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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
4章 女武器商人と遊ぼう

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閑話 高校生の好きな物

 先日、遥は高校生の集団を救助した。なんというか、映画っぽい救助であったと、少し満足である。


 それ以上に攻略がやり直しになったことにはげんなりとしているが。また最初から進軍をしなくては行けないのだろうか?


「中継拠点は手に入れたのです。次はご主人様一人で攻略をすれば良いかと思いますよ?」


 現在、自宅のリビングルームにて、レキの姿でゴロゴロしている遥である。ゲーム少女の後ろでカメラを構えるサクヤは鼻歌を歌いながら、カメラドローンを整備している。


「みっずぎ、水着〜、いえ、空を飛ぶだけでも撮影の価値はあります。カメラドローンは最適化しておきますね。たとえボスの攻撃を受けても壊れないように……」


「クラフトキャラはナインでしょ。サクヤだと壊すだけだろ?」


 怪しい呟きをして、カメラドローンをカチャカチャと改造するサクヤ。気のせいか手慣れているが、ナインを見て覚えたのかね。門前のサクヤ、ナインの製作を盗撮するとかさ。


「ふふーん、カメラドローンだけは私のお手製でないと困りますからね。私が整備します」


「まぁ、好きにしてくれ。とはいえ、一人での攻略か……気が楽で良いね」


 ゴリラ軍団を守りながら進軍するのは極めて疲れたのだ。ソロでの攻略が楽なのだ。


「マスター。新たなる装備の設計は終えております。これならば水中戦でも問題はありません」


 カフェオレをテーブルに置きながら、金髪ツインテールの可愛らしいメイドさんがボードを見せてくれる。デザインもなかなかだし、性能も良さそうだ。


 これで問題はなさそうだろう。そして、ナインの淹れてくれたカフェオレは今までのカフェオレとは比べ物にならない美味しさだ。一番好きな飲み物になるかもね。


 悩みが解決して、一気に気楽になる。よくよく聞いてみると、遥はまったく考えていないのだが、他力本願がモットーなので問題はない遥である。


 さて、気楽になったことで遊びに行ってきまーす。


 よいせと体を浮かせて起き上がると、ゲーム少女はテッテと外出するのであった。


 高校生の集団が今なにをしているか確認したいしね。


           ◇


 テッテと外出して、途中のゾンビたちを倒して巡回していた兵士たちに手を振って、ゲーム少女は新市庁舎に到着した。


 皆へと挨拶を交わしながら、高校生の集団がどこにいるかを確認する。


「大広間に雑魚寝をしてるんですか?」


「あぁ、救助されるまで悲惨な暮らしをしていたのでね……。一緒にいたいらしい。ほとんどの連中は一緒なんだ」


 キョロキョロと辺りを探していると、見覚えのある救助した体育教師を見つけたので声をかけると、困り顔で意外なことを言ってきた。


 困り顔の体育教師だが、その服装はコミュニティの兵士のものに変わっている。ゲーム少女の視線に気づいて、頭をかいて気まずそうにする体育教師。


「こんな世の中だしね。俺は防衛隊に志願したんだ。今は教えるよりも、人を物理的に救うことが大事だと考えたんだ」


「生徒を放っておくのですか? 教師なのに?」


「厳しい言い方だが、高校にて君たちに救われた時に私の教師としての役割は終えた。高校生ともなれば、もう自活できるだろうし、ここには乳飲み子を抱える人たちもいるしね。俺はここのコミュニティ全体を救う仕事をしたいんだ」


 命を賭けて屋上で助けを求めてきたからなぁと納得する。説得力がありすぎて反論できない。この体育教師の言葉は厳しくもあるが優しいものだからだ。


 あんな悲惨な境遇だったのに、皆を助けたいと再び危険な兵士に就くなんて、なかなかできることではない。


「それじゃ暫くは皆で生活をしているんですね。でも疲れませんかね?」


「きっと少しずつ自立していけると俺は信じている。あんな悲惨な生活でも生き残れた精神力があったんだ。無責任かもしれないが、ピンチの時には助けたいと思うがね。なにせ、俺の生徒たちだからな」


