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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
33章 人々の今の生活を見てみよう

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521話 お説教を聞くゲーム少女

 山中にて、ピヨピヨ鳴きながらヒヨコが空を飛んでた。いや、違った、山を覆う巨大な機械の鳥。名前は超弩級空中戦艦鳳雛である。小さいビルのような大型の砲台に、各所に備えられている通常の戦艦ならば主砲に使われそうな副砲。そして、キラキラとオーブのように戦艦に無数に搭載されているフォトンバルカン。


 純粋な目で見ることができる人ならば、これヒヨコじゃない? と鋭い指摘をできるのだが、全長3キロメートルを超える船体とその武装。そして大樹本部の旗艦というレッテルにより気づいた者はいなかった。


 その戦艦の周りには無数の戦闘機や戦闘ヘリが飛び交っており、ライトアップしているが如く、戦艦も砲を撃っていた。


 それにより、山中にイナゴのように集まっていたグールたちはあっという間に撃退されて、欠片も残さずに消滅するのであった。


 鳳雛の広大なブリッジにてその様子を明日屋元帥が確認しつつ、指示をオペレーターに出していく。


「敵の戦力は大幅に減少」

「連鎖的に増え続けていたグールはようやく数を減らし始めた模様」

「レブナントの姿は無し。殲滅した様子です」

「明日屋元帥はそろそろ昼寝して、レキ様に指揮を任せたらどうでしょうか?」


 最後の発言者が毒を吐いていたが、明日屋元帥は聞かなかったフリをした。


 眉を持ち上げて、キリリと真剣な表情でおもむろに口を開く。


「四国でイナゴグール化した地域に戦艦及び機動兵器を送り込み敵の撃破に努めよ」


「了解です。全部隊へ指示を出します」


 オペレーターがキビキビと答えるのを聞いて、満足そうに明日屋元帥は椅子へと凭れ掛かるのであった。


           ◇


「ふぉぉぉ! さすが最新型空中戦艦、凄い火力!」


 そのブリッジでリィズがベッタリと窓に張り付き、外の様子を見て感動して、おめめをキラキラと輝かせている。


 あれからすぐに救援に来た鳳雛に皆は助けられて、搭乗しているのだ。


「フフフ、そうでしょう、そうでしょう。ちょっと全体的に四国は危険な様相を見せてきたので、謎の段ボールレディが本部に助けを求めたらしいです。危険を確認して明日屋元帥は援軍に艦隊を連れて来てくれました」


 ちっこい身体を精一杯にそらして、得意げな笑みを浮かべるのは、朝倉レキ。なにやら段ボールで梱包した方がよいおっさんが陰にいるらしいという噂だ。


「え、と、もう少し早く来てくれれば……」


 千冬がおずおずと言ってくるが、レキはよしよしとちっこいおててを伸ばして頭を撫でてあげながら、優しく微笑む。


「まぁまぁ、お姉ちゃんの覚悟も力もわかったので収穫はありましたので許してください。それにしてもお姉ちゃん、あんな大技まで使えるようになったんですね」


 レキは空間を振動の波で敵を動けなくしたリィズの技に心底驚いた。敵を倒せないレベルの弱い振動だが、その分コストパフォーマンスが良い技だ。改善の余地はあるけれども。


 そしてリィズの心意気にも感動した。感動したのはレキではないので、遥に戻そう。


 まさかリィズがそこまで考えて努力しているとは思わなかった。その心はまっすぐで、どこかの捻じくれたおっさんとは違った。もはや、おっさんと美少女は存在自体が違うのと同じぐらいに違った。


 遥はリィズの想いが嬉しかった。絶対におっさんがいるかもしれないとか思われないようにしようと強く心に誓った。常に強く心に誓うのは自分のためであるおっさんである。


 そして気になっていたその力の異常な成長っぷりも確認できた。


 その異常な成長っぷりを見せた天然超能力者は、フンスフンスと頬を紅潮させて、ドヤ顔になっちゃう。どうやら自信のある技だった模様。


「あれは敵の時を止める。味方も止めちゃうけど、時間稼ぎにはちょうどよい技。最近作った」


「さすがお姉ちゃん。感動しました」

  

