552話 無双ゲームをするおっさんとメイド
複雑な空を行き交う階段で構成された中層。通常ならばクリアをすることは難解な迷宮であるのに、二人の男女は散歩でもするように余裕の表情で進んでいた。
空に浮くように作られている普通ならば耐久力が持たない石の階段。しかして、化け物が何人その上を歩いてもビクともしない硬さを誇っている。
その階段は今、おっさんのショットガンから放たれる小さな鉄の弾の群れに喰われるように壊されていた。
ガンガンと銃声が響くたびに空間が軋み、空を行き交う無数の階段はその軋みがするたびに消えていく。
そうして段々と広々とした空間は狭くなっていき、崩壊を防がんとぞろぞろとミイラ兵士が列をなして駆けてきて、ボーンバットやボーンドッグがカチャカチャと骨の足音をたてながら襲いかかってくるが、先程とは二人の男女の動きは違っていた。
「ふふっ、ショットガンなら楽ですね」
先程の鬱憤をはらさんとサクヤはショットガンで襲いかかってくるミュータントを次々と倒していく。槍を構えて突撃をしてきても所詮は槍。銃には敵わず、高速で迫る銃弾にカラカラの身体は枯れ木のように砕かれていく。
「これで中層は突破かな。そもそも全長3キロ程なら直線距離なら中心まで一時間かからないよね」
鼻歌交じりに遥は敵ではなく、空間自体を破壊していき迷宮を破壊していく。常人という設定にぎりぎり引っかかっているよねとも思っていた。ぎりぎりセーフ、セーフだよねと。
もちろん空間自体を破壊する常人はいないのでアウトだが、おっさんは自分に甘かった。即ちいつものことである。
佐子は二人の様子をポカンと口を開けて眺めていた。圧倒的すぎる。やはり銃は強い。強すぎる。そして気になる。
気になって仕方ないことを尋ねちゃう佐子。
「あの……それいつリロードしているんですか? 二発装填なタイプに見えますけど?」
佐子だってゲームはするしテレビとかでも銃は見たことはある。それに覚えやすい二発しか入らないタイプだ。なのに、まったくリロードをせずに連射をしているのだからして。
ん? と遥はその問いかけに得意げに答える。
「無限ショットガンだよ。リロードなしのタイプ」
「は、はあ。無限ショットガンですか」
あまりにも普通に言うので、思わず納得の声をだす佐子。そこは納得したら駄目なところだが、二人の雰囲気に当てられたのだ。多分アホな雰囲気ではないと信じたい。
「それよりも中層以降の地図はない?」
もう地形が変わりすぎて役に立たない地図になっちゃっただろうけど。罠もあったんだよね? たぶん壊したけど。
「あ、はい。中層までですね。中層は階段が崩れたり、穴が空いて引っ掛かった人を落としたりと致命的な罠が多かったんですけど……」
空に浮かぶ階段は無くなり、周囲は狭苦しい通路へと変わっていっている。二人がなにかをしているのだろうが、いったいなにをしているのか佐子にはさっぱりわからない。そして罠も壊されていき、地図はまったく役に立っていない。中層を踏破するというか破壊する勢いだが、このまま二人はピラミッドを攻略しそうな勢いだ。
「あ、そう。それじゃこのまま先に進みますか。あんまり敵も強くないし」
「そうですね。グールレベルになるかならないかですから楽勝そうですし」
ダイレクトコントロールへと切り替えてスキルを一まで解禁したイージモードの二人は気楽に余裕の表情で言う。さっきまでの苦戦はすっかり忘れていた。二人共鶏レベルの知力なので散歩したら忘れちゃうのである。特に都合の悪い事柄は。
「先に進みますよっと」
ズガンと遥が銃声を響き渡らせると、完全に歪曲されていた空間は破壊されてひんやりとした埃の匂いのする石の通路へと変わっていくのであった。
直線距離にして300メートルぐらいの単純な迷宮へと変わった中層、それを確認して三人はてこてこと深層へと進む。
