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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
33章 人々の今の生活を見てみよう

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513話 懐かしの風景とゲーム少女

 ノソノソと歩くゾンビたちと違いグールたちは足が速い。人の全力疾走よりも速いぐらいだ。だが、牙を剥き獲物に襲いかかろうとしていたグールたちは撃ち倒されて、保護した生存者は合流したハグルマのトラックに匿われて、すぐに逃げだした。


 援護射撃を千冬とリィズがして、バギーとトラックは廃墟と化した街から脱出する。グールたちはその筋肉に覆われた脚を素早く動かして追いかけようとするが、ちょうど追跡する最短距離に段ボール箱があり、その箱が開いて出てきた銀色の粒子を見て、本能が嫌がるのか速度を落として、千冬たちを追いかけられないのであった。


 その光景を空中に浮かんだモニター越しに見ていたなぜか巫女服の子供な美少女はホッと安堵する。


「これでなんとかなりましたか。なんか昔を思い出すね。あの頃はあんな生存者がたくさんいたものだよ。それを颯爽と私が助けていたね」


 うんうんと頷いて以前を思い出すのは朝倉レキ。中身はなんかへんな物体Hが寄生しているとか、いないとか。


 そして、颯爽と助けた過去は存在しない。偽りの記憶を捏造して、なぜか感慨深く浸るゲーム少女である。


 意外かもしれないが、レキは基本はコミュニティに入りこんで助けるので、ああいういかにもな出会いから危険な救助はしたことがなかったりする。


 いかにも適当な遥らしかった。適当だからやはり遥でいいだろう。


「レキ様、状況はどうですか?」


 兵士が巫女服姿で段ボール箱で紙天使を作っていた、見た目にはごっこ遊びをしている子供にしか見えない少女へと敬礼して聞いてくる。こんなアホそうな少女に敬礼をするなんて、人ができている軍人である。


 丁寧な物言いは、天使教の信者なのだろうか。まぁ、特に気にすることもないかと、少女はコクリと小さく頷く。そんな姿も可愛らしい。巫女服を着ているから、可愛らしい服装も相まっていた。


「そうですね。300個程作ったので分隊は大丈夫でしょう。でも、粒子による妨害は1時間も保ちませんから、危険な分隊から回収もしくは援軍に行ったほうが良いです」


「了解です。すぐに救援部隊を編成します。飯田、仙崎隊にも同様に連絡しておきます」


 ビシリと敬礼して、軍人は駆け出していく。作戦本部に通達しに行くのだ。


 それを見送りながら、遥はちっこいおててを顎にあてて、子猫が不思議がって小首を傾げるようにして、口を開く。


「なにこれ? なんでこんなことになっているの? 教えて戦闘用サポートキャラさん」


 モニター越しにサポートキャラに尋ねると、コクリと頷いてサポートキャラは教えてくれる。

 

「これは封印の余波ですね。封印されていた際にもダークマテリアルはそのまま存在しました。本来は一部のオリジナルが強力なミュータントになるはずが、封印されたことで強化キャンセルされたことにより、ダークマテリアルが満遍なく拡がってしまったんです」


「なるほど、そのせいで今になってゾンビがグールになっちゃったのか。ゲームなら雑魚が一段階パワーアップしても脅威じゃないけど、現実ならオリジナルが強化されるよりも厄介か……」


「そうですね。あれはイナゴグールと名付けました。イナゴの群れが脅威になるのと同じ感じですので」 


「さすがは戦闘用サポートキャラ。的確な説明ありがとう。いつも助かるよ」


 にっこりと感謝の気持ちを込めて笑みを返す遥。相手もいえいえと、手を振って笑顔でそれが私の仕事なのでと謙遜し


「ピピー! なんで戦闘用サポートキャラをナインがやってるんですか! 名付けもするなんて酷い! あれはイナゴグールと名付けました!」

 

 レッドカードですと、笛を吹いて銀髪メイドが顔を真っ赤に怒らせて口を挟むのであった。名付けは絶対に譲らないサクヤである。


 そう、さり気なくサクヤがいないのを良いことに戦闘用サポートキャラをナインがしていたのだ。


「今日は姉さんはいないですし、代わりをしたんですよ」


 サクヤの仕事を代わった金髪ツインテールの可愛らしいナインはクスッと楽しそうにして笑う。

 

