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63話 ゲーム少女は巫女と出会う

 テッテコと歩いて南下を続ける遥。きょろきょろと周辺を確認し、持っている地図と照らし合わせて移動する。


 最初は駅だが、何もいなかった。いや、いたけど足軽ゾンビだけだったのだ。次に役所と学校とイベントでありがちな場所を調べに行ったが、これも足軽ゾンビだけであった。エリア化もダンジョンもなかったのである。


「なんだかさぁ、ダンジョンとかエリアが全然ないねぇ~」


 しょんぼりゲーム少女である。とぼとぼと歩いている。結構時間をかけただけあって悔しいのだ。しょんぼり姿も可愛いとカメラドローンが忙しなく動いている。


「そうですね。一つぐらいはあると思ったのですが、意外ですね」


 サクヤも不思議そうな表情で首を傾げて返答してくる。遥と同じく一つぐらいはあると思っていたんだろう。


「もう一気に海に向かっちゃうか! そろそろ東京湾も近いはずだしね!」


 面倒くさくなってきたし、不毛な結果に無理やり気分を盛り立てて宣言する。


「そうですね。レキ用の水着は準備できていますか? 帰還の際に私たちが作成しますね」


 言質を取ろうとする恐ろしい銀髪メイド。それを無視して、いざ移動と走り始めたゲーム少女であった。


 スタスタと群がる足軽ゾンビを倒しながら進んでいく。そろそろ海の香りと潮風が感じられてくる。崩壊前なら、そこまでは感じなかったであろう、今は排気ガスも人が暮らす騒音もない。自然を感じられる環境にあるため、早々に海につきそうだと感じられたのだ。


 そろそろ海辺だろうか。海の家のご飯は子供の頃に食べたけど、覚えていないなぁ。よく漫画や小説で具のないラーメンとか、肉の入っていない焼きそば、水っぽいカレーが海の家だと美味しいとか言ってたけど、もう10年以上海には行っていない。それに今時の海の家がそんな手抜きをするだろうかと余計なことを考えて移動する。


 レキを信頼しているからですと言い訳をする遥の声が聞こえそうであるが、このおっさんは大事な会議中でも余計なことを考えて、肝心の内容を聞き逃して後でこっそり同僚に聞くのである。


 つらつらと考えながら、住宅地の中に少し畑が見えてきたかなと可愛くてちっこいレキの足でテクテクと歩いていたところ、またもや気配感知にミュータントが多数ひっかかった。


「ご主人様、多数のミュータントを感知。これは囲まれています」


 きりりと顔を引き締めてサクヤが教えてくれるので、これは明日は台風直撃かなと思う遥。何しろもう天気予報も見れないしねとお気楽である。


「もう少し油断してください、ご主人様!」


 ゲーム少女は油断せずに臨戦態勢となっているので、サクヤが怒る。


「そこは油断していて、私が囲まれていることを教えたら、なんだって! 教えてくれてありがとう、サクヤ! 後でなんでもしてあげるよ! という流れになるんじゃないでしょうか?」


 と口を尖らせてぷんすこと抗議してくるので、あぁ、いつも通りの変態銀髪メイドだと安心したゲーム少女である。


 さてさて気配感知だと100体以上はいるだろう。こちらの気配感知には気づいていないみたいで、少しずつじわじわと囲んでくる。察知内容からすると足軽ゾンビがほとんどで、オリジナルぽいのが2体といったところである。


 そのオリジナルも大した力は無さそうなので、安心する。もう油断しても勝てちゃうよである。レキから抗議がくるかもしれない。


「囲んで、弓矢での攻撃かな? どうするつもりかな?」


 どう倒そうと考える。面倒なのでアイスレインでいいかなと発動をしようとする。


 遥が発動しようとしたちょうどその時に、100メートルは離れていたであろうオリジナルがドガンとジャンプして、こちらの前後を塞ぐように着地してきた。


 ありゃ、タイミングの悪いと遥は飛来したミュータントを観察する。


 戦国時代の武将みたいなやつである。武者鎧で包まれていない部分も鎖帷子を着こんでいる。兜は二つの角が突き出している装飾をしてあり、面頬を顔につけており、顔は見えなくなっている。口元は歯茎だけが見えており、唇は無い。大柄で3メートルはあるゾンビミュータントであった。


