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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
32章 昔の話を聞こう

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503話 さようなら異世界

 昔々、遥かなる昔にこの世界は海に覆われた。住むべき大地は海に覆われて、人々は船の上で生活を営み、呪われた力で生き残っていた。


 その呪われた力を加護だと勘違いしながら。


 ある時、その苦しい生活を憂いた美しい女神が


 可愛らしい女神が


「う〜ん、筆がすすまんな。アホな女神では伝記にはならないだろうしな……」


 ペンを置いて、考え込むレモネ艦長。分厚い伝記を書こうとしていたが、あっという間に行き詰まった模様。


「レモネ元艦長! ほら、調査に行こうよ!」


 不自然に綺麗なログハウスの書斎にいたレモネ元艦長を舞が部屋を覗き込んで誘う。


「あぁ、もうそんな時間か」


 すぐに行くとレモネ元艦長が返事をするので、舞はてこてこと外へと出るのであった。


 緑溢れ、鳥が飛び、動物が彷徨く外へと。


         ◇


 外では既に付近に生えていた木に成っている果実をもいで、口に入れる人々がいた。


 あれはたしかりんごである。小さくてなんとなく酸っぱそうだけどと舞が思う中で、食べた男が眉を顰める。


「なんというか、酸っぱくて食べられない訳じゃないが、甘くて美味いとも言えないな。腹が減ったら食べるかという感じだ」


「随分果実が成っている木が多いけど、全部同じような感じ?」


 舞は残念そうに果実を見るが、他の人が食べかけを捨てて頷く。


「これを喜んで食べるのは、野生動物たちじゃないか? たぶん俺たち用じゃないんだ」


「女神様は楽園を用意してくれた訳じゃないんだね。家は用意してくれたみたいだけどさ」


 苦笑しながら、後ろを向くとログハウスが大量に並んでいた。全て水晶式エンジンが取り付けられていて、一年は保つエネルギーが入ってもいた。


「そうだな、どうやら大地を復活させてくれただけのようだな。あとノアの呪いの解除か」


 レモネ元艦長が家から出てきて、日光の眩しさに目を細める。


「ノアの呪いはあっても良かったよ。う〜ん、でもノアの操り人形になっちゃうのは勘弁だけどね」


「それこそ人間の意地汚い欲なんだろうな。大地は欲しいが、そのために超能力を失うのは嫌だと。でもそれはうちらの次の世代だから、まぁ、気にしてもしょうがない」


 ラダトーに帰りそびれたブレイバーが、早くも森の中から現れて猪を担いでやってきた。伝説の生物だったが、今はそこら中にいるので皆して捕まえて食べていた。


 猪を見て、開拓団のおばさん連中が血抜きをしなきゃ。今日も肉パーティーねと喜んでいる。


「そうだね〜。まさかこんなことになるなんて、ね」


 舞はどこまでも続く地平線を見ながら思う。あの少女との出会いがこんな世界へと変わるキッカケになるなんてと。


          ◇


 ノアとの決戦に勝ったレキは全ての人間の頭へと突如として話しかけてきた。


 舞は少し離れた場所で、実際に空に天使の羽を翻して浮く神々しい姿のレキを見ながらだったが。


「人間たちよ。私の名前は朝倉レキ。人の世を救わんとべちゅせきゃい………噛んじゃった。なんとなくわかるよね? やり直ししなくて良いよね? 海の世界の支配者として、人々へと加護と称して超能力と人口抑制の洗脳をしていたノアは倒しました」


 舌がちょっと痛いです、と神々しい声で語りかけてきているのに、アホそうな女神レキ。その声音は愛らしい感じはするが。


「このたび私がこの世界の責任者となりましたが、私は特にこの地に住む人々になにも強制はしません。悪徳を極めてウザいですと言われて滅びても、善人の世界を築こうとも私は気にしません。元の世界へ帰っちゃうので」


 あっけらかんと、軽い口調でこの世界を見守るつもりはないと言うレキに人々が戸惑う。


「なので、最初の状態にしておきます。大地を元に戻して、人々の次世代の子からは呪いを失くします。あと、水晶を宿す生き物は自然と消えていくので、水晶式は100年後には使えなくなっているでしょう」


 コホンと咳を一つつきレキは話を続ける。


「大変だとは思いますが、頑張ってください。あ、あと家をなくした人が多いので、大量のログハウスを作っておきます。賠償請求は死んだノアによろしくお願いします。それじゃ、さようなら」


