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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
33章 人々の今の生活を見てみよう

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509話 夜の飲み会

 作戦室での話を終えて、試験戦闘は明日からだと千冬とリィズの二人と別れた夜、蝶野は厳しい表情で自分の個室にて、ハグルマというメカニックと相対していた。


「おっと、やっぱり酒は置いているんだろ? 少し俺にもくれ」


 小汚いメカニック服を着込んだ男は本部の人間には一見して見えない。エリート然としたイメージが先入観としてあるからだろうか? それに貧乏臭く戸棚を開けて、酒がないか物色している姿に肩の力が抜けてしまう。


「酒ならウィスキーがあるよ、そら」


 戸棚ではなく、横の引き出しを開けて、ポイと投げ渡すとニヤリと笑ってわかっているじゃないかと今度はグラスを探し始める始末だ。


 グラスも手渡してやり、椅子に座って話を聞くことにする。あんな少女がなぜ試験戦闘に合格したかを。


「まさか正直、ベテラン勢を倒して選ばれた訳じゃないんだろ?」


「そのまさかだよ。嘘だと思ったのか?」


 グラスにウィスキーを注ぎながら予想外のことを言うハグルマに驚く。作戦室での話には千冬に言えない裏の理由があると考えていたからだ。


 それが裏がない? 本当か?


「おいおい、公募の選抜試験は俺様が立ち会ったんだぜ? 単純に能力のある奴を選んだんだ。一般兵士用だから超能力者専用装備もついていないしな」


「あんな少女が凄腕だと言うのか?」


 信じられんと呟くと、ハグルマはグラスからウィスキーを一口呷る。そうして、こちらへと一瞬だけ鋭い眼光を向けると、口を開く。


「……あの娘は悪名高いクーヤ博士が本部に隠して育てていた戦闘用第三世代だ。素手でも確実にベテラン兵士の二人や三人は倒せる」


 暗い声音でハグルマが言う言葉に戦慄が走る。本部でクーデターをしたクーヤ博士が兵士として使ったあの少女たちか!


「ッ! あのクーヤ博士のか。なるほどな……。だからこそなのか。なら、なんで言い方が悪いが100万ポッチで試験戦闘に? 生産業で稼いでいないのか?」


「もちろんそんじょそこらの大人よりもずっと稼いでいるさ。だが、両親がその金は管理している。おっと、勘違いするなよ? その両親は将来の千冬のためにある程度貯金しているし、お小遣いは常識範囲だが、物などに不自由をさせたことはない、こっちもしっかりと調べたんだよ」


 二杯目を注ぎながら、手をふらふらと振ってハグルマは、こちらの予想、両親が駄目なのだろうとの考えも否定してくるので、訳がわからなくなってしまう。


 蝶野の戸惑った表情に、ハグルマはつまらなそうな様子でグラスを電灯に掲げてその中身を見ながら、ぼそっと話す。


「秘匿されていた第三世代は生産業でも結構各地を飛び回るドサ回りが多いんだ。まぁ、それは特に問題はないと俺様は思う。ドサ回りの方が経験を積めるし、そもそもあの歳だから、仕事も無理がないレベルだしな」


 その言葉に、こいつは根っからの職人気質だと理解する。


「話の流れがわからないな。それならなぜ大金が必要なんだ?」


「他の地域は若木シティのように平和なところは少ないんだ。そんなところに幼い少女が訪れる。大樹本部のお金持ちな少女だ。そんな少女が友達を見つけるんだ、孤児院のな。ちなみに両親はボランティア活動にまったく理解をしめさない」


 ようやく話が繋がり、蝶野は席に凭れかかる。なんというか……誰も悪くない話だったのか。その両親を責めることは無論できない。子供の将来のためのお金をボランティア活動に注ぎ込む両親はいないだろう。


