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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
33章 人々の今の生活を見てみよう

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518話 マウンテンディフェンス

 倉庫前では、人々が泣きながら別れの挨拶をしていた。


「貴方っ! 必ず待っているからね」


「おとーさん一緒に来ないの?」 


 奥さんが涙を流し、子供は不思議そうに首を捻っている。


「大丈夫だ! 俺もすぐにあとからそっちに行くからな! 泣くんじゃない! 伊達に化物だらけの世界を俺は生き残ってないからな。安心しろ」


 力こぶをつくって、夫らしき男が力強く笑い、そのあとに奥さんと子供をガバッと抱き締めて言うのであった。


「急いでください。すぐに出発しますので!」


 悲劇の別れをしているのは、他にもたくさんいたがそれに兵士が焦ったように口を挟む。


 倉庫前にはヘリが2機着陸しており、女子供が最初に乗せられて避難する予定であるのだ。兵士たちが懸命に大声で案内して、ヘリに搭乗させているが、夫や息子などと別れを惜しむ奥さんや子供たちが今生の別れかもしれないので、泣きながら話しており、なかなか乗らない。


「皆さん! ここで別れを惜しむより、再会を信じてヘリにすぐ乗ってください! ここで時間がかかればかかるほど、次の便が遅れるんです。貴方たちの大切な人のためにも早く乗ってください!」


 蝶野がそんな人々に大声で注意を行い、ようやく人々は少ない荷物を手にしてヘリに搭乗し飛び立っていく。


 ふぅ、と困った状況に汗をかいた蝶野は手で汗を拭う。避難民は荷物だけはほとんど持っていないので、悪いがそれは助かったと思いながら。


「映画とかだと、さっさと乗って逃げろよとツッコミどころ満載だったが、現実でもそうなるんだなぁ。あいつらはアホなのか?」


 冷ややかな声でハグルマが喜劇かよと毒づくのを蝶野は苦々しい表情で言葉を返す。


「たしかに数分が命運を分けるかもしれないからな。気持ちはわからんでもないが」


 残された人々は、飛び去っていくヘリへと手を振って、悲しげな表情で見送っていた。もう会えないとでも思っているのだろう。


「輸送ヘリが2機も確保できたんだ。それなのに、さっさと乗り込まないで、別れを惜しんでいれば世話ないね」


「正直助かった。もしも1機ならますますヤバかったな」


 ハグルマが肩をすくめて、呆れている様子に蝶野も同意はできるし、これが1機なら大変なことになったのではと、ゾッとしてしまう。


 映画とかでも、こんなパターンでヘリが発進できずに、結局ヘリも避難民も化物にやられるのを見たことがあるからだ。


「まぁ、うちの連中も避難させたし、あとはあいつらも子供だから優先順位が高いんだが……どうだ?」


 あいつらが、誰を示しているかはわかりきっているので蝶野は肩をおとして疲れた声を出す。


「駄目だ。千冬たちは避難するつもりはないらしい」


 少し倉庫から離れて、堂々と立っているパワーアーマー。そのパイロットはどんなに説得してもハッチを開けないので、困ってしまうのであった。


           ◇


 蝶野たちが困っている中、40分後にヘリの第2便は戻ってきた。


 その第2便を前に、次に乗るメンバーである小枝たちが千冬たちへと声をかける。


「待っているからね! あとで野球のルールを教えるから!」


 端的なセリフに千冬たちもパワーアーマー内で答える。


「え、と、大丈夫だと思うので、あとで会いましょう」


「ん。リィズは野球は遠慮しとく。興味がない」


「そこは興味持ってよ! それじゃあ、またあとで!」

  

 ブンブンと手を振って小枝たちはヘリに乗り込み飛び立つ。ふわりとローターのないヘリは浮き、離れて行く中で、すぐそばで警戒していた戦闘ヘリが地上に向かって機銃を撃ち始める。