 あっさりと言うと、天空に光の大穴を生み出して、その穴に入って行く。海老が続くようにフヨフヨと浮いて入っていくのが、どことなく間抜けであったけど。


 そうして、辺りに動かなくなった段ボール箱を放置して、天空の大穴は轟音と共に閉まり


「海が消えていくっ! いや、大地が迫り上がってきているのか!」


 人々が辺りを見て驚くように、緑溢れ、多種多様な生物が棲息している大地が迫り上がって現れて、海は消えてなくなったのであった。たぶん遠くでは海があるのだろうが、このルキドシティの周りは少なくとも地平線が見えていた。


 そう、この世界はレキ曰く、正常な世界へと戻ったのだった。


「ルキドシティは、聳え立ってたんじゃなかったんだね」


 今のルキドシティというか、海に聳え立っていたルキドビルは、周りよりちょっと高い台地となっていた。


 下層は全て地下へと埋まっていたので、だから海の中でも水浸しになっていなかったのかと、真実を知った。たしかに洪水でも残った高層ビルなら、下層は窓ガラスが割れたり、ドアが開けっ放しになっていて、海底に沈むはずであった。


 なんのことはない。他の大地と違い沈まなかっただけだったのだ。


「歴史とは自然と歪むものだからな」


 レモネ元艦長が重々しい口調で頷くが、たぶんそうしてみたいだけだろう。古代とか、歴史とかに食いつきすぎな人なのだ。


 別に人の趣味だから、とやかく言うことはせずに歩き出す。


「まずは住みやすそうな場所を見て来ようっと」


 スキップしながら、初めての土の感触を足に感じながら舞は進むのだった。


 初めての大地。ルキドシティのなんちゃって大地とは違う大地。日差しの中で空高く木々は伸びており、草木の合間からウサギが飛び出してきて、驚いてしまう。木の枝にはリスがいて、なにかの果実をカリカリと齧っている。


 復活した大地は、それまで普通にあったかのように、植物は繁茂し、動物が暮らす不思議な大地であった。まるで時を止められて、海の中に今まで封じられていたように。


 舞はそこらに落ちていた木の棒を拾い、振り回しながら探検を楽しむ。無論、なにかないか調べながら。


「レキやシスとはもう会えないんだろうなぁ」


 可愛らしい二人の少女たちを思い出して寂しく思う。たぶんあの大穴が閉じたことで、神隠しももう起こらないのだろうと、感覚でわかる。


 もはや地球との通路は閉じたんだろう。誰も通過できないように。


 これからは自分たちで、この広大な世界を生きていくんだと、なんとなく理解している。


 そんなことをつらつらと考えながら歩いていたら、地面を流れる水を発見した。


「わわっ! 小川とか言うのだよねっ! 初めて見た!」


 金持ちが自分の庭に意図的に作る小川。その小川が自然の中にあって驚く。


 幅は10メートルぐらい。ゴツゴツとした岩床が水の中に見えて、結構水の勢いはある。だが、水深は1メートルぐらいだろうか?


「へぇ〜。これが小川かぁ。水場を見つけたって皆に教えないとね」


 小川の綺麗な水を見て、心がわくわくしてしまう。飲んだら美味しそうだと、手で汲もうとした時だった。


「やめておいた方が良いよ。どんなに綺麗でも、小川には雑菌があるからお腹を壊す」


 のんびりとした、どことなく覇気のない声が私にかけられたのであった。


 声のした方を見ると、小川に出っ張るような岩場におじさんが座っていた。のんびりと木の枝につけた糸を川に放り込んで座っていた。


「あの、小川でなにしてるの?」


 私はおじさんを観察しながら、尋ねる。なんとなくくたびれたおじさんで、よれよれのスーツを着て、木の枝につけた糸を見ている。その様相を見るにルキドの下級職員かな?


