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66話 ゲーム少女と侍コミュニティ

 広がる畑では、そろそろ野菜も育成が進み農家の人々が収穫に期待と不安を抱く、日差しが強くなり夏到来と季節が変わった中で。畑から少し歩いた駅前の方、住宅地と商店街が並んでいる道路で何人かの人々が異形と戦っている。


 枯木の如き体を持つ足軽ゾンビと戦うのは水無月コミュニティの人々である。


 四人でパーティーを組んでいるのだろう。農業で鍛えたのだろう体で日本刀を振り回している中年の男性。手斧をもち足軽ゾンビのつけていた胴鎧をきている青年。そして後ろではおばさんと大学生ぐらいの男性が御札を構えていた。


 足軽ゾンビは五匹、人々より多いが足軽ゾンビ相手に危なげなく戦っている。


 おりゃぁと刀持ちが、力任せに日本刀を振る。手に持っている刀の能力だろうか? 拙い剣技は人を超えた一撃で足軽ゾンビの身体を半ばまで切り裂く。


 振るったその隙を狙おうとした他の足軽ゾンビを、狙いも目茶苦茶に斧持ちがその攻撃を防がんと振るう。その攻撃に足軽ゾンビが戸惑うと後ろの二人が札を掲げた。掲げた御札は炎球となり、足が止まった足軽ゾンビたちを焼き尽くしていくのであった。


「ハッ、余裕だな!そろそろ大柄な武者みたいなゾンビもいけるんじゃないか?」


 拙い剣技を見せていた男性が叫んでいる。


「そうですね。もう倒せるんじゃないですか?」


 斧を目茶苦茶にふるっていた男性も賛成する。


「でもそろそろ御札も残り少ないですよ? 陰陽師ゾンビを探して倒さないと補充が不安ですよ」


 御札で攻撃していた男性は補充を求めて、おばさんは洗濯日和だから帰らないとねぇと言っている。


 その姿は異世界なら冒険者とでも呼ばれていたんだろうかと遥はそのパーティーを見ながら思った。身体能力が高いだけだと、あんなに酷い戦いになるんだなぁと感じる。


 全て酷いが一番酷いのは、人々が戦えてしまうことだ。あれでは負ける寸前まで自分の力を信じて戦いそうだ。


 よくある一撃当たりさえすれば、貴様なぞぉと叫びながら相手にかすらせることもできずに倒される雑魚みたいである。あの雑魚も自分が勝てると信じているから決して逃げないのだ。逃げようと思ったときにはもう手遅れなのに。


 自分も遥ぼでぃであれだけの身体能力があったら、戦えると勘違いをするのだろうかとぼんやり考えた。


「ご主人様、ミュータントが動き始めました」


 サクヤの言葉にわかりましたと返答して遥は動き出す。


 どうせ自分の想像したことは無駄である。なぜなら、自分は世界で一番可愛いレキを操作できるのだから。


 そうして、遥は新装備を構えて向かってくるミュータントへと銃口を向けるのであった。


             ◇


 離れたビルの屋上から騒ぐ4人を見つめる目があった。一つ目しかなく、ろくろ首のように首が長い。足軽兵の笠を装備しており、手足はひょろ長くボロボロの胴鎧を着こんだナナフシを思い出させる異形である。


 その一つ目は肉がえぐれた口元でニヤリと笑い、すぐ側に控える武者ゾンビたちに右腕を振る。


 かすれたやすりを削るような声が響く。


 「シュウカクドキダ。イケ」


 その命令に頷いて、武者ゾンビたちはゾロゾロと動き出した。30体はいるだろう部隊だ。そのすべては武者ゾンビで構成されており、足軽ゾンビなどはいない。襲われればろくに抵抗もできずにあのパーティーは全滅するだろう。


 屋根の上をそろりそろりと、ゾンビにあるまじき静音で移動する部隊。このまま行けば不意打ちは確実であろう。段々近づいていき、ある地点で武者ゾンビがジャンプの有効範囲に入ったのであろう、腰を屈めて飛び上がろうとする。


