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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
36章 準備をしよう

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554話 財宝塗れのおっさんは企む

 スフィンクスが絶叫をあげながら、その巨体を地に擦り付けるように転がり苦しむ。なんとか糸を外さんと身体を風に変化して抜け出そうとするが、糸から生み出される銀の粒子が輝きを見せると、肉体が元に戻ってしまう。


「無駄だよ。既に身体に食い込んでいるから、もう風にはなれないんだな」


 おっさんは軽薄なおっさんを演じるぜと思いながら苦しむスフィンクスに告げる。KO粒子で練られているいつもの銀糸を使用したのである。その超常の力はスフィンクスの内部から力を封印していた。


「に、人間がこんな力を……」


「まぁ、常人でも戦いようはあるということですね。私とご主人様のコンビネーションの勝利です」


 フンスと息を吐いて、私たちの連携の勝利ですねと得意げなサクヤが胸をそらしながら威張っちゃう。


「常人……。常人?」


 首を傾げて佐子が疑問に思う。風の速さを回避して、見たことのない糸の武器でスフィンクスを拘束する。常人なのかなと。


 もちろん、銀糸を一般兵が使ってもこんな力は出せない。遥もサクヤも人形のパワーを使いまくって銀糸を使っていた。常人では無理なのだが、二人は常人だと思って疑問に思わないので仕方ない。それを知る者はここには二人以外はいないので。


「それじゃあ、さようならスフィンクス」


 ショットガンをスフィンクスの頭に押し付けて引き金を弾くと、弾丸はあっさりとスフィンクスの頭を吹き飛ばして、番人は溶けるように消えていき、奥の大扉は軋みながら開くのであった。


           ◇


「わぁ! す、凄い光景ですね、これ!」


 佐子は感動して眼前の光景に魅入る。それを遥は見て、頬をぽりぽりかきながら言う。


「まぁ、たしかにね。予想していたより全然少ない財宝だけど、こんなものかな」


 大扉の中に三人が入ると、眼前には財宝があった。しかし遥が予想していたみたいにうず高く積み上げられた金貨の山が部屋を輝かせていたという訳でもなかった。


 1メートルぐらいの金貨の山が5つ。その程度であった。正直期待外れだなとは思っていたが、この空間を維持しながらだとこんなもんなのだろう。金貨の山には宝石や王冠、金の錫杖などもあったのでかなりの金額にはなるはず。


 そして5つの金貨の山の真ん中には光り輝き宙に浮く概念の核が水晶の形をして浮いていた。


「これなら新居を余裕で数軒建てられるし、自力で稼いだと胸もはれるね」


 一攫千金を狙い成功したトレジャーハンターだねと、現実的な女性ならコツコツと稼いだお金の方が嬉しがるかもしれないが、こちらもロマンだよ、ロマンと遥はうんうんと頷く。


「それじゃ、三等分で良いかな? 佐子さんもそれで良いかな?」


「えぇっ! 私も貰えるんですか? だってなんの役にも立たなかったですよ?」


 金貨の山を物珍し気に眺めていた佐子は驚いて遥へと振り向いて叫ぶ。まさか自分が貰えるとは思ってもいなかったのだ。足手まといになっていたし。


「さよけ。それなら佐子さんの分はこのピラミッドにいる生存者たちで分けると良いよ。妬みや嫉みを買うより、ありがとうと言われた方が良いだろうしね」


 命懸けで化け物を倒して財宝を手に入れても、ピラミッドに住んでいた人々は佐子が大金を手に入れたと知ったら文句を言うに決まっている。俺たちもいつか財宝を手に入れるために動くつもりだったんだとか言って。そんなことになるなら分けた方が美談になるし、後々の佐子の暮らしが楽になるに違いない。


