486話 バトルグラウンドに出場するゲーム少女
ルキドの街の最大のコンテンツとはなにか? 高度な機械を修理できるその技術が一番かと思いきや違う。
通信機でこの惑星全てに配信しているスポーツ。バトルグラウンドが一番人気であるのだ。二番目はテレビでやっている今日の簡単魚料理の紹介らしいです。二番目が切実すぎます。
そう、この惑星は通信が可能となっている。マテリアル製の物が普通に出回っているしルキドで作成可能なので皆持っていた。どこかのアホな少女が管理している国とは違って。
「やってきました! 月に一度のバトルグラウンドの時間です! 実況はこの私、チョコがお届けします!」
マイクを持って実況をするフリフリドレスの少女の眼前にはルキドに唯一設営されている多目的グラウンドがあり、その周りには大勢の観客たち、そしてメインボードにはデカデカと並ぶ機動兵器たちが見える。
「皆さんご存知のとおりこのルキドの島は古代の超巨大ビルだと言われています。そして地下には多くの遺物が未だにたくさん眠っています! 何万年たっても何故残っているのか? それはオートメーションファクトリーが健在であるからです!」
周りの歓声を聞きながらチョコはいつもの説明をする。歓声を聞きながら語る実況は気持ちがよいと背筋をゾクゾクさせながら話を続ける。
「もちろん警備ロボットも多数ありますし、そのうえ体内の水晶を肥大化させた強力な化物となった生命体もいます! そんな地下は何キロあるのか誰もわかりません! そんな地下へと潜り宝物を回収してくるのが、このバトルグラウンドでーすっ!」
再びワーワーと歓声が響く中で、チョコはメインボードに映る自分の可愛らしいフリフリドレス姿を見て、私の可愛らしい姿を見よっと思いながら、手を振って最後の説明をしておく。
「オッズはボードを参考にして、ドシドシ賭けてくださいね。制限時間は6時間でどこまで潜れるか? 今回はなんとラダトーのブレイバーも参加しておりますが〜」
息を吐いてためをつくり、観客の期待を煽りつつ
「な、なんと地球人が地球製の兵器を持って出場でーすっ! 地球人が参加をするのは約60年前のタイガー戦車に乗ってやってきた人間以来です! どのような活躍をしてくれるのでしょうか〜!」
ワーッと観客が久しぶりの珍客の出場に手を振り上げて、歓声をあげて興奮する。
一層の歓声が響く中でチョコはムフンと吐息して
「スタートですっ!」
合図を出すと、一斉にグラウンドのそばにある地下通路への穴へと入って行くのであった。
エビフリート艦は多脚をちょこまかと動かして、暗い地下へと入っていく。それは海に潜る海老にしか見えなかった。海老にしか見えないと大事なことなので二回言っておこう。
「シスさん、私たちのオッズはなかなか高いみたいですよ?」
フンフンと興奮気味に頬を紅潮させてレキは言う。だって、こんな凄いスポーツに出場したのは初めてであるからして。おっさんの時には何に出場したことがあるかなんて、答えはわかっているだろうから答えません。
「しかし、大穴という訳でもないですね。チャリオットカジキマグロを倒した実績が考慮されているみたいでありますよ」
シスは計器類を確かめながら、答えてくる。レキが改修した内容も聞いているので操作方法を確認しているのだ。
なにしろ物凄い改修がされているので、今日になってその変わった操作方法を聞いて驚くやら呆れるやら。パイロットは改修したからと当日に云われてもすぐに適応はできないのであるからして。
「舞さんはお小遣いをかなり私たちに賭けたらしいですから、期待に応えないとですよね。もちろん私も自分の勝ちに賭けました」
「この世界の金を稼いでも仕方ないと思いますが、どうするですか?」
「あぁ、元の世界でもあれはマテリアルとして使えますから、持って帰りますよ。お土産とは別に」
水晶といってもマテリアルの塊であるから、持ち帰っても問題はない。ただ不純物が多いので精製しないといけないけど。
「では地下へと進みます。周りの人たちに続きますよ」
地下へと続く穴へと他の機体も入って行くのでエビフリート艦も同じく続くのであった。
地下内部、崩れた通路に暗い光景と思っていたが、予想外にも通路は明るく周りを見渡せる。テレビカメラがそこかしこに設置してあり、あのカメラが放送をしているらしい。
テレビカメラは古代の物を利用しているだけで、最上階が管理棟になっているらしく、それをここの人たちは放送に使っていた。いやはや人間とは通常と違う使いみちを考えるのに天才的な閃きを見せると感心しちゃう。
まさかごつい男たちを女人化してゲームにするなんて過去の人たちもびっくりだろう。あまり関係ないかもしれない。
通路は崩れて塞がっている箇所もあったが、なぜか壁は亀裂一つない。薄汚れてはいるけれども、壁自体が光っており発光壁のようである。