 友達に食べ物を奢りたい、か……。


 ……娘が大金をボランティア活動に使うと言ってきたら、俺はどう答えるのか……。恐らくは自分のお小遣いの範囲でならと答えるに違いない。


「優しい少女だな……しかし、危険な仕事も今回限りだし、身の丈にあった寄付にするようにと説得するようにと、その両親に言っておかないとな」


「まぁ、危険な仕事にはならねえよ」


 ぶっきらぼうながらも、優しさを含むセリフに苦笑を交える。だが、戦闘は流動的だから、気をつけないとな。


「そうか……。なにかあったらぶん殴るからな。……ところでリィズはどうして試験戦闘に?」


「千冬を助けると無理矢理ついてきた。それに本部の科学者が、それならついでに天然の超能力者の力も計測しておけって、許可が下りた」


 荒須隊員に言っておかないと……。なんというか、怒るのは家族で良いだろうしな。たぶん千冬を止めない限りついてくるだろうし。大変な事態に嘆息をするのであった。


          ◇


 カタクチイワシ型空中艇のそばにテントを張り、千冬たちはのんびりしていた。


「ジャグジー風呂って、良いですよね。あわぶくぶく〜」


 ボコボコと湧き出る泡をペシペシと叩いて、キャッキャッと喜ぶ子供のような可愛いらしい美少女。真っ裸でジャグジー風呂を無邪気に楽しむ姿は、風呂に入っていると知ったら、なんで私は人形遊びをしていたのかと、どこかの銀髪メイドが血涙を流すレベルだった。


「ん、リィズもあわぶくぶく〜」


 リィズもキャッキャッと無邪気にジャグジー風呂を楽しむ中で、千冬だけはオロオロしていた。


「えっと、これはテントじゃないと思う……。ねぇ、リィズはレキ様と知り合いなの?」


 もちろん知ってはいるが、知らないフリ。


「ん、リィズはレキの姉。それがどうした?」


「だって、この人はレキ様……」


 先程突如として現れて、テントを張りましょうと、コテージを取り出した少女。今はジャグジーを楽しむ知りすぎな美少女へと目を向ける。なんでここにいるのだろう。


「違う、千冬。この人は謎の段ボールレディ。さっきそう名乗った」


 リィズが真面目な表情でふざけてくる。え、と、たしかにそう名乗っていた。コテージを出した時に、顔の半分を覆う段ボールのマスクをしながら、ビシリとポーズをとって。


 でももちろんお風呂では、そんなマスクは外している。お湯でへニョへニョになるし、当たり前だ。なので、正体はバレバレである。反対に隠す気があるのかと、問いたい。


「チッチッチッ、マスクがなくても正体は気づかないことにしないといけない。それがマスクヒーローの暗黙の了解」


 湯で濡れているリィズが人差し指を振りながら、ドヤ顔で言ってきて


「さすがお姉ちゃんです。わかっていますね! お風呂から出たら、美味しいグレープジュースを飲みましょう」


 わぁいとレキは手をあげて喜び、リィズはフンスと得意げな顔になる。


 わぁい、この二人はたしかに姉妹だと千冬は呆れるのであった。

 

 お風呂を終えて、三人は腰に手をあててグレープジュースを飲む。とても冷えてて美味しい。


「本当はコーヒー牛乳かイチゴミルクが良かったんですが、グレープジュースでも良いですよね」


 パパさんじゃないや、レキ様が一気飲みして満足げに感想を言う。


「ん、妹よ、これもまた良し!」


 グッと親指をたてて、妹よ、なんて言うリィズ。さっき正体には気づかないことにしたんじゃ?


 どこからツッコミを入れたら良いか戸惑う私をジッとレキ様が見つめてきた。


「実に珍しい。適当で面白いこと好きなドライたちの中で、そこまで真面目な娘がいるなんて」


 フフッと、優しい微笑みでレキ様が言う。というかパパさんだけど。最近雰囲気が少し変わったパパさん。私たちはあまり気にしなかったけど、おばさんとナインさんは満足げであったことを覚えている。


 たしかに私は珍しいのかな? 他のドライならノリノリで悪のりして、ビッグウェーブに波乗りするでつ、とこの状況下を楽しむことは間違いない。戸惑う私が少数派なのだ。


「個性があって良いことです。よしよし」


 頭を優しくナデナデされて、ほにゃあと嬉しく思って目を瞑る。えへへ、パパさんのナデナデは大好き!