 私たちは謎のエージェントだったんで文句を受け付ける窓口はないので安心である。おっさんのままなら、きっと小心者なので皆に分けてあげたに違いないけど。


「あ、と、そうですね! ありがとうございます、そうします!」


 ぱあっと顔を嬉しさで輝かせて佐子が頭を下げて礼を言ってくるので、気にしないでと遥は手をひらひらとさせる。


「それじゃ、サクヤ。私はここの概念の核を浄化しておく………う~ん、観光名所として固定化しておくかなぁ? ちょっと考えておくので佐子さんの護衛をしつつ財宝を外へと運んでくれる? もう若木軍も目の前に来ている可能性があるし」


「わかりました、ご主人様。ご褒美は少女の添い寝でお願いしますね。ちょっとレスリング技を練習しておかないと」


 なにやら聞いてはいけないセリフを吐いて、サクヤはいそいそとリュックサックへと金貨を入れていく。ほいっと遥の分のリュックサックも渡したので、へいっとサクヤは重さを気にせず金貨を入れて、王冠を被り錫杖などをポケットとかに突っ込んでいく。


「山賊に気を付けてね? その姿を見たら善人でも襲い掛かってきそうだし」


「その場合はショットガンが唸るので大丈夫ですよ」


「あの、両手が塞がっているように見えるんですけど………?」


 ん? とサクヤは自分の姿を省みる。どでかい登山用のリュックサックを2個担ぎ、王冠を被って錫杖やらネックレスをポケットに入れて、入りきらない腕輪などは自身にジャラジャラとつけている。最後に金のインゴットを両手に抱え込んでいた。


 歩く財宝である。これならワンチャンあるかと人生を賭けて襲い掛かってくる人間がいてもおかしくない。しかも武器がこれだと持てないし。


「佐子さん、頼りにしていますよ」


 ショットガンを佐子へと渡して慈愛の表情でお願いをする銀髪メイド。どうやら護衛を任せるつもりらしい。サクヤが護衛だと言ったはずなのに。


「えぇっと………危険な時は助けてくださいね?」


 佐子も驚きと呆れの表情を浮かべるが、目がドルマークとなっているので大人しく了承をするのであった。げに恐ろしきは金の魔力である。


「それじゃ、すぐに戻ってきますからそれまではピラミッドは消さないでくださいね~」


 財宝をこれでもかと持ちながらサクヤが忠告してくるので、大丈夫だよと手をひらひらと振って見送る。


 そうして二人が大扉を抜けて走り去っていくのを見て、ふぅと息を吐く。


 静寂に包まれた財宝の部屋で、遥は床に転がる金貨を蹴って呟く。


「なぞなぞです。なにか秘密裏に動きたい人が誰にも気づかれずにしたい時はどうしたらよいのでしょうか」


 呟きは部屋へとそっと広がるが、答えをいうものはもちろん誰もいない。遥以外は。


「答え、なにかの仕事に紛れさせて、誰も見ていない時にやる、でした~」


 自分で答えながら遥は目の前に浮かぶ水晶をサッとマテリアルに浄化させて回収して、多少残した水晶の残りの力を使いピラミッドの概念のみを通常のピラミッドへと変換させる。これぐらい楽々になったおっさんなのだ。敵は湧かなくなり、罠も消失させたので安全なただのピラミッドへとこの建物は変化した。


 敵はまだ残ったままだが、それは若木軍なら掃討できるだろうし問題はないでしょう。


 それよりも目的を達成しないといけない。そのためにここまで来たのだから。


 サクヤを連れてわざわざ来たのだから。


「秘密裏に動く必要があったんだよね。たぶんサクヤたちと戦う時が来るはずだし。………でも、二人同時だと負けちゃう可能性が高いし、切り札を作っておきたかったんだ」


 目を細めて遥は一人ごちる。奥の手が欲しかったのだ。誰にも気づかれない奥の手が。


「だけどナインなら見ちゃ駄目だよと言えば見ないだろうけど、サクヤは常に覗き見していたから、どうにかして覗かれるのを防ぐ必要があった………。頭を悩ましたんだけど………」


