495話 ゲーム少女は異世界でも人気者
空は青く鳥が飛んでいくのが見える。あれはきっとリョコウバトだねと知ったかぶりをする美しい黒髪黒目で、保護欲を呼び起こされる子猫のような可愛らしい少女は思ったりした。
「ふふふ、リョコウバトはノアの洪水時に最初に大地を発見した動物らしいですよ」
子供のような可愛らしい体躯で胸をそらしながら、たまたま知っていた雑学を誇る少女の名前は朝倉レキ。眠そうなおめめも相まって愛らしいことこの上ない。
「ミャーミャー」
レキのセリフに合わせるように空を飛んでいる鳥がミャーミャーと鳴く。どうやらウミネコの可能性大。
「リョコウバトもウミネコみたいな鳴き声なんですね。なるほど〜」
その鳴き声を聞いても平然とした表情で絶滅種だから鳴き声なんか誰もわからないよねと雑な誤魔化し方をするアホの少女でもある。最近ますます中の人の面が分厚くなっているのは気のせいだろうか。
「あれはウミネコでは………たしかにないようでありますね」
隣の軍人のような服装の少女、水戸シスが空を仰いで口元を引き攣らせる。マジかよとレキも誤魔化したことは自覚があるので、よく見てみるとなんと頭が猫の鳥だった。
「あれはネズミを駆逐してくれる益鳥空ネコだね」
のんびりと畑を見ていた水兵服で、この世であるまじき髪の色、すなわち青色をしている少女、水波舞が教えてくれるので、やっぱりネズミはどんな場所にもいるのねと、シスと二人感心しちゃう。
そんなありえない生態系の世界。ノアの滅びし世界にレキたちは不運な事故で紛れこんでいた。不運な事故じゃないだろ? それは当事者の目線によると思います。
今いる場所はどこかと言うと、スルメイカではなくて、ノアシップ180番艦の植物生成工場である。使っていないシリンダー、割れており基幹部分も破損しており、もはや使用不可能と判断されたゴミのシリンダー。その前にレキたちは集まっていた。
何のためかと聞かれたら、お土産作りのためだ。特にコマンドー婆ちゃんたちには珍しい物を持って行かなきゃ確実に怒られると、悪戯が見つかって誤魔化そうと足りない頭を捻る幼女の如くレキは頑張っていた。レキと呼ぶのは可哀そうなので遥に名称を変えよう。
そしてゴミだからとタダで貰ったシリンダー。不思議なことにピカピカのシリンダーが嵌め込まれており、その透明度は既存の古いシリンダーを上回っていた。
当然、基幹部分も修復されており、なぜか独立した超小型エンジンが取り付けられており、稼働が簡単にできる状態にあった。
子供のような美少女が昨日修復しちゃったらしいけど、それは内緒にして、たまたまスクラップを触っていたら稼働したんだよと、ちっこい指をしゃぶりながら語るアホな少女がいたりもした。
もちろん、周りの人間は欠片も信じてはいなかった。シスへとあの子供はなんなんだとレモネ艦長たちが群がって尋ねていた。どうやら天才少女の護衛だとシスは思われた模様。
海老は実験機で、たまたまこの世界に来てしまったのだと、見かけはひ弱な可愛らしい美少女なレキを見て考えたらしい。
シスが軍人ぽいので、秘密の実験でもしていたのだと予測してしまっていた。
そのため、ルキドの科学者やお偉いさんも集まって、ゲーム少女を取り込もうとしたのだが、裏から入るならともかく、正面からはノアシップに入り込めず歯噛みしているばかり。
レモネ艦長たちだけだが、それでもエンジニアも含めてシスへと纏わりついていた。なぜレキには纏わりつかないか? それは簡単である。
バブバブ、アタチジュッサイ。と十歳でももう少しまともな答えをするだろうに、遥はその完璧な説明で質問を返して、なにも語らないからであった。
我こそは今孔明と内心で嗤うゲーム少女に対して、天才となんとかは紙一重だからなと。違った納得をしてレモネ艦長たちは少女へと問いかけるのはやめたのである。
