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9話 ゲーム少女は周りを探索する

 リビングに3人が集まっていた。遥、サクヤ、ナインである。


 サクヤとナインは可愛いナイトキャップ付きのパジャマを着ている。眼福である。


 遥は状況も忘れてなごみはじめたが、すぐに先ほどの件を持ち出す。


「これ! この日付! 見てよ。24日も過ぎてるよ?」


 どうなってるのこれ?


「落ち着いてください。ご主人様」


 どうどうと暴れ馬をなだめるがごとく遥を扱うサクヤ。


「いやいやいや、気づかなかった俺も悪いんだけど! サクヤたちは知っていたよね?」


「はい。もちろんです」


 と普通に答えるサクヤ。頭が痛くなってきた遥が理由を問う。


「元々ご主人様が死んだ時点ではゲームが始まっていなかったのです。ゲームのロードは1日につき大体3~5%。24日でようやくロードが終わりました」


 サクヤが慌てもせずに答えてくる。


「まじか。確かに日付を確かめなかったのは俺のミスだったかもしれないが」


 思い込みで変化したのは、死んだ日の夕方と思っていた。日付なんて確認しなくても曜日さえわかっていれば良いし、仕事のスケジュールは会社のPCのカレンダーに書き込んである。元から気づく可能性が低かったのだ。


「ゲームはスタートはされていた為、ボディの変更が中途半端に行われてしまいました。詳細を申し上げますとゲーム起動時に拠点聖域化が発動、ボディの完全変更はロード完了時という形となりました。自動蘇生のカウント開始も、ロード完了後です。遥様はロード完了までの間、レキ様の体でベッドに寝ていたのです」


 そのため、24日後の夕方に目覚めた遥は夕方ということもあり、日時が過ぎていたことに気づかなかったのだと言う。


「なるほどなぁ~。周りに生存者がいない理由がわかったよ。みんな避難済みだったのか」


 そして寝ていた私は放置された模様。


「大丈夫です。ご主人様。寝ている間のレキ様は存在が固定されていなかったので、飢餓などはありませんでした。また、汚れも私たちが手拭き足拭き、胸拭きと完全に綺麗にしておりました」


 サクヤの言葉の最後の方、全然大丈夫じゃないよね? レキの貞操は大丈夫だよね? と違う心配をする。まぁ、大丈夫だろうと楽観的に考えて次に聞きたいことを問う。


「俺に聞かれていないからとか、もう俺に隠していることないよね?」


 サクヤはあっさりと言う。


「大丈夫です。ご主人様が聞きたくない内容以外は隠しておりません」


 軽く胸をはって答えてきた。


「あ、そう。それなら問題ないね。もう遅いから寝ようか」


 と、遥は今のサクヤの言葉をスルーして寝ることとしたのであった。聞きたくない内容の隠し事など聞かないのが、おっさんの人生スタイルなのである。


           ◇


 翌日、さすがに危機感を感じた遥はゲーム少女に体を変更して朝食をとっていた。


 マテリアルのおかげで、食事には困らない朝倉家である。今日も白米、豆腐のお味噌汁、卵焼きに焼き鮭と純和食な感じであった。最近はいつもメイドの手作り朝食を食べれて幸せである。


「今日は少し町を調べてみます。遠出する予定です」


 と、メイド二人に今日の予定を話す。


「わかりました。お気をつけください。強敵が出現した場合は即お逃げくださいね」


 サクヤが心配気に言ってくる。おっさんぼでぃだと心配してくれるのだろうかと邪推する遥。


「珍しいミュータントがマテリアル(中)を持っている可能性が高いので頑張ってくださいね、マスター。早く拠点改造を行わないと、ブラッドマテリアルなどのレアマテリアルが改造できないので」


 レア以上はスキルのみでなく、作業用ツールが必要なため、応援してくるナイン。マテリアル(大)を使った犯人ではあるわけだが、使った理由に納得しているので、突っ込みを入れられないのであった。



