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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
38章 コンクリートジャングルオブハザード

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573話 二人の少女

 驚愕の真実に遥は拳を握りしめて吠える。


「ドーナツ全部食べたな! 食べ物の恨みは怖いからね? あとでサクヤの夕ご飯はお粥にするからね?」


 その真実を知り悲しき思いを抱きながら、おっさんは椅子から立ち上がった。


 手についた砂糖をペロペロと意地汚く舐めながら、サクヤはフッとクールに笑う。その姿は普段と違い、冷酷なクールな女性であった。そういうことにしておこうと、おっさんは思うことにした。


「これよりは拳での語り合いとなります。遥さんを叩きのめして眷属とします。元々眷属にするつもりでしたが、貴方は自立した存在。その根っこに私たちの力が残っていれば簡単に眷属にできたのですが、完全に払拭していますし。なんで全部自分の力に変換しちゃうんですか!」


 途中から愚痴になったような気がするが気のせいに違いない。


 さてとと、おっさんが手を振りテーブルとソファをアイテムポーチに仕舞う。何気に高価な素材を使っているので、壊されたら困るセコいおっさんである。


「私たち二人と戦うことがラストクエストです。始原の者と戦い負けるのだ! 報酬はこれからは眷属として、こき使われる人生です。今まで私をメイドとして、こき使ってきた遥さん」


 ふふふと、冷酷に笑いながら、真の黒幕サクヤは口元についたドーナツの欠片をナインにハンカチで拭いてもらいながら、告げてきた。サクヤをこき使ってきた過去……別世界の私かな?


「それじゃ、私はクエストをキャンセルして、ボス戦に挑むことにするよ。でも、その前に秘密アイテムを使わせてもらおうかな」


 遥は目を細めて、ピラミッドで密かに作ったアイテムを取り出して、手に握る。額に汗が流れて、微かに身体が震え、緊張感を持つ。


「密かに用意したアイテムですね?」


「なにを用意していても、私たちには通じません」


 サクヤとナインが遥の様子を見て、多少の警戒をみせる。今まで緊張していなかった遥が緊張する程のアイテム。それ程の力なのだろうかと。


 遥は地を蹴ると、素早くナインとの間合いをなくして手をつきだす。


「わ、私と結婚してください、ナイン!」


 その手には指輪の仕舞われた小箱があった。キラリと光る凝縮された美しい大粒のダイアモンドマテリアルを宝石に、台座をゴールドマテリアルで作成された指輪。


 おっさんは緊張して喉がカラカラであった。新居の話から結婚することを決心したのだ。そのための指輪である。


「……マスター。いえ、遥。ここで結婚をお受けしても手加減はしませんよ?」


 ナインも緊張を表情に浮かべて尋ねてくるが、遥は静かに真剣な表情で言う。


「どちらが勝っても、今までの関係とは変わるかもしれない。私が勝ったあとだと、無理矢理に承諾させたかもと思うだろうし、その反対も同じだ。だから戦う前にプロポーズしたんだよ」


