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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
33章 人々の今の生活を見てみよう

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523話 平和を楽しむゲーム少女

 ワイワイガヤガヤと人々の声で騒がしい。戸惑うように辺りをキョロキョロと見ている人や、こんなことがあるのかと興奮しながら話し合う人たちもいる。皆の共通点は、少しばかり服が薄汚れて、ほつれも目立つことだった。


 大勢の人々がある建物に集まっていた。どんな建物かというと


「はい、そこでチーズ! 写真に写ってもよいという方にはチーズを含めた乳製品をプレゼントしちゃいますよ」


 ちょろちょろと子猫のように歩き回り、カメラを片手にそんな人々を撮影しまくる幼い美少女がいる場所はというと


「銀行が平和な場所なの、レキちゃん?」


 サイドテールをフリフリと揺らしながら、受付窓口をしている椎菜がその様子を見て問いかけてくる。


 そう、ここは大樹銀行若木本店である。今は四国の避難民に対して銀行カード兼国民カードを配布している最中だ。大勢の避難民がずらりと並んでカードを貰っているのをレキは撮影していた。レキは写真には興味はないから、遥一択かもしれない。


「これが平和な風景だと皆は考えるはずですよ。チーズがいらないなら、アインからアイスを貰います?」


 ニコリと口元を笑みに変えて遥は答える。幼げな少女は思わず撫でたくなる可愛さだ。


「あとで貰えるかな? あ、次の方どうぞ」


 スキャンが終わりカードを避難民に手渡しながら椎菜はそんなもんなのかなぁと、レキの言葉に考える。


「あの、チーズを貰えるんですか?」


 避難民の人がおずおずと問いかけてくるので、遥はレキの美少女スマイルで警戒をときながらチーズを手渡す。


「肖像権を含む撮影した写真の権利を放棄するということであれば」


「もちろんだよ。そんなことを気にはしないよ」


「それではどうぞ。早苗牧場の美味しいチーズですよ」


 早苗たちに貰ったチーズを含む色々な乳製品を配りまくるゲーム少女である。念の為、早苗たちにも再度許可を貰ったら、いいよと笑顔で許可してくれた。


 合わせて肖像権などの権利放棄も相手に求めておく用心深いおっさんであったり。


「ねーねー、あたし、アイス欲しい。写真撮って〜」


 子供が遥に纏わりつき、腕を掴んで揺すってくるのでコクリと頷きパシャリ。


 ここで撮らない訳はない。そんなことは罪悪感が残りそうなのでやらない遥である。周りの人々もチラチラとこちらを気になるので見てくる。


 アイテムポーチからどっさりと乳製品を取り出して、ちっこいおててに持つカメラを掲げて周りへと大声で伝える遥。


「順番で皆さんに渡しますよ〜。カードを交換した時とかに撮影させてくださいね」


 大量に写真を撮れば、どれかは良い写真になるだろうと、相変わらず適当な遥。だってカメラ撮影スキルはない。機械操作スキルで使えるみたいだけど。写真ってセンスが必要だからなぁ。芸術関係の能力は私は持っていない。


 その言葉を聞いて、避難民の人々は笑顔になり撮影をされようと並ぶ。


「アイス〜、アイスはいらないか〜。美味しいバニラアイスだぜ〜」


 アインがノリノリでアイスを入れた箱を肩から下げながら銀行内を練り歩く。


「くださいな! 写真撮って貰ったの!」


「あぁ、良いぜ。ほら五段重ねだ」


 コーンにアイスをヒョイヒョイと絶妙なバランスで乗せるアイン。わぁ、とその様子を目を輝かせながら子供は見つめる。


「ありがとう! おかーさん、これ見て凄いよ〜!」


 受け取った少女はアイスを手に、母親の待つところまでてこてこと満面の笑みで歩いて行く。


 良かったわねと優しく少女の頭を撫でる母親。


 そこへズサーと遥はスライディングで滑り込み、またまたカメラを向けてパシャリ。


 これは良い写真だぜと、ムフフとほくそ笑んで近づいてくる人に気づき顔を向けると、結花が腕を組んで睨んできた。


「レキちゃん、凄い邪魔だから。物凄く仕事の邪魔だから。そろそろ終わりにしてね?」


 ありゃりゃと遥は周りを見渡すと、たしかに乳製品の場所も行列ができており銀行内は邪魔でしかない。たしかに職員が怒るのも無理はないと、はぁ〜いとおとなしく頷くのであった。


