548話 砂漠の国の二人
ギラギラした太陽の光が地上を照らし、蜃気楼がユラユラと熱により揺らめき見える。吐く息すらも暑さを感じる中で、いつになってもこの風景は慣れることはないと少女は思いため息をつく。
「暑いなぁ~。暑いというよりも熱いよね~。はぁぁぁ」
嘆いても無駄だと知っている少女は建物の影からでて、しっかりと頭に被るターバンを着なおして直射日光に当たる部分がないか自分の体を確認して
「そうだな。本当に暑い。たしかに暑いというよりも熱いな」
なにもないはずの空間からの声にびっくりしてしまう。
「だ、だれ?」
慌てて外を眺めるが、誰もそこにはいないはず………。いや、蜃気楼から誰かが歩み出てきた。
なにやらでかいリュックサックを背負って、SFのようななんだか金属部分が装甲として胸や肩などを覆っているメカニカルなバトルスーツを着た人たち。
二人が蜃気楼から歩み出てきた。
「あ~。少し休ませてくれない? 暑くて死にそうなんだけど」
「あづすぎます~。ご主人様、なんでここにしたんですか~」
汗だくになっている中年のおじさんと見たこともない銀髪の美少女の二人。そんな二人を見てポカンと口を開けて少女は呆然とした。ここに人が来るのは久しぶりだ。この人たちはいったい?
答えてくれない少女へと中年のおじさんが声をかける。
「あ~………ピラミッドは入場料がいるとか? いくらかな? サクヤ、円って持ってる?」
「ご主人様、円じゃなくてルピーとかかもしれませんよ」
お互いに顔を見合わせて話し合う二人の姿に、ハッと気を取り直して少女は慌てて口を開く。
「ど、どうぞ。鳥取ピラミッドへようこそ! えっと、入場料は無料ですよ」
思わず自分が訳の分からないことを言ってしまったと顔を赤らめてしまう。そうじゃない、鳥取ピラミッドってなんだ。
「入場料が無料とはラッキーだったなサクヤ。それじゃ観光に行きますか」
「クーラーの効いた部屋ってあります?」
二人が少女の横をえっちらおっちらと通り過ぎるのを見て、少女は慌てて追いかけながら、物珍しそうに建物を見ながら歩いていく二人へと声をかける。
「あの、私は小鳥遊佐子って言います。おじさんたちはいったいどこからきたんですか? あの、ちょっと待ってください! あの~」
思いのほか歩くのが速い二人を追いかける佐子の後ろには砂漠が広がり、三人が入っていく建物は日差しを受けて輝いている一辺が数キロはありそうな巨大なピラミッドであった。
◇
佐子がどんどん突き進む二人の横へと追いつき、興味深々で着ている服やその様子を眺めて尋ねる。
「えっと、私は小鳥遊佐子って言いますが」
おずおずと上目遣いで声をかけるとおじさんの方がちらりと佐子を見て答えてくれた。
「あ~、私の名前は………どうしようかなぁ~。なぁ、サクヤ。こういう時は偽名がいいかなぁ?」
「もはや私の名前はばれていて偽名の選択肢がないんですが? わかりました、私が偽名を名付けて」
銀髪の美女がおじさんに声をかけられてふんふんと鼻息荒く偽名を決めようとして
「私の名前はカナタ。遥か彼方の彼方だよ。苗字は考えるのが面倒くさいから別に良いよね?」
と佐子にとぼけた顔をして言ってくる。どう答えれば良いというのか。なんで目の前で偽名を堂々と教えることができるのだろうかと、呆れるやら戸惑うやら。
「と、とりあえずカナタさんですね、わかりました。えっと、そちらは?」
珍しいというか、現実でもこんな髪の色の人がいるんだと思いながら女性を見る。白髪でもない。銀糸なのだ。顔立ちも美しく芸術品のような女性で思わず見惚れてしまう。
「私の名前はサクヤ。ご主人様の忠実なるメイドでして、いつもはメイド服を着ているんですが、諸般の事情によりパワードスーツを着こんでいます」
大きな胸をポヨンと揺らして、得意げに答えてくるが………。
「はぁ………。メイドさん?」
なんだかアホっぽい感じがそこはかとなくする人だと佐子は思いながらも頷いた。メイドってなんだろう?
