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コンクリートジャングルオブハザード ~ゾンビ世界で遊びましょう  作者: バッド
30章 失敗から学ぼう

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480話 不思議な世界とゲーム少女

 そろそろ夕方になり、薄暗くなってきている中でワイワイと騒がしい食堂にゲーム少女と軍人少女は舞に連れられてきた。キョロキョロと周りを見渡す興味津々な幼気な少女は珍しそうなお酒があったら飲みたいと、可愛らしい外見を裏切る考えを持っていたので、そろそろ裏切ったなと中の人は追放されても良いだろう。


 実際はそんなこともないので、遥たちは空いているテーブルを目ざとく見つけた舞に誘われて椅子に座る。


 椅子はひんやりとした感触を肌に伝えています、その見た目と柔らかさと頼りなさはプラスチック製に見えるが、予想よりも頑丈そうであるので違う物質なのだと推測した。


「まぁまぁ、座ってよ。今日の出会いに乾杯しない?」


 舞が仕切るように笑顔で言って、ジョッキを運んでいるウエイトレスを手をあげて呼ぶ。


「トーナ、ここにヤシの実ジュース3つね。あと、オツマミに小魚の燻製と鶏肉の唐揚げでよろしく」


 手慣れた様子で注文をする舞に、薄い青色の長髪である若いウェイトレスはニコリと笑って頷く。


「あいよ、舞がここにくるなんて珍しいじゃん。臨時収入でもあった?」


「えっへっへっ。この人たちが私のスポンサーでーす! 神隠しにあった人たちだよ。でもあの海老を売ればお金持ち確定だから、しばらくは生活に困らない人たち」


 むふー、と得意気に鼻を鳴らしながら舞が言うので、ほ〜、とトーナというウエイトレスはこちらを覗き込むように見てくる。


 なので、キリリと真面目な表情で遥は言う。


「なんでビキニ水着にパレオなんですか? ここは妖しいお店?」


 コテンと首を可愛く傾げて尋ねる幼い少女。そこが一番気になったのです、ちょっと胸元が際どい感じがするからかがまないでください。


 遥が気にする通りに、ビキニ水着にパレオをつけているウェイトレスなので、かなりエッチィ感じがするのである。


 だがそれに対して、トーナは手を振って苦笑をしながら否定をしてきた。


「違うよ〜。ここは妖しいお店じゃないし、180番艦は熱帯を中心に航行しているから、こんな姿なの。水着じゃないんだよ、これ」


 ほら、とピラッとパレオを捲るとパンツであったのでなるほどと納得する。パンツと言っても短パンのことだよ。下着のパンツではない。


 でもパレオを捲るその姿だけでエッチィので、周りにいる男性が覗き込もうとして、腰を屈めているのが情けなかった。私ならそんなことはしない。精々用事を思い出したかのように周りをうろつくだけだ。それだけでおっさんなら犯罪なような気もするが。


「アハハッ、それじゃ、ちょっと待っていてね」


 そう言って明るい笑いを浮かべてパレオを翻して、トーナは厨房へと向かうのであった。


 それを見送りながら、遥は気を取り直して舞へと顔を向ける。


「さて、案内はしてもらいますが、ここはどこなのかを教えて貰えませんか?」


 遥の問いにニヤリと口元を笑みに変えて、舞は待ってましたと口を開く。


「むかーし、昔。遥かな昔、地球に住む聖人がいました。どれくらい昔かは定かではありません。数万年も昔の話だと言う話です」


 抑揚をつけて語り始める舞の様子に楽しそうだと子供な少女はわくわくしちゃう。隣のシスも目を輝かせている。


 舞は目をチラッと二人に向けて、話に集中しているとわかり、さらに楽しそうに言う。


「争いが絶えぬ人々。それを憂いた銀の神様と金の神様が善人たる一人の男に声をかけます。おぉ、聖人よ、そなたの嘆きは我らが耳にも入ってきた。哀れなる人間たちを救う力を与えよう」