 それに個性があって良いらしい。その言葉に認められた感じがして、心がポカポカする。


「さて、では千冬が稼いだお金でなんのお菓子を買うか決めましょうか! 私のオススメは麩菓子です。あれは甘くて黒砂糖の固まったところがカリカリ甘くて良いですよね」


 渋い選択をするゲーム少女。さすがは中の人がおっさんなだけある。選択肢が渋い。


「ん。どんな友達にプレゼントする?」


 リィズもノリノリで、レキと一緒にソファに隣同士で仲良く座って話にのってくる。


 そこにシノブねーたんがモニターに移り、台本をすばやく見せてくるので、それを速読してあんぐりと口を開けてしまう。


 なんか凄い設定だ。私はいつの間に貧乏な孤児院の友達ができたのだろうか? そして、孤児院を救うのはテンプレだねとパパさんはウンウン頷かないで欲しい。アドリブって凄い苦手なのに〜。練習した役柄なら得意なのに。


 渋いベテラン軍人のテストパイロットの役は頑張って練習したのだ。何回も弾幕薄いよっ、なにやっているの! ってセリフを練習したのに。


 だが、自業自得であるので、文句は言えない……。シノブねーたんたちも楽しんでいるし。


 しょうがないと、腹をくくる。


「えっと、派遣先で友達になった孤児院の子たちなんです」


「ん、リィズに任せれば的確なお菓子を選べる」


「私が選んでも、問題ないです。一万人ぐらいの友達でしたっけ?」


 友達100人どころか、1万人と適当極まる人数にするレキである。レキだと少し名称が可哀想かもしれない。


「ん、それだと、なにが良いかな? 一口チョコ?」


「リィズ、本気にしないでくださいっ! え、と、人数はその20人ぐらいです」


 これぐらいが適当な人数だと思って言うと、1万人お菓子配ろう計画と画用紙に色えんぴつで、うんしょうんしょと可愛らしい声で書いていたレキが残念そうな顔になる。


 なんでそこでボケるのかと言われれば、それがアイデンティティなのでと、アホな少女は答えるだろう。


 もしかして、私以外のドライなら、その話にのって1万人にした可能性があると、ゾッとする千冬。楽しいことが大好きなので仕方ない。まったく親に似すぎな子供たちなのだからして。


「む〜、せめて1000人ぐらいに」


「しませんから! 20人! 孤児院にいるのは20人程度です!」


 プクッと、頬を膨らませて不満そうなレキ様だけど、ここは譲れない。ちょっと声を張り上げてツッコむ。


「20人なら100万マターも必要なくない?」


 コテンと首を傾げてリィズが言うが、たしかにそのとおりだ。どうしよう?


「まぁ、実際はお菓子だけじゃないんですよね? 生活不必需品が子供には必要ですが、そこまで孤児院は余裕はないでしょうし」


 レキ様がのほほんとした口調で助け舟を入れてくれる。なるほど、私がやる予定の話だけど、そうだったんだ。


「なるほど、千冬は立派。それじゃあ、なににする?」


「人数がいますし、大量に作れば作る程安くすむ食べ物がいいと思いますよ。ん〜、ケーキにしましょうか?」


「そうですね、ケーキなら皆大喜びするはずですし」


 それならキノたんたちも喜んで飛び跳ねてくれるに違いない。しかもパパさんの手作りだ。


「それじゃあ、どれだけ大きいケーキを作れるかチャレンジですね。やっぱりお菓子の家が良いでしょうか? 以前作ったんです。オリジナル性を出して、外装は白いビルにしました」


 豆腐職人は平然とオリジナル性という便利な言葉を使って誤魔化したりしていた。


 だが、お菓子の家は楽しそうだと、千冬は喜びリィズは絶対に食べると目的を忘れていた。


 そんなこんなで夜はふけていくのであった。


 ……ただ一つ懸念は


「私たちが孤児役ですね」

「最近ドライたちに司令は構いすぎです」

「バブバブ、アタチ16ちゃい」


 ねーたんたちがモニター越しに不穏なことを話しあっていることだったりするけど。

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娘の稼ぎでケーキを強請る孤児院の母親連中。 これはカオス
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