その中をカサカサとまるで黒い何かのように移動するエビフリート艦。既にスカイシリーズとやらも、オールドロットの金ピカも姿が見えない。バーニアから粒子を噴かせて飛んでいってしまった。
「どこまで地下に行けるかと遺物を見つけたら高得点ですか……。これは何回も出場した人たちが有利でありますね」
「シスさんの言うとおり、インスタントダンジョンとかではないので初出場はそれだけ不利になります。その不利な条件を機体の性能で上回ることができれば大穴ですね」
「私たちにはなぜか詳細なマップがありますが」
クスッと冷静な表情に薄い笑いを口元に浮かべてシスが言うとおりに、パネルにはかなり詳細なマップが映しだされている。
偶然にも昨日の金ピカ機体が教えてくれたのだ。機体を撫でるだけで、全て教えてくれた親切な機体。たしか名前は三倍ハイボールだったかな。ブレイバーには哀れすぎて教えなかったけど。
「隊長殿はハッキングもできたのですね。なにができないかを聞くほうが早いんではないですか?」
感心しきりで、その抜け目なさに苦笑しつつ尋ねてくるシスであるが、レキは肩をすくめて答えるのはやめておいた。やれることはステータスボードに載ってますよと言えないしね。
「ではでは地下へといち早く行きましょう。その先に大型車専用エレベーターがあるはずです。中層まで行けば構成からセンタールームがあるはずですので」
「攻略サイトはどこに載っているんでありますか? 了解であります」
数万年もわかっていなかったことをあっさりと語るレキに対して軽口を叩きつつシスはエビフリート艦を進める。
速さでエビフリート艦よりも先に進む他の機体とは別にエビフリート艦はのんびりと通路奥へとズシンズシンと移動をすると、瓦礫に覆われた壁が目に入ってきた。
「瓦礫を撤去して、エレベーター扉を露出させます」
「了解です。なんだか露出って、エッチな響きですね、シスさんのエッチ」
常に余計なことを一言付け加えるゲーム少女である。酷すぎるので遥に戻そう。
アホなことを言うレキに苦笑しつつもシスが全ての瓦礫を撤去すると大きなエレベーター扉が眼前に現れた。
だが、もちろん停止状態である、なにしろ他の人たちもこのエレベーターの存在は知っていたが開きもしないし、さりとて壊すのはもったいないしで放置されていた代物だ。
しかしながら、そんなことはゲーム少女には関係ない。ボタンにつんつんと繊細な動きでハサミをつつかせながら
『電子操作レベル5』
小さく呟き目を光らせる。今までほとんど死にスキルであった電子操作。過去に機械扉とかたくさんあるだろうと予測して手にいれたスキルにして、まったく役に立っていなかったスキルである。
その力は正確に凶悪に発動して、エレベーターへとハッキングする。エレベーターは壊れてはいない。たんに停止状態になっているだけであったので、あっさりと起動命令を受けて起動を始めた。
ウィーンという音と共にエレベーターの扉が開いて物資搬送用の広々としたちょっとした部屋が目に入る。エビフリート艦でもぎりぎり入る広さなので、少しホッとしたのは内緒です。
「さすがでありますね。では中層へと移動します」
シスはその様子にニヤッと笑って、エレベーターを移動させるのであった。
◇
観客席に座って観戦していたゴウダは驚きで椅子を倒して席を立つ。
「馬鹿な! あのエレベーターをあっさりと起動させただと!」
ルキドの技術者たちが総がかりで起動させようとして、それでも起動できなくて諦めて瓦礫を積んで壊されないようにしただけの代物である。それをあの機体はあっさりと起動させてしまった。
「レモネ艦長! 彼女らは何者なんですかい? 地球人とは聞いていたがあの科学技術は一体全体?」
周りの人々もエレベーターの起動の意味を知っており、ざわざわと顔を見合わせておしゃべりを始めて騒然となる。
レモネ艦長も目を細めて、レキとシスと名乗っていた少女たちのことを思い浮かべて疑問を隠せない。
「……地球になにかが起こったのかもしれないな。今までとは違う科学技術……。技術革新があの世界では何度も起こっていたが、それが再び起こったのだ。我らのように停滞した高度な技術ではなく、地道に彼らは技術レベルを上げていたしな」
「ううむ……。だが、あれほど目立つとあとが大変じゃねえか? 見てくれよ、VIP席に座る奴らをよ」
ゴウダの視線の先、ワイワイガヤガヤとお偉いさんが騒然となっていた。ビルの殆どは操作することができなかったのに、あの機体があればなんとかなるのではと期待に包まれている。
「それよりも、これで優勝間違いなしだよ! ヤッター、ヤッター、ヤッター!」
舞は賭けに勝ったと大喜びでぴょんぴょんと飛び跳ねている。それはそうだろう、遺物の中でも高得点はエレベーターの起動なのだからして。
「なんと、チーム異能少女隊! エレベーターを起動させることに成功しました! 1億ポイント入手確定、優勝間違いなしですねー」