 アスファルトを蹴ろうとして足に力がこもった瞬間に、パキャッと頭が吹き飛ばされる。隣の武者ゾンビがその事に驚き周辺を確認する。きょろきょろと頭を振っている間にその武者ゾンビも乾いた音を立てて砕け散っていった。


 一つ目はその攻撃をビルから見つめていた。何者かが攻撃をしていると慌てて他の兵に警戒を訴えようとしたが、次々と武者ゾンビは吹き飛んでいき、警戒する前に全員倒されてしまった。


 自身の兵が全滅したことに驚愕して、目に力を籠める。空間が歪み、超常の力が一つ目に集まる。籠めた力は一つ目に力を与え、今まで以上の遠視を可能とした。この戦場すべてを細部までくっきりと詳しく確認できるほどの視力だ。


 どこから攻撃されているのか見つけ出そうと、一つ一つ怪しそうなところを確認していく。そうしたところ、かなり離れたビルの給水塔に少女が寝そべりながら銃を構えている所が見えた。


 2キロは離れているだろうに、顔の詳細まで全て見える。黒髪黒目のショートカット、眠たそうな可愛い目をしている子猫を喚起させる小柄な美少女である。


 この間、我らが砦の兵を次々と殲滅していった要注意人物であった。


「オヤカタサマニレンラクヲ」


 危険人物を発見したと呟く一つ目は気づく。相手もこちらを見ていたことに。 こちらを見られていると感じたときには、既に自分の頭が乾いた音をたて飛来した銃弾で砕けるところであった。


             ◇


 「ご主人様、今のミュータントは一つ目兵と名付けました!」


 サクヤが名付けた先ほど撃破した一つ目を思い出しながら、うんうん、そうだね。私も今のはなんてつけるか迷うよと、4人パーティーに襲い掛からんとする戦国ゾンビが全滅したことを確認した遥は銃の構えを解いた。


 かなりの威力だねとホクホク顔で持っている銃を見る。今回の敵を倒すのに渋々だが静音行動が必要であると感じて作成したのである。


 防具と合わせてこんな感じである。


『リキッドスナイパーレキ式(O)流体弾丸による敵への貫通性能アップ 消音効果 超技による変則的攻撃可能』


『リキッドバトルスーツ(スカートタイプ)(H)防御力50 光学迷彩 流体装甲による物理耐性 デコイ使用可能』


 銃はまたもやオーダー品である。スーツも光学迷彩に変えて、敵に気づかれにくくしている。デコイという新能力も入った。作成時に、思わずナインと一緒に踊ってしまった遥である。喜びの舞はサクヤのカメラドローンにすべてを撮影されるという偉業を打ち立てた。


 新型は流体金属を様々なことに使用されているSF的武器だ。リキッドスナイパーレキ式は流体弾丸という特殊弾を使用できる。銃弾が敵に飛来する間に液体化して鋭い針のような形になる。命中後は、その液体が爆発したように周りに広がり、ダメージ範囲を広げるという貫通性、爆発性を持たせた未来的弾丸である。そして液体化することにより通常は不可能な動きを超技で行うことができる。カーブもシュートも思いのままである。もっと意外な使い方もできる予定である。


 リキッドバトルスーツ(スカートタイプ)は普通の服のようになった。可愛いスカート姿で青いブレザーと通常時は普通の服装にしか見えない。しかしその服は流体金属で形成されており、ダメージ時は硬化して敵の攻撃を防ぐ。しかも流体という特性を利用して敵の動きを流す効果もあるので、その効果は物理耐性という名称となっている。最後にデコイは流体金属の一部を切り離すことにより自分そっくりの分身を放つことができるのだ。移動は不可能なので単なるデコイ以上の性能は無いが、それでも使い道のある能力だろう。しかし使えば使うほど流体金属は減っていく。即ち露出が増えるので、使いすぎるとサクヤが鼻血を出すという効果もあるかもしれない。