そんなことを考える佐子の目の前で二人が突如踊りだす。手を掲げて、下手くそな盆踊りのように手をひらひらとさせて5秒ほど。
ギョッと驚き後退る佐子。なんでこの人たちは突然踊り始めたのっ!
「あれ? 頷くってこれじゃないの?」
「えっと、説明書を見ますから少しお待ちを………」
二人は踊るのを止めて、何事もないかのように話し始める。いや、なんで踊り始めたのか教えて欲しいんですけどっ!
これが崩壊前なら不審者として通報は間違いないと思いながら話す二人を見て、内心で絶叫しながら思う。
この人たちを仲間のところへ連れていっていいのかなぁ………。
ジト目で二人を見ながらそう思うが悪人には見えないし、何しろ外から来た人間たちだ。選択肢はないと思い直すのであった。
◇
「ここが私たちの住居です。他にも拠点はありますが、300人ぐらいがいます」
ひんやりとした石の建物であるピラミッド。だが、石は淡く輝いており明かりは必要ない。夜は不思議と発光を止めるので夜になったとすぐにわかる便利なものだ。その中で巨大な祭壇が置かれている広間を佐子たちは拠点としている。祭壇にはなぜか消えない松明が煌々とついており、その後ろには金属の大扉がある。
「で………なんでまた踊っているんですか?」
ジト目で二人を見る佐子の視線は氷点下に至っているだろう。
周囲の仲間たちも訪問者が来たので、興奮気味に集まってきている中で、また二人は踊り始めた。が、やはり5秒ほどで終えて飄々と答えてきた。
「宗教上の理由でね。たまに頷く代わりに踊るんだよ。サクヤ、わかった?」
「それが難しいコマンドが必要ですね、ナインに後でなんでこんな難しいコマンドにしたのか聞きませんと。あーるいちを推しながらあーるさんで選択する? あーるさんを動かすのって意外と面倒くさいです」
「たしかに私たちには難しいね。踊る一択か………」
「スキルなしは止めませんか?」
「駄目だよ。目的のためには誠意が必要なんだよ。だからこそスキルなしなんだよ」
途中からまた二人でひそひそ話をして、なにを話しているかはわからないが、仲は凄い良さそうだった。
「あ~、小鳥遊や。このお二人は何者なのかな?」
なんだか長老みたいに現れたが、まだ40代の拠点リーダーがコホンと咳払いをして口を挟んできた。髭を剃る水ももったいないので、髪の毛も髭も伸び放題のボサボサだ。
「さっき外でお会いしたんです。外からの訪問者かと」
「やはりそうか。初めまして、ここの拠点のリーダーをやっております権左衛門と言いますじゃ。お二人はどこから?」
権左衛門さん。だいたい普通の人は凄い名前だなと思うし、名前と話し方をネタに仲良くなるのが権左衛門さんの上手いところなのだが、二人は珍しく特に驚くことはなく、また踊り始めた。
「私はカナタと言う。少しの間滞在したい」
「私はサクヤです。そろそろ休憩時間が欲しいですよ、ご主人様」
踊りながら平然と自己紹介をする二人の姿に権左衛門さんの方がドン引きながらもツッコミはせずに鉄の意思で話を続ける。頑張れリーダー。
「貴方たちはいったいどこから? なんの目的があって来たのでしょうか?」
「あぁ、それなんだがこの巨大なピラミッドを見て、少し思うところがあり来たんだよ」
「思うところとは?」
なんだろうと不思議がるリーダーに対して、また踊り始めて彼方さんは答える。
「いや、この内部には財宝があるんじゃないかと思ってね。墓でもないわけだし探索をしても構わないだろう?」
「ニヤリと笑うところではないんですか。なぜ踊るんですか!」
ついにツッコミを入れてしまったと佐子は思いながら叫ぶ。叫んでしまう。
指を突き付けて、後ろにいるサクヤさんにもツッコミを入れる。
「なんで片膝たてて座っているですか? 変じゃないですか?」
サクヤさんはなぜか片膝をつけてかっこよく座っている。でも、話し合いの最中なんだけどっ!
