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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
37章 頑張っている人たちを応援しよう

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559話 考える腹黒少女

 大樹は本気で調査をするつもりはないに違いない。牽制のつもりなのだろうか? 誰かがレキに刑事ごっこを勧めつつ、周りへと牽制をしているとアピールすることを考えたのだろう。誰かではなく、間違いなく朝倉遥だと予想するが。


 詩音は笑顔を崩さずにレキを見つつ、高速で思考を回転させていた。グルグルと回転させる思考は物理的に存在すれば熱を持つほどの勢いで、なにが正解か考えていた。


 謝罪する? たしかにいくつかの放棄された銀行や美術館を護衛と称してウォーカーを買収して部下に資産を回収させていた。本来は交易路ではない道をウォーカーに通るように密かにお願いをしたのだ。


 そして偶然を装い現金や美術品を回収していたが目立たぬように小さな所ばかりを選び、その全てを木野へ渡してマネーロンダリングをして貰っていた。


 一見して木野とは一蓮托生に見えるが、狡賢い男だ。きっと自分だけは罪にならないように動くに違いない。その場合はスケープゴートは私である。


 しかしながら、私が謝罪の言葉を口にしたら、幾ばくかは困るはずだし、それならば謝罪を私がしないとも考えているはず。


 そうだ、謝罪は正解ではない。それにレキはともかく後ろの朝倉遥は当然グレーな私の行動に気づいているはず。銀行や美術館関係は物資調達対象外とは決まっているが、形どおりに私が守るとも考えてはいないのに……。


 なぜ今頃になって、この話が出てきたのかと疑問を思いつく。恐らくはなにかがあったに違いない。それならばベストアンサーではないが、ベターで様子見といきましょう。


「レキ様。もちろん私は社員たちに規則を読み聞かせています。それはしつこい程に。……ところで、この話が出てくるとはなにかありましたか?」


 笑顔を崩さずに、多少気になることがあると尋ね返す。規則を守っているかは答えないでおく。


 フンフンとレキは理解したように、腕組みをしながら首を縦に振り、いかにもな探偵みたいな刑事のようにするが、本当にわかっているのかは不明。たんにそんなポーズをとりたいだけに見える。


「それがですね、違法行為ではないんですが、ちょーおもしろかっこよくて二枚目の男性と、おちゃらけたギャグ要員の女性の二人組により、未開放エリアの財宝が持ってかれたらしいです。実装前のエリアに入るなんてゲームだったら、垢バンものですよね」


 もう、困っちゃいますよと、小さなお口を尖らせてプンスコ怒るレキ。なんとも愛らしい姿ではあるが、なるほどそんなことがあったのね。


「それで一応綱紀粛正〜とかがなりたてる軍のおっさんが出てきたので、民間企業にも確認することにしたんですよ。詩音さんの会社を筆頭に」


「そうだったんですね。理由はわかりました、私共の会社は品行方正で通っていますし、ダンジョンギルドにも登録していますが、まずは生存者の保護を目指しています」


 軍が口を出してきたのね。なら納得です、情報が軍から洩れたと考えた、きっと規律にうるさい軍人がいたのでしょう。それに対応するために、ネームバリューのあるレキを調査役にあてて誤魔化そうとする。


 外向けにも良いアピールになるし、内向けにはなぁなぁで済ます。さすがは朝倉遥ですね。そして、木野はそれを予想していたから余裕の態度だったのだ。謝罪などしていたら大変なことになっていました。これからレキの訪問を受ける同業他社にこの情報を伝えて、貸しを作るのも良いですね。


 内心で安堵をしつつ、あとは使える情報をレキから聞き出せないかと詩音が次のアクションを考えようとしたとき、木野が口を挟んできた。


「ダンジョンには今度詩音君も入って、生存者の保護にあたるそうですよ。やはり社長が筆頭になり、そういったことをするのは社員たちの士気を上げるためにも必要ですからな」


