478話 遭難しちゃうゲーム少女
ザザンザザンと波しぶきをあげて突き進む巨大な艦の艦橋で足をぶらぶらさせながら、古めかしい水兵の服を着た少女はのんびりと海を眺めていた。服には名札が貼ってあり、水波舞と書いてある。
少女は海原を眺めるのが好きである。見渡す限り陸は見えず海しかないが、時間によって朝は魚が飛び跳ねて、昼は波がキラキラと日を照り返して耀き、夕方のオレンジ色になる光景も見ていて飽きない。常に色合いが変わるし、海の素晴らしさを教えてくれる。
眺めていれば小遣い稼ぎにもなるので一石二鳥であった。今日みたいに。
セミロングで青色の髪をした少女は活発そうな顔つきをしており、鼻歌を歌いながらどこまでも続く海原を眺めていたが、なにかに気づいたのか目を細めて手をひさしにして前方へと目を凝らす。
「ねぇ、レモネ艦長、前方になにか浮いてるよっ! キラキラと光っているから金属かも!」
「うん? マジか? そりゃ掘り出し物だな! どこだ?」
やはり古めかしい昔の艦長服を着た老人が身を乗り出して少女へと尋ねる。金属はなかなか手に入らずに希少な物だ。見つければ幸運である。
「うん、あの浮いてるやつ。あれ、神隠しのやつじゃない?」
少女の指差す先、海上には金属の光沢を見せる大きな海老がぷかりと浮いていた。
◇
エビフリート艦はエネルギーが尽きて、コックピット内は真っ黒であった。全エネルギー開放にて使い切ったので停止しているので仕方ない。
コックピットのコンソールにうつ伏せになって気絶していたシスはなにが起こったのかと、ようやく目を覚まして頭を起こして周りを見渡す。
ゲーム少女は漫画を見ながら暇を潰していたが、シスが起きたのを見て、やばい空気を読まないとと、ぽてんとコンソールに顔をつけて気絶したフリをする。
そうして、ううんと目を擦りながら起きたふりをして
「いや、隊長殿。起きていたのは薄っすらと見えました。寝たふりをしなくても良いですよ?」
「気絶していたんです。私も気絶していたんですよ。そうしないと空気を読めない娘扱いされちゃうじゃないですか」
口を尖らせて、空気をカオスにする少女は平然と文句を言う。生み出されるシリアスな空気をいつも破壊しているのに常に自覚のないゲーム少女であった。
「ところで我々は助かったんでありますか? 暗くてよくわかりませんが」
「なんとか助かったみたいです。クリオネ人魚なんて不気味すぎですよね。全エネルギー開放技、海老餃子アタックでなんとか敵を撃破できました」
ふぅ、危なかったですと、かいていない汗を拭うふりをする可愛らしい美少女。演技が下手なのも幼気な風貌もあって愛らしい。おっさんならば、汗臭いので近寄らないでくださいねとか、若い人には言われるだろう。
「サイキックで倒せば良かったのではありませんか? レキ殿なら楽勝だったのでは?」
「ほら、野菜人たちの仲間の地球人も最後の方は自爆要員になってましたよね? サイキックは使ってもいなかったんです。なので私も空気を読みました。TPOって大事ですよね」
フンスと息を吐き、得意気にアホなことを述べるゲーム少女である。たとえピンチでも空気を読むことを先決にするかもしれない。
はぁ〜と苦笑しつつも、この少女の性格を知っているシスはツッコミを諦めて尋ねることにする。
「で、自分たちは四国内に潜入できたんでありますか? モニターが使えないので外の様子がわからないのですが」
「あぁ、それを確認しないといけませんよね。エネルギーを満タンにしておきましょう。ハイオク満タンで〜」
フニュゥと、可愛く微笑んで紅葉のようにちっこいおててをコンソールへとそえる遥。そのおててから光の粒子が生み出されて、暗いコックピットを幻想の光で照らし出す。
シスは美少女から生み出されるその美しい光を感動の目で見ながら眺める。
コンソールへ粒子はどんどん吸い込まれて、パネルに光が灯りだした。小さな唸り声のようなエンジン音がし始めて、周りのモニターが映りだし、エビフリート艦は再起動をした。エネルギーが空っぽ? もはや私にはその程度障害にもならないのだよと内心で得意がる遥。
「なんだか、私って神秘的じゃないですか? こうやって暗闇の中で光の粒子を生み出すところなんて」
おっさんだと、なんだか不気味だなとか言われそうだけど、美少女なら美しい光景なのだ。そして内心で思うとか言っておきながら、周りの称賛の言葉を求める精神が幼い美少女であった。
「それを口にしなければ、神秘的ではあったのですが、口にされると残念さが上回りますよ」
クスリと目の前の少女を見て笑うシス。先程の神秘的な光景は幻だったのではと、思わず笑ってしまう。
「むぅ、そうですか。それじゃ次は口にしないでチラチラと見つめますね。その時は遠慮なく称賛してくださいね」
「それもどうかと思いますが。それよりもどこにいるか特定しましょうか」
「はいはい、外の様子を映し出してくださいな」