◇
深層は大きな石の扉が区切りとなっており、扉を開けるとカビだらけの壁でできている見かけは普通の迷宮だった。
「これは単純な迷宮だね。力の流れがわかるから私たちには無意味な迷宮」
「ようやく爆弾の力が発揮できますね。えっと、電池は別にあるんですよね」
爆弾はこれで電池はこれ、とサクヤと二人でポンポン出していく。壁を破壊して概念の核、この場合はダンジョンコアとでも言うのだろうか? その力の感じるところに一直線である。
「ここから先の化け物はなにがいるかわからないんです。気をつけてください」
佐子の言葉にうんうんと頷いてサクヤへと遥は顔を向ける。
「ほらサクヤ。サポートキャラって、こんな感じで警告とかしてくるんだよ。見習って? そろそろサポートキャラの意味を辞書で調べて?」
佐子をダシにしてサクヤへと忠告するおっさんであったりした。
「わかりました。仕方ないですね、サポートキャラの真骨頂を見せましょう! 佐子さんのご主人様に対する好感度ははぁと一個ですね!」
「昔のギャルゲーのキャラだろ! あのサポートキャラは主人公のサポートしすぎで可哀想になるからやめてあげて!」
サクヤがあざとくウィンクをしながら、テッテレーと口ずさんで言うが、それは戦闘用サポートキャラではないでしょ、いや、ある意味恋愛も戦争とはいうけどさ。
「あの、そんなコントみたいなことをしている暇はなくて………。大声を出すから化け物がやってきましたよ!」
佐子も大声をあげて、道の先を指差す。
その先にはガシャガシャと足音をたてて、サソリの下半身を持ち、上半身が人間の化け物がその禍々しい気持ち悪く虫の多脚を素早く動かしてやってきていた。
「オスクネーに似ているけど、こっちのほうがかっこよいね。人間部分は筋肉ムキムキな男性だし」
金属質な外骨格をてからせた下半身部分のサソリは人をあっさりと斬り裂く鋏をチョキンチョキンと動かして、人間部分は王道の槍を手に持ってやってくる。しかも顔は二枚目の男性であるのだから王道すぎる王道であった。
「ご主人様、サソリ男と名付けました! ですが、あまり面白味のない敵ですね、王道すぎます」
もう少しかっこいい名前が良いんじゃないかなと思うが、ネーミングセンスのない銀髪メイドなのであまり期待はできないよねと遥は思いながらサソリ男へとショットガンの銃口を向ける。
「ほい」
ズガンとショットガンを撃ち放つと散弾が通路を埋めるようにサソリ男へと向かう。回避不可能な散弾は狭い屋内戦闘では最強だねと思いながら遥はサソリ男を見ていると、敵は不敵な笑みを浮かべて槍を両手に持ち掲げる。
『アイアンシールド!』
なんと人語を話す化け物であり、超常の力を生み出して鉄色の大きな壁を己の前方に作り出す。
そして、鉄の硬さを持つであろう壁は、発泡スチロールのようにあっさりと銃弾に貫かれてしまい、サソリ男諸共砕けたのであった。
「お~。ここら辺から超能力を使うんだ」
パチパチと拍手をして遥は感心する。
「ここからが本番ということですね」
パチパチと拍手をしてサクヤも感心する。
「あっさりと倒しましたけどね………」
パチパチとまばたきをしながら佐子は呆れる。
なんだか凄い強そうな敵に見えたが、ショットガンの敵ではなかった。佐子はやはり文明の利器があれば化け物は楽勝なのかなと、今の光景を見て感心していたが、そんなわけはなかった。
実際はサソリ男の上半身すら下半身と同じ硬度を誇っており戦車砲を受けても傷はつかない。それに加えて超能力を持ち、槍も鋏も戦車を貫き斬り裂く力を持っていたのだ。崩壊前ならば凶悪極まる敵である。崩壊前なら。
「情弱は詰みだよね、詰み。崩壊後なら雑魚レベルだよね」
遥は良いギャグを思いついたと目を輝かせて言うが、人はそれをオヤジギャグと呼ぶ。
「まぁ、今の世ですと若木の兵士たちでも楽々攻略できるでしょうし」
