11:お風呂と黒い石。
立てるようになって、まずやったのは、入浴。
乙女として、三日以上お風呂に入っていないとか許せない。
お風呂は普通にきれいな木のお風呂で、なんだか温泉宿みたいだった。
シャワーの蛇口のようなところに黒い石が付いていて、そこに触れると水が出た。
「づめたっっっ!」
温度を想像しながら念じると、それくらいのお湯が出るのだと聞いていたのに忘れてた。本当に出るのかな? なんて疑いながらやっていたせいで。
トイレの水も同じようなシステムなのに。
「あっ……温かい」
ボディソープやシャンプーは元の世界と大差なくて、ただ全自動ポンプなのはかなりハイテクだなぁと思いつつ、ベタついていた髪をしっかりと洗った。
お風呂から上がって髪をタオルドライしてリビングに戻ると、リオが柔らかな笑顔で迎えてくれた。
「おいで、髪を乾かそう」
どうするのかなと思いつつも、リオに勧められたイスに座った。リオが後ろに立ったのでドライヤーをかけてくれるのかなと思ったら、何故か頭の両側に手を翳された。
「へ?」
「風の精よ、我の手に宿りたまえ――――」
なんだか複雑な魔法の詠唱をしたと思ったら、リオの掌から温かい風がふわりと吹き出してきた。
その手で手ぐしをすること数分間、しっとりと濡れていたはずの髪の毛はサラサラに乾いていた。
「わぁ、凄い!」
「日常魔法だ。覚えておくと便利だから、後で教えよう」
「はい!」
「それで――――」
リオが申し訳なさそうに、夕食はパン以外用意していないが本当に大丈夫かと聞いてきた。
元々私が作りたいと言ったのに、何故か謝られたので再度念押し。
「小さなことからお礼をしていきたいんです」
「ん。じゃあ、任せようかな」
「はい!」
キッチンやコンロの使い方は、リオに教えてもらった。
ここもあまり元の世界と大差ない。冷蔵庫も普通にあった。ただし、電気ではなくまたもや黒い石で動いているらしいけど。
食材を見て、シチューに決定した。
ルーを使わずに出来るレシピとかをネットで見て、気に入ってずっと作っていたから作れる……はず!
シチューの他には付け合せ的なもので、トマトとベーコンの卵とじを作った。
「おまたせしました」
「…………すごく、いい匂いがしていたが……これは…………」
なにか駄目なものでもあったのかと思ったら、リオは久しぶりの他人の手作りに感動したらしい。
私にはわからないけれど、魔眼というのは本当に忌避される存在らしい。地位も名誉も、家族も友人も、色々なものを失ったのだとか。ディーノさんは唯一関わりを持ってくれる友人なのだとか。
「大切に、したいですね」
「あぁ。すまないね、暗い話にして」
「いいえ。もっともっとお話がしたいです。でも先ずは、ご飯を食べましょう」
「そうだね」
コクリと頷いたリオの頬は、少しだけ朱色に染まっているような気がした。