           ◇


 夕方、ワイワイガヤガヤと先程と同じく騒がしい場所。と言って騒がしいのは当たり前。居酒屋であるので。


 赤提灯が味を魅せる昭和の戦後間もない頃にあったような裸電球が天井から店を照らし、ギイギイと椅子や机が僅かに軋む。そんなお店。


 水無月姉妹のおでん屋さんにて、パシャリパシャリと少女は酔客を撮影していた。先程怒られたことは綺麗さっぱり忘れたようにニコニコ笑顔で撮影をしている。


「お酒をどうぞ。代価は撮影した写真の権利を放棄で」


 さっきと同じようなことを口にして、相手も簡単に頷くので激写と呟いて初心者カメラマンはシャッターを押しまくるのであった。


 その様子を見ながら、先程までの写真を現像したアインは一枚一枚眺める。箸を口に咥えながら、感想を言う。


「レキ様、これが平和な風景なのか? まぁ、牧場はわかるけど、なんで銀行?」


 疑問を口にするアインにムフフと遥は可愛らしい笑みを浮かべて、てこてことアインへと歩み寄って銀行の写真を一枚手に取る。


「どうなんでしょうか。私は平和な風景だと思いますが。穂香さん、晶さん、どう思いますか?」


 店の主人の水無月姉妹はその写真を手にとって、お互いに顔を見合わせて首を傾げちゃう。


 それを見て、自信があった遥はムムッと唸ってしまう。もしかして、駄目だっただろうかと不安な表情になって、水無月姉妹を見つめる。


 センスのないことに、自信があるおっさんなのだが、自信が一応あったのだ。少女だけをたくさん写しておけば良かったかな? たしかに一定の需要はありそうだけどさ。


 とりあえず少女を写しておけば、売れることは間違いないけど、今回は真面目に考えたのだ。シリアルは封印してシリアスにしていたのにと思う不安げな少女に、穂香はニッコリと優しい笑みを見せて、感想を言う。


「良い写真だと思います。避難民の方々がようやく手に入れた平和を、戸籍カードを受け取っていることで表しています」


「うんうん、いいんじゃない? これは平和を表していると僕も思うよ」


 晶も写真を見て、笑顔で同意してくれたので、ホッと一安心。胸を撫で下ろし、アインへとホラァとドヤ顔で迫る少女。


 他の人も同意してくれたんだから、これは調子にのって良いだろう。すぐに調子にのるゲーム少女である。


「ほら、これは平和な風景なんです。深ぁい意味が籠められていたんですよ」


 変な写真と言われたら、本当は各職業の一日だったんですと言い訳をしようとしていたのは秘密。おっさんのもはや棚ではなく、倉庫となった心の倉庫にその考えは仕舞っておく。


「へーへー、そうですか。アタシはそういう機微はわからないからなぁ」


 アインがむくれて、おでんを箸で突き刺しながら唇を尖らせる。


 まぁ、アインもツヴァイもたしかに人間たちのそういう機微には疎いかもしれない。政治の話や、商業の話ならともかく感情面ではわからないこともあるのだろうから仕方ない。


 なんと言っても彼女たちは三歳にもならないのだからして。


 そんな三歳にもならない少女たちよりアホな主人がいるという噂があるが、きっと噂に過ぎないので問題はない。ないと言ったらない。


「でも酔客を撮影しているのはなんでなんだ?」


 居酒屋の酔客は平和な風景じゃないだろとアインが箸をフリフリしながら言葉を連ねるが、その言葉に反応したのは穂香であった。


 相変わらずの大和撫子な美しい所作で頬に手をそえながら、ふふっと笑う。その笑みに酔客の何人かが口にしたおでんを落としたり、酒をお猪口に注ぎすぎて零したりしてウットリと見惚れていた。無理がない。絶滅危惧種と言われる大和撫子だし。