 その神様はきっと詐欺師だよ、嘆きなんか聞こえてきたら、テレビの音が聞こえないでしょと怒る人たちだよと、遥は喉から言おうとしてなんとか耐える。


 遥の様子には気づかず、舞は話を続ける。


「聖人には物凄い力が与えられました。それは悪を許さず、どんなこともできる全能の力でした」


「お待ちっ、椰子の実ジュースとオツマミね。1500水晶だよ」


 トーナがドンとジュースのジョッキを置くので、水晶とやらを支払う。銀の一個と青5個らしいから、そこから大体の通貨の価値がわかってくる。ジョッキは銅製であった。


 舞はジュースで喉を湿らせてから、再度話を始めてきた。そろそろスキップして欲しい、オツマミ食べたいです、揚げたてが一番美味しいのに。


「その中でも一番凄いのが、自らの力で世界が作れることです。なので聖人は考えました。おぉ、神よ、この力にて世界を作りましょう。楽園を作り善人たる我ら一族とそれに連なる者たちを楽園に連れていきましょう」


「なるほど、その子孫が貴女たちなんですね? わかりました。なので唐揚げを食べま」


 話の流れがわかってきたので、唐揚げに手を伸ばす遥だが、舞は皿をずらしてその手を防ぎ、人差し指をチッチッチッと振る。


「違うんだなぁ、それが。聖人は世界を作ったの。そこには様々な面白い動植物も作って暮らしを楽にして、善人たちの楽園にしようと考えたんだけど」


「一族やそれに連なる者なんて、ガバガバすぎる篩ですから、もちろん悪人もいたのですね?」


 冷淡な物言いでシスが舞が避けた唐揚げのお皿からひょいと一個フォークに挿して奪い取り口に入れる。


 あぁ、と悔しがるゲーム少女とは別に悔しがる様子もなく、ウンウンと頷く舞。


「そうなの。そりゃそうだよね。善人なんているのかもわからないのに、環境も変わればねぇ。それでもかなりの間はおとなしく暮らしていたらしいよ? 聖人がいたからしばらくは人は争わずに、しかも聖人から力を分け与えられて、その絶大な力で平和に暮らしていたの」


「なるほど、しかし力に酔った人々は唐揚げを巡って争い始めたんですね」


 唐揚げ欲しいですと、お皿にちっこいおててを懸命に伸ばす幼い少女。頑張って、と周りの人たちが手を握りしめて応援してくれるが、舞はひょいひょいと躱していく。おにょれ。


「でね、聖人は怒って方舟を作って、せっかく作った自分の世界を洪水を起こして海に沈めてしまいました。方舟は洪水が収まるまで宇宙で待機していて、完全に海に沈んだことを確認したら、聖人の最後の力で着水したの。その船を使って生き残っているのが私たちなわけ」


「舞さんは日本名なのに?」  


「あぁ、私はお婆ちゃんが神隠しにあった日本人だったんだ。ふふ、私の髪の色が変でしょ?」


 悪戯そうに笑みを浮かべて、舞はジョッキに手を掲げて


『クリエイトアイス』


 ポツリと呟くと、手のひらから氷が生まれてポチャリとジョッキへと入った。


「その力は超能力!」


 がたんと椅子を倒しながら立ち上がり、驚くシス。舞は悪戯が成功したと微笑むが、レキが全然気にせずにようやく唐揚げが取れたと口に頬張る姿に拍子抜けする。今の力に気づかなかったのだろうと残念がるが


「なるほろ、髪の色は力を使える属性を表すと。わかりやすくてふぁんたじーですね」


 淡々と言うその姿に、反対に驚きを示す。その眠そうな目が冷淡で凍えるような感じがしたからだ。


 だが、モキュモキュと頬張って、ジュースジュースとむせるその姿に気のせいだったかと、我知らず緊張していたのか、息を吐く。


「そうなんだ、聖人の忘れ形見。ここに住む人たちはなにがしかの力を持って産まれるんだ。それは神隠しにあったお婆ちゃんの子孫の私も同じ」


「黒髪で産まれたら力が無いと勘当されてしまいそうですね。でもわかりました、この艦が異常に巨大な理由と、住んでいる人たちと比べて科学技術が高すぎる理由。聖人が建造したんですね、神の尺度がどれぐらいかはわかりませんが、救ける人々を乗せる艦隊を建造するので力を使い果たすぐらいに」