 「ご主人様、あいつは武者ゾンビと名付けました!」


 サクヤの叫びに、うん、ありがとうと適当に流す。ここら辺は新種が多そうなので、リアクションが辛くなってきたのだ。


 酷いです。ご主人様! 蔑みの目でもゾクゾクしますので、リアクションをお願いしますと銀髪メイドがお願いをしてくるので、嫌われたくないので、レキを悪用することとする。


「仕方ないなぁと、わかったよ、ごめんね」


 と上目遣いのうるうるおめめをレキでしてあげたところ、


「気にしていませんから大丈夫です! ごちそうさまでした!」


 とサクヤは喜び庭駆けまわっていた。子犬みたいで悔しいが可愛らしい。


 はぁ、とコントを終えて前方に視線を戻す。何か着地した武者ゾンビは叫んでいたようであるが、全てスルーしてしまった。ゾンビとの会話なぞより、サクヤとの会話の方がおっさんは大事なのであるからして。


 なんかよくも我らの兵をとか言ってたような気がする。もしかして駅とか図書館とかで合わせて1000体ぐらい倒したのがまずかったのであろうか。でもそれなら100体でくるのは少なくないかな? まぁ脳が腐っていそうだから仕方ないかもしれない。


 そんな武者ゾンビは言いたいことは言ったのであろうか? 右腕を振り上げ、すぐに振り下ろした。


「弓矢の一斉射撃ですか。無駄ですよ」


 飽和攻撃でもない限り、レキに傷一つつけることは不可能なのだよ。足軽ゾンビ君と心で思い、あっさりと銃を地面に置き、両手を広げて舞踏のようにくるくると体を回転させて舞う。そうしてスルスルと自分に当たる矢のみを手の平を使い寸前で受け止めた。パラパラと受け止めた矢が地面に落ちて山となる。


 両側から100に近い矢を受けて、傷一つつけられないとは思わなかったのだろう。怖気づいたのか、後ろに下がる武者ゾンビ。


「今度はこちらからですね。どうぞ、ご馳走します」


 レキは、地面に置いたモンキーガンを右足で引っ掛けて空中に蹴りだす。すぐに空中に浮いた銃を手で受け止めて、武者ゾンビへと構えを取る。


「では、弓矢を駆逐した銃という武器をたくさん食べてくださいね」


 武者ゾンビの頭へ向けて、モンキーガンの引き金を軽く引く。タタタと軽い銃声と吐き出された銃弾が武者ゾンビに向かう。


 これで、後方の武者ゾンビだけだなと、遥が後ろに振り向こうとしたところ、異変に気付いた。


 攻撃された武者ゾンビは、避ける風も、防ぐ構えも取ること無く、口元をにやりと笑わせて叫んだ。


「戦国戦陣!」


 ゾンビにしては流暢に、武者ゾンビが叫ぶと周りの空間が少し揺らめく。超能力である。発動した瞬間に、何かの概念が発生したことがわかった。


 その概念が発生したからであろう、銃弾は武者ゾンビの面頬に当たるが全て小石でも当たったように威力が無くなりポテポテと落ちていった。


「なぬ! 今のは何だ、サクヤ!」


 驚いた遥は、おっさん本来の性格のまま、サクヤに問いかける。レキの時は自分の考える最強少女の演技を入れていたので、かなり驚いたのである。


「今のは火薬系の攻撃力削減のフィールドを発生させる超能力です。有効時間は1分ほどでしょうか。モンキーガンの威力では敵を倒すことはできません。ご主人様! スナイパーライフルなら倒せるでしょう」


 えぇ~、まじでぇ~と叫ぶ。スナイパーライフルなら問題なく倒せるらしい。スナイパーライフルの弾丸は高いんだぞ~と、今はもう余裕でいくらでも作れるのに、けちるゲーム少女。あんな迷惑な超能力を発動する前に倒すべきであったと後悔する。


