは何であんなこと言ったんだろう。
ドアの向こうで、リオとディーノさんがまた言い合いをしていた。男の人が大きな声で言い争うのは怖い。
ベッドに行き、目を瞑り、両手で耳を押さえ、何も聞こえないようにした。
――――何でこんなことになったんだっけ?
自分で作り上げた無音に近い暗闇の中、ぐるぐると考える。
リオは私に出て行って欲しいみたいだった。
ここを出てどうするの?
そういえば、初めの頃は下山して、町で一人で生きていけるようにって話してた。
ずっと考えないようにしていたけれど、それをしなきゃいけない時期になったのかも。
ふと、人の気配がして目蓋を押し上げると、目の前にリオが立っていた。
――――やだ。




