55話 出撃!ゴリラ軍団とゲーム少女
新市庁舎の前には大勢の人々が集まっていた。以前ならゾンビを恐れて外に出ることもなかった人々は、今はゾンビがいなくなり新たな戦いに出向かんとする軍団を希望の色を宿しながら、見送りに集まっていた。
「お前ら! この戦いで儂ら人類は復興を開始とする!」
簡単なお立ち台が玄関前に作られており、その上には集まった精鋭に対して鼓舞するため演説をしている豪族がいる。
その豪族を見ながら、話が長そうだなぁ。校長とかの挨拶は苦手だったなぁと遥は思い出していた。幸い会社の社長は長い話が嫌われるのを知っていた。なので何かイベントがあっても短いスピーチで終わっていたので、学生時代が長い演説を聞く最後の経験であった。選挙の街頭演説などは勿論聞きません。
まだまだ長そうな話をする豪族をぼ~っと見ていながら考える。50人ほどのゴリラ軍団だ。ナナのように女性も少しいるが、基本ゴリラばかりだ。
こういうのって漫画だと全滅して、後に残る人々は混乱しちゃうんだよね。そして主人公が出てきて、皆落ち着くんだとか、困っていることを解決したりして、その混乱を解消しつつリーダーとして皆に認められて成り上がっていくみたいなパターンだと遥は思った。最後に裏切りがあってコミュニティが崩壊し、リーダーの仲間だけ新たなる安住の地を探すエンディングである。
まぁ、そうはならないけどねと視線をずらす。そこには軍用歩兵輸送用トラックが装甲タイルをガシガシつけられて駐車しており、運転手とか兵隊がトラックから豪族をみていた。トラックには静香もでっかい箱を置いて一緒にいるちゃっかりさんである。
一見すると固定機銃は装備されているが、歩兵を輸送するための荷場所は屋根もなく、無防備に見える。敵の掃射を荷場所に受けたら歩兵全滅確実な感じだ。
だが、これは遥が超常パワーで作り上げた車両なのである。ガシガシついている装甲タイルには意味がある。敵の攻撃を全て装甲タイルが剥がれることで防ぐのだ。
通常の攻撃では例え地下200メートルのシェルターでさえ岩盤を貫いて破壊するミサイルでも、このトラックなら、装甲タイルが何枚剥がれた! という感じである程度の装甲が剥がれるだけで済む。勿論、歩兵のいる荷場所も同様だ。運ばれている歩兵の頭をヘッドショットだとスナイパーが狙っても、不可視の防御が発生し、装甲タイルが剥がれるだけなのである。
なんと頼もしい車両なのだろうか、安かったしと自画自賛するゲーム少女。
しかし、この頼もしい車両を豪族が怖い顔を迫らせて強い口調で、ずっとレンタルしたいと言ってきた。それはもうレンタルじゃなくて借りパクじゃね? と思うがレンタル代は払うというので、大いに悩んだ遥である。あと豪族が少し怖かった。
一番悩んだのが敵に車両を奪われたり、大破することである。その場合、奪われたら地の底まで追いかけて、大破したら必ず回収して直す所存のケチな遥である。自分が廃車にする以外に車両を失うなんてことは耐えられないのだ。
ゲームで何々を失いましたと報告されたら、必ずロードをするゲームスタイルなのだ。
だが、豪族はしつこいし自分で使う予定も無い。困った遥は、車両の位置が常に特定できるビーコンみたいなものができないかと基地に戻ってナインに聞いてみた。
「レーダー施設ですね。それならば自分の車両の位置も常にわかります」
いつも笑顔で可愛い金髪ツインテールは教えてくれたのだ。
おぉ、素晴らしいそれでいこうと、可愛いレキぼでぃで小躍りしながら遥は実行しようとしたところ、
「ただし、車両の位置が常にわかるレーダー施設は設置するのにlv4の建設スキルが必要です」
と申し訳なさそうな表情で、こちらの顔をうかがうように続けて教えてくれたのだった。
おぉ、駄目じゃんそれと、ゲーム少女は床に両手をつけてがっかりである。レキの小躍りを撮影していたサクヤはホクホク顔である。