 町をテクテクと歩く可愛い少女の姿がそこにあった。


 レキである。まぁ、中身はおっさんなのだが。


 道角から出てくるゾンビをあっさりとサイキックブリッツで吹き飛ばす。


「うんうん。常在戦場スキルは発動しているな」


 既に道角から出てくるのは気配感知が発動して気づいていた。ただのチートなゲーム少女でなく、イージーモードをチート付きでやるダメなゲーム少女がそこにはいた。


「しかし、24日後かぁ。教会でも探すかぁ?」


 同じ名前の映画を思い出して冗談を呟く。その映画では患者が24日後に起きだして、崩壊したイギリスを旅するとかそんな感じだったはずだ。教会に行ったらゾンビがいたんだっけ? いやたしかゾンビじゃなく狂犬病にかかった患者だっけかな? と、もはや映画の内容を思い出すのに一生懸命な常在戦場スキルに依存して油断しまくりの遥であった。


 テクテクと歩いて、コンビニに到着する。昨日はコンビニには寄らなかったのだ。住宅地を歩き回りゾンビを倒していた。気配感知がいまいち発動している感じがしなかったので、コンビニとかの閉鎖空間に入るのは嫌だったのである。


 映画でも商品棚の横からとか、レジの裏からとかゾンビが這い出てきて、不意打ちでかじられる人を大量に見てきた。そのパターンに陥ることを恐れたのである。なにしろ自分は脇役だと信じているので、ぐぁ~とか言ってあっさり噛まれそうなのであった。


 だが、今日は気配感知が発動しているし危機感知もある。やばいときは常在戦場スキル様が助けてくれると、心強い遥であった。


 別名他人任せならぬ、スキル任せという。


 コンビニに行くのには訳がある。勿論マテリアルによる食料確保が可能な遥がコンビニに食料を取りに来たわけはない。探しているのは、ネットワークが死んだことにより一躍脚光を浴びているであろう、古き良き紙の情報媒体である新聞である。


 スポーツ新聞でも何でも良い。恐らく避難ぎりぎりの時の新聞が残っているはずである。


『気配感知発動』


 と誰も見ていないので声にわざわざ出してスキルを使う。ちょっとかっこいいゲーム少女を目指そうしているみたいである。


「気配感知による発動で店内にミュータントが4体いることを発見しました」


 即座にウィンドウが開き、サクヤから報告が入った。入ってほしくない報告が入ってしまった。


「えぇぇぇぇ覗いているの? サクヤさん?」


 かっこいいゲーム少女ではなく、厨二的に危ないゲーム少女だと先ほどの姿を思い浮かべて焦る。シチュエーションに酔って言ってしまったようだ。


「はい。常に戦闘のサポートを行うのが私の役目ですので。常に拠点外に探索に行っている場合は確認しております。どこでも見ております」


 おいおいトイレとかも外ではできないのかよ!


「気配感知発動! 可愛かったですご主人様」


 二コリと笑って容赦なく、とどめをさしてくるサクヤ。


 可愛いレキの体が唯一の救いではあったが、身悶えして店内に入る前からダメージを受けているゲーム少女の姿がそこにはあったのであった。


 気を取り直して気配感知で見つけたゾンビを確認する。たしかに4体の気配を感じる。しかしバックヤードにいるゾンビの反応が今までのゾンビと違う。


「他と違う反応は、オリジナルミュータントですね」


「オリジナル?」


「はい。オリジナルミュータントは、空気中に噴出したダークマテリアルにより最初期に変異したミュータントですね。多少強いのでお気をつけください」


ちょっと強いですよという感じで返答するサクヤ。


「オリジナルかぁ。ならマテリアル(中)が手に入る可能性があるかな?」


 レキの高スペックぼでぃなら大丈夫かなと考えた遥は、その可能性に思い立ったのであった。コンビニの外でサイキックブリッツの射程ぎりぎりから店内のゾンビを狙うことにする。気配に合わせるように調整してサイキックブリッツを放つ。あっという間に、店の壁を貫通してゾンビは倒されたのを確認した。


