528話 真の竜王対ゲーム少女
竜王ファフニールから発せられる黄金の力。それは圧倒的な力であった。竜の鱗こそ紅いままであるが、その鱗を覆うものは黄金の粒子であり、レキにとっては見慣れた粒子である。なぜならば自分自身がその力を使っているからであった。
「というか、神の力って黄金の粒子で決定なわけ?」
遥はファフニールの姿を見て、もちろん怯む。怯まないわけがないおっさんであるからして。
だって自分自身と同等の力を使っているのだ。小心者のおっさんが怯まないわけがない。大事ではないが2回言いました。
「私たちと同等………。戦いがいがありますね、旦那様」
突撃してくるファフニールを前にフフッと楽しそうな笑みを浮かべてレキが言う。もちろん、レキが怯むわけがない。戦闘民族な美少女なのだからして。
だって自分自身と同等の力を使っているのだ。常に強者と戦いたい美少女が怯むわけがない。大事なことなので2回言いました。
高速思考で会話を終えた二人。レキはそのまま身構えて、ファフニールの突撃を受け流そうとしたが
「むむっ!」
半身になり拳を胸の前で構えようとしたところで、ファフニールの突撃は黄金の軌跡だけが残り小柄な少女はダンプに弾かれた小石のように吹き飛ばされてしまう。
体格が違いすぎる二人。その巨大な竜王の質量に比較すれば小石程度にしかならないレキである。くるくると回転して地面へと落とされる。
轟音と共にレキが地表へと隕石が落ちたように砂埃を噴き出すように舞い上がらせてめり込んでしまう。
その様子を見て、ファフニールは黄金の粒子を周囲へとまき散らせながら空中にて翼をはためかせて爬虫類の冷たい視線を向けて止まる。
地表に大きなクレーターが生み出されて、砂埃が地面へと落ちて視界がクリアになったところで、そのクレーターの中心地からちっこいおててがぼこんと土の中から突き出される。
「むぅ」
レキがそのまま地面から一気に体を噴き出すように出てきて、空中に天使の翼を展開させて飛び、ファフニールの目の前まで移動する。
いつものように傷一つなく余裕で服についた埃をはたきおとすという訳には、今回はいかなかった。
額からは血を流し、常にぷにぷにな皮膚は傷だらけとなっており痛々しい姿となっていたのだ。
『リフレッシュ』
遥が慌てて回復させて、柔らかな光に少女は包まれてみるみるうちにその身体は癒される。しかしいつものぷにぷになお肌の可愛らしいレキへと戻るが、傷が消えただけで体力は僅かしか回復しない。
「やりますね、ファフニール。まさか私が受け流すこともできないとは」
レキは慌てるおっさんとは違い感心して、ファフニールへと声をかける。その姿に動揺はなく、心は平静のままだ。
「まずは小手調べといったところだ、小さき女神よ。我との力比べ、まだまだ付き合ってもらうぞ!」
レキのダメージを見ても、得意気にならず、慢心した様子も見せないでファフニールは口を開く。
『流れる破滅の風よ』
『力ある言葉』。魔法の力にて森羅万象を書き換えるその言葉も先程とは違い、世界の理を塗り替え、真実として発動する。
竜王の前に黒き風が生み出されて、突風となってレキへと襲い掛かってくる。
その破滅をもたらす風は未だに残る砂埃へとぶつかると、風にて砂埃をまき散らすのではなく、そのまま砂埃を通過していく。
通過していったあとの砂埃は破滅の力にて、その存在すらも消えてしまいなにもない真空の世界へと置き換わる。
『サイキックレーザー集束型』
風の威力を確認して、遥は一点に凝縮したサイキックレーザーを撃ち放つ。
ちっこいおててを掲げて撃ちだされたサイキックレーザーは、一本の糸のように細く、それでいてあらゆるものを歪み押し潰す凶悪な超常の力である。
遥は冷静に破滅の風の力の中心へとその超常の力を撃ち放ち、魔法を打ち破ろうとした。