そして、シスならば話ができると詰め寄っていた。
そんな訳でシスが大変だが、コマンドー婆ちゃんに怒られる私も大変なんだよと、シリンダーで面白美味しい物を作ってお土産にしようとするゲーム少女である。
ポチッとボタンを押すと、ウィーンと機械音がして、二度と直らないはずのシリンダーが稼働し始めて、青い光がシリンダー内に灯る。
よしよしと遥は頷いて、このために呼んでおいた雪子へと声をかける。
「雪子さん、お持ちの超能力で妖精の笛という枝豆を作ってくださいな」
なんでもお酒のオツマミに最高らしい。眠たくなるような心地良さを生みだすらしいので、寝れば怒れないでしょと、これぞお土産にピッタリと決めたのであった。枝豆をチョイスするあたり、おっさん臭さが消えない遥だった。
そして妖精の笛は超能力である程度育てないとできないらしいので、雪子に頼んだのだ。
「しょうがないなぁ、レキちゃんのためだし、成功したらホッペにチュウをお願いね。グヘヘヘ」
雪子は変態発言をしつつ、綺麗な銀髪をなびかせて、よだれを垂らさんばかりに言うと、シリンダーへと手を向ける。
「ごごご、なにかの封印がとれるぜ!」
擬音を口にして、アホな発言をする雪子の上品な白と黒のコントラストが完璧なメイド服がなぜか風もないのに弛んだりもする。
少しして、シリンダーがピカリと光り、なにかが完成した。
「やりました! 塩茹で枝豆完成です!」
ドヤる雪子の向けていたシリンダー内には、なぜかザルの中に塩茹で枝豆がホカホカと湯気をたてながらできていた。
「はい、雪子二号は退場。雪子一号はどこかな?」
あっさりと冷たく言い切り、自称雪子へとチェンジを言い渡す遥。
自称雪子は不満いっぱいと頬を膨らませて、遥へと迫りくる。しかも顔を近づけて来るかと思ったら胸を近づかせながら。この変態さんめ。
さすがは元祖変態なメイドは、フンフンと胸を押し付けながら言う。
「私は戦い以外のクラフトが苦手なんですよ! 頑張って作ったんだから塩茹で枝豆で良いじゃないですか!」
「塩茹で枝豆だとそこら中に売ってるでしょ! なんで茹でた枝豆になっちゃうわけ? どうしてできもしないのに欺瞞を使って雪子さんと入れ替わった訳? 雪子さんはどこ?」
二人でアホな言い合いをするが、指を絡ませてモジモジとしながらサクヤは意外な発言をしてきた。
「だって、ご主人様に対して変なことを言うものですから。私は悲しく思いまして……」
ぐすぐすと泣き始めるサクヤ。そんなことぐらいで、この世界にやってきたらしい。ナイン? ナインは特別だよ。
「あだ! 目薬を入れすぎました。ご主人様、ハンカチ貸して貰えます?」
さすがサクヤ。アホな行動は追随を許さないねと、まったく自分の行動を顧みないアホな少女は呆れちゃう。呆れることはできないと思われるのだが。
「で? 雪子さんは?」
「あぁ、隣のシリンダーに入れておきました。ボタンを押せば合体するかもですね、ププ」
さりげに酷いサクヤである。どうやら雪子の行動は許されなかった模様。仕方ないなぁと、シリンダー内にぐるぐる巻きになっていた雪子を助け出して縄を解こうとしたところ、ようやく話し合いが終わったのか、シスたちが近づいてきた。
「隊長殿、申し訳ありませんがレモネ艦長たちがお話があるそうです」
「あ〜、はいはい、なんでしょうか?」
手強そうなレモネ艦長の取引に負けたのか、シスは決まりが悪そうではあるが、実は………と口を開くのであった。
◇
ゴウンゴウンと音をたてて、エレベーターは一路地下へと向かっていた。搬出用エレベーターであるので、最下層途中までは機動兵器で向かっている。
スカイシリーズや装甲車、オールドロットの機体、すなわちブレイバーまで来ている。なんと装甲車にはワイドマンまで乗っていた。