了解ですと、シスはパネルを慣れた様子で操る。パパッとパネルが光ると、周囲の240度モニターが外の様子を映し出す。
「これはなんでありますか?」
「う〜ん、まさかこんなことになっているとは驚きですね」
が、予想外の光景が目の前に入ってきたので二人共あんぐりと口を開けて唖然としてしまうのであった。
◇
舞たちは甲板に釣り上げた金属の海老を解体しようと集まっていた。これだけの金属の塊は珍しいので周囲には興味津々な様子で普段は解体を見に来ないおばさんや子供たちも見物しに来ている。
舞は最初に発見した者として一割の報酬を貰えるので、嬉しさと優越感で解体の様子を見ていた。
「これだけの金属ならかなりのお金になるよね、レモネ艦長?」
同じく見物しに来たレモネ艦長へと尋ねると、青色の顎まで覆う長い髭を手で扱きながら答えてくる。
「そうだなぁ、これなら一割でも100万はかたいんじゃないか? ラッキーだったな舞」
「やった! それじゃ今日は久しぶりに牛肉にしようかなぁ、お母さんに夕食は贅沢にしてもらうようにお願いしておこうっと」
飛び上がって喜色満面で自分の幸運を喜ぶ舞。だが、その舞へと海老に取り付いてバーナーで脚を解体しようとしていた女性が振り返り、苦々しい表情で伝えてきた。
「これ、恐ろしく硬いよ。バーナーの火力じゃ温めることはできても、装甲を溶かすことはできやしない」
高熱作業用手袋をつけた手で海老の脚をコツンと叩く。先程から熱してもびくともしないので、女性は驚いてもいた。
「こっちもだ〜。ツルハシで叩いても凹みすらできねぇぞ!」
海老の胴体に登ってツルハシを振るっていた男たちも海老の硬さに舌打ちをしながら叫ぶ。
どうやらかなりの硬さらしい。海老の姿なのに想定外の硬さを誇っていることに皆は驚く。
「ちょっとちょっと、解体できないと値段がわからないでしょう? 内部には希少な金属とかもあるかもしれないしさ」
舞は目を釣り上げて怒鳴る。解体できないから見た目だけで報酬を計算されるなどとんでもない話だ。なので、レモネ艦長へと顔を向けてお願いをする。
「レモネ艦長。光学兵器の許可を出して〜。レーザーなら解体できるでしょう?」
パンと手を合わせてレモネ艦長を拝むように言う。こんな幸運は今までなかったのだから、逃すことはできない。
その提案にレモネ艦長は目を瞑り考え込む。光学兵器はかなりのエネルギーを使う。この海老はその消耗に見合うだろうかと。
「ねぇねぇ、お願い〜。このままにしてルキドシティの連中に売り払うなんてしないよね? 絶対に中には凄い物があるって」
「うむ……これは見たことがないからな。神隠しの物なら珍しい物があるかもな。よし、光学兵器の使用を許可す」
レモネ艦長が解体をするのに光学兵器の使用許可を出そうとした時であった。ウィーンと空気が震えるような音をたてて海老が脚を甲板に踏みしめて立ち上がる。
「こ。これ、まだ生きているぞ!」
「離れろ! 離れるんだ、危険な兵器かもしれないぞ」
海老のカメラアイが赤く光り、生きていることを示すかのように鋏を振り上げるその姿に不吉さを感じて皆は周りへと散らばり囲むようにして見つめるのであった。
◇
カメラアイが回復して、モニターに周囲の状況が映しだされたが、その光景は遥とシスの予想とは違っていた。
エビフリート艦には男たちが群がっておりツルハシをエビフリート艦の胴体へと振り下ろしたり、工具を持って解体しようとしており、脚部には女性がバーナーの炎をぶつけて装甲を溶かそうとしている。
「解体しようとしているであります」
シスがその様子を見て、冷静にエビフリート艦を操作する。エビフリート艦は次々とシステムが復旧したとモニターに映し出しており、シスは素早くその様子を確認していく。
「フィールド展開問題なし、各部損傷なし、敵対生物を確認しています」
その言葉は頼もしくベテランのパイロットのように思われるので、アホな少女もウンウンと頷きながら私もなにか格好いいことを言いたいと、なにかないかなとキョロキョロしてしまう。
そしてこれだとアイテムポーチから色々と取り出して
「おやつ展開問題なし、各種準備よし。最初に食べるのは生クリーム入りドーナツにします」
おやつをパネルの上へと置くのであった。ミニケーキからドーナツ、大福とたくさんお菓子を配置させる。
私も格好いいかなと、わくわくした表情でシスへと眠そうな目を向ける。眠そうな様子だけど目はキラキラと輝いており、褒めて褒めてと言っていた。
「まだ3時ではありませんよ。あ、私はこのシュークリームを貰いますね」
仕方ないなぁと、その愛らしい子供を見ながら微笑となるシス。パネルいっぱいに色々なおやつをところ狭しと置いているので、操作は無理であろう。まぁ、この少女なら大丈夫かとシュークリームを一つ貰い口にする。甘い生クリームのふんわりと柔らかい感触が口の中でしてきて美味しい。