 装備lv4で作成した傑作品だと遥は喜んでいた。リキッドシリーズと名前をつけており、ホクホク顔である。まぁ、ブーストが無くなったのは痛いなぁとは思うけど、あとで改装すればいいやと思っている。後、弾丸代は絶対に回収すると決心してもいた。赤字は許さないのだ。


 最後に銃スキルをlv4にした。これで残りポイント2である。それとステータスを全て10ずつ上げたので、ステータスポイントは25になった。今のステータスはこんな感じである。


筋力:50

体力:50

器用度:80

超能力:80

精神力:50


 ステータスが1変わるだけでも大幅性能アップのゲーム仕様だ。溜まっていたポイントも使い、まるで別人になった感じがするゲーム少女である。今なら小さな家なら持ち上げることができるかもしれない。


「マスター、この周辺で活動している戦国ゾンビたちはいない模様です」


 ナインが左ウィンドウから教えてくれる。それと共に、各所に控えていたツヴァイが空間を歪ませて現れた。敵がどこにいるか各所に隠れさせて広範囲を索敵させていたのだ。


「ありがとう、ナイン。それでサクヤ、これで何部隊目でしょうか?」


 遥はナインに可愛い笑顔でツヴァイを統括しているお礼を言って、サクヤに続けて聞いた。


「はい。今ので16部隊目でしょう。そろそろ敵の兵力に減少が見られ、焦りが見えてきてもおかしくありません」


 ニコリとできる銀髪メイドは微笑んで伝えてくる。しかし、カメラドローンが給水塔に寝そべりながらリキッドスナイパーを構えていたレキのお尻だけを撮影していたのを知っていた。いくら真面目な表情を見せても無駄である。レキの気配察知は3レベルなのだ。


 いいね、いいねと遥は呟き、横に置いておいたリュックを背負い給水塔から飛び降りた。暑くなってきたこの季節にはちょうどいいと飛び降りながら遥は思い10数階のビルから軽く飛び降りて、トンッと屋上から飛び降りたとは思えない足音がして着地する。


 そうして最近顔を見せているコミュニティに足を向けるのだった。


            ◇


 山の上にある神社、畑が周辺に広がっており、田舎の風景である。その風景を裏切っているのは畑にゾンビがうろついているぐらいであろうか?


 古い神社ではあるが、大きな建物が建築されている。爺さんが趣味で秘密基地みたいにしたいと大きめの建築にしたのだ。


 その建物は、今は人々のコミュニティとなっている。周辺の人たちが一部であるが生き残り暮らしている。


 野菜などはとれるし、湧き水も珍しく存在している、鶏がコケッコーと庭を駆け回っており鳴いている。趣味と兼業で飼育していたので、元気な鶏だ。


 長い階段をテッテと可愛らしい足音と共に登り、背負ったでかいリュックがガチャガチャと大きな音を立てる。そうして頂上まで到着である。鳥居前にいた日本刀を提げて、腰にお札をつけている胴鎧を着こんだ門番に声をかける。


「こんにちわ。今日はいい天気ですね」


 ニコニコと笑顔を見せながら可愛い挨拶をする。基本、挨拶の最初は天気であるゲーム少女。だが、美少女はお得である。おっさんならば適当にそうですねと返答される内容でも、美少女であれば丁寧に返答がくる。格差社会である。


「あぁ、こんにちは。今日も行商かい?」


 こんな少女が崩壊した世界を行商していることを、あんまり不自然に感じていない門番の男。


「はい、そうですね。今回も調味料を持ってきましたよ」


 ニコリと軽く首を傾げて、笑顔で答える。そして、この人たちは武器の力に依存しすぎていると危険だなぁと思う。だからこそ、レキのような少女が行商をしてもおかしいと思わないのだろう。他のコミュニティは戦国ゾンビたちに道を塞がれて移動できないし、井の中の蛙である。