超常の力については天才的なセンスをもつおっさんの見極めは正確であり、正解であったが
「なぬっ! マジですか!」
たしかにサイキックレーザーは中心を貫き、破滅の風の力を歪め砕いた。しかし、想定通りにはならなかった。本来の予想であれば、中心を貫きただのそよ風へと力を変えるはずであったが、中心を貫いてもその力は減衰させただけで打ち消すことはできなかった。
黒き風はその力を減衰させただけで、レキへと襲い掛かる。両手を交差させてその威力を受け、ガリガリと身体を削られる。鎧が破滅の力にて軋みミシミシと嫌な音をたてる。
レキは風が通り過ぎるのを歯を食いしばって耐えて、遥はリフレッシュを使う。減衰させたために、ダメージは凶悪だが、それでも一撃の力は先程とは竜巻とつむじ風ぐらいの差があった。
風が通り過ぎ、鎧が多少歪みを見せる。だが、ダメージはリフレッシュの力もあり、あまりなかったレキであるが、すぐに両手を突き出して身構える。
一瞬のうちに近づいてきたファフニールが、その大地をも今は裂けるであろう爪を振り下ろしてきたのだ。
ゆらりと体躯を柳のように揺らめかせて、レキは受け流そうとするが、ファフニールの腕は黄金の光を閃かせたと思った瞬間、既にレキのちいさい身体を通り過ぎていった。
「ぐうっ」
身体から鮮血が舞い体がダメージでよろめき、それでも吹き飛ばされずに後方へと押し下がるレキ。
『力よ、刃となり舞い踊らん』
ファフニールは間合いが広がったのを見て、すぐに魔法を使う。空中に漂っていた黄金の粒子が集まり、12本の黄金の剣へと変化して、持ち手もいないのにレキへと残像を軌跡として襲い掛かる。
『超技 獅子神剣の舞』
レキはまるで蜃気楼のように姿形が見えない速さで接近する剣へと対抗するべく、ちっこいおてての指先をピッと伸ばして、剣よりも斬れる手刀として、腕を振るう。
黄金の軌跡が12本の剣へと対抗して斬りかかる。
キンキンと金属を弾き飛ばす音と、空中にレキが生み出す黄金の軌跡と、黄金の剣の残像が次々と生み出されていく。
「破壊できませんね………。しかも早く的確な連携」
眉を顰めてレキは終わりの見えない攻撃を見て困りながら呟く。
本来であれば、剣を叩き壊してファフニールへと向かい合う予定であったのだが、飛び交う剣は何度手刀を叩き込んでも壊れる様子はなく、弾き飛ばしてもすぐに剣は翻って戻ってくるのだ。
しかも、こちらが困るように死角からや、一度手刀が通り過ぎていったあとと、実にいやらしい攻撃を仕掛けてきて、連携も上手くとれており同時攻撃などもある。
まるで12人の剣聖とでも戦っているような感覚にさせる攻撃であった。
しかもファフニールもこちらの隙を狙い、腕を振り下ろし、尻尾を振るい攻撃してくる。
「オートモードでこんなに強いのか………。仕方ない、『サイキックエンジェル創造』」
遥はオートモードでこんなに強いのはずるいでしょと、サイキックを使いドールを作り出す。
最強の超能力。サイキックにて創造されたエンジェルが12体。半透明なレキそっくりの天使たちが黄金の剣へと向かっていく。
だが、創造した本人がよくわかっていた。あの天使たちでは、黄金の剣に対して時間稼ぎにしかなるまいと。常ならば最強たるサイキックで創造した天使たちはオートモードの敵などには負けないであろうが、今の遥の目に見える力の在り様。
黄金の剣に籠められた力の質と量は天使たちを上回っていると。信じられないことに。
「というか、信じられません。サイキックを使ってこれとは………。念動体、サイキックを籠めて!」
今までイージモードでぬるま湯につかっていたおっさんはナイトメアモードになったと怯みながらも、本日2回目のサイキックを使用してレキの身体を強化する。これぞ、切り札にて最強の身体である。
足のつま先から。髪の毛一本に至るまで、細胞の一つ一つにサイキックによる力が流れ込み、レキの身体を透明な力が覆う。