「あーるさんって、ついつい押し込んでしまいますね。あまり気にしないでください」
ドウドウと仲間が気持ちはわかると宥めてくれたので、息を整えて佐子は二人を変態認定した。
◇
話し合いは二人の訳の分からない挙動不審な様子以外は普通に進んでいた。いや、その時点で普通ではないのだが、そうしないと話が進まないのだ。
「財宝を探すのは問題ありません。ですが、内部には複数の化け物がいて、迷宮にもなっており危険な罠もありますじゃ。止めておいた方が無難かと。それに貴方たちはどこから来たのか教えてもらえませんか?」
ピラミッド内部。佐子たちは出口に近い浅い層に住んでいる。だが、ゲームのような祭壇の奥の扉をくぐると、そこには化け物たちがいた。特に宝箱もなく、ただただ化け物たちと罠が続く迷宮が存在した。
とはいえ、化け物たちの中では食べられるモノもいるし、迷宮には湧き水がある地点もあるのだが。
権左衛門は彼らがどこから来たのか聞きたがる。当然だろう。
「この砂漠はどこまでも続いて出られないはずなんですが………私たちは別世界に転移してしまったとこの3年間思っていたんですよ」
私も話に加わり疑問を口にすると、二人はまた踊り始めた。もういいや……。ツッコミはやめるのっ、やめるのよっ、佐子。
「なるほどね~。漂流記みたいに別世界に来た、か………でも結構歩けば外には出られるけど」
あっけらかんと彼方さんがなんでもないように言うので、周囲はどよめく。
「し、しかし、食料を1週間分もって周囲を探索しましたが何もありませんでした。地平線まで砂漠が続くだけで………。唯一わかったのがピラミッドの扉に彫られていた鳥取ピラミッドの名前だけだったです! ここは未来なんですか? ほとんど砂漠に覆われた未来? 私たちがいた西暦は」
おじさんへと自分が住んでいた西暦を伝えると、また踊り始めた。そろそろ殴っても良いだろうか?
「あ~………からかっているわけじゃないんだ。まぁ、踊るのはそろそろ慣れてくるだろうから無くなると思う。それよりも、ここから徒歩なら1ヶ月ぐらい歩き続けたら出れるよ」
「まぁ、1ヶ月も歩き続けることはできないでしょうが」
サクヤさんも同じように踊り始めながら口を挟む。踊らないと死んじゃうんだろうか?
それよりももっと酷い内容を聞かされた。1ヶ月? 1ヶ月も歩いていかないと出れないの?
「お、おかしいじゃないですか! なら、なんで貴方たちはここにこれたんですか? 1ヶ月も歩いて来たんですか?」
「それは投下させたんだよ。空からね。パラシュート降下でね」
「パラシュートを開くボタンを押せなかったですけど」
「???」
空から? ということはヘリか何かで?
疑問へと答えてもらえるとさらに疑問が増えていくので、もはや何を質問すれば良いのか戸惑う私たち。
そんな私たちへと手を突き出して彼方さんは言う。
「少し休ませて貰って良いかな? ちょっと疲れてきてね。アイスカフェオレを飲みたい気分なんだ」
「あ、私はアイスクリームにします」
マイペースすぎる二人である。だが、長旅をしてきたかもしれない二人だ。リーダーの指示で佐子は怪しげすぎて反対に怪しく見えない二人を空いている部屋へと案内するのであった。
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