「そうそう、たまにはナインでも良いかなって思って。たまには良いんじゃない?」


 労るように優しい笑顔で愛らしい少女が提案するが


「ダーメーデース! それ、アイドルグループでたまには他の娘にセンターをさせてみなよとプロデューサーに言われて、センターの娘がそのままフェードアウトして卒業するのと同じじゃないですか! 私は騙されませんからね、ご主人様!」


 プンスカと唇を尖らせて、やけに具体的な例を口にするサクヤである。


「その優しい笑顔が胡散臭いです! ナイン、人の仕事を取らないでくださいよ!」


「わかりました、姉さん。フフッ」


 ナインは姉がそう言うとわかっていて、クスリと笑い、チッ、騙されなかったかと、どこかの少女は舌打ちするのであった。


「ともかく、私は人形を操りながらサポートキャラをこなすのも余裕ですから! だめですからね!」


「はいはい、わかったよ。で、今はどこらへんにいるの?」


 どうどうと手を振って宥めながら遥が言うと、マップを出してサクヤはどこにいるのかを教えてくれる。


「今は森林に入りこんで、グールたちを撒こうとしています。コミュニティもあるみたいですので、撒いたあとに行く予定です」


「なるほどね。久しぶりの生存者たちのコミュニティ、か」


 ゲーム少女は、口元をニマニマと笑みにする。たぶんその笑みから碌でもないことを考えているのは明らかであった。


           ◇


 千冬とリィズは一旦トラックに戻り補給を受けていた。パワーアーマーを運搬できるトラックは巨大で、なおかつ山の中も楽々移動できるハイパワーな特殊タイプである。


 メカニックたちが汗だくになり忙しなく動く。両肩のガトリング砲のエネルギーパックを入れ替えて、各種の点検整備を行う。なにせ、試験用の試作機なので、なにか異常があったら困る。


 まぁ、ゲーム仕様の怪しい荷電粒子エンジンとか言う名前の兵器だから、機体ステータスに出力されないで壊れることはないと思うのだが。荷電粒子で動く機体って、どんなのだろうと考えてはいけない。


「随分グールを引き離しましたね」


 ハッチを開けて、ジュースをコクコク飲みながら、千冬は尋ねる。口元にジュースが垂れたりするが、幼女なのでエロくなく、あらあら溢れてるわよと、世話好きのメカニックがハンカチで拭いてあげたりするほのぼのぶりだ。


「ん、レーダーにも敵の数が一気に少なくなったと表示されている」


 リィズも額に薄っすらと汗をかき、火照った身体を冷やすためにジュースを飲みながら言う。簡単にレーダーの拡大や3Dから赤外線センサーへと色々切り替えて見ているので、本当にこの機体のスペックを把握しているらしい。


 おっさんなら、デフォルトでしか操縦しなくて、あとでそんな機能あったのと、驚きながらやっぱりデフォルトでしか使用しないだろうから、リィズの方が優れているかもしれない。いや、スキルに頼らないところから、リィズの方が上だろう。トドメに金髪おさげの可愛らしい美少女だし。最初からおっさんには勝ち目はなかった。


「あいつらはイナゴのように増えていくから、イナゴグールと名付けた。現にゾンビたちはイナゴグールに触発されたようにグールに進化しちまうからな」


 ハグルマが宙にモニターを映し出し、軽やかに指を動かしてパワーアーマーの様子を見ながら口を挟む。できるメカニックに見えるが、よくよく見ると適当にボタンを押しているだけだとわかるだろう。クラフト系ではないサクヤにはメンテナンスなんて面倒くさいし、興味がないので仕方ない。


 演技のためだけに、他のメカニックたちが忙しい中で、遊ぶハグルマ人形であった。邪魔しかしていないかもしれないが、邪魔しかしないのはいつものことだよと、遠く離れた場所から少女の声が聞こえたかも。


