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56話 ゲーム少女とゴリラ軍団対猿軍団

 新築で建てられた高層マンション、この周辺には珍しい億ションが建っている。高いけど、本当の金持ちはもっと都内のマンションを買うよねと、買うことができない一般人がディスっていたマンションである。


 その窓ガラスはきらきらと輝き、玄関はオートロックで警備員が常に立っており不審者がいないか見張っていて、壁も新築にふさわしく新しく綺麗で、少し歩けば駅であるという立地条件。建設当時は素晴らしい建物であった。


 建設当時はなんだけどねと、ビルの細道に体を隠しながら考える遥である。今やガラス窓はひび割れて、玄関前には猿がうろついている。もはや億の金額をだして買う人はいないであろう。


 ビルの陰や車の陰など、そこらじゅうからタタタと乾いた銃声が聞こえてゴリラ軍団対猿軍団が戦っていた。アサルトライフルをもって撃ちまくっている。そんな銃声と共に悲鳴も上がっている。猿っぽい悲鳴だ。味方はまだ大丈夫なのだろうか? 死んでいないなら治癒しますからねと準備だけはしておく。


「ご主人様、猿山エリアに入りました。ここの概念はジャングル。効果は獣系の能力の底上げですね」


 戦闘用サポートキャラであった、きりっとした顔でサクヤが教えてくる。


「過去形にしないでください。今でも戦闘用サポートキャラですよ? ご主人様!」


 と表情から察したサクヤがぶーぶーと口を尖らせて訂正を求めてくる。最初のイメージであったクールな無口系キャラはどこにもいなかった。表情から察するなよと思い苦笑する。まぁ、その顔も可愛いんだけどと思ってもみると、また、表情で察したのかサクヤの頬が赤く染まった。


「ジャングルかぁ、もうコンクリートジャングルだよね? ここ。今更ジャングルとはねぇ」


 コンクリートジャングルだ。もはや人が自分の力だけで生き残ることは不可能な世界である。何しろアスファルトかコンクリートで地面は覆われており作物を育てることもできない。湧き水や泉も簡単には見つからず、木が生い茂って果物などが生っているわけでもない。

 

 そんな場所に上書きでジャングル概念ね。能力の底上げといっても微妙ではないだろうか? たぶん感覚でそう理解するゲーム少女。おっさんの補佐は完璧である。但し、知力は除く。何しろステータスにないので保守対応外です。


 まぁ、この間とは難易度が違うからねと納得して、自分も戦いに加わる。


 車をバリケードにしているサルモンキーを短銃で狙い撃つ。サルモンキーが車の陰から少しだけこちらを確認しようと覗いた瞬間、撃ち込んだ弾丸がその頭を貫いた。


「まぁ、サルモンキーなら余裕だよね」


 ふふんとドヤ顔で、雑魚狩りをする。雑魚狩りが得意なのだ。その中でも美味しい素材を落とす雑魚は大好きである。この場合の美味しい素材はサルモンキーの銃であった。


 素早くビルの陰から飛び出して、倒したサルモンキーのいる車へ体を低くして移動する。そうして地面に転がっていた銃を素早くゲットする。ちゃらら~アサルトライフルを手に入れた~と喜ぶ。


「マスター、その銃は短銃より少し強い程度ですね。モンキーガンと名付けました」


 ナインが銃に名付けてくる。ナインももしかして名づけのセンスがないのではと思ってしまう。でも、ナインは可愛いから良いのだ。


 モンキーガンを見てみると長方形のお弁当箱を大きくしたような、未来的な銃である。しかしナインが言うには威力も弱い。銃の弾丸も弱いというお粗末な武器らしい。


「でも、短銃よりは使えるよね」


 やったね。タダでアサルトライフルゲットだ、しかも弾丸も拾えるぜぇと喜んで使うゲーム少女であった。拾える武器は大歓迎である。たとえ馬鹿マシンガンでも嬉しいのだ。


 アサルトライフルも結構弾丸消費が激しいから自前の弾丸は使いたくない精神なのだ。


 そこかしこにサルモンキーの姿が見える。うっきー、もんきーと叫んでいるサルモンキー。見える範囲は銃持ちが3割、7割がナイフ持ちであろうか。


 能力が底上げされていても、銃持ちが少ないのだ。戦況はアサルトライフル標準装備のゴリラ軍団が優勢であった。


 優勢で進んでいた戦況に、ブオーンとエンジン音が聞こえてくる。サルモンキーの方からである。遥もゴリラたちも聞こえてきた方角を見やると、なんと装甲車が2台もこちらに移動してきた。