 常にレキに依存している遥には言われたくないだろうが真剣に思っていた。そうして奥の社務所に向かうと穂香と晶が巫女服で、境内にのんびりと座っていた。


「おーい。レキちゃん。今日は何持ってきてくれたの~?」


 気楽に声をかける元気いっぱいな可愛い少女である晶。


「レキさんの持ってきてくださる調味料などには本当に助かっておりますが気を付けてくださいね?」


 と優しい笑顔で迎えてくれる大和撫子な穂香である。


「今日はですね。砂糖と醤油を持ってきましたよ」


 眠そうな目で二人を見つめ、伝える。リュックを軽くゆすると重々しい音がする。砂糖と醤油が詰まっているのだ。


 やったーと両手を上げて喜ぶ晶。思わし気な穂香は手を頬に当てて、いつものことを聞いてくる。


「本当に円と交換でいいの? なんだか悪い気がしますが」


 いつも聞いてくるなぁと思いながら遥も答える。


「大丈夫ですよ。北部では通貨が通じるんです。こことの行商は大分儲けさせてもらっているんですよ?」


「北部ねぇ、私たちも行ってみたいと思うけど、遠いし拠点のことを考えると離れることはできないですね」


 ほぅと溜息をついて興味はある表情で返答する穂香。


「それじゃ、私が行こうかなぁ? レキちゃんについていけばいけるでしょ?」


 晶が快活に、レキについていきそうな表情で目をキラキラさせながら言ってくる。


「ダメよ。私たちはここの最高戦力よ? 何があったらどうするの? 武者ゾンビが多数きたらどうするの?」


 晶を窘める穂香。自分たちが最高装備をしているのである。万が一を考えて拠点は離れられない。


「そうじゃな。そろそろ我らも北部と連絡を取り合わないといけないかもしれん」


 その声を聴いて振り向くと、砂利の音を立てながら、社務所から和服に日本刀といつもの浪人風で爺さんが歩いてくる。


「そのためにはこの周辺の化け物は退治しなければならん! 武者ゾンビが後どのぐらいいるかわからんが、人々の装備もそろってきておる。そろそろ決戦の時かもしれん」


 重々しく語る爺さんに巫女さんたちもうんうんと頷いている。


「あの、敵はどのような種類がいるんですか?」


 まだ会ったことが無い敵がいるのだ。遥にはその敵に会えない理由が思いつくが、それは言わなかった。


「ええと、まずは足軽ゾンビでしょ? あのボロボロの日本刀をもっているやつね。それと足軽ゾンビの御札をもっているタイプね、こいつから御札は補充しているの。最後はやつらのボスである武者ゾンビね。多分武者ゾンビをまとめている武者ゾンビがいると思うんだけど…」


 指を一つ一つおりながら、穂香が教えてくれる。御札持ちには会ったことが無い遥である。まぁ、装備以外は同じだし、サクヤは新しく名付けないと思う。


「武者ゾンビがボスなんですか?」


 一番気にしていたところを尋ねる。


「そうね。今までも出会ったことはあるけど、かなり強いわ。私と晶で力を合わせて1体倒せるかしら? でもそんなに武者ゾンビはいないはずだし、あと少し倒せば周辺は安定すると思うのですが」


 穂香が予想通りの答えをしてくる。なるほどねぇと遥は心の中で頷く。


「僕もお姉ちゃんも力を増していると思うから、1体ずつ倒せるとおもうんだけどね!」


 はきはきとした声で晶が言ってくる。


「そうじゃな。儂の剣技も磨きが入っておる。決戦を行っても良いかもしれん」


 自信満々に爺さんも言ってくる。どうやら決戦をしたいらしい。主人公は負けないからね、でも爺さんは主人公なのかな? とゲーム少女は爺さんを見つめた。


「なんじゃ?何か気になることでもあるのか?」


「いいえ、でも慢心は油断を生みます。お気を付けください」


 それからしばらく皆に商品を売り遥は帰宅するのであった。


 その数日後、水無月コミュニティは敵のボスと決戦をすることになる。

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