サクヤはその言葉を聞いて普通に返事をするので、わかりにくかったかな? ハイセンスすぎたかなと反省しちゃう。頭のいい人じゃないとわからなかったかと。
「もう冬なんであんまり寒くなるのは嫌なんです、ご主人様」
プークスクスと口元をにやけさせる銀髪メイドに、えぇっと佐子へと視線を向けるが、そっと顔を背けられるのでショックを受けたりするのだが、おっさんにはよくあることなので速攻立ち直り爆弾を手に持つ。おっさんはこんなことは日常茶飯事なので、数秒しか落ち込まないのだ。
「さて壁を破壊しながら進みますか。今日中には帰りたいし」
「日帰りですか? えぇっ! 本気で言ってます?」
飄々とした遥の言葉に佐子が驚きの声をあげるが、肩を竦めてみせるのみ。
「さっさと攻略しないとまずいんだよ、気づかれる可能性が高いんだ」
「たしかに若木軍もそろそろ偵察隊を送ってきますしね。気づかれたら怒られちゃいますよね」
サクヤも同意してくるが、その通りでありこんな敵が弱い場所なら怒涛の勢いで若木軍は進軍できるに違いない。
………でも私の目的に気づかれるとまずいのは若木軍じゃないんだよねと、遥はサクヤをちらりと見て思うのであった。
◇
どんなに重厚な分厚い石の壁でも透過属性の付与された爆弾の前には無意味である。ドカンと爆発をすると石壁は豆腐を突き崩したように簡単に砕かれて破片をまき散らす。
大きな穴が空いて、人が通れるようになり先へと進もうとするとサソリ男や大きなスカラベがわらわらと湧いてくるように前を塞ぐ。
「あれはビッグスカラベと名付けました。数があると不気味ですね」
うへぇと床やら壁を隙間なく埋め尽くすスカラベを見て、サクヤがうめき声をあげる。サソリ男にもひっついており気持ち悪いことこの上ない。
「佐子さんたちは無理して攻略しようとしなくてよかったね。これ普通はクリア不可能でしょ」
「たしかにそうですね。あっという間に喰われちゃいます」
佐子が虫まみれな前方を見て口元を引きつらせドン引きする。ダンジョンといってもやはり攻略はゲームと違い不可能なんだろう。罠もこの様子なら悪辣極まりないに違いない。壁だった場所を移動する私たちには意味ないけど。
「いくらきても無駄なんだけどね」
ていていと爆弾を投げていく。気楽にグレネードとか軽い感じで叫びながら。
本来であれば、その数に押し負けてやられるのだろうが、爆発により虫たちは死んでいく。透過属性って反則だよねとフレンドリファイア無効にしてあるので冷静に遥はその様子を見る。
適当に爆弾を投げて進むことしばらく。死んだ虫たちを踏みながらその感触に嫌がりながら進むと
「これがラスボスですか? あの大扉を開ければ良いんですかね?」
サクヤがのんびりとした口調で言う。
「えぇ~。大丈夫なんですか、これ?」
佐子は浅い層の案内のはずだったのに、あっさりと深層の終わりまで来てしまった二人にドン引きする。
「かの有名なスフィンクス………。ここは本当に王道ダンジョンなんだね。今時無いよ」
遥は王道ダンジョンなんて子供の頃のゲームだねと思いながら目の前の光景に感想を言う。
スフィンクス。名前の通りに10メートルぐらいの大きさのスフィンクスが目の前には鎮座しており、その後ろに大きな金色の扉が見えた。たぶんこいつが門番なのだろう。
スフィンクスは瞑っていた目を開けて、ゆっくりとした口調で口を開き告げてきた。
「我が出す謎が解ければこの先に財宝が。解けなければ我の贄となれ」
本当に王道だなぁと、遥は再度感心して答える。
「謎解きは得意なんでね。任せてもらおうかな」
攻略サイトを見れば楽勝だねと、おっさんはモニター画面を映し出してツヴァイたちの知恵を借りようと考えるのであった。
自身で通信などを不可能にしている隠蔽機能をつけたのを忘れて。