 訓練を始めるぞと、同僚が声をかけてきて、もう行くよと手を振って体育教師は去っていった。


「教師のいない高校生たちだけの生活かぁ……」


 たしかに体育教師の言うことは間違っていない。正論すぎるし、立派だ。あんな高校教師がいるとは思わなかったよ。


 私が高校生の時にあんな高校教師がいれば……特になにも変わらないな、うん。平凡で教師と関わり合いを持たなかったので、ドラマみたいに人生変わっていたかもとは全然思わない遥である。


「でも、立派な考えや正論だけでは人は動けないんだよね」


 立派ではない私は、少し様子を見ようかなと、大広間へと向かうのであった。


 広間は元々は大会議室として使われていたのだろう。仮として、しばらくは救助者たちが住んでいたが、落ち着いて来たので、プライバシーが欲しいと小部屋に引っ越ししており、本来はガランとしているはずだった。


 だが、今は救助した高校生たちが住んでいた。男女間の仕切りはあるが、毛布を敷き布団にして横には飲みかけのペットボトル、数枚の衣服がごっちゃと乱雑に置いてあり、暗い顔でぽつりぽつりと座ってお喋りをして、辛そうな生活をしている。


 今は超一流の商人が品物を売りに来ているので、ここまで悲惨な暮らしにはならないはずだ。豪族はなにをやってるの、もぉと憤りつつ中に入る。


 もう少しなんかこう、あれだよあれあれと、なんのアイデアも浮かばずに、文句は言いつつてこてこと歩く。あの生徒会長らしき男の子はいないらしい。きっと一人だけ忙しく動いているのだろう。


 遥が周りを見渡すと、見覚えのある少女が手を振ってくる。


「あ、レキちゃんだ。こんにちは〜」


「こんにちは、椎名さん。元気そうで何よりです」


「あ〜! クレープ屋さんだ。元気だった?」


 この間、クレープが食べたいと言ってたので、クレープを奢った少女が笑顔で抱きしめてくる。ぎゅうと抱き締められて、少し照れてしまう。女子高生のコミュニケーションは大胆だね。絶対に中の人はいないので、気にしないけどさ。