 どうやら危険分水嶺を敵が超えたらしい。走らせて倉庫までの到達時間を短縮させないために、あえて攻撃していなかったが、なにか動きがあったのだろう。


 いや、既になにが起こったかは千冬はわかっていた。モニターに映る敵の光点の近づく速度が明らかに速くなったのだ。たぶん倉庫を視認できる距離になり、グールたちが走り始めたのだろう。


「そろそろ敵がくるよ、リィズ」


「ん、とりあえず女子供は逃したから安心」


「私たちも子供だけど、わかってる? ふふっ」


 リィズの物言いに思わず笑みが浮かんでしまう。これから戦いが始まるというのに、恐怖する様子を見せないのは凄い。


 以前は砂漠で活躍していたらしいけど、3年前の話だ。……それ以降にミュータントとは戦ったことがないはず。本当にそうなのだろうかと疑問が浮かぶが、気にしても仕方ない。他にも理由があるかもだし。


 そういえばなんとなく……なんとな〜くパパさんと戦闘モードも似ているような……。まっ、いっか。


 これから戦闘である。他のドライたちがいない、極めて珍しい状況だ。


 僅かに恐怖を感じて、ゴクリと喉を鳴らす。むぅ〜、春夏秋冬の連携もなく、手強い敵と戦わなくちゃいけない。


 ツヴァイねーたんたちの映るモニターを見ると、縄でぐるぐる巻きのミノムシとなっており、ナインさんが縄を持って立っていた。ナインさんはこちらに顔を向けて深く嘆息する。


「少し予定外のことを皆さんでしているみたいですね」


 ナインさんは、今この話を知ったみたいで、いつもの優しい微笑みと違い冷たい視線を向けてくるので、思わずゾッとしてしまう。


「は、はいでつ。え、と、パパさんはどこに?」


「う〜ん……マスターは今、手が離せないですから、いないですね。怖かったら帰っても良いんですよ」


 いつもの柔らかい笑みに変わってナインさんが言ってくれるので、その笑みにホッと安心しちゃう。


 でもナインさんが蝶野さんと同じことを言ってくるので、どうしようかと考えるが、リィズたちを放置する選択肢はない。


「万が一の時には帰ります。ん〜……なんとなく大丈夫な予感はしますし、リィズを放置できないですし」


「そうですか。それならば任せました。帰ったらマスターに皆の分とは別の特製おやつを作って貰いましょう」


 優しい微笑みをかけてきて、ナインさんはサプライズなことを言ってくれる。


「やったー! 頑張りまつ! あ、つい言っちゃった」


 幼女言葉は卒業しようとしたのに、嬉しいことを言われて私は飛び上がるほど喜んでしまった。それじゃあ、チーズケーキを作って貰おうっと。おやつの恨みは深いのでつよ。


          ◇


 山林からちらほらとグールの姿が見え隠れしてくる。木々が聳え立つ中で、落ち葉を蹴散らし、木々へと飛び移り足場としてまるで猿のように、いや、幹をも足場にしているから、明らかに化物の動きで駆けてきている。