 紅葉のようなちっこいおててでパチパチと拍手をしながら、あれは人を超えていましたと遥は考える。どうやらその成長っぷりの原因も掴めたし。


 リィズへと目を凝らして見ると、靄のように薄っすらとだがレキの信仰心が流れ込んでいるのがようやく見えた。大技をリィズが使ったあとに、その失った力を補充するように、信仰心エネルギーがリィズへと流れ込んでいるのだ。それは遥にとっては本当に微かな塵みたいなものであったが人間には強大すぎた。


 それは人間たちにとっては、きっと加護だとでも言うのだろう。なにより成長期でもまったくリィズは身体を成長させていない。


 フンフンと鼻息荒く拍手を受けて、ますます調子にのって胸をそらすリィズである。胸をそらしすぎて後ろに転がってしまうかもしれない。


「おぉ、お姉ちゃんは勇者だったんですね。パンパカパーン、勇者よ、そなたに聖剣ボウルダンを与えよう」


「勇者リィズが誕生した。むふー」


 段ボールでできた剣をリィズに渡し、ノリノリで勇者ごっこ遊びをキャッキャッとする姉妹であったりした。


 鎧もつくろうとリィズが言うので、新たに段ボールを取り出してああでもないこうでもないと、作りながら遥はなんとなく思う。


 リィズが成長しなかったら、どこかの女武器商人よろしく林檎をあげて責任をとろうかなぁと。


 心優しく、強靭な意思をもつリィズを見て、フムとこの先の未来を考えるのであった。


 いつかそのことについてリィズと話すことがあるだろうとも確信に近い予想もしていた遥だった。


 そんな平和で優しい空気に包まれていた少女たちであったが、その空気はすぐそばの存在に打ち破られた。


「この大馬鹿野郎! こんな危険なことに子供たちを巻き込みやがって!」


 バシッと強い音がして、ブリッジにいた蝶野が殴られる。額に青筋をたてて、怒気を纏い強く怒鳴った人物。


 その人物はというと、明日屋元帥率いる艦隊が救援のため四国に行くというので緊急でついてきた豪族であった。


 フーフーと鼻息荒く怒っている豪族を見て遥はリィズと目を合わせてコクリと頷く。


 作っていた鎧を中止にして、テキパキと箱へと組み立てて二人共にゴソゴソと隠れるために中に入るのであった。


 かなりの大きさなので、幼女体型な二人は簡単に入れて隠れちゃう。


 そうして、コッソリと箱から顔をちょっと覗かせて、豪族たちの様子を恐る恐る見る。


「なんだか怒られていますよ、蝶野さん」


「ん…………。もしかしなくてもリィズたちのせい」


 一人は台本を見たので罪悪感バリバリに。一人は自身の行動の結果なので、自分も怒られそうだと、恐怖心を持って。


 千冬はオロオロとして、原因となったハグルマは既に宅配で自宅へと送られていたりもした。


 この雰囲気を予測して、人形をすぐに自宅へと返して新たな人形に隠れる銀髪極悪人メイドである。楽しんだだけで、責任はとらないサクヤであった。あとで遥がお仕置き予定だけど。


 今現在は少なくとも蝶野が豪族に凄い怒られていた。


「本部からの命令書をなぜ突っぱねて現状を確認しなかった! メカニックの話だけを聞いて納得したというのか! お姫様の時とは違い、銀髪の少女たちは生産業に従事すると会議で決まってたじゃねえか、おかしいと思わなかったのか」


 その言葉に殴られた頬をそのままに、蝶野は頭を下げて自分が迂闊であったと猛省する。


「申し訳ありません、自分が迂闊でした。……本部へと一度で良いから再確認するべきでした」


 蝶野の視界にはハグルマは既にいない。早々と自分の艇に乗って帰ってしまったのだ。この艦に救助して貰ったあとに明日屋元帥に教えられたのだが、千冬が選ばれたことはたしかだったが、その後に本部は再考するようにハグルマに連絡していたらしい。


 よくよく考えれば、いくら能力が高くてもいまさら戦いから遠ざけると決められた少女を戦場に送るなどはおかしいとわかることであった。悪い意味で本部のやり方に慣れてしまい、ハグルマの言うことを完全に信じてしまった。


