1:空から落ちて。
――――なんで、こんなことに?
会社が倒産した。
給与未払いは、三ヶ月にも及んでいた。
民事再生を申請しているとかなんとか上司から言われて、信じていた。
なけなしの貯金を切り崩していたのに。
――――どうしよう。
ぼーっと歩いていたせいで、歩道が工事中だったことに気がつかなかった。
妙な浮遊感。
まずいと思ったときには遅かった。
今まで体験したことのない痛みが次々と私を襲った。
大きな木の枝のようなものに何度も当たり、地面に激しく打ち付けられたのだと思う。
手足が変な方向に曲がっているのがなんとなくわかる。
「あ…………ぅ……」
声が出ない。
口から出てくるのは、うめき声と咳と血だけだった。
ああ、わたし……このまま一人で苦しんで死ぬんだな、と覚悟しかけたときだった。
「そこに誰かいるのかい?」
どんどんと目がかすみ、耳鳴りも酷くなっていく中で、男性の柔らかな声が聞こえた。
ザッザッと足音が近付いてくる。
――――たす、けて。
声にならない声で、近づいてくる男性に助けを求めた。
だって、諦めかけてたけど、本当は死にたくないから。
「すまない、私は目が…………見えなくてね。触るが我慢してくれよ?」
「ぃぎ…………ぅ……」
「あー。これは……まずいな。もう少しだけ耐えてくれよ」
ザッザッザッと足音が遠のいて行ってしまった。
嫌だ。
置いて行かないで。
助けて。
痛い。
怖い。
泣き叫びたいのに、声が出ない。
意識が朦朧とするけれど、このまま眠ってしまったら、きっと死んでしまう。そんなのは嫌だ。
「すまない、待たせたな。ほら、これを飲むんだ」
唇に小さな瓶のようなものがあてられ、口の中にとろりとしたエグ臭くて苦い液体が入ってきた。
吐き出したいのに、顎を下から押さえられ、全部飲めと言われた。
「う………………にがぃ」
「我慢するんだ。取り敢えず、体の中を優先する――――」
二本目の苦い液体。
痛いのに、苦しいのに、辛いのに、なんで追い打ちのようにこんなことをされなきゃなの?
ボタボタと涙が出てきた。
「ぅぅ…………ぃゃ、いたい!」
声を押し殺していたら、男の人の肩に担ぎ上げられた。
「すまない、こんな持ち方しか出来なくて。泣いていい、叫んでいい。とにかく、ここから移動する」
そう言うと、男の人はズンズンと歩き始めた――――。