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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
38章 コンクリートジャングルオブハザード

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576話 始原の者

 凶悪なる波動を放つ異形の竜、始原の者。その存在は圧倒的な力と死を予感させる。その威容に遥はのほほんと首を傾げて尋ねる。


「というか、邪悪すぎない? 旧き神々かな? ニャルラトホテプとか、今まで殲滅してきた始原の者にいなかった?」


 ラスボスに相応しい姿だけど、サクヤは創造の神でもあるはず。なのに、禍々しすぎる。旧き神々なら、こんなんなのかとも思うけど。


 超越者となったゲーム少女と、創造と破壊を司る始原の者となったサクヤとナインの融合体。地球が崩壊し始めて大地が砕け、空が暗くなり宇宙が見える中で二人は対峙する。


「我こそは始原の者。愚かなる者よ、我の力を受けるがよい」


「レキは傷薬を使った。ヒットポイントが8回復した」


 始原の者の重々しい威圧をこめたセリフに、遥は傷薬をアイテムポーチから取り出して、ピロリンと擬音を口にして使う。無論、今の身体を回復させるようなアイテムではなく、初期の回復アイテムだ。


「ボスとのレベル差がありすぎると、つい無駄な動きをしますよね。そう思いませんか、ラスボスさん?」


 からかうためだけに、煽るためだけに遥は傷薬を使った模様。


 だが、始原の者の声音は変わらず平坦とした感情を見せない声で悪魔の手を掲げてきた。


「我の裁きを受けよ。始原技 『スターダスト』」


 始原の者を中心に、吹き荒ぶ超常の力。いや、それは既に世界の理を破壊し超越した力。


 その力に反応して


 超越した力を受けて


 地球が爆砕した。


 爆砕した地球の破片が周囲へと飛び散らず、方向性を持たされて遥へと向かう。地球をスターダストに変換させ、始原の者は攻撃をしてきたのである。


 その圧倒的な質量を伴うスターダストに幼気な少女はちっこいおててを差し向けて、対抗技を解き放つ。


『サンダーレイン』


 一条の雷は破片に比べるとちっぽけで、もはや比較するのも馬鹿らしい程であった。だが、その雷は分かたれて壊れた地球を覆い、その破片を粉々に砕いていく。


 遥も超越しているのだ。スケールが変わろうと、既に対抗できる。


 回避するまでもなく、超能力で破片を撃破した遥を見て、始原の者は神の腕を掲げる。


「魂すらも燃え尽き後悔の中で死せ。始原技 『サンフォール』」


 振り下げた腕の先には太陽があった。太陽は遥目掛けて墜ちてきていた。巻き込まれれば、神すらも瞬時に焼き尽くす太陽を見て、遥は翼を展開させて立ち向かう。


「エンチャントアイス。超技 『蒼氷の腕〜!』」


 ちっこいおててに氷をエンチャントして、太陽へと突撃する。小柄な身体にちっこいおてて。そのおてての氷では太陽を防ぐことなど不可能だろうと思われた。


 しかし炎の中に消えていったと思いきや、全てを炎で浄化する太陽が中から急速に炎すらをも凍りつかせ、バラバラに砕け散る。


 砕けた太陽の中心にゲーム少女は立っており、その身体には燃え跡一つない。星の中心にいても、人間の大きさならばゴマ粒より小さく見えないはずが、遥の姿は見えていた。