「そうですか……、そこまで考えていたんですね……。こちらこそ喜んでお受けします遥」


 ウルウルと目を潤ませて、ナインはソッと遥の手の内にある指輪を摘み左手の薬指につけて、遥との結婚を承諾して満面の微笑みになるのであった。


 めでたしめでたし。おっさんは幸せに暮らしましたとさ。


「遥さん? ちょっとめでたしめでたしとか言っても駄目ですからね? 戦うのは決定ですので」


 ムキャーと、サクヤがその光景を見て、地団駄を踏みながら言ってくる。


「はいはい、わかってますよ。ほら、これを受け取っておいて」


 遥はもう一つ小箱を取り出すと、サクヤへと投げつける。ん? とサクヤは受け取り小箱を開けると、ルビーマテリアルと台座にシルバーマテリアルの指輪が入っていた。


 予想外の指輪に驚きで息を呑むサクヤへと、遥はニヤリと悪戯そうに笑う。


「サクヤは戦いが終わったあとにしよう。それの方が戦いにやる気がでるしね」


「意地悪な人ですね、まったくもぉ〜、もぉ〜」


 サクヤは憎まれ口を叩きながらも、嬉しそうに指輪を左手の薬指に嵌めて、空に翳して眺める。


「むぅ、私にプロポーズしたのに、すぐに姉さんにも指輪を渡すとは、俄然戦うやる気がでてきました」


 ジト目で遥を見ながら、クスリと笑うナイン。


 トンッと二人は地を蹴り、遥と間合いをとると身構えて、真剣な表情で告げてきた。


「我ら始原の者たちを相手にできますか?」


「最後の試練です、朝倉遥」


 金銀の始原の者たちの言葉。その言葉だけで、空気が突風となり、世界が震え始める。


 風に煽られながらも、遥も不敵に笑う。


「私の戦いを今まで見てきただろう? 勝てると思った時にしか戦わないんだよ?」


 そう口にした遥を黄金の竜巻が巻き起こり姿を隠していく。


 二人がその様子を見つめている中で黄金の竜巻は消えて、可愛らしい少女が二人現れた。


 双子のような黒目黒髪の少女。朝倉レキが二人佇んでいた。二人共同じ神秘的な意匠の蒼い鎧を身に着けて、その背中には10枚の光の羽根が生えていた。厨二病なのがわかるデザインである。


「二対二から始めようか」


 レキぼでぃとなった遥は不敵に笑い、隣に立つレキはナインへと声をかける。


「ナイン。今日が来るのを楽しみにしていました。どちらが上かわかるときですね」


 二人のレキ。片方は偽りだろうから、ゲーム少女の方だと思いたいが、残念ながら違っちゃう。


 ナインはフムフムと顎に手をあてて、レキの正体を見抜く。


「今まで貯め込んでいた宝珠を全種類使ったんですね。ピラミッドで創ったのはそのボディだったんですか」


「そのとおりです。貴女たちの指輪もセットでこのボディを旦那様は創りました。即ち、私が一番愛されているという証拠ですね。指輪はオマケです」


 フンスと胸を張り、無感情なレキにしては珍しく得意げな顔をしてナインを煽るレキ。私が一番なのは宝珠の塊であるこのボディが語っていますと、ご機嫌な様子。得意げなレキはとっても可愛らしい。


 ナインは眉をピクリと動かして、口元をムムっと僅かに引き締めるが、特に怒るでもなく淡々と言う。


「極めて人間体に感覚が近く、そしてパワーも今までとは桁違いに籠められています、か」


 かぶりをふって、ついっと白魚のような指でレキを指し示しながら冷静に解析をする。


「それでも私たちのパワーには辿り着けません。いかにアイテムを駆使しようとも、越えられない壁があるんですよレキさん」


 残酷な言葉を告げるナインだが、レキはそんなことは言われないでも理解していた。だが、それで良い。ダメージを与えられるレベルに入ったからだ。


「ナイン、貴女の余裕綽々な態度。今日を限りに終わりにします」


「さてさて、戦闘開始かな」


 レキと遥は拳を胸の前で構えて半身になる。二人の少女から波のようにエネルギーが発生して、世界が蜃気楼のように幻のように、その存在を希薄にする。


「世界にダメージが入らないように、神域で包み込みましたか。遥さんは完全に力を使いこなしているんですね」


「では私たちも戦闘モードを見せますね」


 サクヤとナインは表情を今まで見たことはない凍えるような冷酷な顔へと変えて、自らの力を解放する。二人から金銀の光の柱が生まれて、その姿を変えていく。


 二人は後光を発し、滑らかな関節部も隙間の無い金銀の鎧を装備する。その煌めきは人間では魅了され、神や悪魔でさえも傷つけることのできぬ圧倒的な力の波動を感じさせていた。