これはなかなかの集団ではある。そんな偉い人たちも含めて、ルキドの街の地下へと遥たちは向かっていたりする。チカチカと点灯している発光壁がちょっと怖い。
「搬出用エレベーターだと途中までしか機動兵器は行けないから、危険極まりないのに皆さんよく来ますね」
おっさんなら、絶対にお断りだ。戦車から降りると確実にやられる脇役なので。きっと酸の血とか受けるに違いない。私なら絶対に危険には近寄らないね。
「管理センター本部に行くとなると、ルキドのお偉いさんも放置はできなかったんでありますよ」
シスが計器を確認しながら言ってくる。そのとおり、遥たちは最下層の管理センター本部に向かっていた。ここを支配できれば大変なことになるため、ワイドマンも危険を冒してついてきたのだ。
「だろうねぇ。こういうパターンは確実に脅威となる敵がいると思うんだけどなぁ」
絶対にテンプレであるからして。反対に敵が出てこない方が驚きます。おっさんならばやばいけど、レキだから大丈夫だろう。そしてこのパターンだと、南無ワイドマン……である。
「しかしどれだけ地下……いや、元は地上だったんですね。凄い降りてますよ」
海溝とでもいうのか、かなりの深さに潜っているので、シスはパネルを見て驚く。
「たしかに天空とはいえ、ノアは大気圏までの距離がおかしいですよね。最初から設計ミスだった予感」
遥も多少呆れた表情で、これは最初から洪水ありきの世界だったんではと疑う。その場合、ノアは騙された者だ。最初から騙されていたのか、あとで方向転換をくらったのかは知らないけどさ。
そんなことをつらつらと考えていたら、エレベーターが停止する。まだ50階は階層が下なのに機動兵器はここでおしまいであった。
てこてこと機動兵器から降りて、少女たち御一行は階段を降りていた。なんと人用のエレベーターは破壊されており使えなかったので。
降りていく途中で、でっかい真珠貝が噛みつき攻撃をしてきたり、育ちすぎたウツボが噛みつき攻撃をしてきたり、もう面倒くさいから帰ろうよと、ゲーム少女がレモネ艦長へと噛みつき攻撃をしていたりしたが、それでも苦戦せずに降りて行けた。
なぜかというと、光学兵器を持って来ていたからだ。お高い武器だけに効果はバツグンらしい。チャリオットカジキマグロよりも硬いと思わせる化物真珠貝もあっさりと貫き焼き尽くしていたので、かなりの威力である。
「クソ! 光学兵器だと真珠貝を倒しても素材が手にはいらん! 通常武器でなんとかならんのか?」
ワイドマンが、恐ろしく高価な素材が失われるので不満を言うが、護衛たちは無理だと宥める。さすがに命は惜しいのだろう。
「光学兵器のエネルギーが切れたら、俺たちはおしまいだな」
レモネ艦長は腰につけている光学兵器を見て、皮肉げに言う。
「だそうですよ、シスさん。なんて怖い場所なんでしょう。私怖い!」
幼い少女は両手で顔を覆い、身体をブルブルとわざとらしく震えさすが
「自分も饅頭怖いであります」
冷淡な口調でシスがなかなかの切り返しをしてくるので、この短期間で成長したねと、喜んじゃう。
シスにとってはそういう方向の成長はしたくなかったと思われるが。
コントを繰り広げる二人へと、シリアスなレモネ艦長は重々しく言う。
「俺はこの世界の歴史を知りたい。きっと隠された本当の真実があるはずなんだ。洪水とかは嘘で、植民に俺たちはこの惑星に来たのではないか? なにか隠された古代文明があると信じているんだ。だからこそ今回の仕事に乗ったんだ」
大いなる古代の真の歴史を探ろうとしている男がここにいた。歳に似合わず少年のような瞳をして、古代の謎に挑むロマン溢れるレモネ艦長。主人公でもおかしくはないだろう。
「ありませんよ。この頃は深い設定とか面倒くさいので考えなかったんです」
モニター越しに銀髪メイドが鬼畜な発言を煎餅をバリバリ食べながら言ってきたが、ゲーム少女は聞かなかったことにした。