何やら基地建設には建設スキルlv4が必要となるとナインが伝えてくるので、なるほどね、拠点lv4だものね。そういうの必要だよね、とゲーム的に納得する遥。
今のスキルポイントはスキルコアを入れれば11である。lv4までは10必要なので問題はないが、戦闘スキルも取りたいし、そろそろ超能力スキルのレベルも上げておきたい。全然スキルポイントが足りないのじゃーと、フカフカの絨毯の上でゴロゴロ転がってどうしようかと悩んだのだ。
小柄なレキがゴロゴロするとすごい可愛いので、ご主人様、ゴロゴロ姿も可愛いです。ちょっとこちらに目線を向けてゴロゴロお願いします。と撮影をしている銀髪メイドの声が聞こえてきたが、幻聴である。
建設かぁ。建設施設って大事なんだよねと、ゲームでは穀物倉庫より先に兵隊を大量に作ってゲームオーバーとなったこともある、知力の高さに定評もあるおっさんである。穀物倉庫を作る前に周りを侵略して資源を増やせばいいと思ったのだ。
その痛い経験があるので、悩みに悩みまくった。本来はもう少しスキルポイントに余裕があるはずなのだ。何故ならば基地ができるレベルならばレベルも相応に高いはずである。
ちらりと外を見ると畑が少し広がっていて、あとは更地でがらーんとしている基地内が見える。基地には見えない。ただの畑である。
ツヴァイが働いているのを見て、頑張っているな、また泥だらけになっている機体がいるな。洗ってあげようと考える。自分の機体とかは常にピカピカ希望な遥である。ゲームでは必要もないのに、そろそろ洗車が必要だねとお金をかけて洗車していた。
なので、泥だらけで酷い姿のツヴァイを見つけたら、洗車よろしくごしごし洗っていたのだ。レキだと器用度が高いので10分もかからない。髪を乾かす時間もいれて楽勝である。暇でしょうがないときはおっさんぼでぃでも洗っていた。おっさんぼでぃだと1時間以上かかるし、女性型を洗うのはためらってしまうので、なかなかやらなかったが。
一時期何故か外に出たらツヴァイたちが泥だらけになって、ずらっと並んでいた。何気にツヴァイの中にアインも混ざっていた。それを見たときは、マシンロイドってAIでもあるの? とナインに聞いたこともある。ありますよ? 機械人形統合施設もできましたので、簡単なAIですが。と言われたので、マスキングされている好感度でもあるかもと、ますますマシンロイドを洗うことにした遥。もはやペットと同じ扱いである。
見てわかる通り施設が全くない我が基地である。寂しい事この上ない。多分他の人がみたら、畑としか思わないだろう。基地とわかる人間は超能力者しかいないと思われる。
そして、DLCパワーで適正レベルを超えた活動をしている弊害でもあった。13レベルしかないのである。建設スキルを取るにはスキルポイントが必要。スキルポイントを取るにはレベル上げが必要。レベル上げをするにはミッションをクリアしないと駄目と、詰んでいる方式であった。そして拠点聖域化があるので、防衛にスキルを振らなくても良いという、建設スキルを上げる理由が減る理由もある。
結局悩んだ結果、建設スキルは取らずにレンタルすることに決めたのであった。清水の舞台から飛び降りる決心だと自画自賛の遥であるが、豪族たちは近くのエリアしか探索しないはずなので、車両の奪取や大破は起こる可能性が低い。なので、うーんうーんと長いこと悩んで決心するまでに憔悴したダメなゲーム少女がいただけとなった。
そんな余計なことをつらつらと考えながら飽きたし眠いしで、眠たそうな目をしているレキはいよいよ眠りそうである。というかコクリコクリと寝ていた。こういう演説を聞くと余計なことを考えていつの間にか寝てしまうのだ。
もう目を閉じていて、体もフラフラのゲーム少女である。あと少しで、ビクッと体が動き恥ずかしい思いをして起きることは間違いない。