『竜王の魂の輝きにて、肉体もまた輝く』
ファフニールもレキが強化されたのを見て、自らの肉体を強化する。竜王の赤き鱗が黄金に輝き、その力の波動が粒子となり周囲を揺るがす。
レキは腕を引き絞り、その力を感じながら超常の力を放つ。
『超技 ラストサイキックブロー』
この間覚えた最強の技。いかなる敵も防御は不可能である超技。透過属性を持つレキオリジナルの属性技。
なにものをも透過して、轟音も空気の歪みも風をも巻き起こさず静かにファフニールへと向かう。
そうして、ファフニールをも静音の中で消滅させるはずであったが
「無駄だ」
ファフニールの呟きと同時にさらにその巨体が光り輝き、ラストサイキックブローへと突撃をして対抗してくる。
「っ!」
レキは今度こそ驚きで目を見開く。切り札たるラストサイキックブローと激突した竜王の体躯。揺らぎもせずに、その体躯は超技の影響を受けずに僅かにその速度を緩めたのみであったのだから。
黄金の輝きはそのままレキへと近づき、気づいた時には少女の身体は再度吹き飛ばされていた。またもや吹き飛ばされたレキであったが、今度はその突撃を躱せないと悟っており、ふわりとタンポポの綿毛が風に吹かれて飛ぶように力をなんとか受け流し最小限のダメージに防ぐ。
「これは………。純粋に力で劣っていますね」
珍しく悔しそうに表情を変えて、自身の力が劣っていることを認めるレキ。
「だなぁ、力が違いすぎてファフニールへとダメージが与えられないね。少しまずいね」
遥もレキの言葉に同意して、逃げるのコマンドはないのかなと焦り始めた。だって用いるパワーが違いすぎて、あの竜王にかすり傷一つ入れることができなのだ。ノアと違いイカサマを使っているわけでもない。
「この地にて倒れ伏すがよい。ここでそなたたちの贄を喰らう旅も終わりだ。神族の狙いと共に!」
ファフニールは黄金の竜王の残像だけを残し、突撃を繰り返してくる。余裕を見せずに、一気呵成にこちらを倒しに来ているのは明らかであった。
『念動障壁、複数展開!』
遥は最硬の障壁を複数作り出す。
「その防壁では我の突進を止める事はできん!」
目前に現れた念動障壁をガラスのようにあっさりと砕きながらファフニールが咆哮する。
「残念ながらそれは理解しています」
レキは旦那様のとった行動を正確に理解していた。なぜならば周囲にいくつもの念動障壁を遥は作りだしていたからだ。
「やっ!」
可愛らしいかけ声で念動障壁を蹴り、その反発力で高速で移動してファフニールの攻撃を躱すレキ。
「やるな! だが、それでも! いつかは我の牙が汝の喉笛に食いつく!」
回避されても動揺はなく、ファフニールは旋回して速度を加速させて突撃を止める事はない。
たしかにファフニールの言う通りであり、これは時間稼ぎにしかならず、さりとてこちらの攻撃はダメージを与えることができずにレキは焦りの表情を浮かべていた。
空中にて黄金の竜王の攻撃をなんとか周囲の障壁を蹴りジグザグに回避していく少女の姿があった。
レキが打開策を考える中、遥もまた考えていた。
なぜここまで力に差がつくのかを。純粋にパワーが違いすぎる。
「あり得ない………。本来であれば、ここまで差がついて力押しを許す状況になるはずがない………」
ファフニールは力の差を悟り、力押しできている。だが、ここまでの力なのだろうか? こちらもステータスは高いのだ。だが、そんなステータスという力ではなく、圧倒的エネルギーの総量で負けていた。
そうしてレキが徐々に傷ついていく中で、遥はこの状況がデジャヴに見えて
「そうか。そうなのか………。そういうことなのか」
この状況を打ち破る方法を思いついた。なぜエネルギー総量で負けているのかを。
星の力を持つ自分がなぜエネルギーで負けているかを理解した。
そんな現状を解決する方法。
残酷な方法を。