「お〜! さすがは詩音さん、なら装備も同業他社から突き出ている詩音さんの会社にちょうど良いダンジョンがあるんです。まだ開放されたばかりの鳥取砂漠エリアなんですがちょっと危険なところなので」


 木野の言葉に、一瞬頭が混乱して、言われた内容を頭が拒否する。そしてレキの言葉に青ざめて、慌てて否定の言葉を口にしようとする。危険極まりないダンジョンなどに私が入るなんて、冗談ではない。


 だが、木野の視線に気づき、否定の言葉を寸前で押し留めた。その視線には断るなという意味が込められていることに詩音は気づいてしまったのだ。気づきたくはなかったけど、木野は私が気づいたことに気づいている。とぼけるのは難しい。


 なので、口元を引き攣らせつつも、笑顔を作り嬉しそうにパチンと両手を胸の前で叩く。まるで無邪気な子供が遊園地に行くことが決まり、喜ぶように。


 内心は面倒なことになったと、腸が煮えくり返っていたけど。


「そうなんですか! レキ様のおっしゃるとおり、我が社の装備は木野様の御助力もあり、他の社よりもほんの少し充実しています。なので、ダンジョン探索もお任せくださいませ」


「良かったです。ダンジョン探索は楽しいですし、楽しみにしていてください。ひやりとする罠とかもあって、スリル満点なはずですよ。サファリハットは必須なので用意しておいてくださいね」


 レキが言うひやりとする罠……。絶対に精鋭を連れて行くと心に誓う。装甲車に乗って絶対に降りないことも。


 だが、詩音の誓いを無にするようにレキは話を続けてきた。


「カメラマンも連れて行ってください。詩音さんが生存者と心温まる触れ合いをして、それをカメラマンがバッシャバッシャと撮影するんです。私が手配しておきますね、名前はアインさん」


「あ、ありがとうございます。そこまで用意して頂けるなんて、とっても嬉しいです!」


 ちっとも嬉しくない。レキは私を殺すつもりなのだろうか?


「良かったな詩音君。最近、サルベージギルドやダンジョンギルドは生存者を見つけても見ないふりをして、金目のものばかり集めているのではとの声が大きくてね。そこに財宝を奪って行き、生存者を碌に助けなかった者が出てきたんで、困っていたんだ」


 ネタバラシを木野がしてきて、なるほどそのための自分かと悔しいが理解してしまう。自分で言うのもなんだが、私は美少女だ。しかも深窓の令嬢といった感じの。


 きっと良い写真が撮れるに違いない。懸命に生きる生存者たちへ私財を投じて助けようとする儚げな少女。……もしかしたら、もっていき方で、教科書などにも載るかも……。


 詩音はむくむくと野心が膨れ上がるのを自覚した。これは危険な賭けだがリターンは大きい。成功すれば、出版社に金を握らせて、ダンジョンの風景とか、懸命に生きる人たちとか題名をつけさせて写真集を出版するのだ。


 大々的に宣伝もしよう。ラジオや映画館ぐらいしか、日常の娯楽がないこの世界ならば、ベストセラーになるかも。


 成功した未来では、パーティーに呼ばれるたびに、あの写真の少女では? とか、学校などでの講演もあるに違いない。我が社のネームバリューも一気に大衆に広がり……。


 きっと本部もそんな私を放置せずに、空中都市に住みませんかと提案してくるかもしれない。


 ちらりとテーブルの上で空になったガラスの器を見て思う。


 私は常にこれだけのデザートが食べれる身分になる。私だけが夢中になってデザートを貪り食うなんて恥ずかしいことが無くなる。余裕をもって、あらあらゆっくり食べてくださいと、笑顔を浮かべる勝ち組になれるのだ。