「わたくしはわかりました。レキさんが撮影しているのは全員兵士の方々です」


「兵士? 兵士が平和な……あぁ、兵士が平和に酔っているからか」


 なるほどとポンと手を打ってアインは、今度はその意味に気づく。


「平和な風景でしょう? これらを合わせて平和な風景として雑誌に載せちゃいますよ。もうミリオンセラー間違いなしですね。もちろん一人三冊購入してくれると信じていますし」


 まだ100万冊は人口的に無理だろうと思われたら、無茶苦茶なことを言うゲーム少女。読書用、保管用、布教用で三冊ですねと。


「三冊は無理でしょ。レキちゃんが発行してもそこまで売れないよ」


 ケラケラと晶が笑い、他の面々も同じように笑みを浮かべて、ワイワイと平和について酔客も巻き込んで、閉店までの間、論議がされるのであった。それはまさしく平和な風景であると第三者が見たら思うであろう一場面だった。


           ◇


 夜もふけて、窓の外は暗くなっている中で撮影した写真をテーブルに放り投げてゲーム少女は自宅に戻ってのんびりとしていた。


 もはや真夜中であり、自宅の外にある眷属の家も灯りは消えている。


 そんな時間に遥は写真を見て呟く。


「平和ねぇ。この写真を見るとほのぼのとした感じになるよね」


 遥のそばに影がおち、カチャリとコーヒーカップが置かれる。ホットカフェオレがゆらりと揺蕩う。


「今回のマスターは面白そうなことをしましたね。マスターはなにが目的でこんな写真を?」


 金髪ツインテールをなびかせ、ナインがソファに座っている遥の隣にちょこんと座って聞いてくる。


 尋ねられた外見詐欺な少女はソファに座りながら足をプラプラとさせる。ちっこい足をプラプラとさせる少女は可愛らしい。そんな光景を見逃さないはずの銀髪メイドはミノムシとなって、絨毯の上でウルウルと目を向けてくるがスルーしておく。


「平和って、どんなものなのかなぁと思ってさ」


「平和を再確認して、人々を守る意思を強くしましたか?」


 ナインのこちらを覗うようなその言葉に眠そうな目をしながら遥は小首を傾げる。


「どうなんだろ? 平和なひと時を見るのはほのぼのして良いけどさ、意思を強くするとかなかったなぁ。私は冷たいのかな」


 あくまでも客観的な視点で見てしまったのだ。若木シティの一員としての気持ちがないからだろうと、答えながら遥はその理由を理解していた。


「そうですか。たしかに若木シティにマスターは住むことをしませんでしたしね。そんなところだと思いますよ」


 ナインの言葉に遥の言っていない心のセリフも混じっているよねと苦笑しちゃう。


「まぁ、これからも客観的で良いと思う。シムなゲームでも市長だけは住み心地とかの感想を言わなかったしね」


 パラリと手にとった写真をテーブルに投げ捨てる。これと他に同じ写真をアインにはデータで渡しており、雑誌作りはお任せだ。


 遥は思う。結局自分は自己中心的でわがままなんだなぁと。まぁ、それを悔やむことはない。中年の独身男性なんかそんなものさ。


「さて、遊びはここまでにしておいて、そろそろ10月になるね」


「そうですね、旦那様」


 レキが遥の言葉に答えて、ナインはコクリと小さく頷く。


「マスター。お気をつけくださいね。敵は今までの敵よりも強いですよ」


「まぁ、あの竜とはそろそろ決着をつけないといけないしね。レキも楽しみにしてるし」


「ご主人様? このミノムシの私を見てなんとも思いませんか? ナインのクーデターです! 遂に私の役割も奪おうとしています!」


 なんだかゴロゴロ転がって涙目でサクヤが言ってくるので、さすがに憐れに思って縄を解くと


「さすがご主人様! 信じてました! 胸を押し当てながら抱きしめますね」


 涙目で抱きつくサクヤの胸に溺れるようにされながら、遥はソッと心の片隅で思う。


 ファフニールとの戦いが終わったら、そろそろ二人が隠している真実も聞かなければなるまいと。


 適当極まるおっさんもそろそろ決着をつけないといけないこともあるのだと、スッと目を細くするのであった。

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― 新着の感想 ―
最近だと昔の映像とかでも顔がぼかし入って消えていて心底何だこれって思います。 嫌な時代になったもんだよ。 現代社会ならレキの写真も顔がない写真ばっかになるよ。
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