 あり得ない現象。ちっこいおててに纏わせた氷にて太陽を砕き。


「今度はこっちの番ですね。『雷動波』」


 遥は始原の者を包み込む雷光奔る雷の檻を作り出す。始原の者も星に比べれば見えないはずの小さな存在なのに、肉眼で見えている。


 雷の檻から無限とも思われる数の稲妻が発生し、始原の者のその身体を焼いていく。焼かれていく身体を動かして、始原の者は檻を破るべく超越の力を使う。


「始原技 『ギャラクシーソーサー』」


 始原の者の手には銀河があり、ソーサーとして投擲してくる。星々の光を舞い散らせて、始原の者を囲う雷の檻を打ち壊す。


 いつの間にか、二人は概念のみの世界に立っており、物質世界のくびきから抜け出していた。既に大きさは関係なく、力のみの世界へと立っていた。


「なるほど、これが始原の者たちの本当の目線なんだね」


 螺旋の力は持っていないけどと、くだらないことを考えつつ遥はなぜ神が人間に興味を持たないのか、納得した。概念の世界では地球すらも小さき光にしか見えず、埃の欠片みたいなものだ。


 下等な人間がと、よくゲームとかでは神が蔑むが、このレベルでは無関心にしかならないのは間違いない。


 下等、上等など比べることも始原の者たちならばしない。文字通り眼中にないのだ。世界に生きる生命としか意識はしておらず、個別に人々が懸命に生きているなどと考えないに違いない。


「そのとおりだ。我らは一つの生命体として、人類などを意識している。それこそが始原の者なり」


「その言葉で理解できました。貴方の意識がガラクタで、サクヤとナインに数段劣る創られた意思だということが」


 あの二人なら、そんな答えは出さない。人類を大切には思わないが、意識はするようになっている。


 とすると、この始原の者は戦闘のために創られた意思だと、遥は看破した。ならば遠慮なく倒せるというわけだ。


 ゲーム少女はさらに身体から力を生み出す。適当な成長をしているので、パワーアップの度合いがおかしかったりする。計算式とか関係なく、ざるな成長をしているのである。


「宇宙を見下ろす風景は楽しいですが、私には少し寂しいですので、そろそろ終わりにしましょう」


 蒼い粒子が宇宙へと散って、遥の僅かな動きで銀河が崩れていく。これは位相をずらしておかなかったら、大変なことになっていたねと、内心で安堵しながら身構える。


 始原の者は神の腕を突き出して、超越の力を使う。まるで、宇宙の星々が埃のように吹き飛び、世界が暗闇に覆われる。


 なにもない空間となった世界で始原の者が神の腕を振り下ろす。


「始原技 『創生の光』」


 音もなく、ただ暗闇に太陽が昇るが如く光が生みだされて、光の大爆発を起こした。光のみに覆われた世界。ビックバンを、世界の始まりを始原の者は創造したのだ。


 暗闇を打ち消し光の中で存在するのは、始原の者のみと思えたが


『サイキック』


 ぽそりと小さな声が聞こえることに、始原の者は僅かな身じろぎをして、動揺する。今の一撃はあらゆる敵を葬ってきた技だ。創生の光はあらゆる過去の存在を破壊し打ち消して新たなる創生をする。創造と破壊の力が融合した技であるのだ。


 しかし、光の中で始原の者は力を感じた。竜の首をもたげて見ると、光がねじ曲がり概念の世界でも小柄な少女が翼を広げて現れる。ゆっくりとふよふよと飛んでくる少女に創生の光は届かず、蒼い世界が広がっていた。