 最後に背中に漆黒の羽根を生やして、身構える。構えて力を解放する二人の力により、地面は砕け、空は震え、世界は鳴動する。


 二人と二人。異なる力の持ち主たちが対峙し睨み合う。手加減無用の真剣勝負が始まったのだ。


 先手をとったのは、遥たち。遥は空からスナイパーライフルを取り出して二人へと銃口を向ける。


「超技 『ピアッシングブリッツ六連』」


 連続で引き金を弾き、超常の力を込めた弾丸を撃ち放つ。空気を斬り裂き、世界をその威力で軋ませて、槍と化した六発の弾丸で敵を貫くべく本気の攻撃をする。


 遥は本気の本気で戦わねばならぬと理解していた。手加減すれば負けるとも。そして負けたあとに眷属となった自分は、その在りようも変わるとも。


 だから、おちゃらけて負ける訳には絶対にいかないのだ。


 決意は硬く、戦意は高く、遥が先手をきると同時にレキが足を踏み出し、二人へと迫ろうとする。

 

「時間稼ぎをしようとも、遥さんを相手に私も時間稼ぎができるんです」


 レキがナインを抑えている間に、遥が私を倒す作戦だとサクヤは見抜き、冷たい笑みを浮かべて手を横薙ぎに振るう。


 その手からは銀の光が舞い散り、空中に散った無数の石礫を包み込むと、創造の力を得て石礫は受肉する。


「オアアアア」


「ラアアアア」


「ルオオオオ」


 石礫から生まれたとは思えない力の持ち主たちが咆哮して遥へと襲いかかってきた。それは竜であり、神であり、悪魔であり、精霊であり、巨人であった。


 火口は次々と生み出される異形の者たちに埋め尽くされて、津波のようにそれぞれが持つ武器を振るいながら遥をその数と力で押し潰そうとする。


 無数の異形は一体だけでも、失敗作であったノア以上の力を持っており、世界を支配するに相応しい力の持ち主たちである。


 六発の槍と化した弾丸は津波のような異形の群れへと入りこみ、障壁を作り己を守ろうとする敵を障壁ごと貫きとおし、さらに後ろの敵も貫き横穴をつくるが、途中で威力を無くし消えてしまう。


「ちょっと面倒くさいね。超技 『チェインサイキックレーザー』」


 遥はその数と力に舌打ちをしつつも、ちっこいおててを振りかざし、サイキックレーザーを放つ。


 空気を歪め、通り道を砕きながらサイキックレーザーは敵へと接触する。先程と同じく障壁などは存在しないようにあっさりと敵を強力にして致命なる力で破砕して、それだけではなくレーザーは蛇のように這い回り、周囲の敵へと向かいその全てを歪ませて消滅させていく。


 あれほどいた眷属たちが消滅していく中で、サクヤが両手にそれぞれ剣を持ちながら突撃してきた。


 神器などという名前では生温い程の力を感じさせる剣を振りかざしサクヤは冷酷に薄笑いをする。


「パワーは遥さんにほんの少し劣りますが、未だに誤差の範囲です。戦闘経験と鍛え抜いた武具に身を包む私には勝てません」


「戦闘経験と武具、か。だけど戦いは始まったばかりだよ」


 空間を斬り裂き、世界を断裂させながら、サクヤは超高速で剣を振るう。連続で振られる剣の間合いから遥は翼を全開に広げて逃げようと、後ろへと下がる。


 シャキンと銃を構えて、連続で弾丸を放ち牽制をする遥に対して、サクヤは数回剣を振るい弾丸の全てを切り払い間合いを詰めようとする。


「レキさんが勝って合流してくるのを待とうと? 無駄ですよ。今までの敵とは私もナインも違います。レキさんが勝つことはなくナインが勝ち、私に合流します」


 サクヤは勝利の未来を告げながら、鮮烈な波動を生みだす。その波動から、またもや神族や悪魔族、竜が現れる。今度は力を集めたのか、たったの三体。されど、先程よりも凶悪な力を持つ三体。


 底知れぬ力をサクヤから感じとり、さすがは創造者だと遥は感心しつつも、笑みにて答える。


「私はレキを信じているんだ。だからこそ、戦いを挑むことにしたんだよ」


 そうして、創造者とその眷属へと再び銃口を向ける遥であった。

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