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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
33章 人々の今の生活を見てみよう

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510話 性能評価試験と少女ズ

 翌朝、太陽が昇り明るくなり大勢の兵士がテントから寝ぼけ眼でふわぁと欠伸をして這い出てきた。すぐそばに設置されていた立派なコテージの壁にある蛇口を捻り、顔を洗ったり、歯磨きしながらおはようの挨拶を交わす。


 そんなコテージから、てこてこと幼女が出てきてジト目となる。クルリと振り返り、納得いかないと不満そうにそのプニプニホッペを膨らませる。


「え、と、なんで兵士さんたちは平気な表情でコテージの水を使っているんですか? どうして驚くリアクションをとっていないで平然としてるんですか〜!」


 千冬、心からのツッコミであった。その叫びを聞いて水道を借りていた兵士が哀れむような視線を向けて呟く。


「あの娘が試験戦闘の……。可哀想に、まだレキちゃんの非常識に慣れていないんだな……」


 哀れむ方向が試験戦闘という血生臭い仕事ではなく、レキの非常識に慣れていないことな千冬であった。


「おはようござ、ふわぁ〜。朝早いで、ねみゅい……」


 いい加減な挨拶を欠伸でたどたどしくしながら、てこてことレキがコテージから出てくる。眠そうにこしこしと目をおててで擦りながら。その姿はパジャマ姿であったので、凄い可愛らしい。


「マスク! レキ様、マスクは!」


 普通に素顔なので、ツッコミを入れてしまう千冬。たしかに今までのドライたちとは違う細かいことを気にするドライであった。細かいことではないかもしれない。


「段ボールのマスクなんて、ゴワゴワしてつけてられないですよ。要所要所でつけるつもりです。次は千冬さんとお姉ちゃんがピンチになった時につけますよ。昨日の段ボールマスクはテーブルに放置していたらふにゃふにゃになってましたし」


 飄々とアホなことを宣うレキである。そうですか、と嘆息して千冬もツッコミをやめる。そうしないと、ツッコミが止まらないだろう。


「ん、二人共おはよう。朝ご飯を食べたらメカニックのところに行く」


 リィズもポテポテとパジャマ姿で現れて、朝ご飯を作ってとレキのパジャマの裾をクイクイと引っ張って催促する。どこらへんが姉なのだろうか。


「ささっと朝ご飯作っちゃいますね。お仕事頑張って下さい」


 その言葉に千冬は驚く。一緒についてくるとばかり思っていたのだ。


「レキ様は試験戦闘に来ないんですか?」


 レキではなく、段ボールレディだった筈だが、そんな設定は宇宙の彼方に忘れて、エプロンをつけたレキは答える。設定はノリで面倒くさい時は忘れる都合の良い少女であった。


「私は四国全体で空間結界が生まれた場所を感知して、そのそばに危険近寄るな、の看板を投げる役目があるんです。生存者たちが封印が解けてできたゾンビたちの巣に入り込まないように」


 コテージへと戻りながらレキは言う。


「吹き飛んだ四国空母から出てきた生存者がたくさん四国にはいるもので」


 ここで、一気に助けないで人間たちを手助けするだけなのが、パパさんらしいなぁと、千冬は一線を引くセリフに感心するのであった。


 たぶん命の危機が明白にならない限り、人間にその仕事を任せているのだ。


 その足取りには揺らぎはなく、表情も特段これと言って罪悪感や使命感で引き締まっていたりもない。平常運転なレキであったので。


 ちなみに看板はそのまんまの意味で、木の板を遠く離れたこの地からぶん投げるらしい。脳筋なゲーム少女である。


           ◇


 朝ご飯は美味しかった……。さすがはパパさんであるので、夢中になって食べてしまったと千冬は反省しながら、リィズの手を握って引きずってカタクチイワシ型空中艇に向かっていた。