「私は元気ですよ。それよりも意外と元気で安心しました」


「もぉ〜、私たちの方が年上なんだから大丈夫だよ!」


 椎名が頬をぷっくりと膨らませるので、ツンとつつく。


「私の方が精神年齢は上だと思いますよ」


 えっへんと胸をそらすが、遥の元の精神年齢を足しても、椎名より上になるかは微妙なところである。


「私たちは元気、元気! もうすっかり体調も良くなったしね」


 椎名の友人がサムズアップしてニヒヒと笑いかけてくるので、遥も笑顔で返す。たしかに痩けていた頬も肌色を取り戻して、体力も戻っていそうだ。


「それならばそろそろ大広間に住むのは辛いのでは? 女の子はプライバシーが必要だと思うのですが」


 個室で暮らすためにも、働けばとは言わないようにする。ニートを元気づける方法として、働けと言ってはいけないとか聞いたことあるし。椎名たちはニートじゃないけどね。


 ギクリと椎名たちは気まずそうに顔を見わせる。


「ほら、私たちは修学旅行気分でさ。……まだ皆で暮らしていたいの」


「そうですか、修学旅行気分では仕方ないですね」


 周りで聞き耳を立てている子たちもコクコクと頷いて、自分を騙す言い訳をしている。


 最低限の配給はされているようで、生きていくのに問題はないだろう。だけど、動くのは早ければ早い程良い。この生活に慣れてほしくない。


「ちょっと用事を思い出したので、戻りますね。すぐに戻ってきますので」


「う、うん。わかったよ」


 すっくと立ち上がると、踵を返す。


 まぁ、私にできることなど少ないけど………。


「───ゲーム少女はゲーム的な解決をします。しちゃいますよ」


 ニンマリとほくそ笑むと、遥はてってこと拠点に戻るのであった。


           ◇


 なんだったのかなと、椎名たちが話していると、夕暮れにゲーム少女は帰ってきた。


「修学旅行と聞いたので、私も参加したいんです」


 バンザーイと両手をあげて遥は身体を傾ける。


「なので、私は準備しちゃいました。これで私も修学旅行生ですね!」


 ウキウキとしたゲーム少女の笑顔に、皆が戸惑うが椎名に近づくと手を引っ張る。


「さぁ、こちらにどうぞ。みなさんも来てください。なにせ修学旅行生ですからね!」


「う、うん………」


 椎名たちを無理矢理引っ張って、新市庁舎の裏手の駐車場に案内する。


「こ、これ!?」


 そして、皆は驚いた顔になり、声をあげる。


 そこには何枚もの鉄板が、お手製の石を積んだ竈の上に置かれている。そして、その横には大皿が並んであり、肉や野菜がたっぷりと置かれていた。


「さぁ、今日は食べ放題です! どうぞ、レキの修学旅行生活です!」


 トングを手に持って、肉をポイと鉄板に放ると、ジュウ〜と肉の焼ける音と共に、煙がモクモクと浮かぶ。


 その音と良い匂いに、皆はゴクリと唾を呑み込む。最近一切肉を食べていない食べ盛りの高校生たちは鉄板から目を離せない。


「本当に良いの?」


「えぇ、早く手を付けてもらわないと、周りの人たちも困りますし」


 椎名が恐る恐る聞いてきて、遥の答えに周りを見渡すと高校生以外の人たちも集まっており、今か今かと待っていた。


「食べ放題? タダで?」


「はい! お米もたくさんありますよ、焼き肉には白米ですからね! 私が一番に食べちゃいますね」


 アーンとカルビを口に入れてもぐもぐと食べて、クワッと目を見開く。


「美味しいぞぉ〜!」


 遥の一度言ってみたかった言葉に触発されて、皆は我先にと動き始める。


「いっただきまーす!」

「うんめぇ〜!」

「くぅ〜、久しぶりの肉だぜ!」


 そして夢中になって食べ始めるのであった。周りで窺っていた人たちもどうぞどうぞと勧めて、あっという間に大宴会となった。

 

 大人たちはどこからか持ってきた酒を飲み、とっておきのお菓子を配る子供たち。


 その活気のある騒がしさに、椎名が小皿を手にして寄ってくる。


「ありがとうね、レキちゃん。久しぶりのお肉でとっても美味しいよ!」


「だよね〜、このお肉激ウマ〜!」


 美味しそうにお肉を頬張る二人へと、遥はニコニコと微笑みながら口を開く。


「バーベキューは修学旅行の締めとしては良いかと。堪能して貰えれば幸いです」


 その言葉は大きくないのに、不思議にこの場にいる人々の耳にするりと入った。高校生たちはその言葉に動きを止めて、顔を俯ける。他の人たちはなんのことかとキョトンとするが、すぐに合点のいった顔となり、高校生たちに声をかける。


「そうだ! そろそろ修学旅行から帰ってこい!」

「あたしたちが生きる方法ってのを教えてあげるよ」

「こんな世界でも楽しいことはあるのさ!」


 人々の優しい笑顔に、一人、また一人と高校生たちは顔をあげてくる。


「……そっか。そうだね。そろそろ修学旅行は終わりだね」


 椎名が涙を拭いて、ニコリと生気の戻った顔で微笑む。先程広間にいた時とは違う力ある微笑みだ。


「それじゃ、最後の修学旅行ということで、ダイエットを気にせずに食べちゃいますっ!」


「あ〜、私も食べるよ〜。レキちゃん、シメはクレープでよろしく!」


「焼き肉の後は止めときなよ!」


 本来の活気を取り戻したのか、椎名たちはさらにワイワイと騒ぐ。あの様子なら大丈夫だろう。


「さて、バーベキューのシメのデザートはやはりマカロンの焼いたやつですかね?」


 そして、マシュマロとマカロンを間違えているお洒落なデザートを知らない遥である。


 以降、高校生たちは広間から移り住み始めて、自活し始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] サクヤお手製作ならあの驚異的な性能のドローンになるのも仕方なしですな。
[良い点] 修学旅行はおしまい! でもまた旅行に行けるはず その時はこの思い出が黄金になりそう。 [気になる点] 焼きマカロン…美味しいのかな? [一言] 先生が立派な先生で吃驚 てっきり生徒ほっぽり…
[一言] 折角の改稿版なので久しぶりにコンハザ読み返すぞ、そろそろナインイウムが不足してきましたしね! …と読みはじめた、だが新しい閑話に少し驚いた。 特にこの4章の閑話が良かった。 素晴らしい小…
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