 遥の言葉に、この船がよく巨大だとわかったなと、舞は戸惑う。180番艦は直径10キロの居住艦だが、見ても説明されても、初見の人はなかなか理解できないのに。


 反対に遥は聖人の力のレベルを測っていた。恐らくはかなりの数の艦隊を建造したはずだ。しかも消えない洪水まで起こしている。力は相当なくなっていたはず。


 信仰心を力にする者ならばという注釈付きだが。本来の力ならば無くなることなんてないはず。現におっさんは寝れば回復します。しかしてなるほど、ここに来たのは偶然では無いのかもしれない。なにかしらの意図を感じる。


「それで聖人のお名前は?」


 予想はしているが一応尋ねておく。


「ノア、聖人ノアだよ」


「さよけ」


 重々しく語る舞だが、やっぱりねと軽く流すゲーム少女であった。


 どうやらここは神域らしい。テンプレで自分の世界に保護した人間たちだが、想像と違って絶望したということだろう。正直、私はそこまで人間を信用はできないけれども。なので、神域には絶対に人間は入れないマンであるので。


 なにが失敗したかといえば、神は楽園を作るのに失敗したのだろう。これもよくあるテンプレである。


          ◇


 ワイワイと騒がしい中で、次々とジュースのジョッキを空にしながらもしゃもしゃと運ばれてくる料理を食べる三人。


 もう暗闇が周りに押し寄せてきており、皆はランプを灯している。天井には発光形金属が使われているのに使う様子はない。使い方を知らないか、それとも……


 手元にキラリと光る通貨代わりになっている水晶を観察する。内部に金色の輝きを持っているのが一番高いらしいが、それほどの輝きでもない。


 物珍しそうに眺めていると舞は勘違いしたのか、水晶を指さして説明をしてきた。


「その水晶はお金にしてエネルギー源。全ての物を動かすのに必要なんだ〜」


 その口ぶりには地球の科学技術じゃ無理でしょと優越感も垣間見える。


「へー、これがエネルギー源ですか、日本地区のライトマテリアル鉱山から採掘される物と比べると、金色は同等。他は純度が低すぎて使い物にならないんですが」


 動力ねぇ、たしかにライトマテリアルの力は感じるが、ほとんど力はない。なので、酒場も照らせないほどのこの節約っぷりなのだろう。それにこの人たちもたいした力はない。0.1〜0.3レベルが限界か。


「ん? なに鉱山?」


 今、なにか変なことを口走らなかった? と不思議そうに首を傾げてくる舞であるが、当然スルー。


「お気になさらずに。これを使用して艦を動かしているんですね、なるほど。……ですが、このちっぽけな量では動かないのでは?」


「水をエネルギーに変えて動きもするのよ。えへへ、地球じゃ考えられない技術でしょ? この艦はもう何万年も動いているんだ」


「その間に……いえ、たしかに凄いですね」


 いったいどれぐらいの艦が残っているのかと聞こうとするがやめておく。善人のみの世界を作ろうなどと、馬鹿な考えを持った聖人が力を無くしたのは確実だ。その恩恵を受けていた人々は海の上に着水してどうしたか?


 血で血を洗う争いになったのは間違いない。平和主義はあっという間に崩れて、軍国主義もできたかもしれない。


 そのたびに艦隊は数を減らしていったはず。何万年も前というから、今は表向きには争いは収まっているのだろうが。


 歴史とは雄大だねと、あらぬ方向を眺めて悦に入るゲーム少女。想像というか、もはや創造の域の妄想である。


「どうしたの? 眠い?」


 眠そうにしか、周りからは見えなかった模様。おっさんの場合だと変な人だと遠巻きにされるはずなので、マシな対応である。


「少しだけ眠いですかね。それよりももう一個気になることがあるんです。この水晶はどうやって手に入れて」


 いるんでしょうか? と尋ねようとした遥であったが、突如鳴り響く音に口を閉じちゃう。


「艦内放送です。前方からカジキマグロの群れが接近してくるのを確認しました。漁師は戦闘配置についてください。報酬は1人5000水晶に、倒したカジキマグロの所有権を半分です。奮って釣り大会にご参加ください」