しかし、そうはならなかった。頭を誰かが掴んできたのである。
ぎりぎりと頭が鳴りそうに掴まれたので、誰かな? とそれぐらいの掴みではダメージを受けないゲーム少女はつかんだ相手を眠っていた目を開けてみてみた。
目の前には鬼がいた。いや、よく見ると豪族であった。どうやら演説は終了したらしい。周りの人々が苦笑している。ナナが寝ているレキちゃんが可愛くて起こせなかったのと両手を合わせて謝っている姿もある。
「そんなに俺の演説は退屈だったか? 子守歌にでも聞こえたか?」
怒りの表情で詰め寄ってくる豪族。
「はい。いいえ。眠っていなかったですよ? 目を閉じながら感動的な演説を聞いていたのです」
よく使われる、目を閉じながら聞いていましたよの言い訳である。
「そうかそうか。なら出撃と言ったときにもお前は動きもしなかったがあれはなんだ?」
逃げ道を塞がれた。おろおろと助けを求めて周りを見る。
「ナナさん、助けてー。豪族が鬼になっています」
まだ寝ぼけていたのだろう。ついナナに助けを求めてしまう。まぁ、起きていても寝ぼけている時と同じかもしれないが。
ワハハハハッと周りが笑っているのを見て、羞恥で真っ赤になるレキであった。
◇
コントのような豪族と遥のお話し合いも終わり、いよいよ出撃である。なんとなく緊張感のない部隊がトラックと共に移動を開始する。なんで緊張感がないんだ? 戦争だぞ! 激闘となるかもしれないよ? と遥は憤る。
コントの前はガチガチに緊張していたが、豪族と遥のコントで緊張感が良い感じで抜けたゴリラ軍団であったことには気づかなかった。
今回はゴリラ警官隊長は拠点の守備のために残るらしい、そのため、出撃陣は豪族とゴリラ自衛隊隊長をリーダーとして行動する。ぞろぞろと移動するので、大人数での移動は苦手だなぁと、団体行動が嫌いなゲーム少女は思うが、隣では、ナナが頑張ろうねと笑顔で話しかけてくるので、適当にがんばりましょうねと相槌をうっておく。
そして移動を開始したところで、部隊の移動を塞ぐように子供たちがぞろぞろと数人現れた。
なんだろうと見てみると、この間助けた学生たちである。生徒会長ぽい人と体育会系の数人の男子が集まって道を塞いだ。
「なんだ、お前たちは!」
怒鳴る豪族。遥が怒鳴られたら、すみません、今よけますねと、すぐ道の端っこに移動するが、その学生たちはどかなかった。
「僕たちも戦いに行きます! 連れていってください! きっと役に立つはずです!」
言い返してきた生徒会長っぽい子、もう生徒会長でいいやと決めながら、驚いてその男子を見た。周りも驚いた顔で見ている。
「そんな子供だって戦いに行くのでしょう? 僕たちも行きます!」
レキを指さし、そんなことを言ってくる。まぁ、見た目は小柄で可愛いゲーム少女だ、仕方ないとも思うが、この生徒会長は度胸がすごいなとも考える。
何しろ、移動する軍隊の前に出てきたのだ。なんという度胸なのだろう。主人公気質だなと思う。主人公と違って、取り巻きは女子じゃないみたいだけどと、周りを見ると部隊を見送るために集まっていた他の学生が男子は期待してるぜという目で、女子はうざそうな困った人ねという表情で生徒会長を見ていた。
まぁ、そうだよねと遥は思った。アニメや小説みたいに取り巻きが女子のみなんてありえないのだ。現実の学生生活でそんなことをしたら、その主人公は確実に男子に総スカンを受けるだろう。取り巻きの女子も他の女子たちに陰口をいわれるだろうし、まともな学生生活は送れまい。そのために例え目的の男子がいても女子達はその取り巻きになるわけではなく、何人かの男子も混ぜて同数のリア充グループを作るのだ。現実は厳しいのである。
「お前たちが戦えるというのか?」
豪族が部隊から一歩前に出て、生徒会長に尋ねる。多分ちょっと怒っている。遥ならすぐ謝り、何かの間違いでした。すみませんである。