 ゲームでもいるのだ。力を使う前はあっさり倒せるのに、使われると倒しにくくなるやつが。特に主人公たちに変身されると範囲攻撃でちくちくHPを削ってきて面倒だったので、その時は逃げていた。


 しかし、ここで逃げることは囲まれているし、無理だなぁともったいないなぁとがっかりした目で武者ゾンビを見る。


 そんな目をレキがしたからだろう。絶望の目と勘違いしたからか自分の優位が確定したと思い込んで武者ゾンビは余裕綽綽でこちらにゆっくりと歩いてくる。恐らくはネチネチ攻撃しながら殺すつもりだと思う。


 多分、今までの生存者はそうやって倒してきたんだろうねと、なんら動揺しないで半眼になる。多分当たっているだろう。軍隊は火薬系を妨害する力を使われたら苦戦必至である。たぶんゴリラ軍団も苦戦をするかな? いや、多分しないかもしれない。何しろナナたちは主人公気質でアクション俳優なのだから。


 いよいよ目の前に武者ゾンビがきたので、さて殴るかとレキの小っちゃくて可愛いおててをぎゅっと握りしめて倒そうとする。


「火炎符!」


 そうして倒そうと、武者ゾンビに拳を繰り出す寸前に、女性の声が響いたのであった──。


           ◇


 道路の前後は武者ゾンビに塞がれて、両側の家々の屋根には100を超える足軽ゾンビたち。さて、武者ゾンビは殴って倒し、あとは範囲攻撃かなと遥が呑気に思って攻撃を繰り出そうとしたところ、女性の声が響いた。


 数発の炎の塊がひゅるる~と迫撃砲みたいに飛来して屋根の上や武者ゾンビに降りかかった。爆発炎上、周りは煙だらけになる。家もぼうぼう燃えちゃうんじゃ? と焦るが、不思議と炎はすぐに消えていく。


「こっちよ!」


 気配察知にて、誰かが来ていることは知っていたが、ぞろぞろミュータントがいたし気にしていなかったのだ。煙の中で声が聞こえて、レキの可愛いおててをぎゅっと握って、引っ張って連れ出そうとする。


 誰だ誰だとみれば、女性であった。巫女さんみたいな服装をしている女性であった。


「急いで、こちらに!」


 足軽ゾンビ達を蹴散らしてブロック塀にいる、もう一人の巫女さん。


 やばい、ファンタジーがついに来た! とわくわくのゲーム少女。


 はい! としおらしい表情を浮かべてついていく。


 すたっとブロック塀の上にジャンプで飛び乗る最初の巫女さん。驚きの身体能力である。2メートルはあるぞ、このブロック塀と自分のことは棚に上げて驚いてしまう。


 ブロック塀の上から、さぁ掴んで! と手を差し出してくるので、わかりましたと小声で怯えるように答えてその手を掴んで、よいしょとよじ登る。


 その間に武者ゾンビが追いかけてきそうであったので、爆発の煙だらけなのを利用して超技を放った。


 あぁ、追いかけてもらったら困るんだけどと、一瞬、レキの身体が歪み、サイキックがエンチャントされる。そのまま超技である。


『超技ラピッドファイア』


 腕を伸ばしてモンキーガンを発射する。タタタタと先ほど弾かれた銃弾が武者ゾンビに飛来する。煙の中で気づいていない武者ゾンビたちの頭が、先ほどとは違いその銃弾で次々とあっさり砕け散った。超技で威力を上乗せすれば、こんなものである。


 ほい、終わりと余裕綽々のゲーム少女は肩をすくめる。


 後は足軽ゾンビたちであるが、それは大丈夫かな? と気になったところ、


「氷柱符!」


 と、もう片方の巫女さんが符を数枚投げると、全てが氷のつららと化して屋根の上に残る足軽ゾンビたちを蹴散らしていく。


 おぉ~。ファンタジー!とその光景に陶然としながらゲーム少女はついていくのであった。

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