 釣り大会? なんで急に? はて、なんじゃらほい? とシスと二人で顔を見合わせて首を傾げるが、舞は目を輝かせて椅子から立ち上がり、拳を突き出す。


「おっしゃー! カジキマグロとはラッキーだよ! 皆に遅れないで行かないと!」


「えっと、釣り大会?」


「うん、レキ、シス! あんたたちも来なよ。これから先、食い扶持を稼ぐにしても、一番簡単になれる職業だから。ついてきて!」


 そう言い放つと、ダッシュで走り去っていくので、慌てて遥たちも追いかけていくことにした。


 なにやら面白そうなイベントが突発的にある様子なので、わくわくしちゃう。


 トテトテトテとちっこい手足を懸命に動かして、待って〜と可愛く呼び止めようとしながらついていく。その姿は子供が大好きなおねーさんを追いかけようとしていて、可愛らしいことこの上ない。


 壁にかけられているランプの光に照らされながら、多くの人が緊張と面白そうな期待感を顔に浮かべて行き交っていた。


「カジキマグロとは群れをなすのでありますか?」


「う〜ん……よくわからないです。でも、この世界では群れるのでしょうね」


「……隊長はこの地が本当に違う世界だと考えているのですか?」


 先程からずっと気にしていたのであろう。遥の隣を走りながら真面目な表情で尋ねてくる。


 なので、ニコリと花咲くような笑顔で幼気な美少女は言葉を返す。


「私の感覚はこの地が違う世界だと感じています。ですが、ここの人たちには内緒にして欲しいのですが、脱出もできるはずですので安心してください。少しだけ異世界旅行と洒落込もうじゃないですか」


「その言葉を聞いて、安心したであります。では、心置きなくこの地を楽しむでありますよ。皆が自分たちを見失って心配する前に」


 ふぅ、と息を吐いて肩の力を抜くシスが安心したように微笑む。何と言っても、どれだけアホな行動をしても、この少女は頼り甲斐があるのだからして。


 脱出できると答えてくれるならば、絶対に脱出できるのだ。そこには全幅の信頼をしている。


「……コマンドー婆ちゃんたちには、脱出方法を探して苦労していましたと証言しましょう? ね? 遊んでいたねとか怒られそうですし」


 コマンドー婆ちゃんが怒るのは怖いんですと、ウルウルおめめで伝えると、シスは行動には全幅の信頼は置けないなと苦笑いをするのであった。


          ◇


 しばらく進むと船縁に辿り着く。サーチライトがいくつも煌々と光り、暗い海原を照らしていて、ランプがそこかしこに置かれ、皆がそれぞれ武器を手にして身構えていた。


 その中に舞もいた。小型の青いガラスのような刃をつけたナイフを構えている。釣りにしては物騒な武器である。なんだろう、絡まった釣り糸でも切るつもりなのかな?


 遥の希望とは違い、周りの人々も赤色の槍や、緑色の弓を持っているのが目に入る。弓の人は矢を持っていないよ?


「隊長殿、なんだか釣り大会にしては変ではありませんか?」


「シスさん、きっとあの槍みたいなのとか、弓みたいのとかに釣り糸をつけて釣りを楽しむ予定なんですよ、きっとそうです。そうであると良いなぁ」


 その言葉を裏切るように、網元みたいなごついおっさんが轟くように叫ぶ。


「野郎ども! レイピアカジキマグロらしいからな。ぬかるなよ!」


 おぉ〜っと、皆が雄叫びをあげて答える。うん、レイピアってなんだろうね。


 大体どんなカジキマグロが釣れるか、理解できて半眼になるゲーム少女が海原を見ると、レイピアのような角を持った三メートルぐらいのマグロが飛び出してくるのであった。

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― 新着の感想 ―
ここのボスの能力はしょうもなかったけど、あの切り替えしらないと金銀も攻撃通じなかったという実は大事な話だったな。
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