 なぜリィズを引きずっているかというと、答えは簡単だ。


「うぅ、妹のご飯は殺人的。美味しすぎておかわりが止まらなかった」


 お腹を抑えて苦しそうにリィズが呟く。


 殺人的に美味しいご飯とは珍しいが、それでもレベル1程度に抑えられていたはずだ。しかしステータス補正が大きかったのだろう。


「それでも食べ過ぎですよ。5杯はおかわりしすぎです」


「し、仕方ない。新米に合うおかずばかり作るから……」


「はいはい。行きますよ〜」


 とてとてと移動すると、空中艇の貨物ハッチは大きく開いており、蝶野さんたちとメカニックたちが集まって談笑していた。こちらに気づき手をあげて挨拶をしてくるので、こちらもペコリと頭を下げる。


 頭を下げて、ちっこい身体もぴょこんと浮かせるので、なんとも可愛らしい。


 見た人がほのぼのしちゃう空気であったが、リィズの様子を見て眉を顰めて不思議そうな表情になる。


 たしかに、朝から具合が悪そうで引きずって運ばれているリィズは変にしか見えない。


「え、と、レキ様のご飯を食べ過ぎちゃって、アハハハ」


 頭をかきながら誤魔化すと、なにをやっているんだと面々は苦笑をする。


 ………約一名を除いて。


「んん? レキは本部にいるんじゃねぇか? たしかそう聞いたけど?」


 ハグルマがそう尋ねてきて、一瞬表情を驚きに変える。尋ねてくる間に、なにかに気づいた模様。


 モニターにサクヤが浮かびあがり、レキの姿も映る。


「ご主人様! 力を悪用しましたね! 自分の力に変えて私の目から逃れましたね、波長を変えて! おかしいと思ったんです。トドみたいになにもしないでベッドにおっさんぼでぃで寝てるだけなんて! これダミーですね」


「フッ、力の元が自分自身に変わったから、そう簡単にわからなかったな! 例えて言うと携帯の番号を変えましたみたいな! というか、気づいた瞬間に居場所がわかっちゃうのか、もっと精進しないとな」


「悪用です! 私の暖かい保護の目から逃れるなんて! 見ない間に、キャッキャッワクワクのお風呂シーンとかありましたか? 見逃したじゃないですか! 悪用! 悪用!」

  

 おばさんは片手を振りあげて、憤懣やるかたないと怒りの表情で、パパさんを非難しています。悪用って、おばさんの辞書にはどんな風に書かれているのでしょうか?