口にシュークリームを頬張りながらシスはエビフリート艦を立ち上らせると、胴体に乗っていた人たちは蜘蛛の子を散らすように離れていく。
遥は人々が逃げると思っていたが、そこまで離れることはなくこちらを窺うように囲むのに驚く。こんな怪しいロボットが動いたのだから、混乱して逃げ出すと想っていたのだが想定外だ。
それにしても凄い気になることがある。気になって仕方ないことが。
「ねぇ、シスさん。少しこの人たち変じゃない?」
ゲーム少女よりも変な人はいないとは思うのだが。
もちろんシスはそんなツッコミをしない良い人なので、コクリと頷いて同意してくれた。
「少しどころではないと思われます。ここの人たち……髪の色が変であります」
「赤に青、緑に金髪……黒もいるけど、あれは染めていないね」
レキの美少女アイで見るに、人々は多様な髪の色をしているが、染めたような感じはしない。地毛だと思われた。
「まぁ、そこは後で話を聞くことにして、とりあえず鋏をあげて威嚇しましょう。ガオー」
ガオー、と可愛らしい雄叫びをあげて幼気な少女はいらんことをする。
「フォッフォッフォッ、人間たちよ、私こそが海老タン星人。この地球はワレワレノモノダ、特技は分身の術」
マイクで外へと声をかけて、エビフリート艦の鋏をチョキンチョキンと動かして、さらにいらんことをする。
宇宙人ごっこですと、キャッキャと游ぶゲーム少女へとシスが不思議な表情で尋ねる。
「それはなにか元ネタがあるんでありますか?」
その言葉に、マジかよと眠そうな目を少しだけ見開き驚いちゃう。マジで? あの有名な星人をしらないの? これがジェネレーションギャップか……。あの忍者星人を知らないとは……ウルトラな人が苦戦した相手なのに。
地味にショックを受けちゃう遥であったが、モニターになにかが映ったので、口元を少しだけ笑みへと変える。
「シスさん、相手はパワーアーマーを持ち出してきましたよ」
ガションガションと、金属音をたてながら近づくロボットがモニターに映っていた。あんまり良いものではないのか大福に手足を生やした感じの雑なパワーアーマーである。
「この人たちは避難民でありますか? 随分と科学技術が高いみたいですが」
シスの言葉に遥もちっこいおててを顎にあてて考え込む。たしかにシスの言うとおりだと外の様子を見る。
エビフリート艦を囲む周りの人々は特に痩せぎすとか、生活に疲れているような絶望感をだしていない。それにここはどこかなと周りを見渡すが後ろは海原しか見えずに今いる場所は汚れ切ってはいるが船の甲板に見えた。
なにが起きたのかとつらつらと考え込む遥とは別に近づいてくる大福パワーアーマーを警戒していた。
パワーアーマーは数体こちらを囲み、あちらも警戒している様子だが襲い掛かってくる様子はない。
そして、人々の集団が割れて、これこそが艦長ですといった服装と風貌をしている初老の男性が歩み出てきて、眼光鋭くこちらを見てきておもむろに口を開く。
「ようこそ、神隠しの人間よ。中に乗っているのならば警戒しないで欲しい。我々は貴方たちを歓迎しよう」
威厳のありそうな重々しい声音にムムムとゲーム少女も眉を顰めて考え込む。なにか私も気の利いた返事をしないと面白くないよねと。
人間は最初の印象をなかなか消せないものだ。第一印象は大事ですとキラリと目を輝かせてシスが止めようと振り返ってくるのをスルーして返答をする。
「フォッフォッフォッ、私は平和を愛する謎の宇宙人です。こんにちは」
謎の宇宙人推しなゲーム少女であった。そして先程地球支配をすると宣言したことも忘れて平和を愛するとか言っていた。もはやゲーム少女の頭の中には遊ぶことしかない模様。
その言葉に動揺もせずに、外の人々はお互いに顔を見合わせて苦笑をするのみ。
「どうやら状況を理解していないようだな。………まぁ、当然だと思われるのでとりあえずその物騒な機械から降りてきてくれないか?」
艦長の言葉にシスが悩むように忠告をしてくる。
「歓迎しようとか、警戒しないで欲しいとか言葉で言う人間ほど疑わしい者はいないと思われるのですが、どうしますか、隊長殿?」
シスの考えはわかる。怪しいことこの上ないし、たしかに漫画や小説でも先程のセリフを言う人間ほど疑わしい。たぶん裏切る可能性が高い。
だが、それがどうだというのだろうと、少女は軍人少女へとニパッと見惚れるような微笑みで返す。
「こんなに面白そうな場所は久しぶりです。神隠しってどういうことでしょうか? 興味津々ですよね」
なので、決まっていますとハッチ開放ボタンを押下する。
プシューと空気が抜けるような音がして、エビの甲羅が剥かれるみたいに上部がパカリと開いていく。シスも止めることは無く、素直に指示を聞いた。この女神な少女に敵などいないと知っているので。
そうして、囲む人々がその様子を見て、驚く中で二人はハッチに足をかけてヘルメットを脱ぐのであった。