「渓流〜」


「渓流?」


 なんのことだろうかと、首を傾げる私におじさんは言う。


「こういった山奥の川を渓流と呼ぶのさ」


 のほほんとした口調で教えてくれる。なるほど、渓流と呼ぶのね。


「で、渓流でおじさんはなにをしているんですか?」


「おじさんはねぇ〜、釣りをしているのさ。ほらそこそこ釣れているだろ?」


 おじさんの横にあるバケツには、魚が数匹入って、泳いでいた。


「珍しい釣りですね。この魚は殺さなくて大丈夫なんですか?」


 超能力で抜け出すんじゃと、心配する私におじさんは微かに口元を歪める。


「この魚たちは水晶を持っていない。なので、安全だ。釣られ慣れていないはずなのに、入れ食いにならない狡猾さはあるが」


「水晶がない? え〜、それじゃ釣っても意味ないじゃないですか!」


 なんでこんな小さな魚を釣っているのか意味がわからないと、私は声を張り上げる。その様子に苦笑しつつ、おじさんは木の枝を引く。


 引いた先には糸に魚が食いついており、ピチピチと跳ねていた。


 おじさんはヒョイと魚を掴んで、糸から外してバケツにポチャンと入れて、こちらへ視線を向ける。


「これからは水晶がない生き物だらけになるのさ。その代わりにこいつらを食べて、自分のエネルギーにする」


 のほほんとした口調で言うおじさんの言葉に驚く。猪は水晶を持っていた。それじゃ他の生き物は?


 小さな生き物は水晶を持っていないのだろうか? 結構早く困ることになるかもしれない。


「水晶の価値が早くも値上がりするね……これは大変かも。おじさん、物知りだね!」


 のんびりとしたおじさんなのにと、内心で失礼なことを思いつつ、感謝するとかぶりを振って、さらに良いことを教えてくれた。


「薪から火を作れば良い。田畑を切り開き、家畜を育て生きていけば良いさ。なにしろ土地はいくらでもあるからな」


「おぉ、そっかそっか! 木材は貴重な物じゃなくなったし、いくらでも田畑とかも作れるもんね! あ、それにも機械が必要になるな……」

 

「どうだろうな? 今ある作業用ロボットを皆が使えれば良いが、無くても君たちは生活の基盤を作れる程の身体能力を持っている。子供たちはその力はないから、今のうちに頑張ればいいさ。それに水晶式でない機械を作れもするはずだしな」


 穏やかな口調でおじさんは教えてくれる。その言葉に頷いて、レモネ元艦長なら、そんな変わった知識を持っているだろうと、あとで聞くことにする。


 開拓の傾向が頭に浮かんで興奮してくる。これから本当に自分たちの力で切り拓いていくんだと。


「頑張れ、頑張れ。これから苦難の暗黒時代と言われるか、輝かしい開拓時代と言われるかは、君たちの手にかかっているのだから」


「も〜。こんなところで釣りなんて、のんびりとしたおじさんだなぁ。これから先、おじさんも頑張るんだよ!」


 他人事じゃないよと言いつつ、凄いキッカケをくれたと、私が喜ぶ中で遠くから声が聞こえてきた。耳を澄ますと、どうやら仲間らしい。


「お〜い! 一旦集まって情報を精査しようってよ〜」


「は〜い! 私渓流を見つけたんだよ〜」


 声のする方へと顔を向け、大声で答える。


 まずは渓流の水は飲んじゃいけないということを、皆に教えようっと。


 それ以外にも、おじさんの言葉を伝えれば、具体的な方法が皆から提案されるはずだ。


 ウキウキとしながら、帰ることに決めて、おじさんへとお礼を言おうと振り返る。このおじさんは物知りっぽいし、私たちの開拓団に誘ってみようと思いつつ。


「ねぇ、おじさん。一緒にこな……おじさん?」


 振り向く先、すぐ隣で釣りをしていたおじさんの姿はどこにもいなかった。


 まるで最初からおじさんなんていなかったかのように、川のせせらぎだけが聞こえてきていた。もちろんバケツも木の枝もなかった。


 私はそれからおじさんを探して見たが、どこにもいなかった。

 

 合流したあとに、おじさんを知っている人を探してもいなかった。


 だいたい、今の状況で釣りをする人間なんかいるわけないだろと言われて、初めておかしいことに気づいたのだった。


 ただ、その知識が私の頭に残っただけである。皆はよく考えついたなと褒めてくれたけど。


 あれから時折、木の枝、即ち釣り竿とあとで知った釣り竿で釣りをするのが私の趣味になった。


 またひょっこりと、不思議なおじさんに会えるかと思いつつ。

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しょぼいおじさんムーブが出来るのは異世界だけ!
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