「ハグルマはメカニックよりなマッドサイエンティストに近い人間じゃ。クーヤ博士の抱えていた超能力者の兵器にも関わっていた」


 その様子を見ていた明日屋元帥が嘆息しながら助け舟を入れてくる。だがこの中の人が元凶であると、遥はその分厚い面の皮に呆れちゃう。

 

「クーヤ博士の……そうだったんですか」


 あの野郎と、飄々とした様子で自身の都合の良いことだけを語っていたハグルマを思い出す。


 しかし、あの男は悪意を感じなかった。たちの悪いことに。蝶野の苦々しい表情に明日屋元帥は話を続ける。


「蝶野君、ハグルマは名誉欲などはクーヤ博士と違い持っていない。純粋な知的好奇心と兵器への熱意だけで動いている。今回はパワーアーマーの純粋な戦闘力を試験したかったのだろう」


「なるほど。それは……厄介な奴ですね」


「うむ……。だからこそ最後まで命をかけて戦場に残ったのだ。死んでもパワーアーマーを試験したかったのだろう。……人間が持つ最低限の倫理観というものが、あ奴は低いからな。その分、口は上手いし、能力も高い。今回も犯罪ぎりぎりの線を潜り抜けておる。罪には問えないはずだ」


 その内容に豪族も深くため息を吐く。状況がわかったのだが


「どうやら悪辣な奴だったらしいな。……仕方ねえ、この話はここまでだ。しかし!」


 ジロリと蝶野を睨んで、豪族は言う。


「危機的な状況で軍を預かる司令官がいなかったのは問題だ。三ヶ月の減俸にするからな! 昔とは悲しいが違うんだ、預かる兵士の数も桁違いだしな。………仙崎にも言ってはいるんだが、あいつも前線に立とうとする奴だからなぁ。俺と同じで」


 そうして、豪族はポンと蝶野の肩を叩く。


「これは独り言だが……。まぁ、よく避難民を助けた。もしも本部に問い合わせをしてパワーアーマーの試験が中止になっていたりしたら……。助けることもできなかっただろうからな」


 コッソリと呟くように言って、豪族は手をひらひらと振って避難民へと若木シティ代表として話してくると、ブリッジから出ていく。


「蝶野、三ヶ月の減俸、了解しました」


 蝶野は敬礼をして、豪族を見送るのであった。


          ◇

 

 段ボール箱から覗いていた二人はヒソヒソと顔を見合わせて話し合う。


「なんだかかっこいい場面でしたね」  


「ん、男の世界という感じだった」


 遥がなんだかかっこいい場面だったぜと、感心してリィズに言うと、リィズも頷き同意する。


 そしてもじもじとリィズは指を絡めながら、小さな声で問いかけてくる。


「妹よ、ナナもあんな感じでかっこいいセリフを言うと思う?」


「……目薬の用意をしておいた方が頭が良いと思います」


 たぶんあんなかっこいい感じではリィズを怒らないだろうと、遥は哀れみをこめてリィズを見る。可哀相だけど、お尻ペンペンで怒られているシーンしか未来は見えないです。


 リィズはガバッと段ボール箱から飛び出して、のんびりとおやつのことを考えていた千冬の腰に抱きつく。


「千冬! 風邪になって! これから看病に向かうから!」


「リィズ……たぶんもう無理です。だってね、あそこの通信士のモニターに映っているの荒須さんみたいですし」


 千冬が指をついっと向ける先、通信士の前に映るモニターにはナナが映っており、なにやら話していた。いや、理由はわかるけど。


「ギャー! 妹よ、助けて!」


 リィズは戦場の凛々しい雰囲気とは違い、子供っぽい慌てようで震えるのを、ありゃりゃと妹は肩をすくめて見る。


「万能な力はないんです、お姉ちゃん。ごめんね」 

 

 チロッと小さな舌を出して、悪戯そうに微笑むのであった。

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― 新着の感想 ―
3キロ級の戦艦はスズメダッシュでヒヨコは12キロじゃなかったかなあ まあ3キロ以上っていう表記だから間違いではないけど
俺は人間をやめるぞぉ! 妹!!
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