 蒼き世界はどんどんと拡がっていき、始原の者が生み出した創生の光を駆逐して、やがて世界の全てを覆い尽くす。


 少女が生みだす蒼き粒子がまるで星のように輝き、銀河を創り宇宙を形成していく。


 始原の者がその力を見て、ようやく感情を持ったのか、全ての竜の目を見開き驚愕していた。機械的な自我でも、力の差がようやく理解できたらしい。


「サクヤとナインには悪いけど、たとえ融合体でも私には遠く及ばないんです。既に私の力は次元が違うので」


 遥はゆっくりとした口調で優しさすら感じさせる声音で始原の者に告げる。


「……まだわからぬ。我の」


 始原の者が口を開き、超越の力を使おうとするが


「いえ、わかっています。異形の姿でも、私より身体を概念世界でも大きく見せても、全てはコケ脅し。本質は変わりませんので」


 ちっこいおててをピッと伸ばして、手刀へと変えると蒼き粒子を纏い、遥は超能力を使う。


「超技 『蒼剣の舞』」


 その瞬間、世界が凍りつく。全てが凍りつく中で、蒼き軌跡が刻まれていく。


 ゆっくりとも、瞬間にでも始原の者には見えていた。


 刻まれていく。世界へと蒼き軌跡が。


 きざまれていく。みずからのからだに。


 どんなてきをもたおしてキタワレニ


 ホロブ、ホロンデイク


 ナニカタイコウヲシナケレバ……


 始原の者はその思考を凍らせて、世界と共に凍らせて


 やがて全ては細かい蒼き粒子となり消えていく。


 あらゆる攻撃に耐える竜の堅牢さも


 どんな攻撃も癒やす神の光も


 いかなる敵をも倒す悪魔の力も


 始原の者の無限とも思えた底知れぬエネルギーも


 始原の者の身体が消えていく中で、その概念ごと消されるのであった。


「私の蒼き粒子は念動力を抱えているのです。その粒子に触れた敵は全て凍るように肉体も概念も止められて、消滅していきます。たんなる強い種族を融合させた身体では私には及びません」


 遥はゆっくりと右腕を振り絞り、身構えて消えない最後の存在へ向けて平静で冷静な表情で告げる。


「停滞フィールドでも意味はありません。弱攻撃からの強攻撃を見せましょう」


 チュートリアルにて言われた言葉を今こそ実践してあげようと。


 そうして、右腕に蒼き粒子を纏わせて


「超技 『サイキックブロー』」


 収束された一撃を右腕から繰り出す。


 初めて戦いで使ってから、今まで愛用していた技。


 もっとも信頼できる技。


 そして最後を決める技。


 蒼き粒子は渦となり、暴風のようにその軌道の空間を削りとり、最後の敵、彫像となり攻撃をなんとか防いでいたサクヤとナインへと命中する。


 先程よりも収束されて威力を増した一撃に、パリパリと金銀の彫像の表面がサイキックに剥がされていき、中の二人が出てくる。


 精妙なるその一撃はサクヤとナインを守る停滞フィールドを打ち消して


「アワワワ」


「キャアッ」


 最後に爆発するように、暴風を発生させて、慌てる二人を吹き飛ばして消えるのであった。


 蒼き翼を翻して、遥は吹き飛ばされてぐるぐると回転して慌てる二人を見てクスリと笑う。


「私の勝ちです。知らなかったかな? メイドはご主人様には最後には敵わないんです」


 頬を緩ませて、感情豊かな表情になり、ゲーム少女はおかしそうにちっこいおててを口にあてる。

  

「なので、最初にメイドとして私に仕えた時点で、サクヤとナインの負けは決定していたのだ」


 可愛らしく少女は笑いながら、慌てる二人は珍しいと、回転を止めようと懸命になる姿をクスクスと見守るのであった。


 そうして、始原の者とゲーム少女の戦いはゲーム少女の勝利にて幕を閉じた。


 笑いながら二人を見る遥の周りに再び宇宙が現れて、星々の輝きが戻ってくる。


 遥たちは阿蘇山の火口へと戻っており、先程の戦いが夢か幻のように痕跡を残されていない。


 火口から離れた森林からは小鳥のピピピと鳴く声や、動物たちの動く音が聞こえ始めて、溶岩も再び熱を持ち流れ始めていく。


 神域からの位相を戻し再び元の世界へと戻った世界にて


 未だにゲーム少女は笑っていた。負ける可能性はあったのだと知っていたから。


 作戦が見抜かれれば負けるのは自分であると理解していたから。


 この楽しい生活が負けることにより、変わると知っていたから。


 その目には僅かに涙が輝いており、勝利したことを喜んでいたのだが


 その内心を知る者は誰もおらず、ただ少女の可愛らしい声のみが世界に響き渡るのであった。

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