「山の中も結構ゾンビたちいますけど、なんでこんなにいるんでしょうね」


 窓から見える外は街を抜けて、山道へと入っていた。鬱蒼と聳え立つ木々。山道には放置された錆びた車両があり、のそのそとうろつくゾンビたちが見える。見える中でもグールに変わっていくのだが、バギーから身を乗り出した兵士がサプレッサー付きライフルを撃ち、正確に倒していく。


 障壁を砕き倒すところから、質量変化弾を使用しているのだろう。静音での行動も必要なので、必ずサプレッサー付きの武器を隊は一つは支給されているが、かなり倒し方が手慣れていたので、千冬は感心しちゃう。


「う〜ん、ほとんど退治されずに封印されたらしいからなぁ。だが、山中にいる理由がわからんな。……いや、避難している数日の間にゾンビになっちまった奴らか」


 ハグルマの予想は当たっているかもしれない。コロニーがいくつかできており


「ん、レーダーに乱れがある場所もある。空間結界ができ始めているのかも。妹もそんなことを言ってたし」


 リィズも追加情報を口にする。あんまり嬉しくない情報しかない。


「さて、一旦本隊に戻るかぁ? 試験戦闘もこれだと予定していた手順の全部はできなさそうだしなぁ」


「そうですね〜。予定と大幅に変わりましたし」

「今日で片付けて、明日帰還予定でしたし」

「とりあえず、今日の試験結果で良いんじゃないですか」

「意外とグール怖いでつしね」


 最後の発言者が気弱なことを言うが、概ね今日は帰るかという雰囲気になり、弛緩し始めるメカニックたちだが


「ま、待って下さい! 帰還? あの、私たちの家族がこの先に隠れて生きているんです! 助けに行ってくれませんか?」


 それまではトラックの隅っこに体育座りで、息を潜めて様子を見ていた生存者の女性が、怪しい雰囲気を悟り必死な形相でお願いをしてくる。


「そ、そうだ! ここで帰るなんて言わないでくれ! 皆待っているんだ」


「頼むよ! な? お願いします!」


 残りの生存者たちも土下座をする勢いで頭を下げてくる。ここで見捨てられたらコミュニティは全滅するかもと恐怖に襲われているのだ。たしかにグールではバリケードは簡単に壊されてしまうのは間違いない。


 ハグルマたちはどうしようかと、その訴えに困った表情になるが


「ん、リィズたちが助ける。変更はない」


 ビシリとリィズは迷いなく助けると言う。ヒーローは絶対に弱者を見過ごさないのだと、フンスと息を吐いて。


「それに無謀でもないと思う。レーダーに映っている敵の数なら、山の中で助けが来るまで生存者を守りきれる。このパラディンはそういう仕様」


 ちゃんと状況も考えていたらしい。どこかのノリで生きる少女とは違い。仕方ねぇなぁと、ハグルマが前方のバギーへと連絡をとる。


「こちら蝶野だ。たしかにグールの数を考えても、救援のヘリが来るまで持ちこたえることは可能だろう。申し訳ないが、ハグルマたちはついてきてもらうぞ。……すまないな、千冬にリィズ」


 苦々しい表情で最後に罪悪感を見せて、蝶野が通信をきると、深くため息を吐いてハグルマは愚痴ってきた。


「ヘリがいつ来るかわかんねぇぞ? エネルギーパックの残りを数えとけ。ったく、面倒くせえ」


「生存者を助けることができて、パラディンも箔がつく。やったね」


 リィズは恐怖を見せずにケロリとした表情で言うのを千冬は嘆息しながら眺める。そのまま外へと視線を向けると、そろそろ日が落ちて薄闇が周囲を覆い始めていた。


 電灯がない山中では、暗く不気味な様相となるだろうと考えて、恐怖にブルッと身体を震わす。


 そう、千冬は怖かった。心臓がどくどくと鳴り、心が落ち着かない。そうして、ポツリとか細く呟く。


「私のおやつ、とっておいてくれているかな……」

  

 実はスケジュールは前倒しで今日帰還する予定だったのだ。学校をずる休みしているリィズのためにも。


 だから今日までのおやつはとっておいてと、頼んでいたのだが、今日帰れないとすると……。


 恐ろしい未来を考えて、千冬の心は暗雲に覆われるのであった。

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さす出汁巻き。薬局で卵用の出汁売ってたな
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