12:名案だと思った。
「んっ! 美味しい」
「本当ですか?」
「ああ。こんなにも美味しいものは初めて食べたよ」
普通のチキンクリームシチューなんだけど?
鶏肉、人参、じゃがいも、玉ねぎ、良くわからないけど香り高いきのこ。ポルチーニっぽい気がするけど、本物は扱ったことがないから断言できない。
「ミルクスープのようだが、なぜこんなにもモッタリとした蕩けるような舌触りなんだい?」
お鍋でお肉をしっかりと焼いて、野菜を投入。野菜全体に油をなじませて温まったら、そこに小麦粉を入れて、更にしっかりと炒める。そこに水と牛乳を同量入れて、少しの間だけコトコト煮込む。
「シチューって言うんですが、無いんですか?」
「シチューは牛肉を赤ワインとトマト系のソースで煮込んだものじゃないのか?」
どうやらこっちの世界では、ブラウンシチューが普通らしい。
「なるほどー。これはチキンクリームシチューって言うんです」
「チキン、クリーム、シチュー、か」
リオがスプーンを鼻に近づけて、クンクンと臭いを嗅いだ。食べ物は輪郭がしっかりと見えないから、臭いで判断することが多いらしい。
「きのこはミルクと相性がいいんだな。あと、芋も。とても美味い」
「おかわり、ありますよ?」
「ん。もう少しだけ、食べようかな」
線が細くて、髪も長いからあんまり男性らしさを感じていなかったけれど、食はやっぱり男性らしい多さだった。リオ曰く、それでも騎士団の面々に比べればかなり食が細い方なのだとか。
「騎士団のエンゲル係数、怖いですね」
「エンゲル係数、とは?」
笑い話的にしか使っていなかったので、正式な使い方と考え方の説明にかなり時間を要した。
ごちそうさまをして、さて今日は早めに寝ようかと言う話になった。
今まで借りていたベッドで寝ていいと言われて、リオはどこで寝るのだろうか、別部屋とかあったかな?と考えていたら、リオがリビングのテーブルとは別にある壁際のソファに座った。
「え?」
「ん?」
「リオ、ずっとそこで寝ていたんですか?」
「あー、うん?」
なんでか、ごまかすような返事の仕方。
そういえば小屋の説明もあまり聞いていなかった。そもそも、別部屋とかあるような気がしない。
「体を壊します。リオはベッドで寝てください」
ソファは三人掛け。私なら余裕で寝れる。だけど、リオは背が高いからすごく窮屈になると思った。
「女の子をそんな風に扱えないよ」
「むーっ……じゃあ!」
何がどうじゃあなのかわからない。けど、このときは、名案だと思った。
「――――ねっ?」
「……本気で言っているのか?」
「はい」
「っ…………ハァァァァ。ん、わかった」
リオが目隠しをした上から目を押さえて、俯いて大きく溜息を吐いていた。