「なんとでも言うが良い! これからはどこに私がいるかわからなくなるだろう!」


 フハハハと幼女みたいな少女は得意げに腰に手をあてて勝ち誇る。遂にサクヤの手のひらから逃れたのだと、嬉しい模様。


 その姿を見て、得意げに勝ち誇るご主人様も可愛らしいですねと、サクヤは相好をグヘヘと崩すが、すぐにニヤリと悪そうな笑みへと変わる。


「ご主人様………。仕方ありません、ナインへとご主人様がおっさんぼでぃの時に叶得や水無月姉妹に迫られて鼻の下を伸ばしていて、なおかつ」


「ごめんなさい。もう欺瞞はたまにしかしません」


 あっという間に負けを認めて土下座するゲーム少女である。それでもたまには隠れるつもりらしいが。なおかつの続きはなんだったのでしょうか。


「勝ちました。賠償としてあとで一緒にお風呂ですね」


「あんまり弱みを使おうとすると、おっさんぼでぃでしばらく過ごすから。お風呂もおっさんぼでぃで乱入するから」


「ごめんなさい、たまにしか弱みは使いません」


 今度はサクヤが綺麗な土下座をする。息が合いすぎなので、この二人は台本があって、コントの練習をいつもやっているのだろうか。


 それはともかく、遥のサクヤからの独立宣言は数分で終わった模様。ナイン? ナインには既に説明して連絡先も教えてありました。


 話し合いが数秒の間に終わり、目の前のハグルマはフンフンと頷く。


「まぁ、今回の俺様の仕事には関係ないから別に良いか。気にすることもねぇな」


 猛烈に中の人は気にして狂乱していたような気がするけど……。役柄にそった行動をとることにしたらしい。さすがはプロ女優? である。


「おら、リィズもそろそろしゃんとしな。パワーアーマーに搭乗してもらうからな。操縦の仕方は昨日教えたはずだ」


 ラックにぶら下がっている金属の塊を油で汚れた軍手をつけた手でガンと殴ると、リィズもようやく立ち上がり真面目な表情へと変える。


「ん、既に操縦方法は覚えた。試験の目的も」


 真剣な表情で、サラッとリィズは言うが、覚えるのは大変だったはずだ。この少女は天才型でなおかつ努力家だと思う。プレッシャーも感じずに簡単に言えるのだから。


「え、と、それじゃあ、乗りますね」


 千冬も負けていられない。自分は運転と機械操作レベル2を持っているのだし、人間には能力的にも劣るはずはないのだ。


 どこかのおっさんが千冬の思ったことを聞いたら、フラグを建てたねとほくそ笑むかもしれない。


 まさかそんなアホなことを千冬が思う訳もなく、金属の塊に手を添える。金属の塊は千冬の触った箇所から光のラインが発生して塊全体へと伝わっていく。


「出汁巻き卵ガガガ、パラディン起動」

 

 なにやら最初に変なセリフが入ったが、なぜかハグルマの後ろにいたお爺ちゃんメカニックが小さなプレートを持っており、それについていたボタンを押下したのとは関係ないだろう。


 ハグルマが名前が変わったので、ショックを受けていたが。自信ある名前だったに違いないが、オタクなドライはたまに名付けが気に入らない模様なのだ。


 なにはともあれ、未来的なパワーアーマーの起動と共に3メートルばかりの背丈の人型へと立ち上がり変形して、前面がプシューという音と共に開くと、周りで見ていた野次馬兵士たちが、おおっと歓声をあげる。


 カッコいい起動なので、ミリタリーが好きな者たちなら喜ぶのは当たり前であった。


「おいおい、ずいぶんカッコいいパワーアーマーじゃないか」

「あまりパワーアーマーは配備されないからな」

「あれはこの先の一般兵士の標準装備になる試作機らしいぞ」

「レオタード、少女が乗るのですからレオタードをパイロットスーツにしないと」


 最後の発言者はどこかの少女の声に聞こえたが、スルーしてリィズを見ると問題なく起動していた。


 パワーアーマーを千冬は改めて眺める。スペックは聞いていたが、着込むといった形の小型パワーアーマー、胴体部分から肘と膝の手前までしか手足が届かないいつものタイプ。しかしながら、カッコいいし兵士が乗れば一騎当千となるから人気であるのに、空中バイクの変形タイプ以外はコストパフォーマンスを考えて支給がされていなかった日の目を見なかった兵器だ。


 両肩にビームガトリング砲。背中には排熱板のようにシールドビットが翼のように広がっていて、短距離ジャンプ用のバーニアが搭載されている。エンジンは強力な小型荷電粒子タイプ。手には小型荷電粒子ビームランチャー搭載。全体的に角ばっており分厚い装甲に守られている重装甲タイプだ。


 パワーアーマーは癖があるからリィズは大丈夫かなと、ちらりと視線を向けると、目を輝かせてうんせうんせと乗り込んでいた。行動が早すぎる。躊躇いとかはないのだろうか。うん、ないよね。


 自分も素早く着込んで、開いていた前面を閉じる。ハッチを閉める操作だけでも一般兵士には難しい操作のはずなのに、リィズも迷う様子はなくハッチを閉めていた。


「本当にやるんだな? 今ならまだ止めることもできるが……」


 蝶野さんが厳しい表情で話しかけてくるのを前面カメラアイにて確認する。やはり少女を戦争に出すのは嫌なのだろう。


「大丈夫です。シミュレーションでは好成績を出したので」


「ムフー、ナナには風邪をひいた千冬の看病で本部に泊まりこむと空中艇から連絡済み」


 私とリィズは大丈夫だと答える。リィズの答えがはたして大丈夫かは、ナナにこの話が伝わってからになるだろうが。


「よし、試験戦闘の説明をする。移動するぞ、お前ら」


 ハグルマがバギーを用意して言ってきて、蝶野も千冬とリィズの答えにため息をつきながら兵士たちを移動させるべく指示を出し始める。  


 そうして千冬たちはゾンビが徘徊し、未だに救助されていない生存者たちがいるであろう最前線に向かうのであった。

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― 新着の感想 ―
やはりこのアホなやりとりいいですね
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