実況もその様子に驚いて、マイクを掴んで叫ぶ。というか、エレベーターの起動に伴うポイント高すぎである。だが、それだけエレベーターが重要視されているのだから、無理もない話だ。
僅か10分にも満たない時間で優勝してしまった異能少女隊長であった。選手のやる気を削がないために、選手には伝えられないけれども。
そして、裏でももちろんそんなルールは無視されていた。
VIPルームでは、ヒソヒソとお偉いさんが腕につけている通信機を介して指示を出していた。
「ダルキア3兄弟よ、動けなくなったあの海老から少女たちを助け出したまえ。化物にやられて海老は廃棄するらしいからな」
でっぷりと太ったその男は嫌悪を催す薄汚い笑みで口元を曲げて指示を出す。その指示を受けて野太い声が返ってくる。
「任せておきな。ダルキア3兄弟は人助けが趣味だからな」
へっへっへと声が聞こえて、男は椅子に深く凭れ掛かり結果を待つことにするのであった。
◇
中層まで移動したエビフリート艦から、二人は降りてセンター室へと入り込んでいた。カチャカチャとパネルを操り、遥は真剣な面持ちで内心で思う。
「私の手は一体なにをしているんでしょうか? 凄いよ、まるで私が操作しているようには見えないよ」
全て機械操作と電子操作スキルのおかげであるが、それでもおっさん脳にも使い方は理解しているはずなのだが、おっさん脳は難しいことはインストールしたくないのだ。きっとお使いのバージョンは古いのでインストールできませんとか表示されているに違いない。
そんなアホな少女だが、スキル様は正確無比に操作していく。ちなみにセンター室内にはカメラは設置されていない。
少しして、センター室内の壁に設置されていたモニターが光る。
「管理者権限を確認しました。ようこそ朝倉レキ様」
機械音声だが、柔らかい声音の声が聞こえてきて操作権限が手に入ったことを示す。
ムフンと平坦な胸を張って、遥は得意げな表情になり指示を出す。
「この世で一番可愛らしい幼女はだぁれ?」
「解答不能。解答不能」
常にボケを入れる少女であったが、機械はそれほど高度でなかった模様。ゲーム少女は中の人がいなくても幼女じゃなくて子供だと思うのだが。
「遊んでいる暇はありませんよ? 早く高得点の取れる場所まで行かないとまずいであります」
シスが焦り顔で窘めてくるので、はぁいと素直に頷いてなにを聞こうか考え込む。古代のこの機械と、今の世界の金額は違うだろうから。
「それじゃ機動兵器がたくさん仕舞われている場所はどこですか?」
オールドロットなら高く売れるでしょう、間違いなしですとほくそ笑む少女であったが、既に優勝間違いなしと言われているのは気づいていなかった。
なので、最下層と表示されたので、少し嫌そうな表情になる。
「最下層は海の中になって……なっていないんですか」
「高レベルの保安装置が稼働中。また、未知の生物が保安外に棲息しています」
センターのAIが告げてくるので、そうだよねと思う。しかもマップ的に道が塞がっていたりして、歩かないといけない場所にある。
「危険な場所ですね。ここはキャンセルで。時間も足りませんし、目立ちそうですし」
もはや目立ちまくっています。ネオンが光る看板みたいに目立っている。
「それではこの中層より52階下に射撃訓練場があります。そこには試験中の武器が放置されています」
おぉ、とその声に満足する。射撃訓練場なら面白い武器もあるだろうし、高価に違いない。
これで優勝は決定だねと、幼気な少女はむふふと笑って、シスはそれがちょうど良さそうですねと頷く。
「では、一旦機体に戻って試合再開といきましょう。ではしゅっぱーつ!」
「了解であります」
二人な急いで走り始めてエビフリート艦へと戻る。そこで遥は推測を元に忠告する。
「危険な展開になりそうですから、変身をしておきまし」
「問題ありません」
「変身も」
「さぁ、発進させますよ」
シスは話を聞かないでレバーを思い切り引く。一気に加速させて、エビフリート艦はワシャワシャと走り出す。エレベーターに乗り込み目的の階層へとボタンを押下して地下へと向かう。
チンと音がして、エレベーター扉が開くと同じように瓦礫が邪魔をしてくるので、ハサミでガションガションと退けておいて、外へと出る。
「ん? ここはカメラが働いていない箇所がありますね」
マップにカメラが映っていない箇所があることに気づくので尋ねるとシスもマップを見つつ
「そうでありますね。どうやら射撃訓練場は機密扱いされていたのでしょう」
「あぁ、当たり前でしたね。機密扱いの場所までカメラが設置されていたら機密漏洩しまくりですし」
ガションガションと移動させながら訓練場まで到達する。
どうやら発光壁も利用していないらしく、暗闇が支配していたが
「よく来たな、海老さんよ」
低い声音のどことなく悪党っぽい声がして、三つの赤い目が暗闇の中で光ったのであった。