「はい!その少女も戦えるのですよね? 僕たちも戦えます。もしかしたら戦場で力に覚醒するかもしれません!」
そういうのアニメや小説で見ました! という副音声が聞こえそうな感じだ。ブフッと遥は噴き出して笑ってしまった。すごいぞ、この子、力が覚醒って真面目な顔で言っていると大笑いをしてしまう。アハハハハと周りに響くように笑ってしまった。だってツボに入ったのだ。仕方ないのだと大笑いは続くのであった。
笑うレキを見て、生徒会長は顔を真っ赤にして怒り、怒鳴ってきた。
「君だって、こんな世界になって命の危険かなにかで力が覚醒したんではないのか? 子供ならその可能性があるのではないか? そうなんだろう!」
アハハハと腹を抱えて大笑いしながら、こんなにレキで笑ったのは初めてではないかと思いながら、ヒーヒー笑いすぎて苦しいと息がきれそうになりながら答えた。
「私は最初からそういう風に作られたのです。あなたの言われるように後天的に発生した力ではありません。残念ですが」
ゲームキャラ作成で作ったのだよ。DLCで色々買ってチートなスキルを色々つけて作成した傑作。黒髪黒目の眠たそうな目と庇護欲を見出す子猫を思わせる小柄な可愛いレキなのだよと心の中で答える。
そう思っていたら、ぎゅっと腕を掴まれたので驚いてみたら、ナナが気づかわし気な顔をしている。
やばい笑いすぎたかと遥はすぐにペコリと謝った。
「すみません。笑いすぎました。でも笑える内容でしたので」
すぐに眠たそうな目をした澄まし顔に戻る。感情を制御できるレキはすぐに冷淡にも冷酷にもなれるのだ。
一瞬のうちに無感情となったレキを見た後で豪族が叫んだ。
「よし! 連れていくことにしよう! 武器は持っているのか?」
おいおい、この学生たちを連れていくの? 確実に足手まといになるよ、というか必ず部隊を危険にさらすよ?
パアッと明るい顔になる生徒会長。
「武器はありません。支給をお願いいたします!」
背筋を伸ばし、胸を張って図々しいことを言う生徒会長。なんだろう、勇者かな? 初期装備はくださいねということなのだろうかと呆れてしまう。周りを見ると皆も呆れた顔をしていた。
「そうか。ほら、これを使え」
豪族はその言葉を聞いて呆れることもなく、なんと自分の背負っていたアサルトライフルを外して、生徒会長に渡す。
頼りになるだろう重さの銃を、嬉しそうな顔で受け取る生徒会長。なぜかこちらを見てドヤ顔だ。
だが、そのドヤ顔もすぐに収まった。
銃を受け取った生徒会長を見た豪族はすぐさま腰のコンバットナイフを抜いて、一閃、腕を振りぬいて生徒会長の手の甲を斬ったのである。
「うわぁぁぁ、手が、手が! 痛い! 何をするんですか!」
切り裂かれた手の甲を押さえて、豪族を驚いた顔で生徒会長は見る。
「敵はコンバットナイフを主力にする猿たちだ。今のでお前は死んだ。死亡兵だな。拠点の連中! この死亡兵を回収しろ!」
その様子を見て、静かに威圧感のある表情で怒鳴る豪族。
「次の志願者は誰だ! 前にでろ!」
取り巻きの学生たちを見ながら叫ぶ。生徒会長を見て、それから怒鳴る豪族を見て、慌てて逃げるように散らばっていく取り巻きたち。
「お見事でした。百地隊長」
ゴリラ自衛隊隊長が豪族を称賛している。うずくまり手を押さえている生徒会長は椎菜さんたちが、尻を蹴っ飛ばしながら拠点内に移動させていた。
勿論、遥も豪族の姿を見て感動していた。凄いかっこいい。私もやりたい! 映画みたいだとミーハーなゲーム少女。同じことをやってみたいので、周りをきょろきょろと見たが、誰も来なかった。がっかりである。私は優しいからマジックペンで顔に落書きする程度に抑えたのになぁ。
「余計なことがあったが問題ないな。出発!」
豪族は何事もなかったかのように号令を出し、部隊はようやく出発をし始めたのであった。