 すぐに強敵であろうオリジナルゾンビに照準をあわせる。


「外から攻撃とは、さすがご主人様ですね」


 と不満そうに言うサクヤ。


「いやいや基本でしょ? 敵の射程外からの攻撃は」


 俺は芋スナとけなされても良いよ? とばかりにサイキックブリッツを放った。サイキックブリッツは壁を貫通しオリジナルゾンビに命中するかと思われた。


 だが、当たる寸前に気配が回避した。そのまま壁を砕いて飛び出てくるオリジナルゾンビ。


「えぇ! こんなに違うの?」


 驚きながらも素早く戦闘態勢に入り、オリジナルゾンビは黒い甲冑と槍を装備しているのを確認する。どう見てもゾンビに見えない。


「あの~、時代感が違いますよ? なんで甲冑?」


 ウィンドウのサクヤに問いかける。


「あれは変異した人の執念が形となっています。まぁ、甲冑コレクターとかだったんでしょうね」


 気楽に答えるサクヤ。その時点でずっとサクヤはゾンビではなくミュータントと言っていたことに思いつく。


「ゾンビじゃないわけだ。ゾンビじゃ!」


 ものすごい轟音と共に槍を構えて突っ込んでくるオリジナル。貫かれたら、一発で粉々になりそうな騎士槍である。


 体を沈め、槍をぎりぎりで回避する。回避しながら、足払いをしかけるが、ぐわーんという硬い音と共にすね当てにはじかれてしまった。


「いてっ」


 当てた脚のほうがじーんと痺れる。レキは今や戦車の装甲も貫けるだろう威力の攻撃ができる。足を払えないどころか、弾き飛ばされるのは想定外だった。驚きと共に呆けてしまった遥に対して槍を振り回してくるオリジナル。


「ミュータントというだけじゃ、寂しいですね。黒ゴブリンと呼びましょう」


 空気を読まずに遥に呼びかけるサクヤ。


「わわわ」


痺れていない脚を踏みだし、槍の範囲から後方に逃れる。


 そして言った。


「ゴブリンだと可哀そうでしょ! この黒騎士が」


 もうちょっとかっこいい名前にしてあげてと、結構余裕なゲーム少女であった。


 槍が眼前にくるのを見切って軽くステップし回避する遥。余裕な理由は足払いが弾かれたとはいえ、体術スキルとステータスで圧倒できると感覚で感じたからである。おっさんの得意技力押しである。考えるのが面倒ということもある。


 知力の項目のない遥ではスキルを使わない創意工夫で戦うといった選択はないのである。黒ゴブリンは槍が当たらないと見るや、黒い塊を飛ばしてきた。黒いんでダークブリッツとかそんな感じでしょと、遥はサイキックブリッツを撃って相殺する。


相殺する間に黒ゴブリンは距離を詰めてきたが遥はすでに迎撃準備を終えていた。


『エンチャントサイキック』


 心の中で呟いて発動させる。もう同じ間違いはしたくないのである。厨二的おっさんの扱いは勘弁である。


 そのまま近づいてくる黒ゴブリンに今まで使用しなかった技を使うことにする。


「威力の検証ができればいいんだけど」


 超技の準備を整える。超技は物理スキルと、超能力スキルの合わせ技である。威力は高い。ただ今迄はゾンビに対してオーバーキル過ぎるので使わなかったのである。


 右腕にエンチャントサイキックを集中させる。


『超技サイキックブロー!』


 とやはり心の中で呟いてカウンターで槍をかわし右手を黒ゴブリンに撃ち込む! ものすごい勢いで光の塊が生み出され黒ゴブリンを破砕する。


 ついでに後ろにあったコンビニをも破砕した。


「あぁぁ!」


 想定以上の威力である。


 ゲーム少女びっくりである。


 低い体術スキルの超技でこの威力とは、ボーナスポイントによるステータス補正だろうなぁ、と崩壊しているコンビニを唖然として眺める。少しサイキッククラッシャーとか叫びながら、体を回転させて両手で撃ち抜くことも考えたのだ。その場合、コンビニまで突っ込んだゲーム少女は瓦礫に覆われたであろう。


 ピコンとウィンドウにマテリアル(中)、他色々入手と表示されたことをみた遥は、


「目的は達成したな。帰ろう」


 と瓦礫となったコンビニをスルーして帰宅するのであった。


 現実から目をそらすのは、おっさんの常套手段である。


 尚、あの黒騎士っぽいのはわかりやすい名前なので、黒ゴブリンと遥はあっさり決めました。


 そして黒ゴブリンからの経験値は6でした。

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