 装甲車の両脇横には機銃がサイドミラーの代わりに取り付けられている。こちらを正面に駐車して後ろのドアが開き、バラバラと4匹の銃持ちサルモンキーが出てくる。


 でてきたサルモンキーたちは気のせいか得意顔である。自分たちの優位を感じているのだろう。


「くそっ。奴らあんなものまで持っていたのか!」


 そんな装甲車の姿を見てひるむゴリラたち。


「撃てっ、撃てっ」


 やけくそ気味に叫んで、ゴリラ達がアサルトライフルを撃ちまくる。遥はそれを見て私の超技の出番かなと身構える。


 しかし意外なことが起こった。アサルトライフルの銃撃をカンカンと弾き返すと思われた装甲車は、ビシビシと穴だらけになっていく。


 穴だらけになっていく柔らかすぎる装甲車を見て、一瞬ぽかんとするゴリラたち。まるで装甲がプラスチックか何かできている感じがする。どこかの桃のような柔らかい装甲の戦車の親戚であろうか。


「奴ら、自分たちの武器を基準にしているんだ! だから装甲が弱い! 撃ちまくれっ!」


 ゴリラ自衛隊隊長が叫んでアサルトライフルを撃ちまくる。数分しないうちにビシビシ穴だらけになった装甲車は効果的な反撃もできずに軽い爆発と共に壊れていく。


 うぉぉと叫んで意気が上がるゴリラたち。切り札と思っていたのだろう。サルモンキーたちは動揺しているようである。畳みかけるように攻撃をするゴリラ軍団。


 確かに、サルモンキーの銃は普通車のドアすら貫けない弱さである。その弱い銃の威力を防ぐことを考えて作られたのであれば、装甲車の装甲の弱さもわかる。あの装甲で十分なのだ。なるほど、ゴリラ自衛隊隊長が言うことは論理が立っている。


 でも、ゲーム的には雑魚だからじゃないかな? と身も蓋もないことをゲーム少女は考えた。だって、装甲車を倒すのに戦車が必要だと、戦車が入り込めない場所だと倒せなくて困るからね。


「敵の銃持ちは片付けた! 突撃だ!」


 わぁぁと突撃していくゴリラ軍団。時間の短縮にはなるだろうが、もう少し安全に遠距離攻撃で片付けようよと、敵の射程外からの攻撃が1ミリでも通れば、それで敵をどれだけ時間がかかっても倒すスタイルの小心者の遥は苦笑する。


 敵が撤退し始めて、ドンドン戦線を押し上げていく。ようやく億ションが見えてきたところ、サルモンキーはバリケードを作っており、そこにグレネード持ちが待機していた。


 一斉にグレネードを投げてくるサルモンキー。連携はできないらしい。投げられたグレネードを見て、遥の横からダッシュするナナ。懐かしいサスマタを片手に持っている。


 飛んでくるグレネードを、ハッと掛け声を上げてカキーンと打ち返していく。いつか見せた遥のやった行動そのままである。弾き返されたグレネードはサルモンキーたちへ当たり、轟音と共に爆発していった。


 チートな力にでも目覚めたのですか? と聞きたい。どうやらまた力がアップした相変わらずの主人公ナナである。エッヘンとこちらを胸を張ってみてくる。


「お見事でした。でも危ないから気を付けてくださいね? 数秒持ったまま当たるとすぐに爆発するように投げられたら、危ないところでしたよ?」


 一応忠告する遥。ナナの行動が危なくて不安であるので、心配ですという表情で忠告する。


「そうしたら、また治してね。レキちゃん」


 ニコリと笑顔なナナである。その笑顔で遥は不安感いっぱいだ。


 レキちゃんばかりに頼っていられないしと小声で呟いている。その小声を聞き逃さなかったが、まぁ、子供に頼るのは嫌だよね。ましてや警官だしと特にツッコミは入れない。


 グレネード持ちのサルモンキーを倒して、進撃するゴリラ軍団。バリケードを飛び越えようとすると大量のナイフ持ちサルモンキーがバラバラと奥から現れる。さすがにこの大量のサルモンキーを倒すのに突撃はしないのであろう。ゴリラ軍団も下がってアサルトライフルを撃ちまくる。