 勝ち組となり、天空人となる自分を思い浮かべウットリとしてしまう詩音であるが、すぐに気をとり直す。


 この未来を本物にするには、命を賭けても良い。いや、精鋭がいるのだからリスクも少ないはず。


 なんとなく警告音が頭に響いてきたが、詩音は理性からのそれを欲望をもって聞き流すことにした。それはとても珍しいことではあったが。


「では私は準備をしたいのですが、お暇をしてもよろしいですか?」


「乗り気になったみたいですね。わかりました、私にドーンと任せてください。アトラクションに並ばないで入れるチケットを用意しておきますね。きっと楽しいですよ」


 詩音が乗り気になったことに、目敏くレキは気づいて楽しさを保証する。ムフンと鼻息荒く小さな身体をそらして得意げに。


 だいたいドーンとレキに任せると、ドーンと相手は酷い目に遭うのだが、詩音は欲望で思考を濁らせていた。まさか、体力値が上がり、知力を下げるプリンのせいではないだろう。


 レキと木野はまったくいつもと変化はないのだから、詩音もいつもどおりに違いない。違いないったら、違いない。レキと木野は下がる知力がそもそも無いなんてことはありえないはず。


 なので、詩音は理性を欲望で覆い、妄想に浸ってしまった。このプリンは某銀髪メイド監修だからシルバーであるが、問題はないのだ。ちなみに本当のプリンの名前はムキムキ脳筋プリンである。


「それじゃあ、後で詳細を書いた資料を本部の人が持っていくのでよろしくお願いします」


 危険なダンジョンをアトラクション呼ばわりするレキがニッコリと微笑み伝えてくれるので詩音も満面の笑みで答える。


「承知しました。それでは準備をしなくてはなりませんので、ここで失礼させて頂きます」


 ペコリと頭を下げて詩音は退出する。ここは賭けても良いとき。精鋭部隊に武器を山程持っていく予定なのだから、準備は早めにするに限ります。そうして、私は足早に帰宅の途につくのであった。


           ◇


 木野とレキは空になった椅子を見てから顔を見合わせる。


「ねえ、詩音さん少し変じゃなかった? いつもの腹黒さが表に出ていたよ? なんだか、いつもの詩音さんらしくなかったよ? こんな危険な仕事を引き受けるなんて」


「う〜ん……そうでしたか? きっとバイクの器を持ち帰っても良いか迷っていたんですよ」


 木野はまったく詩音を見ていなかった。考えていたのは、もしかしたら詩音がバイクの器を持っていってしまわないかと、それだけが不安でソワソワしていました。詩音よりバイクの器の方が重要なのだ。


「そっかな? まぁ、つき合いの長い木野さんがそう言うなら、そうなんだろうね。ま、いっか」


 レキは木野の言葉を聞いてあっさりとそうかな、気のせいだったかなと、納得した。してしまった。どうせ結果は変わらないし。詩音はダンジョン行き確定なのです。


「ちょっとこのままだと、詩音さんは本当に生存者をないがしろにして探索させるかもと、ウェスたんは連絡してきたし、ここらへんで詩音さんにはダンジョンでハーレムならぬ、大変な思いをしてもらわないとね」


「上手く行けば良いんですが、仕込みはなしなんですよね? 珍しく」


「うん。やっぱり天然のダンジョンを楽しんでもらわないとね。あっ、バナナはおやつに入ると伝えるのを忘れてました! ちょっと追いかけてきます」


 大変だとレキはアホなことを言って、椅子から立ち上がると詩音を追いかけて行ってしまう。


 それを木野は見送り、自身も立ち上がり、キリッとした目つきで呟く。


「まだ一個残っていまつ。すぐに食べちゃわないと!」


 頭の中はさっきからそれだけで占めていた木野も足早に部屋を退出し


 最後のプリンを食べて、酔ったように絡むメイドの咲の相手に四苦八苦するのであったが、それは別の話。

アースウィズダンジョンのコミカライズがやってます。ピ〇コマなどで見れますので、よろしくお願いします!ピッ〇マなら、最新話以外は無料で見れます!

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