 しかも、そこら中からどんどんとやって来る。まるでイナゴのように無数にいるので、たしかにイナゴグールは良い名付けかもしれない。


「なんて数だ! グールだらけだぞ!」


 兵士の誰かが恐怖の声をあげて、倉庫に隠れている避難民もドヨドヨと予想以上の敵の数にどよめく。


 だが、こういった場面で活躍するようにこのパワーアーマーは作られているのだ。


「ハグルマさん。シールドビットを展開します」


 操作を行うと、ガションと音をたてて背中の排熱板のような36基のシールドビットが飛翔して、空へと舞い上がる。


「ふぉぉぉ! シールドビット展開させる!」


 リィズもシールドビットを展開させて、二人のシールドビットは倉庫の周りを等間隔で覆う。


 予定していた箇所へと設置終えたことを確認して、続けてボタンをぽちっとな。


「荷電粒子バリア展開!」


 等間隔に設置されたシールドビットの間に光り輝く荷電粒子のシールドが作られて、倉庫は見事に覆われるのであった。


「これこそ新機軸のパワーアーマー、出汁巻き卵! さあ、その力を見せつけるのだ!」


 ワハハとハグルマが腰に手をあてながら高笑いをする。さり気なくパワーアーマーの名前は出汁巻き卵に戻っていた……譲ることはないんだね。


 これが戦車たちのように歩兵の盾になり、それでいてバリアはビットによる展開なので、狭い場所から広い場所まで場所を選ばない。


 火力は戦車に劣るがこのバリア機能をつけたパワーアーマーは使い勝手が良いと想定されている代物だ。


 僅かにバリアは隙間ができており、そこから銃を撃ち放つように設置されていた。

 

 おぉ、とその頼りになりそうなバリアに兵士たちは士気を高め、倉庫内の避難民は安全になったのかとざわめく。


 光り輝くバリアドームを確認した蝶野さんは、兵士たちへと命令を下す。


「グールたちはバリア内に侵入はできないが、輸送ヘリが到着時は天井付近を一時的に開ける。その時に全力でグールが侵入できないように応戦するんだ!」

 

「おう!」

「いけそうだな」

「バリアに触れた敵は焼かれるのか」


 兵士たちは蝶野の言葉に頷き、バリアを破壊しようと荷電粒子に触れて燃え尽きるグールを見て安堵する。天井付近ならグールも飛び上がっては来れないので、その威力に安堵する。


 グールは飛び上がっても天井付近までは届かない。と、するとバットグールとレブナントが敵になるはずだ。


 最初のグールが駆け寄ってきて、バリアに触れて燃え尽きて、すぐに次の敵が呻き声をあげて、怯まずに近づいてくる。


 同じように荷電粒子のエネルギーを受けて、あっという間に燃え尽きるが、次々とまるでイナゴのように群がってくる。


「キシャー」

「キシャー」

「キシャー」


 グールたちはガラスを引っ掻いたような、背筋がぞわたつ呻き声をあげて、前のグールが焼かれるのにも怯まずにどんどんとやって来る。どんどん、どんどんと。


 グールの灰は宙に舞い散り、まるで雪でも降っているかのように地面を覆っていく。


「大丈夫なのか、これ?」


 灰が舞い散る中でようやくグールは突撃をやめて、バリアの前で唸り声をあげる。その数はもはや地面が見えない程で不気味なその化物がバリアがなくなったら襲いかかることは間違いない。


 一面グールだらけになって、その不気味さと、生者を食い殺そうと口を開けて威嚇する姿はまるで死者の世界に紛れ混んだのではと考えてしまう程だ。


 もはや壮大な合唱となったグールの呻き声は、バリアの周りを埋め尽くしており、ヘリ以外で脱出することは不可能だろう。


 戦闘ヘリが攻撃を繰り返しているが、焼け石に水にも見える。


 そうして、兵士たちが顔を引き攣らせながらその不気味な化物をしばらく眺めていると、輸送用ヘリが遠くの空からやってくるのが見えてきた。


「来たぞ! 天井付近を開放するんだ! 俺たちは戦闘準備だ!」


 蝶野さんが言うのと同時に、すぐに天井付近を開放させる。グールは天井付近までは飛び跳ねることはできないが、もっと危険な敵がいるのだ。


 パパッとシールドビットを一部格納させる。ちょうどヘリ2機の出入りができる程度の広さである。


 グールたちがなんとかして近付こうと飛び跳ねる中で、ヘリはゆっくりと降りてくる。


「ん、千冬、敵が見える?」


「敵だらけだけど、バリア内には見えないよ」


 レーダーを確認しながら答える私。ヘリには次に乗る人が急いでヘリに駆け寄っている。もしかして、無事に輸送が終わるのかと思った時だった。


「危な〜いっ!」


 少女の声がして、ハグルマがこちらへと凄い勢いで吹き飛んでくるのであった。

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― 新着の感想 ―
いま見ると敵でも味方でもネーミング微妙なのね。 そりゃ戦艦も強くならないわ。 でも名前だけ強くても駄目か。
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