 その間に銃持ちも増援にくる。戦線は膠着しようとしていた。


 ぶおぉぉという音が、遥たちの後ろから聞こえた。また、装甲車かな? と振り向いたら機銃を撃ちまくる豪族がトラックで突撃してきていた。


 豪族得意のトラック突撃である。あれはレンタル品ですと抗議したい遥。遥とゴリラ軍団がトラックを見て横に避けると、そのまま玄関のバリケードに突撃して吹き飛ばした。


 ドドドドドドドドドとそのまま機銃を掃射して、高級そうな柱も窓ガラスも上品そうな調度品もサルモンキーたちも撃ちまくり殲滅していく。


「ガハハハ。突破口は開けた。全員突入!」


 ドスンと着地音を立てて、トラックから降りガトリングを肩にひっかけて豪族が怒鳴る。


 おお!と頷いてゴリラ軍団がダダダと駆け足で非常階段を登っていく。


「エレベーターは使わないんですか? 綺麗ですし壊れていなさそうですよ?」


 遥は高層マンションを登るのは嫌だなぁと隣にいるナナに聞いてみる。何階あると思っているんだろう? 疲れないレキでも面倒だよ。


「ダメだよ。電源も入っていないし、入っていたとしても危ないよ。敵が待ち構えているかもしれないでしょう?」


 ナナが答えてくれる。なるほど、たしかにエレベーターが到着してチーンとドアを開けたら敵がいるのは王道である。


 でも嫌なものは嫌なのだ。もっと爽快感溢れる移動をしようと手を顎に触れてナナを見る。


「なら、私は別のルートで移動しますね」


 どうやって移動するのという不思議そうな表情のナナの問いかけをスルーしてエレベーター前に移動する。そろそろチートな可愛いレキの性能発揮のお時間なのだ。そしてゲーム少女は無理矢理扉を開いていくのであった。


             ◇


 新築マンションの最上階はキングがいるところだ。その周りは銃とグレネードで装備した精鋭サルモンキーが警備している。


 その最上階にガンガンという音が響いて聞こえてくる。段々音は大きくなっている。エレベーターの方から聞こえるみたいである。


 サルモンキーたちはお互いに視線を合わせて、不思議に思いエレベータードアに首を傾げながら近づいていく。エレベーターは電源は入っていないし、移動は不可能である。もしかしたらエレベーターを吊り下げるロープをよじ登ってくるのだろうか? しかしそれならば、こんな物音はしまいと疑問に思い銃を構えてそろそろとエレベータードアの前に集まる。


 目の前のドア付近で音が止んだ。恐らくはドアを挟んで目の前に何かがきているとサルモンキーたちはお互いに目でやりとりする。下のサルモンキーたちとは違うのだ。連携も可能な優秀なエリートサルモンキーなのである。彼らは銃を一斉に構えて警戒する。


 そっと一匹がドアに近づこうとしたところ、この場所には似合わない可愛い声が響いた。


『超技サイキックブロー』


 ドアがまるで水の波紋のように空間ごと歪む。歪んだ空間は周りにいるサルモンキーたちも持っていた銃もぐにゃりと捻じ曲げて、全てを巻き込んで直進していき破砕していった。


「到着です」


 眠そうな目で澄ました顔で吹き飛ばしたドアから入ってくるのはレキであった。たった今三角飛びの要領でエレベータ通路を飛びまくり移動してきたのだった。


 相変わらずのチートなレキである。


「さて、ボスとご対面といきますか」


 歩き始めようとする。恐らく猿山のボスなんだから一番奥にいるでしょうという考えだ。


 テクテクと歩き始めた遥の耳に絹を裂くような悲鳴が聞こえた。危機感を煽る悲鳴だ。そしてこの悲鳴は聞き覚えがある声である。


 たぶん静香さんだなと戦闘中に全然姿を見なかった困った女武器商人を思い出し、厄介ごとでも発生しそうだと嘆息して急いで奥に駆けるゲーム少女であった。

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