20:照れ屋さんなリオ。
「出ちゃ、駄目だよね――――?」
「っ…………ハァ。あぁ、出ないでくれ」
「リ、リオ!?」
リビングの窓の外に映る暗闇をぼーっと眺めながらボソリと呟いたら、リオがいつの間にか真後ろに立っていた。
いつの間に帰ってきたの?
ドアが開く音が聞こえなかった……のは、たぶん私がぼーっとしてただけだけども。
慌てて駆け寄って怪我をしていないか確認した。
手、足、身体、顔、背中。
「怪我、してないです?」
「ん。してない」
無事だと聞いてホッとした。
リオはなんだか嬉しそうな口元で私の頭を撫でてきた。
「遅くなってすまなかった。待っていてくれてありがとう」
「っ、はい」
「不安にさせたな」
更にくしゃくしゃと頭を撫でられたせいで、髪がぐちゃぐちゃになってしまった。
「もー。ボサボサになったじゃないですか」
「ふふっ」
「あ、先にご飯にします? お風呂にします?」
こんな時間まで討伐?に時間かかったんだし、絶対にお腹減ってるだろうけど、どっちがいいかな。そう思って聞いてみたら、リオが手の甲で口元を押さえて顔を真赤にしていた。そして、お風呂に入ってくると足早に立ち去ってしまった。
今回で流石に気付いた。
リオ、めちゃくちゃ照れ屋さんだ!
リオがお風呂に入っている間に、ボロネーゼソースを温めつつ、パスタを茹でて用意した。
そういえばパスタしか用意してなかったなと、慌てて葉野菜のサラダを用意した。ドレッシングはオリーブっぽいオイルと塩とブラックペッパーとレモン。
「いい匂いがする」
「パスタとサラダだけだけど」
「ん、ありがとう」
リオはいつも直ぐに『ありがとう』をいう。
真面目というか、優しいというか。
物腰は柔らかいし、食べ方も綺麗。自分のことを『私』と言う。
「リオってもしかしていいとこの家の人? 貴族とか」
「…………あぁ、ん。折角の料理が冷めてしまうな。食べてもいいかい?」
「あ、うん!」
――――いま、話を逸らされたよね?
「ん! このソース、とても美味しい!」
「お昼のスープの転用だよ?」
「そうなのかい? マキは魔法が使えないと言っていたが、魔法のような料理を作るんだな。凄い才能だ」
褒められてとても嬉しかった。
料理は好きで作っていたけど、誰かに食べさせたりはしたことがなかった。
こんなふうに食べてもらえて本当に嬉しい。
「ありがとう、リオ」
「ん」
お互いに何度目かの『ありがとう』を言いあった。
それからリオは、今日あったことを教えてくれた。
「小型の魔獣が、百匹以上も?」
リオは、小型犬より少し小さいくらいのネズミの魔獣と戦っていたらしい。しかも百匹以上と。
本当に怪我はなかったのかと心配になったけど、リオは銀色の美しい髪をサラリと揺らして、勝ち気な笑みを口元に乗せた――――。