 サクヤは人形に精神を封印するのは無理だと言っていた。なるほど、その通りだと思う。それが可能な神はいまい。肉体を破壊して魂を封印するという手でも使わなければ。


「ただ、封印は無理でもその動きに集中させることはできる」


 ならば、反対に考えれば良いのだ。ゲーム中毒者のように人形を操作させるのに集中させれば良い。しかも隣には常に見ている遥がいるのだ。覗き見をする必要はない。


 人形にいくら隠蔽機能をつけても、見ようとすれば簡単にサクヤが覗き見れることはわかっていた。だからこそサクヤと一緒に来たのだ。


 サクヤが人形を操作して、覗き見れないことを遊びの一部だと思うように。


 そして今、サクヤの覗き見はない。僅か数十分だろうが充分な時間だ。


 遥はこの人形にもう一つ機能を搭載していた。


 それ即ち


『クリエイト』


 人形の手が光り黄金の粒子が生まれて、蛍の光のように部屋を輝かせていく。


「ステータスボードにないアイテムも作れるようになったんだよね。ではでは作りますか」


 高レベルの生産スキルを受け付けることができるようにしていたのだ。遥の力を受け止めて1個だけアイテムが作れるように。


 使えば人形の力はほとんどなくなり、数時間で崩壊してしまうが所詮使い捨てなので問題はない。必要があったらまた作れば良いし。


 手から生み出される黄金の粒子がどんどん増えていき、遥は一つのアイテムを作り上げるべく力を解き放つ。


「神殺したる武器よ、顕現せよ」


 言葉が発せられると、辺りを照らしていた黄金の粒子は閃光のように輝き、そうして集まっていき


 一つの武器へと変わるのであった。


          ◇


 しばらくして、サクヤがリュックサックを空にして一人で宝物庫へと戻ってきた。


「ただいまです、ご主人様」


 のんびりとした口調でのほほんと言うサクヤへと遥は笑顔で迎える。


「おおおおかかかかえええり。ささくや」


 物凄く動揺した口調で。目も滅茶苦茶泳いでおり、マグロの大群がバッシャバッシャである。顔も背けてやましいことがありますといった態度をしていた。


 その様子にサクヤは目を細めて顔を近づけて疑いの表情を向けてくる。


「ん~? ご主人様、なにか隠し事をしています?」


「しししてないよ? な~んにも隠し事なんかしていないよ?」


 隠し事ができないおっさんであったりした。企みが成功したら一気に緊張してきたおっさんである。ちょっぴり罪悪感もあったりするし。


 遥の疑って欲しいというわかりやすい態度に、サクヤは小首を傾げて顎に手をあてて考え込む。


 ドキドキとして遥がサクヤを眺めていると、ハッとサクヤはなにかに気づいたのかこちらを指さしてくる。


「あ~! 人形の耐久力が凄い減っています! なにかしていましたね、私が見ていない間に!」


 さすがはサクヤ。目ざとい。人形が力を無くしていることにすぐに気づいて糾弾してきた。気づかなくても良かったのに。


「さっき転んだせいかな? それで耐久力が減ったんだよ」


「転んだだけでそんなことにはなりませんよ! ムムム………謀りましたね! 私にもサプライズですか!」


「ちょっとなにかしただけだよ? 神チケットを使う前に事前準備をしておきたいなぁって」


「え~! そんなのはズルッ子です! 私の目の届かないところでなにをしていたんですか? 吐いてください! ずるいです~!」


 肩を掴んで激しく揺らしてくる銀髪メイドである。自身の知らないなにかがあるのは嫌なんですと唇を尖らせて聞いてきて、おっさんが答えないとわかると床に寝っ転がり駄々っ子泣きで教えて~と叫んできた。


 さすがは無口でクールなメイド。完璧な尋問方法でおっさんは感心しちゃう。このままでは負けて自白しちゃうかも。


「まぁ、サプライズってことで。今日はもう帰ろうよ。お風呂にも入りたいし」


「レキぼでぃでですね、わかります! さぁ、ご主人様レッツゴー!」


 その言葉を聞いて瞬時に泣くのを止めて、遥の背中をグイグイと押してくるのを苦笑を浮かべてそのままにされる。


「サプライズだから期待しててよ」


「それはわかっています、ご主人様」


 ベー、と舌をだしてサクヤは悪戯そうに微笑むのであった。

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